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第八話 ミレニアムバトル勃発 作:サクラ
「《魔導法士ジュノン》でダイレクトアタック!」
「ぐわぁ!」
「《青眼の白龍》で《ブレイドナイト》を攻撃!」
「チキショー!」
「《召喚獣メルカバー》の効果で手札のモンスターカードを墓地に送り、《巨大ネズミ》のリクルート能力を無効にする!」
「そんな!?これじゃあボクの《お注射天使リリー》ちゃんが呼べないじゃないか!?」
パズルカードを6枚揃えた遊香はパズルカードをデュエルディスクに置いていく。すると、デュエルディスクから地図が表示された。
「なるほど。ここか……ん?空が……」
空を見上げると、先程まで快晴だった空は曇り始めた。雲は河川敷に向かって深くなっていく。
「これはまさか!?ッ!」
遊香は血相を変えて河川敷に向かって走る。
(これは覚えている。マリクの乗り移った人形と遊戯とのデュエルで、その時に召喚された神の一柱《オシリスの天空竜》だ!!)
遊香の口角が上がる。本物の神が遂に姿を現わす。河川敷の階段を駆け上がり、土手の上から見下ろすと予想通り遊戯と人形が戦っていた。
「《スライムトークン》を生け贄に!出でよ!《オシリスの天空竜》!!」
落雷が河川敷一帯に落ちていく。遊香のすぐ隣でも落ちた。
暗雲の中から紅い巨躯が現れる。そして二つの口を持った竜が出現した。オシリスと対峙をしていない遊香の体にもオシリスから放たれる凄まじいオーラと威圧感に思わず後ろに一歩退がる。しかし、遊香自身の心情は感動の一言に尽きていた。
「これが、神の姿。これ程までの戦慄は未だかつて体感したことがあったか……」
遊香は冷や汗を頬からかきながらの口元が緩む。
「《オシリスの天空竜》の攻撃力は僕の手札の枚数により決定する。今の手札は3枚、よって攻撃力3000!」
「攻撃力3000だと!?」
「そうさ、今は《悪夢の鉄檻》の効果で攻撃出来ないが次の僕のターンにはそれもなくなる。ターンエンドだ!」
「俺のターン!ドロー!2枚カードを伏せ、モンスターを守備表示で召喚」
(よし、次の奴のターンが勝負だ!)
遊香は遊戯と人形のデュエルを見守っていた。すると海馬が現れる。
「遊戯!……神をなぎ倒していけ!」
「海馬……分かったぜ!」
海馬の一言で遊戯は人形のデッキの弱点を見つけ出し、無限ループを発生させて勝利を収めた。
それから時間が経過して空が段々と暗くなって来ていた。
「遊戯達は今頃洗脳された城之内とデュエルしている頃か……だが、私は先に集合地点に向かわせてもらうぞ。ふふ」
遊香は集合地点の『童実野スタジアム』に向かって歩き出す。すると、1人の女性が遊香の前に現れた。
「お前は……」
「はじめまして。Ms.野崎。私の名はイシズ。イシズ・イシュタールです」
イシズは一礼する。
「エジプト考古局の局長が私に何か用かな?」
遊香は目を細めて聞く。遊香の記憶ではイシズは予選通過者8人目。一番最後に来たはずだ。遊戯達がまだ来ていないこのタイミングでここに居るのは少し妙だ。
「貴女が此処に来ることは予め分かっていました」
「何?」
遊香の目の色が変わる。疑いから警戒に。視線も強くなるが。イシズは大して気にしていない雰囲気だった。
(そういえばイシズは『千年タウク』の所持者だったな。千年タウクは未来観測が出来るっだったか)
遊香は心の中で舌打ちする。原作ではイシズは海馬とバトルシップでデュエルをやり、海馬のデッキを壊滅寸前にまで追いつめた女だ。
「貴女の事はこの千年タウクで既に見ているのです。貴女が最初に童実野スタジアムに現れること、そしてその後の事も」
「随分と勿体ぶるんだな。アナタは私を消しに来たんだろう?ならやる事は決まっている。私とアナタはここでミレニアムバトルを行うって事だ」
「……」
(この者。私が未来を見たと言っているのに全く動じていない。かと言って奇怪な感じでもない。この闇の人格は明らかにイレギュラーですね……。一体……)
イシズはデュエルディスクを構える。遊香はデッキケースから一枚のカードをデッキに加えるとデュエルディスクを構えた。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが変形し、ライフポイントゲージが4000と表示される。
「私の先攻。《グリモの魔導書》発動。デッキから魔導書カードを手札に加える。《魔導法士ジュノン》を手札に加える。手札の魔導書を3枚見せることで、《魔導法士ジュノン》を特殊召喚」
「流石、武藤遊戯や海馬瀬戸と並ぶ最強の一人ですね。先攻1ターン目から攻撃力2500のモンスターを特殊召喚とは。しかし、それも既に見ています」
「ほう……私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
「その伏せカードは《ゲーテの魔導書》ですね。厄介なカードですが、それが発動する前に除去してしまえば問題はないですね。そしてもう一枚は《トーラの魔導書》。これで《魔導法士ジュノン》を守るのおつもりでしょう。私のターンですね?ドロー」
カードを引くイシズ。そして引いたカードをそのまま伏せた。
「この伏せたカードは貴女を倒すキーカード。この未来は変わる事はないのです」
「……」
(私を倒すカードだと?イシズはデッキ破壊と墓守の墓地封じデッキを使っていたはず。果たしてどちらか……)
「私はまず、魔法カード《サイクロン》発動。伏せカードを破壊します。そして、私は手札の《ムドラ》を墓地に送り、魔法カード《ワン・フォー・ワン》発動。デッキからレベル1モンスターを特殊召喚します」
(《ワン・フォー・ワン》だと?イシズは何のデッキなんだ?)
遊香はイシズを睨み付ける。油断ならない女だと。
「これにより、私はデッキから《天帝従騎イデア》特殊召喚。《天帝従騎イデア》の効果発動。デッキから《冥帝従騎エイドス》を守備表示で特殊召喚」
「《帝王》シリーズだと!?」
(イシズが帝王シリーズを使うなんて……まさか!?)
「私は《天帝従騎イデア》と《冥帝従騎エイドス》をリリースし、《轟雷帝ザボルグ》をアドバンス召喚」
「《轟雷帝ザボルグ》!エクストラデッキ破壊のカードか!」
「《轟雷帝ザボルグ》の効果により、《魔導法士ジュノン》を破壊。破壊したモンスターが光属性ならばそのレベルの数だけお互いのエクストラデッキのカードを墓地に送る。《魔導法士ジュノン》は光属性レベルは7。よって私達は7枚のカードをエクストラデッキから墓地に送られる」
「チッ……」
2体の従騎達が跪くと、天から二つよ雷が落ちて来た。それが従騎達に直撃すると、体が消えて行き雷を纏った帝王、轟雷帝ザボルグが現れた。そして、ザボルグは手を上に上げると7つの雷の槍が遊香のエクストラデッキに向かって落ちてくる。遊香はなすすべも無くエクストラデッキのカードを貫かれる。
遊香は理解した。これはコンボの素材。あのスタートに伏せたあのカードの発動条件を満たすための物なのだ。遊香は貫かれたカードを墓地に送る。
「《冥帝従騎エイドス》が召喚、特殊召喚に成功したターン。もう一度アドバンス召喚をする事ができます。《轟雷帝ザボルグ》をリリースし、《轟雷帝ザボルグ》をアドバンス召喚。《轟雷帝ザボルグ》はレベル8ですが、アドバンス召喚したモンスターをリリースする場合1体で出す事ができます。現れなさい!」
再びザボルグの上空から雷が落ち、体が消えて行く。そして新たな轟雷帝ザボルグが現れた。
「さぁ《轟雷帝ザボルグ》自身を効果で破壊し、エクストラデッキを破壊します。《ザボルグ》のレベルは8です。よって残り全てのカードを墓地に送りなさい遊香。いや、遊香の中の邪悪なる魂よ」
「……ッ!」
(コイツ……)
遊香は心の中で唇を噛む。遊香は残りのエクストラデッキのカードを墓地に送った。
「ターンエンド。貴女の敗北へのカウントダウンが始まりました」
「ほう?どういう事だ?」
「貴女は私の罠にハマったのです。貴女のドローフェイズ。お互いの墓地にカードが15枚以上ある時、このカードを発動します!」
イシズの伏せたカードが起き上がる。
「罠カード《現世と冥界の逆転》発動!」
「《現世と冥界の逆転》!やはりイシズはこのデッキ破壊デッキだったのか!」
「このカードをご存知のようですね?ではその効果を適用していただきましょう」
「私たちの墓地とデッキのカードを入れ替える。だったな」
「その通りです。私のデッキは5枚。貴女のデッキは3枚。《グリモの魔導書》と《魔導法士ジュノン》、《ゲーテの魔導書》3枚。私の墓地には《ネクロ・ガードナー》が3枚あります。これにより、貴女が例えどんな強力なモンスターを出そうとも攻撃は止められます。これで分かったでしょう?私には未来が見えているのです」
「……ふふ」
遊香は突然笑い出す。イシズの目が一気に警戒に染まる。今度は遊香がドローしたカードを見ずにセットした。
「何のつもりですか?」
「面白い事を教えてやろう。もしアナタ同様に私も未来の事を知っていたら、どうだ?」
「何ですって?」
イシズは驚愕する。自分の持つ千年タウク以外で未来を予測する事が出来るなどありえるのだろうか。ペガサス・J・クロフォードは『ミレニアムアイ』と自身の持つデュエルモンスターズの知識によって擬似的な未来予知を可能にしていた。彼女の持つ千年ピアスの能力が分からない為にイシズは遊香の発言の真偽を断定できなかった。
「もちろん信じるも信じないもアナタ次第。しかし、私が伏せたカード。これはアナタのデッキ破壊コンボの対策カードかもしれないぞ?まぁそれが本当かどうかはアナタのターン以降に分かるんだけどね」
イシズは冷や汗が流れ落ちる。
(何て方なんでしょう。その美しい顔に似合わず大胆不敵な……。しかしそれは蛮勇ですよ遊香。貴女の伏せたカードがモンスターカードならルール違反となり貴女は敗北になる。それ程の覚悟と賭けをするとは……)
「私のターンですね?ドロー。ターンエンドです」
「私のターン。ドロー……」
どうでる?イシズは生唾を飲み遊香のターン進行を見届ける。
しかし、
「ターンエンド」
「……!?」
遊香は何もしてこない。どういうことなのだろうか。あと2回遊香がドローすれば次のターンには敗北が決まるというのに。動く気配すらない。イシズもカードを引き、直ぐにターンを終わらせる。
しかしやはり遊香は動かなかった。淡々とお互いにドローしてはターンを終わらせる。そして遊香の最後の一枚のターン。
「ドロー。……ターンエンドだ」
「やはりその伏せカードはブラフだったようですね。貴女の敗北です。次の私のターン。ドローと共にターン終了の宣言をします」
「……」
「悔しがる必要はありません。貴女は十分強かった。本来デュエルにおいて未来を見る事はあってはならない事。私のはマリクを、我が弟を闇から救い出さなければならないのです。その為なら傷付きもしますし、汚くもなりましょう」
イシズは静かに墓守の一族の話をする。墓守の一族の宿命。弟の事を。一通り喋り終えるとイシズはターンを開始した。
「私のターンですね?ドロー。そしてターンエンドこれで貴…………」
「この瞬間。罠カード発動」
イシズは目を見開く。このタイミングで罠カード?と恐る恐る起き上がってくる遊香のカードを注視する。
「それは!?」
「そう。これがデッキ破壊対策カード《貪欲な瓶》だ。これにより私は墓地のカード5枚を選びデッキに戻してシャッフル。そして1枚ドローする」
遊香は35枚以上のカードを墓地から取り出して5枚を抜き取る。デッキのカードは無いのでその5枚を混ぜ合わせてセットしてカードを引いた。
「これでは……」
「そう。これで私のデッキは4枚。アナタのデッキは3枚となりそのままでも私の勝ちとなる。でも、私をここまで追い詰めたアナタには敬意を払って私の今の切り札をお見せしよう。私のターン。ドロー」
遊香はドローしたカードを見てニヤリと笑う。
「《貪欲な壺》発動。今度は墓地のモンスターカードを5枚戻して2枚ドローする」
再び遊香は墓地から5枚のカードをデッキに戻して今度は2枚引く。
「魔法《魂吸収》と《魂の解放》発動。これでアナタの墓地の《ネクロ・ガードナー》3枚と《超電磁タートル》を除外。私の墓地から1枚除外」
「そんな!?」
「《魂吸収》の効果でゲームから除外された枚数×500のライフを回復する。除外された枚数は5枚。よって2500ライフを回復」
遊香のライフポイントが6500となる。
「そして、このカード《死者蘇生》を発動!墓地のモンスターを蘇生する!私は……!」
「ば、馬鹿な!?そんな事があるはずがありません!何故そのカードを貴女が持っているのですか!?そのカードはマリクが…………ッ」
……
「ここが童実野スタジアムか。まだ未完成故に来た事が無かったが、なかなか広くていいところじゃないか……ん?」
スタジアムの中央には海馬瀬人とモクバ、海馬コーポレーションの黒服が何人かいた。
遊香は黒服にパズルカードを見せ、待機する。
「ふぅん、野崎遊香か。『決闘者の王国』に現れなかった所をみると、貴様の実力が落ちたかそれとも臆病にも逃げ出したのか?」
「ふふ。その時は少しばかり用事があってね。エジプトに行っていた。だが安心しておくといい。この大会で君と当たった時はあの時のように敗北の二文字を再び味合わせてやるさ」
「フフフ、フハハハ!!今の俺のデッキはあの時を遥かに超え、今では神の領域にいる。精々あの時のような無様な姿を晒さぬ様に心掛けでもしておくんだな!」
海馬が高笑いを止めると突然近くの黒服にスタンドのライトをつける様に言いだした。
黒服が急いでライトを点灯するが、何も無い。
海馬も目だけを動かすが、何も無い事を確認すると黙り込んだ。
タ、タ、タ、
スタジアムの入口から足音が聞こえてくる。1つ2つどころではない10個近い数だ。
「漸く来たか。遊戯」
遊香もそちらを見ると、遊戯や城之内、孔雀舞達がこちらに向かって歩いて来ていた。遊香は元の遊香に代わる。
「遊戯君!城之内君!」
「遊香さん早いね!」
「おう!遊香!流石だな、俺たちより先に着いてるなんて」
「た、大したことないよ。あはは……」
遊戯達も黒服にパズルカードを提示する。これで5人。その直ぐ後に獏良と褐色の少年が現れた。
「獏良にナムじゃねぇか!お前らも突破したんだな!」
「うん。直ぐそこでナム君に会ってね。それで一緒に来たんだ」
何も知らない遊戯と元の遊香はにこやかにナムと握手を交わす。闇の遊香はほくそ笑む。早速本物のマリクとコンタクトが取れた。
遊香とマリクが握手を交わしている時、一瞬触れた手が光った。
「後はマリクか……ッ!?」
風向きが変わる。穏やかだった空気も引き締まり、全員が入口を見た。
「奴がマリクか」
これまでのグールズ同様、ウジャト眼の刺繍が施されている黒いローブを着ている大柄な男。男はパズルカードを黒服に見せる。
「貴様がマリクか?」
「……いかにも」
海馬の質問に対して男は静かに答える。沈黙が起こり、先程までの穏やかな空気は無くシーンとしていた。しかし、その空気を一番早く壊したのはこの男だった。
「マリクテメェ!テメェだけは絶対許さねぇ!」
「ふん、また操られたいのか?」
城之内だ。城之内の一言に挑発で返す男。元の遊香も遊戯達も男から発せられる闘気に圧倒される。
「8名のデュエリストが揃いましたので、本線を開始したいと思います。しかし皆さんがデュエルするのはこのスタジアムではありません」
「え!?ここじゃないのか!?」
「間も無く現れます。来ました。アレです!」
風がスタジアム内に吹く。現れたのは巨大な飛行船。飛行船が着陸すると階段が降りて来た。
「こちらが本線の舞台『バトルシップ』でございます!さぁ皆さんお乗りください」
「よっしゃあ!乗るぞ!」
こうして、一同は本戦へと進む。原作とは違う新たなバトルシティは中盤戦へ突入した。
「ぐわぁ!」
「《青眼の白龍》で《ブレイドナイト》を攻撃!」
「チキショー!」
「《召喚獣メルカバー》の効果で手札のモンスターカードを墓地に送り、《巨大ネズミ》のリクルート能力を無効にする!」
「そんな!?これじゃあボクの《お注射天使リリー》ちゃんが呼べないじゃないか!?」
パズルカードを6枚揃えた遊香はパズルカードをデュエルディスクに置いていく。すると、デュエルディスクから地図が表示された。
「なるほど。ここか……ん?空が……」
空を見上げると、先程まで快晴だった空は曇り始めた。雲は河川敷に向かって深くなっていく。
「これはまさか!?ッ!」
遊香は血相を変えて河川敷に向かって走る。
(これは覚えている。マリクの乗り移った人形と遊戯とのデュエルで、その時に召喚された神の一柱《オシリスの天空竜》だ!!)
遊香の口角が上がる。本物の神が遂に姿を現わす。河川敷の階段を駆け上がり、土手の上から見下ろすと予想通り遊戯と人形が戦っていた。
「《スライムトークン》を生け贄に!出でよ!《オシリスの天空竜》!!」
落雷が河川敷一帯に落ちていく。遊香のすぐ隣でも落ちた。
暗雲の中から紅い巨躯が現れる。そして二つの口を持った竜が出現した。オシリスと対峙をしていない遊香の体にもオシリスから放たれる凄まじいオーラと威圧感に思わず後ろに一歩退がる。しかし、遊香自身の心情は感動の一言に尽きていた。
「これが、神の姿。これ程までの戦慄は未だかつて体感したことがあったか……」
遊香は冷や汗を頬からかきながらの口元が緩む。
「《オシリスの天空竜》の攻撃力は僕の手札の枚数により決定する。今の手札は3枚、よって攻撃力3000!」
「攻撃力3000だと!?」
「そうさ、今は《悪夢の鉄檻》の効果で攻撃出来ないが次の僕のターンにはそれもなくなる。ターンエンドだ!」
「俺のターン!ドロー!2枚カードを伏せ、モンスターを守備表示で召喚」
(よし、次の奴のターンが勝負だ!)
遊香は遊戯と人形のデュエルを見守っていた。すると海馬が現れる。
「遊戯!……神をなぎ倒していけ!」
「海馬……分かったぜ!」
海馬の一言で遊戯は人形のデッキの弱点を見つけ出し、無限ループを発生させて勝利を収めた。
それから時間が経過して空が段々と暗くなって来ていた。
「遊戯達は今頃洗脳された城之内とデュエルしている頃か……だが、私は先に集合地点に向かわせてもらうぞ。ふふ」
遊香は集合地点の『童実野スタジアム』に向かって歩き出す。すると、1人の女性が遊香の前に現れた。
「お前は……」
「はじめまして。Ms.野崎。私の名はイシズ。イシズ・イシュタールです」
イシズは一礼する。
「エジプト考古局の局長が私に何か用かな?」
遊香は目を細めて聞く。遊香の記憶ではイシズは予選通過者8人目。一番最後に来たはずだ。遊戯達がまだ来ていないこのタイミングでここに居るのは少し妙だ。
「貴女が此処に来ることは予め分かっていました」
「何?」
遊香の目の色が変わる。疑いから警戒に。視線も強くなるが。イシズは大して気にしていない雰囲気だった。
(そういえばイシズは『千年タウク』の所持者だったな。千年タウクは未来観測が出来るっだったか)
遊香は心の中で舌打ちする。原作ではイシズは海馬とバトルシップでデュエルをやり、海馬のデッキを壊滅寸前にまで追いつめた女だ。
「貴女の事はこの千年タウクで既に見ているのです。貴女が最初に童実野スタジアムに現れること、そしてその後の事も」
「随分と勿体ぶるんだな。アナタは私を消しに来たんだろう?ならやる事は決まっている。私とアナタはここでミレニアムバトルを行うって事だ」
「……」
(この者。私が未来を見たと言っているのに全く動じていない。かと言って奇怪な感じでもない。この闇の人格は明らかにイレギュラーですね……。一体……)
イシズはデュエルディスクを構える。遊香はデッキケースから一枚のカードをデッキに加えるとデュエルディスクを構えた。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが変形し、ライフポイントゲージが4000と表示される。
「私の先攻。《グリモの魔導書》発動。デッキから魔導書カードを手札に加える。《魔導法士ジュノン》を手札に加える。手札の魔導書を3枚見せることで、《魔導法士ジュノン》を特殊召喚」
「流石、武藤遊戯や海馬瀬戸と並ぶ最強の一人ですね。先攻1ターン目から攻撃力2500のモンスターを特殊召喚とは。しかし、それも既に見ています」
「ほう……私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
「その伏せカードは《ゲーテの魔導書》ですね。厄介なカードですが、それが発動する前に除去してしまえば問題はないですね。そしてもう一枚は《トーラの魔導書》。これで《魔導法士ジュノン》を守るのおつもりでしょう。私のターンですね?ドロー」
カードを引くイシズ。そして引いたカードをそのまま伏せた。
「この伏せたカードは貴女を倒すキーカード。この未来は変わる事はないのです」
「……」
(私を倒すカードだと?イシズはデッキ破壊と墓守の墓地封じデッキを使っていたはず。果たしてどちらか……)
「私はまず、魔法カード《サイクロン》発動。伏せカードを破壊します。そして、私は手札の《ムドラ》を墓地に送り、魔法カード《ワン・フォー・ワン》発動。デッキからレベル1モンスターを特殊召喚します」
(《ワン・フォー・ワン》だと?イシズは何のデッキなんだ?)
遊香はイシズを睨み付ける。油断ならない女だと。
「これにより、私はデッキから《天帝従騎イデア》特殊召喚。《天帝従騎イデア》の効果発動。デッキから《冥帝従騎エイドス》を守備表示で特殊召喚」
「《帝王》シリーズだと!?」
(イシズが帝王シリーズを使うなんて……まさか!?)
「私は《天帝従騎イデア》と《冥帝従騎エイドス》をリリースし、《轟雷帝ザボルグ》をアドバンス召喚」
「《轟雷帝ザボルグ》!エクストラデッキ破壊のカードか!」
「《轟雷帝ザボルグ》の効果により、《魔導法士ジュノン》を破壊。破壊したモンスターが光属性ならばそのレベルの数だけお互いのエクストラデッキのカードを墓地に送る。《魔導法士ジュノン》は光属性レベルは7。よって私達は7枚のカードをエクストラデッキから墓地に送られる」
「チッ……」
2体の従騎達が跪くと、天から二つよ雷が落ちて来た。それが従騎達に直撃すると、体が消えて行き雷を纏った帝王、轟雷帝ザボルグが現れた。そして、ザボルグは手を上に上げると7つの雷の槍が遊香のエクストラデッキに向かって落ちてくる。遊香はなすすべも無くエクストラデッキのカードを貫かれる。
遊香は理解した。これはコンボの素材。あのスタートに伏せたあのカードの発動条件を満たすための物なのだ。遊香は貫かれたカードを墓地に送る。
「《冥帝従騎エイドス》が召喚、特殊召喚に成功したターン。もう一度アドバンス召喚をする事ができます。《轟雷帝ザボルグ》をリリースし、《轟雷帝ザボルグ》をアドバンス召喚。《轟雷帝ザボルグ》はレベル8ですが、アドバンス召喚したモンスターをリリースする場合1体で出す事ができます。現れなさい!」
再びザボルグの上空から雷が落ち、体が消えて行く。そして新たな轟雷帝ザボルグが現れた。
「さぁ《轟雷帝ザボルグ》自身を効果で破壊し、エクストラデッキを破壊します。《ザボルグ》のレベルは8です。よって残り全てのカードを墓地に送りなさい遊香。いや、遊香の中の邪悪なる魂よ」
「……ッ!」
(コイツ……)
遊香は心の中で唇を噛む。遊香は残りのエクストラデッキのカードを墓地に送った。
「ターンエンド。貴女の敗北へのカウントダウンが始まりました」
「ほう?どういう事だ?」
「貴女は私の罠にハマったのです。貴女のドローフェイズ。お互いの墓地にカードが15枚以上ある時、このカードを発動します!」
イシズの伏せたカードが起き上がる。
「罠カード《現世と冥界の逆転》発動!」
「《現世と冥界の逆転》!やはりイシズはこのデッキ破壊デッキだったのか!」
「このカードをご存知のようですね?ではその効果を適用していただきましょう」
「私たちの墓地とデッキのカードを入れ替える。だったな」
「その通りです。私のデッキは5枚。貴女のデッキは3枚。《グリモの魔導書》と《魔導法士ジュノン》、《ゲーテの魔導書》3枚。私の墓地には《ネクロ・ガードナー》が3枚あります。これにより、貴女が例えどんな強力なモンスターを出そうとも攻撃は止められます。これで分かったでしょう?私には未来が見えているのです」
「……ふふ」
遊香は突然笑い出す。イシズの目が一気に警戒に染まる。今度は遊香がドローしたカードを見ずにセットした。
「何のつもりですか?」
「面白い事を教えてやろう。もしアナタ同様に私も未来の事を知っていたら、どうだ?」
「何ですって?」
イシズは驚愕する。自分の持つ千年タウク以外で未来を予測する事が出来るなどありえるのだろうか。ペガサス・J・クロフォードは『ミレニアムアイ』と自身の持つデュエルモンスターズの知識によって擬似的な未来予知を可能にしていた。彼女の持つ千年ピアスの能力が分からない為にイシズは遊香の発言の真偽を断定できなかった。
「もちろん信じるも信じないもアナタ次第。しかし、私が伏せたカード。これはアナタのデッキ破壊コンボの対策カードかもしれないぞ?まぁそれが本当かどうかはアナタのターン以降に分かるんだけどね」
イシズは冷や汗が流れ落ちる。
(何て方なんでしょう。その美しい顔に似合わず大胆不敵な……。しかしそれは蛮勇ですよ遊香。貴女の伏せたカードがモンスターカードならルール違反となり貴女は敗北になる。それ程の覚悟と賭けをするとは……)
「私のターンですね?ドロー。ターンエンドです」
「私のターン。ドロー……」
どうでる?イシズは生唾を飲み遊香のターン進行を見届ける。
しかし、
「ターンエンド」
「……!?」
遊香は何もしてこない。どういうことなのだろうか。あと2回遊香がドローすれば次のターンには敗北が決まるというのに。動く気配すらない。イシズもカードを引き、直ぐにターンを終わらせる。
しかしやはり遊香は動かなかった。淡々とお互いにドローしてはターンを終わらせる。そして遊香の最後の一枚のターン。
「ドロー。……ターンエンドだ」
「やはりその伏せカードはブラフだったようですね。貴女の敗北です。次の私のターン。ドローと共にターン終了の宣言をします」
「……」
「悔しがる必要はありません。貴女は十分強かった。本来デュエルにおいて未来を見る事はあってはならない事。私のはマリクを、我が弟を闇から救い出さなければならないのです。その為なら傷付きもしますし、汚くもなりましょう」
イシズは静かに墓守の一族の話をする。墓守の一族の宿命。弟の事を。一通り喋り終えるとイシズはターンを開始した。
「私のターンですね?ドロー。そしてターンエンドこれで貴…………」
「この瞬間。罠カード発動」
イシズは目を見開く。このタイミングで罠カード?と恐る恐る起き上がってくる遊香のカードを注視する。
「それは!?」
「そう。これがデッキ破壊対策カード《貪欲な瓶》だ。これにより私は墓地のカード5枚を選びデッキに戻してシャッフル。そして1枚ドローする」
遊香は35枚以上のカードを墓地から取り出して5枚を抜き取る。デッキのカードは無いのでその5枚を混ぜ合わせてセットしてカードを引いた。
「これでは……」
「そう。これで私のデッキは4枚。アナタのデッキは3枚となりそのままでも私の勝ちとなる。でも、私をここまで追い詰めたアナタには敬意を払って私の今の切り札をお見せしよう。私のターン。ドロー」
遊香はドローしたカードを見てニヤリと笑う。
「《貪欲な壺》発動。今度は墓地のモンスターカードを5枚戻して2枚ドローする」
再び遊香は墓地から5枚のカードをデッキに戻して今度は2枚引く。
「魔法《魂吸収》と《魂の解放》発動。これでアナタの墓地の《ネクロ・ガードナー》3枚と《超電磁タートル》を除外。私の墓地から1枚除外」
「そんな!?」
「《魂吸収》の効果でゲームから除外された枚数×500のライフを回復する。除外された枚数は5枚。よって2500ライフを回復」
遊香のライフポイントが6500となる。
「そして、このカード《死者蘇生》を発動!墓地のモンスターを蘇生する!私は……!」
「ば、馬鹿な!?そんな事があるはずがありません!何故そのカードを貴女が持っているのですか!?そのカードはマリクが…………ッ」
……
「ここが童実野スタジアムか。まだ未完成故に来た事が無かったが、なかなか広くていいところじゃないか……ん?」
スタジアムの中央には海馬瀬人とモクバ、海馬コーポレーションの黒服が何人かいた。
遊香は黒服にパズルカードを見せ、待機する。
「ふぅん、野崎遊香か。『決闘者の王国』に現れなかった所をみると、貴様の実力が落ちたかそれとも臆病にも逃げ出したのか?」
「ふふ。その時は少しばかり用事があってね。エジプトに行っていた。だが安心しておくといい。この大会で君と当たった時はあの時のように敗北の二文字を再び味合わせてやるさ」
「フフフ、フハハハ!!今の俺のデッキはあの時を遥かに超え、今では神の領域にいる。精々あの時のような無様な姿を晒さぬ様に心掛けでもしておくんだな!」
海馬が高笑いを止めると突然近くの黒服にスタンドのライトをつける様に言いだした。
黒服が急いでライトを点灯するが、何も無い。
海馬も目だけを動かすが、何も無い事を確認すると黙り込んだ。
タ、タ、タ、
スタジアムの入口から足音が聞こえてくる。1つ2つどころではない10個近い数だ。
「漸く来たか。遊戯」
遊香もそちらを見ると、遊戯や城之内、孔雀舞達がこちらに向かって歩いて来ていた。遊香は元の遊香に代わる。
「遊戯君!城之内君!」
「遊香さん早いね!」
「おう!遊香!流石だな、俺たちより先に着いてるなんて」
「た、大したことないよ。あはは……」
遊戯達も黒服にパズルカードを提示する。これで5人。その直ぐ後に獏良と褐色の少年が現れた。
「獏良にナムじゃねぇか!お前らも突破したんだな!」
「うん。直ぐそこでナム君に会ってね。それで一緒に来たんだ」
何も知らない遊戯と元の遊香はにこやかにナムと握手を交わす。闇の遊香はほくそ笑む。早速本物のマリクとコンタクトが取れた。
遊香とマリクが握手を交わしている時、一瞬触れた手が光った。
「後はマリクか……ッ!?」
風向きが変わる。穏やかだった空気も引き締まり、全員が入口を見た。
「奴がマリクか」
これまでのグールズ同様、ウジャト眼の刺繍が施されている黒いローブを着ている大柄な男。男はパズルカードを黒服に見せる。
「貴様がマリクか?」
「……いかにも」
海馬の質問に対して男は静かに答える。沈黙が起こり、先程までの穏やかな空気は無くシーンとしていた。しかし、その空気を一番早く壊したのはこの男だった。
「マリクテメェ!テメェだけは絶対許さねぇ!」
「ふん、また操られたいのか?」
城之内だ。城之内の一言に挑発で返す男。元の遊香も遊戯達も男から発せられる闘気に圧倒される。
「8名のデュエリストが揃いましたので、本線を開始したいと思います。しかし皆さんがデュエルするのはこのスタジアムではありません」
「え!?ここじゃないのか!?」
「間も無く現れます。来ました。アレです!」
風がスタジアム内に吹く。現れたのは巨大な飛行船。飛行船が着陸すると階段が降りて来た。
「こちらが本線の舞台『バトルシップ』でございます!さぁ皆さんお乗りください」
「よっしゃあ!乗るぞ!」
こうして、一同は本戦へと進む。原作とは違う新たなバトルシティは中盤戦へ突入した。
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110 | 第四話 ラストバトル!遊香と仲間 | 911 | 2 | 2018-09-18 | - | |
76 | 第五話 闇は晴れない | 808 | 0 | 2018-09-19 | - | |
84 | 第六話 バトルシティの前哨戦 | 926 | 2 | 2018-09-21 | - | |
105 | 第七話 グールズの強襲! | 785 | 2 | 2018-09-25 | - | |
89 | 第八話 ミレニアムバトル勃発 | 977 | 2 | 2018-09-27 | - | |
72 | 第九話 恐怖のオカルトコンボ | 1016 | 2 | 2018-10-02 | - | |
126 | 第十話 遊香vsトラップデッキ | 944 | 2 | 2018-11-02 | - | |
97 | 第十一話 神の一撃 | 892 | 2 | 2018-11-07 | - | |
135 | 第十二話マリクvs城之内 苦痛と絶望の闇 | 1170 | 2 | 2018-11-10 | - | |
104 | 第十三話 城之内死す | 1250 | 2 | 2018-11-13 | - | |
80 | 第十四話 バトルシップ最終戦 海馬vs舞 | 1061 | 2 | 2018-11-16 | - | |
59 | 第十五話 破壊神vs結束の力 | 888 | 2 | 2018-11-21 | - | |
120 | 第十六話 準決勝開幕!激突する二人 | 960 | 2 | 2018-12-16 | - | |
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