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2 Meet again 作:ター坊
「ふむ。なるほど…」
「はい。信じていただくのは難しいですが、私達としても今まで起きた事を鑑みると、そういう事だとしか判断せざる得ません」
立ち話もなんだと竜司の提案で遊路達は校長室に通され、その応接の席で遊路は今までの経緯を話した。自分達は異世界からやって来たのだと。
「風峰くん、と言ったね。それでこれからどうするつもりかね?」
「えっ…」
「ん?どうしたんだい?」
「いえ。…こんな荒唐無稽な話をすんなり信用するんだなと驚きまして…。疑いはしないのですか?」
「私も教育者となってまだ日は浅いが長年プロデュエリストをやってきた身だ。人を見る眼は備わっているつもりだよ」
「…恐縮です」
遊路は竜司の眼を見て思った。その眼はプロになかなかなれず焦っていた自分を拾ってくれた会長の勝彦と何処か重なるものがあり、竜司は信じるに足る人物だと確信するのには充分であった。そんな竜司に遊路は頭を下げる。
「…」
ただ、ミハエルの眼はまだ緩んでいないようである。
コンコン
「ん?どうぞ」
「失礼します、星乃校長」
時計が夜12時を示す直前辺り、女の子5人が入ってきた。
「ん…あっ、お前は!」
「…あっ。あなたは確か…」
それはまだ遊路がカオスジェネレーション事件の途上であった頃の話。急に転移した先の学校の屋上で出会った少女―その少女こそ遊希なのだ。
(けどなんだ…。雰囲気が違うような…)
遊路は遊希におよそ1年前に会ったが、その頃の遊希については素っ気なさからクールな印象を受けていた。しかし目の前の遊希は年相応になったと言うべきか氷が溶けたようと比喩するべきか、柔らかく温かい魅力が溢れる美少女に切り替わっていた。
「遊希君。彼を知っているのか?」
「風峰君。どういうことかな?」
「あ、えっとまぁ…話せば長くなりますけど…」
「それについては私達からも」
遊路と遊希、それに同伴していた綾香・千夏・詩織はお互いに補足し合いながら出会った経緯を説明した。その説明の中、ペンデュラム召喚が役に立った。というのもこの世界では遊路と遊希が出会った当時、ペンデュラム召喚の開発は初歩の初歩の段階で召喚方法の名前の候補も無かったのだ。つまりこの世界に存在しないペンデュラム召喚を使った遊路はこの世界の人間ではない、という理屈である。
「ペンデュラム召喚がまだ誕生すらしていないのにペンデュラム召喚を使いこなす…。確かに筋は通っているね」
「うーん。頭がグルグルしてきマシタ」
説明を聞いてミハエルはまだ気難しい顔をし、当時いなかったエヴァは頭を抱える。
「風峰君」
「なんでしょうか?」
「異世界のデュエリストという事を明確に示す為に私と1度デュエルしないかい?」
「…慎んでお受けします」
ミハエルの藪から棒な申し出に遊路は平然と、むしろ、嬉々として受け入れた。
「ほう。自信があるみたいだね」
「…とあるデュエリストが言っていました。デュエルをすればお互いに分かり合える、と。ここで理屈を並べるよりも1回デュエルをすれば私の事を多少なりともより理解してくれるのではないか、と判断した次第です」
「嫌いな考え方じゃないね」
遊路とミハエルの口角はやや上がっていた。
場所は校長室から広いデュエル場に移り、遊路とミハエルが中央でお互いのデッキを交換してシャッフルする。
「で、やはり本音は…」
「何の事かな?」
「顔に書いてあります」
「ふふっ。私もまだまだだね」
「いいえ。デュエルに歳も立場も関係ないと思うのでお気にさらず」
「そう言ってもらえると助かるよ」
丹念にシャッフルしてもらったデッキを互いに受け取りデュエルディスクにセットして位置に着く。
一方の遊月や美羽、遊希達はギャラリー席からデュエル場を見下ろす。
「全くミハエル君は少し意地の悪い事をする」
「ええ。ですが気持ちは解りますよ」
ミハエルの気持ち、いや、それはデュエリストとしての性(さが)と言えるかもしれない。怖いもの見たさ、好奇心、闘争本能…人によって呼び方は様々だろうが、未知の世界から来たデュエリストという存在は同じデュエリストとしてどれ程の興味を掻き立てられるか、想像に難くない。
しかし、一種の子供のワガママとも捉えられるその感情を隠すフェイクとしてミハエルは遊路を試すような意地悪な言い方をしたのだ。
「あの、やっぱり教頭先生ってことだから強いんですか?」
「ミハエル教頭はドイツのプロデュエリストですヨ」
「簡単には負けないわよ」
「まぁ…。ですが遊路様なら必ず…」
少ない観客が見守るなか、異世界のデュエルが幕を開けた。
「「デュエル!!」」
コンピューター判定の結果、先攻はミハエルが取る。
「私のターン!永続魔法『神の居城‐ヴァルハラ‐』を発動!!」
フィールド魔法ではないが、神々しい玉座の間がフィールドに広がる。
「ヴァルハラ…なるほど」
「ヴァルハラの効果で手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する!!現れよ!無慈悲なる天の使者!『大天使クリスティア』!!」
玉座の間に一筋の光が差し込み、赤い翼を持つ大天使が降臨する。この様子にはギャラリー席の遊希達も頷く。
「ミハエル教頭。いきなり容赦ないモンスターを出すわね」
遊希の言う通り『大天使クリスティア』にはえげつない効果が搭載されている。デュエルモンスターズでは主力の展開や切り札の登場には特殊召喚に頼る事が多いが、クリスティアはその特殊召喚という行為そのものを封じてしまうのだ。ミハエルの今の一手はカードの効果で特殊召喚封じのモンスターを出しただけの単純な戦術ながら、多くのデッキがこれで機能不全に陥る危険性がある。しかし遊路はそんな盤面になっても狼狽える様子もなく、じっとフィールドと手札を見据えている。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
「おr、…私のターン、ドロー」
「風峰君。いつもの感じで構わないよ」
異世界でのデュエルとあって勝手が違うのか、言葉遣いが堅い遊路をミハエルが諭す。
「そう…ですか?じゃあ遠慮なく…俺はスケール9の『赤薔薇の救世者(メシア)‐ラブリー∞(インフィニオン)』とスケール3の『白薔薇の救世者‐ピュアリー∞』でペンデュラムスケールをセッティング」
ペンデュラム特有の青い光の柱が伸び、真紅のドレスを纏った姫騎士と純白のローブを纏った魔法使いの少女が浮かぶ。
「おっと説明し忘れていたかな。クリスティアは」
「いいえ。俺達の世界にもクリスティアがいますので効果は理解してますよ。俺は『奏笛の救世者‐アルル∞』を召喚して効果を発動。コイントスを行い、表ならばデッキからレベル4の救世者モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚し、裏ならばこのターン、通常召喚に加えて1度だけ救世者モンスターを召喚できるようになります」
「ギャンブルデッキかい?だけど展開したところで」
「お楽しみはこれからですよ。アルルの効果にチェーンしてラブリーのペンデュラム効果発動。LPを800支払うことでコイントスの結果を思い通りにします。俺は裏を宣言」
遊路:LP 8000→7200
「通常召喚可能になったけど、それで?」
「ミハエル教頭は仰りましたよね。いつもの感じで構わないと」
「ああ」
「ならいつも通りやります。俺は魔法カードを1枚以上発動した後に救世者モンスターの効果を発動した事でドライヴ条件を達成!」
「ドライヴ条件…?」
ミハエルにとっては謎のワードの直後、アルルは赤い魔法陣に包まれていき、遊路はエクストラデッキから真紅のカードを取り出す。
「清廉なる笛吹きの天使よ。新たなる祝福と加護の光を得て限界を越えた姿を示せ!ドライヴ召喚!!『純愛の真救世者(ラブハート・トゥルーメシア)‐メルティエル』」
小さかったアルルは、桃色の翼と空色の髪を持つ、美しい女神のようなモンスターへと変貌した。異世界の召喚方法にミハエルは当然、観戦している遊希達も息をするのを忘れる程の衝撃を受けた。
「一定の条件を満たすと召喚できるドライヴモンスター…」
「聞いたこともない召喚方法…さすが異世界デスネ」
「あの、美羽…さんでしたよね。あれは貴女達の世界では当たり前の召喚方法なんですか?」
「ううん。ドライヴ召喚自体は遊路が生み出したものだけど、まだ申請中で一般には広まってないんだ」
「生み…出した?」
「それってどういうことなのよ!?」
「えっと…それはその…」
「遊月さん?」
「えー…その…」
美羽と遊月は何故か目を逸らし、頑なに言おうとはしなかった。
ドライヴ召喚を巡ってギャラリー席が盛り上がっている中でもデュエルは進む。
「ドライヴ召喚は通常召喚扱いなのでクリスティアの影響を受けません」
「異世界らしい突破方法だね」
「ええ。ですがまだ続きますよ。メルティエルが天使族モンスターをドライヴ素材としてドライヴ召喚に成功した時、効果を発動。サイコロを2回振ります」
遊路はポケットからサイコロを2個取り出す。
「アナログ派なので。振りますか?」
「いや、君がやって良いよ」
「では」
ヒュン…コロコロコロ、1・5
「サイコロの目の差分、最大2枚ドロー。そして差が3以上の場合は相手フィールドのカード1枚を手札に戻します。戻すのは当然、『大天使クリスティア』」
「くっ…」
メルティエルの翼から羽根吹雪が舞ってクリスティアを包むと、いつの間にか消えてしまった。
「クリスティアが消えた事で特殊召喚が可能になりました。俺はここでさらにペンデュラム召喚!チューナーモンスター『金環の救世者‐シエラ∞』、『信念の救世者‐ヴェルネッタ∞』!シエラの効果でコイントス」
チリーン…裏!
「2枚ドローして手札から1枚を墓地に。そしてレベル4のヴェルネッタにレベル4のシエラをチューニング!飛び立つは神聖なる竜王。鋼の閃光と時統べる力を以て運命を切り開け!シンクロ召喚、『運命の真救世者‐ギアフェイト・X(クロス)・ドラゴン』!!」
シンクロ召喚させたモンスターは翼や体が機械、両腕がレーザー砲となっている巨大なドラゴンである。
「バトル。メルティエルでダイレクトアタック」
「させないよ!罠カード『神風のバリア‐エアーフォース‐』!攻撃表示のモンスターを全て手札に…なっ!?」
ミハエルが発動させた罠カードによって発生した烈風が遊路のモンスターを襲うが、球状のバリアによって風を防がれてしまう。
「ピュアリーがペンデュラムゾーンに存在する限り、俺の救世者は相手の通常魔法・通常罠の効果を受けない、よってダイレクトアタックは有効です」
純愛の真救世者‐メルティエル ATK 2400 直接攻撃
ミハエル:LP 8000→5600
「さらにギアフェイト・X・ドラゴンでダイレクトアタック!」
巨竜の背中の鋼の翼が分離し、両腕の砲身をミハエルに向ける。
「ここで手札から『護法の救世者‐ゴールド・ゴーレム∞』を捨てて効果を発動。俺のLPを800回復し、このターンにお互いに発生する全てのダメージを0にします」
「え?」
運命の真救世者‐ギアフェイト・X・ドラゴン ATK 2900 直接攻撃(ただしダメージは0)
遊路:LP 7200→8000
分離した翼と砲身からビームの雨が降り注ぐが、黄金の機械の巨人を中心に発生した魔法陣が盾となって全てを防ぐ。
「なんのつもりだい?」
「ミハエル教頭。先程のプレイを見て油断ならない相手とお見受けしました。ならば多少リスクを犯しても早期決着を仕掛けます。バトルフェイズ終了時、LPを半分払ってギアフェイト・X・ドラゴンの効果を発動!!」
遊路:LP 8000→4000
巨竜の胸の辺りにあるプレートが解放されると青白い光が点滅する。
「デッキをシャッフルし、デッキトップを5枚めくってその中に救世者モンスターが3枚以上ある場合、次の相手ターンをスキップできます」
「なんだって!?」
「デッキトップチェック、ファースト」
ペラッ『銀麗の救世者‐ミスリル・メイド∞』
「セカンド」
ペラッ『礼弦の救世者‐アリア∞』
「サード」
「くっ…」
ここまで2連続で指定されたカードが出てミハエルの掌に冷や汗が滲む。
ペラッ『輝翼の救世者‐プラチナ・ペガサス∞』
「3枚出たため、ターンスキップが確定。メイン2は何もせずにターンエンド。ターンをスキップして再び俺のターン、ドロー。『勇気の救世者‐シグナム∞』を召喚。これでTheEndです。モンスター達でダイレクトアタック!!」
勇気の救世者‐シグナム∞ ATK 1800 + 純愛の真救世者‐メルティエル ATK 2400 + 運命の真救世者‐ギアフェイト・X・ドラゴン ATK 2900 直接攻撃
ミハエル:LP 5600→0
「ふぅ…。こうもあっさり負けてしまうとはね」
「いいえ、結構際どかったと思います。ミハエル教頭はそれほど強かった。良いデュエルをありがとうございました」
「ああ。異世界のデュエリストの実力、しっかり見させてもらったよ」
デュエルを終えて、遊路とミハエルは固く握手を交わした。
遊路とミハエルがギャラリー席に戻ると観戦していた面子が集まってきた。
「遊路様、お疲れ様です」
「ああ」
「ミハエル君がああまで惨敗とは珍しいものだ」
「ええ。私もまだまだということです」
遊月が遊路に、竜司がミハエルにそれぞれ労いの言葉を掛ける。
「異世界の召喚方法に私が挑むわ!さぁ、私と勝負しなさい!」
「陽川さん、申し訳ないが今日はここまでだ。なんせ本来デュエル場は閉まってる時間だからね」
「えー!教頭先生だけ先にやってズルい!ショッケンランヨーよ!」
未知の召喚方法を操る遊路とのデュエルに息巻く千夏だったが、事務的対応なミハエルの一言で一蹴されてしまう。
「陽川さん。どうせ俺達もまだ帰れそうにないし、それまでの間ならいくらでも相手してやる」
「そう言うならしょうがないわね」
千夏は遊路の意見をあっさりと受け入れた。
「そうだね。明日にも各方面に連絡をして一刻も早く君たちが元の世界に帰してあげるため、装置の修復に努めよう」
「ありがとうございます、星乃校長」
こうして遊路達の異世界での生活が幕を上げた。
次回予告
綾香「結局はぐらかされたけど、ドライヴ召喚ってどうやって生まれたの?」
遊路「それはその…」
綾香「はっきり言いなさいよ」
遊路「…【ピー】だよ」
綾香「え?」
遊路「だから【ピー】だって!!恥ずかしい事を何度も言わせるな!」
綾香「だって変なピー音で肝心な部分が聞き取れないんだもの!」
竜司「教育者としてピー音を外す訳にはいかないんだよ、綾香…。次回、『School Life』。お楽しみに」
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
まぁ自分も同じ事やられたから言えるんですが…。
やはり大統領は強かった!ミハエル教頭、ドンマイです。 (2019-01-08 07:35)
先攻クリスティアの絶望感は今も昔も変わらない。
ミハエル教頭は強キャラなのにこんなあっさり倒して良いものかと思いましたが、異世界人である遊路の強さを鮮明にするために犠牲になって頂きました。 (2019-01-08 08:13)
ドライヴは召喚権を消費するだけじゃなくてしっかりと通常召喚扱いになるのですね。落とし穴なんかは効くのかな?クリスティアは言うまでもなく強力ですが、相手がドライヴ使いなら相手が悪かったといった感じですかね。それにしても三枚でスキップ確定させる運命力は流石としか言いようがありません……! (2019-01-08 15:48)
ドライヴ召喚は、特殊召喚の種類としてシンクロ召喚やエクシーズ召喚等があるように、通常召喚の種類としてある感じです(同類としてアドバンス召喚)。故に通常召喚を対象とした落とし穴や畳返しが効きます(逆に今回のように特殊召喚封じや特殊召喚時を狙い撃つカードを避けられます)。
実はドライヴは通常召喚という抜け目を利用した(記憶上)初の回でもあります。
(2019-01-08 19:46)
まさかここでミハエルのデュエルが見れるとは思いませんでした。ただ、残念ながら相手が悪すぎたとしか。
ほとんどのデッキ相手に刺さるヴァルハラからのクリスティアでしたが、通常召喚権を消費することから通常召喚として扱うドライヴ召喚はクリスティアの対象外というのはさすがに予想できなかったでしょうね。知らないからどうしようもなかったりするのですが。しかし、改めて【救世者】のエグさが伝わってくるデュエルでしたし、遊路の強さというものも感じられるものでした。
そして綾香……君にピー音はまだ早い。 (2019-01-08 23:05)
ミハエル教頭、クロノスと同じ運命を辿るのだ。
クリスティア突破の手段はこれだなと思いドライヴで決めさせてもらいました。救世者は本来ミスするデメリットを抱えるがその分大きなアドを稼ぐギャンブル効果をミス抜きにしたので主人公補正も相俟って超理不尽仕様です(笑)
ピー音は神の手で消されたカオジェネ175話で行われた行為のことです。新カードもデキちゃうのです。
(2019-01-09 00:17)