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8:潜入!『DWA』 作:ほーがん
第8話「潜入!『DWA』」
ホーガンとデュエルをした日。その夜、遊牙は凛香とカケルを集めた。
「どうしたんだよ遊牙?出発は明日なんだぜ?早く寝た方が・・・。」
カケルがあくび混じりに言う。
「その事だが、俺一人で行く事にした。」
遊牙は真剣な面持ちで言った。
「どうしたのよいきなり。」
凛香が不思議そうに聞く。
「ルナを連れて来たのは俺だ。だから連れ去られたのも俺の責任になる。俺の責任を二人に押し付ける訳には行かない。」
真面目な顔でそう話す遊牙に、カケルと凛香は呆れたように言った。
「はぁー、もう。何言ってんのよ。家族のピンチに、その家族が何もしないでどうすんの?」
凛香の言葉に、カケルが続ける。
「ルナは俺たちの仲間だろ?だったらヒーローらしくババーンと助けに行こうぜ!」
遊牙は二人の言葉に呆気を取られた。
「だが・・・。」
「だがもしかしも無いの!」
凛香は遊牙の言葉を遮り、腰に手を当てながら言った。
「確かに、あたし達はルナと1日くらいしか一緒に過ごしてない。でもね、たった一日かもしれないけど、あたし達と出会って、あたし達と共に過ごしてあの子凄く嬉しそうだったの。もしあの笑顔を奪おうとする奴らが居るんなら、あたしはそいつらを許せない!」
カケルも言う。
「俺は、ルナが連れて行かれるのを見てたのに何もできなかった・・・。だから俺は必ず行く。DWAだかなんだか知らねぇけど、そんな連中さっさと倒して来ようぜ!」
遊牙は二人に頭を下げた。
「・・・すまない。」
カケルが遊牙の肩を叩く。
「取り戻して来ようぜ!俺達の仲間を!」
遊牙は力強く頷いた。
「・・ああ!」
その様子を見ていたガネリおばさんは3人の前に出た。
「・・・みんなで決めた事なんだね。」
遊牙が一歩前に出る。
「行って来る。」
おばさんは遊牙の目を見つめた後、3人を抱き寄せた。
「必ず、帰ってくるんだよ。ルナと一緒に。」
おばさんの腕の中で遊牙は言った。
「約束する。」
その後。就寝前に遊牙はベッドの上で天井を見つめながら呟いた。
「ルナ。お前を必ず救い出す。待っていてくれ。」
そして、約束の朝が来た。
「準備は出来たか、遊牙。」
屋根の無い小型のトラックに乗ってホーガンは屋敷の前に現れた。
「ああ。宜しく頼む。」
遊牙の後ろに立つカケルと凛香の姿を見て、ホーガンは言う。
「二人も来るのか。」
カケルは拳を握って言った。
「ったりめーだ!ルナは俺にとっても大切な仲間だからな!」
凛香もカケルの言葉に頷く。
その様子を見たホーガンはハッとした顔をした後、笑って呟いた。
「なぁ、ジャックス。やっぱりお前と同じだよ、遊牙は。」
ホーガンは遊牙達へ顔を向けた。
「さぁ、乗れ。本部まで案内する。」
三人はトラックの荷台に乗り込んだ。
「気をつけるんだよ。そして必ず帰っておいで。」
おばさんは遊牙の手を握って言った。
「ああ。必ず帰ってくる。」
運転席のホーガンは振り向き言った。
「じゃあ、ガネリさん。3人を預かります。」
トラックが発車する。
「気をつけるんだよ・・・。遊牙、カケル、凛香・・・。」
道中、ホーガンはハンドルを握りながら後ろの遊牙に1枚の紙切れを渡した。
「本部の内部構造だ。『DWA』の本部はそのほとんどが地下に広がっている。入り口は分かりにくい小さな建物だが、実際にはかなり広いから注意するんだ。」
遊牙は紙に描いてあるマップを見る。ホーガンは言葉を続けた。
「正規の入り口には門番が一人か二人居るはずだ。正面突破はまずい。」
凛香が口を挟む。
「じゃあ、どこから入るの?」
ホーガンは言う。
「俺の知っている限り、他の入り口は一つしかない。正確には出口だが。」
カケルもホーガンに訊ねる。
「どういうことだよ?」
ミラー越しにカケルを目を見てホーガンは言った。
「廃棄物の排出口だ。『DWA』は隣接する湖にゴミを垂れ流してるからな。あそこは警備も無いし、入り込むのは難しくないだろう。」
その言葉に凛香は顔を青くした。
「つまり、ゴミ置き場から侵入するの!?」
遊牙は凛香の両肩を掴み言った。
「ルナを助け出すにはこれしか無い。凛香、少しの辛抱だ。」
遊牙の言葉に凛香は笑って返す。
「ううん、大丈夫よ!ルナの為だもの!そのくらいなんてことないわ!」
ホーガンは運転しながら口を開いた。
「さて、着くまでもう少し時間がある。せっかくだから俺の話でもしよう。」
遊牙達はホーガンの方へ向き直った。
「俺の名前はジェイミー・ホーガン。昔からこの街で暮らしている。」
ホーガンは前を向いたまま言葉を続けた。
「俺は昔、『DWA』の一員だった。といっても専門はデュエル戦士じゃなく、研究職だったが。」
カケルは言った。
「あんたが敵の一員だった!?」
カケルの言葉に遊牙が反応する。
「『DWA』は昔、人々の生活を守るために戦っていたデュエル戦士集団だったらしい。今はそうでは無くなっているが・・・。」
ホーガンは話を進める。
「元々、『DWA』とは20年前にこの街にやって来た侵略者『神の鉄槌』に対抗するべく結成された集団。俺はその最初のメンバーの一人だった。その中でも俺は、侵略者の力を解明するための研究チームに居た。当時のチームメンバーは、俺とジャックス、シェリー、そして・・・。」
ホーガンは苦い顔をした。
「・・・ヘラルド。」
その時、遊牙はハッとして辺りを見渡した。
「ここは・・・。」
凛香が訊ねる。
「どうしたの遊牙?」
遊牙は荷台から身を乗り出して言った。
「俺が・・・初めてルナと出会った場所・・・。」
遊牙は思い出す。現れた無数の影に怯えるルナを。あの男たちの卑しい笑いを。
「・・・今もルナは、あの時と同じ思いをしているかもしれない。」
遊牙は拳を握り歯を食いしばった。
「ここまで来たら、あと数キロで着く。降りる準備をしておいてくれ。」
ホーガンは後ろの三人に言った。
それから数分後。街から西に外れた荒野の道で、ホーガンはトラックを止めた。
「この坂から数十メートルほどで着くはずだ。あとはさっきのマップ通りに入れば良い。」
三人は荷台から降りる。遊牙はホーガンに向かって言った。
「色々ありがとう。」
ホーガンは言った。
「俺に出来るのはここまでだ。遊牙、ルナを必ず取り返して来い。これは俺からの頼みでもある。」
遊牙は頷く。
「約束する。それじゃあ、行って来る。」
背を向け歩き出した遊牙にホーガンは叫んだ。
「遊牙!『DWA』に行って、恐らくお前は今まで自分が知らなかった自分を知る事になる!それでも、本当の自分を見失わないで欲しい!」
その言葉の意味を遊牙は良く理解できなかったが、ただホーガンに向かって頷いた。その様子を見たホーガンも、頷き返した。
「(頼んだぞ、遊牙!)」
ホーガンは三人の背中が見えなくなるまでその場に残った。
坂を越えた先。大きな湖とその前に立つ小さな建物が姿を現した。
「あそこね・・・。」
凛香は目を細めて言う。
「紙の通りだと、左に迂回するようにと書いてある。」
その指示通りに湖を迂回すると目当ての物が見えて来た。
「まさか、あれか?」
カケルが指差した先。大きなパイプが湖に向かって伸びている。
「あれだな。」
遊牙はそのパイプに向かってスタスタと進んだ。
「うへぇ、湖真っ黒だよ・・・。どんだけゴミ流してるんだ?」
カケルが湖を覗きながら言う。
そして三人はパイプの前にたどり着いた。
「ジャンプすれば入れそうね・・・。」
凛香が腕を組んで言う。
「あ、そうだ!こんな時の為にっと・・・」
カケルは自分のポケットから3つのバッジの用な物を取り出した。
「なんだこれは?」
受け取った遊牙はカケルに問う。
「通信機だよ!俺が昨日の夜に作ったんだぜ!」
凛香はその通信機を自分の胸に取り付けて言った。
「なるほど、これでいつでも連絡が取れるってわけね。カケルにしては気が利くじゃない。」
カケルは鼻をこすって言う。
「へへっ、まあな。」
三人は改めて、パイプに向き直った。
「じゃあ、行こう。」
「おう!」
「うん!」
遊牙がジャンプする。それに続いてカケル、凛香の順にパイプの中へと飛び込んだ。
「くっ・・・!」
パイプの中は三人の予想以上に急であり、凄まじいスピードで落下してゆく。
「ど、どこまで続いてるんだぁああ!?」
「しかも、やっぱり臭うしぃぃ!!」
カケルと凛香の叫びがパイプの内部に響く。その時であった。
「なんだぁ!?」
カケルが前を指差す。そこにはパイプの先は三つに分かれていた。
「まずい!」
遊牙、カケル、凛香はそれぞれバラバラのパイプへと入り込んでしまった。
「みんな!!」
遊牙の言葉は他の二人には届かず、一人狭いパイプを降りて行った。
「くそっ・・・!!」
しばらくして遊牙の降りていたパイプの先に光が見えた。
「うおっ・・!!」
パイプから抜けた先。遊牙はゴミの山に身を落とした。
「ここは・・・。」
ガラスに囲まれたゴミ箱から出た遊牙は辺りを見渡した。
「これは一体・・・。」
その部屋は機械的な壁に囲まれ、数々のロボットが立ち並んでいた。
「・・・・。」
遊牙は黙って、その部屋の中を歩く。途中、遊牙のつま先がロボットの足に触れた。
その瞬間。
『デュエル・ドロイド114・起動テスト開始。』
突如として、そのロボットのカメラアイに光が灯り、立ち上がった。
「なんだ・・・!」
遊牙は思わずD・ディスクを構える。
ロボットはセンサーを遊牙の顔に当てた。
『データ内を検索・・・データ未登録。侵入者と認定。デュエルテストを行う。』
そのとき、遊牙はロボットの向こう側に扉のようなものを見つけた。
「俺は、お前に付き合っている暇はない。先を行かせてもらう。」
遊牙は駆け出そうとしたが、ロボットが遊牙の前に立ちはだかる。
『無効コード未入力。よってデュエルテストは通常通り開始。』
ロボットの胸のモニターに5枚のカードが表示される。
「どうしてもと言うのなら、相手をしてやる。来い。」
「デュエル!!(LP4000 VS LP4000)」
先にロボットが動き出した。
『私のターン。私は手札からレベル10の《マシンナーズ・フォース》を捨て《マシンナーズ・フォートレス(☆7/地/機械/2500・1600)》を特殊召喚する。』
ロボットのフィールドに戦車のような砲塔を備えたマシンが出現する。
『そして手札から《ブリキンギョ(☆4/水/機械/800・2000)》を召喚。」
ブリキのおもちゃを象った金魚が《マシンナーズ・フォートレス》の横に並ぶ。
『この瞬間《ブリキンギョ》の効果発動。召喚成功時に手札からレベル4のモンスターを特殊召喚できる。私は手札から《マシンナーズ・スナイパー(☆4/地/機械/1800・800)》を特殊召喚。』
さらにライフル銃を携えた機械の兵士がロボットのフィールドに現れた。
『私はレベル4の《ブリキンギョ》と《マシンナーズ・スナイパー》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。』
2体のマシンが光の渦へと飛び込んでゆく。
『ランク4。《ギアギガント X(★4/地/機械/2300・1500)》を召喚。』
たくさんの歯車を持ったヒーローロボットがフィールドに降り立った。
「1ターン目からエクシーズ召喚か・・・。」
遊牙は目を細め警戒する。
『私は《ギアギガント X》の効果発動。1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、デッキ・墓地からレベル4以下の機械族モンスターを手札に加える。私はデッキから《強化支援メカ・ヘビーウェポン(☆3/闇/機械/ユニオン/500・500)》を手札に加える。』
ロボットのモニターに手札へ加わったカードが表示された。
『さらに永続魔法《前線基地》を発動。1ターンに1度、手札からレベル4以下のユニオンモンスターを特殊召喚できる。この効果で手札から《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を特殊召喚。』
新たなモンスターがロボットのフィールドに出現する。
『そして、《強化支援メカ・ヘビーウェポン》の効果発動。1ターンに1度、フィールドのこのカードを自分の機械族モンスター1体に装備できる。私は《ギアギガント X》に《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を装備。その効果で《ギアギガント X》の攻撃力は500アップする。(ATK2300→2800)」』
ロボットは全てのカードを出し切り、遊牙に告げる。
『私はこれでターンエンド。』
遊牙は自分のデッキに手を伸ばした。
「俺のターン。」
そしてカードを勢いよくドローする。
「ドロー!」
遊牙は引いたカードを見てフッと笑った。
「俺は相手フィールドの《マシンナーズ・フォートレス》をリリースし、手札から《コープスナイト・フラーケン(☆5/闇/アンデット/チューナー/2000・2000)》を相手のフィールドに特殊召喚する!」
突如、ロボットのフィールドからモンスターが消え、巨大な体躯を誇る闇の騎士が大腕を振って現れた。
「このモンスターは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドに手札から特殊召喚できる。そして《コープスナイト・アイン(☆2/闇/アンデット/0・600)》を召喚!」
遊牙のフィールドに華奢な体付きの女騎士が出現する。
「《コープスナイト・アイン》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、手札の「コープスナイト」を墓地に捨てる事で相手フィールドのチューナー1体のコントロールを奪う事ができる。」
遊牙は手札を1枚墓地に送る。
「俺は手札の《コープスナイト・ダリアン(☆4/闇/アンデット/1300・0)》を墓地に捨て、相手のチューナー1体のコントロールを奪う。」
ロボットは困惑する。
『私のデッキのカードにチューナーは存在しない。よって効果の発動は不可能。』
遊牙は答えた。
「俺は、俺自身が相手フィールドに特殊召喚した《コープスナイト・フラーケン》のコントロールを奪う!」
『アイン』の腕から伸びた黒いロープに腕を掴まれた『フラーケン』は遊牙のフィールドへと引っ張られた。
「そして、《コープスナイト・アイン》はこの効果でコントロールを奪ったモンスターのレベルの数×300のダメージを相手に与える。《コープスナイト・フラーケン》のレベルは5!よって1500のダメージを相手に与える!」
咆哮を上げた『フラーケン』はその巨大な腕で『アイン』の体を掴むと、ロボット目掛けて投げ飛ばした。その勢いのまま『アイン』は構えた剣をロボット目掛けて振り下ろす。
『私は1500のダメージ。残りLPは2500。(LP4000→2500)』
遊牙は叫んだ。
「俺はレベル2の《コープスナイト・アイン》にレベル5の《コープスナイト・フラーケン》をチューニング!」
『フラーケン』の体は5つの光の輪となり、女騎士の体を包み込んでゆく。
「闇の甲冑よ!鋼の闘志をその身に宿し、敵を切り裂く騎士となれ!シンクロ召喚!現れろ!《コープスナイト・デッドジャック(☆7/闇/アンデット/シンクロ/2500・2000)》!!」
誇り高き闇の騎士は漆黒の剣を携え、フィールドに舞い降りる。
「俺は墓地の《コープスナイト・ダリアン》の効果を発動!相手フィールドに存在する全てのモンスターが、自分フィールドに存在する「コープスナイト」よりも高い攻撃力を持っている場合、このカードを除外する事で、このターン自分フィールドの「コープスナイト」1体は相手に直接攻撃できる!」
遊牙の墓地が光り、カードが取り出される。それと同時に闇の騎士は剣を構えた。
「バトルだ!《コープスナイト・デッドジャック》でダイレクトアタック!!」
一気に駆け出した闇の騎士はロボットの目の前で上空へと飛び上がり、天井擦れ擦れで剣を振り上げた。
「『殲滅のサイレントスライサー』!!!」
その刹那。わずかな残像を空中に残し、闇の騎士は音も無く相手の身を切り裂いた。
『私は2500のダメージ。残りLPは0・・・残りLPは0・・・0・・ぜ・・ろ・・。(LP2500→0)」
ロボットは煙を吹き出しながらその場に倒れ込んだ。
『勝者:霧野遊牙』
遊牙はD・ディスクを仕舞い、扉に近づく。ノブのような物はなく平面の扉を探るように触っていると、タッチパネルのようなものに触れた。
『遺伝子認証確認:解除』
パネルがそう告げたと同時に扉はスライドして開いた。遊牙は不思議そうな顔をしながら扉を見つめた。
「・・・まぁいい。とにかく二人を探さなければ。」
遊牙は部屋の外に広がる長い廊下を走り出した。
一方、別のパイプを辿った仁ノ森カケルは。
「侵入者に告ぐ!お前は完全に包囲されている!」
カケルは冷や汗をたらしながら呟いた。
「へっ、ヒーローにはピンチがお似合いってか?」
次回第9話「風の王者・2番隊隊長リチャード」
※《コープスナイト・フラーケン》を考案してくださったター坊さんありがとうございました。
ホーガンとデュエルをした日。その夜、遊牙は凛香とカケルを集めた。
「どうしたんだよ遊牙?出発は明日なんだぜ?早く寝た方が・・・。」
カケルがあくび混じりに言う。
「その事だが、俺一人で行く事にした。」
遊牙は真剣な面持ちで言った。
「どうしたのよいきなり。」
凛香が不思議そうに聞く。
「ルナを連れて来たのは俺だ。だから連れ去られたのも俺の責任になる。俺の責任を二人に押し付ける訳には行かない。」
真面目な顔でそう話す遊牙に、カケルと凛香は呆れたように言った。
「はぁー、もう。何言ってんのよ。家族のピンチに、その家族が何もしないでどうすんの?」
凛香の言葉に、カケルが続ける。
「ルナは俺たちの仲間だろ?だったらヒーローらしくババーンと助けに行こうぜ!」
遊牙は二人の言葉に呆気を取られた。
「だが・・・。」
「だがもしかしも無いの!」
凛香は遊牙の言葉を遮り、腰に手を当てながら言った。
「確かに、あたし達はルナと1日くらいしか一緒に過ごしてない。でもね、たった一日かもしれないけど、あたし達と出会って、あたし達と共に過ごしてあの子凄く嬉しそうだったの。もしあの笑顔を奪おうとする奴らが居るんなら、あたしはそいつらを許せない!」
カケルも言う。
「俺は、ルナが連れて行かれるのを見てたのに何もできなかった・・・。だから俺は必ず行く。DWAだかなんだか知らねぇけど、そんな連中さっさと倒して来ようぜ!」
遊牙は二人に頭を下げた。
「・・・すまない。」
カケルが遊牙の肩を叩く。
「取り戻して来ようぜ!俺達の仲間を!」
遊牙は力強く頷いた。
「・・ああ!」
その様子を見ていたガネリおばさんは3人の前に出た。
「・・・みんなで決めた事なんだね。」
遊牙が一歩前に出る。
「行って来る。」
おばさんは遊牙の目を見つめた後、3人を抱き寄せた。
「必ず、帰ってくるんだよ。ルナと一緒に。」
おばさんの腕の中で遊牙は言った。
「約束する。」
その後。就寝前に遊牙はベッドの上で天井を見つめながら呟いた。
「ルナ。お前を必ず救い出す。待っていてくれ。」
そして、約束の朝が来た。
「準備は出来たか、遊牙。」
屋根の無い小型のトラックに乗ってホーガンは屋敷の前に現れた。
「ああ。宜しく頼む。」
遊牙の後ろに立つカケルと凛香の姿を見て、ホーガンは言う。
「二人も来るのか。」
カケルは拳を握って言った。
「ったりめーだ!ルナは俺にとっても大切な仲間だからな!」
凛香もカケルの言葉に頷く。
その様子を見たホーガンはハッとした顔をした後、笑って呟いた。
「なぁ、ジャックス。やっぱりお前と同じだよ、遊牙は。」
ホーガンは遊牙達へ顔を向けた。
「さぁ、乗れ。本部まで案内する。」
三人はトラックの荷台に乗り込んだ。
「気をつけるんだよ。そして必ず帰っておいで。」
おばさんは遊牙の手を握って言った。
「ああ。必ず帰ってくる。」
運転席のホーガンは振り向き言った。
「じゃあ、ガネリさん。3人を預かります。」
トラックが発車する。
「気をつけるんだよ・・・。遊牙、カケル、凛香・・・。」
道中、ホーガンはハンドルを握りながら後ろの遊牙に1枚の紙切れを渡した。
「本部の内部構造だ。『DWA』の本部はそのほとんどが地下に広がっている。入り口は分かりにくい小さな建物だが、実際にはかなり広いから注意するんだ。」
遊牙は紙に描いてあるマップを見る。ホーガンは言葉を続けた。
「正規の入り口には門番が一人か二人居るはずだ。正面突破はまずい。」
凛香が口を挟む。
「じゃあ、どこから入るの?」
ホーガンは言う。
「俺の知っている限り、他の入り口は一つしかない。正確には出口だが。」
カケルもホーガンに訊ねる。
「どういうことだよ?」
ミラー越しにカケルを目を見てホーガンは言った。
「廃棄物の排出口だ。『DWA』は隣接する湖にゴミを垂れ流してるからな。あそこは警備も無いし、入り込むのは難しくないだろう。」
その言葉に凛香は顔を青くした。
「つまり、ゴミ置き場から侵入するの!?」
遊牙は凛香の両肩を掴み言った。
「ルナを助け出すにはこれしか無い。凛香、少しの辛抱だ。」
遊牙の言葉に凛香は笑って返す。
「ううん、大丈夫よ!ルナの為だもの!そのくらいなんてことないわ!」
ホーガンは運転しながら口を開いた。
「さて、着くまでもう少し時間がある。せっかくだから俺の話でもしよう。」
遊牙達はホーガンの方へ向き直った。
「俺の名前はジェイミー・ホーガン。昔からこの街で暮らしている。」
ホーガンは前を向いたまま言葉を続けた。
「俺は昔、『DWA』の一員だった。といっても専門はデュエル戦士じゃなく、研究職だったが。」
カケルは言った。
「あんたが敵の一員だった!?」
カケルの言葉に遊牙が反応する。
「『DWA』は昔、人々の生活を守るために戦っていたデュエル戦士集団だったらしい。今はそうでは無くなっているが・・・。」
ホーガンは話を進める。
「元々、『DWA』とは20年前にこの街にやって来た侵略者『神の鉄槌』に対抗するべく結成された集団。俺はその最初のメンバーの一人だった。その中でも俺は、侵略者の力を解明するための研究チームに居た。当時のチームメンバーは、俺とジャックス、シェリー、そして・・・。」
ホーガンは苦い顔をした。
「・・・ヘラルド。」
その時、遊牙はハッとして辺りを見渡した。
「ここは・・・。」
凛香が訊ねる。
「どうしたの遊牙?」
遊牙は荷台から身を乗り出して言った。
「俺が・・・初めてルナと出会った場所・・・。」
遊牙は思い出す。現れた無数の影に怯えるルナを。あの男たちの卑しい笑いを。
「・・・今もルナは、あの時と同じ思いをしているかもしれない。」
遊牙は拳を握り歯を食いしばった。
「ここまで来たら、あと数キロで着く。降りる準備をしておいてくれ。」
ホーガンは後ろの三人に言った。
それから数分後。街から西に外れた荒野の道で、ホーガンはトラックを止めた。
「この坂から数十メートルほどで着くはずだ。あとはさっきのマップ通りに入れば良い。」
三人は荷台から降りる。遊牙はホーガンに向かって言った。
「色々ありがとう。」
ホーガンは言った。
「俺に出来るのはここまでだ。遊牙、ルナを必ず取り返して来い。これは俺からの頼みでもある。」
遊牙は頷く。
「約束する。それじゃあ、行って来る。」
背を向け歩き出した遊牙にホーガンは叫んだ。
「遊牙!『DWA』に行って、恐らくお前は今まで自分が知らなかった自分を知る事になる!それでも、本当の自分を見失わないで欲しい!」
その言葉の意味を遊牙は良く理解できなかったが、ただホーガンに向かって頷いた。その様子を見たホーガンも、頷き返した。
「(頼んだぞ、遊牙!)」
ホーガンは三人の背中が見えなくなるまでその場に残った。
坂を越えた先。大きな湖とその前に立つ小さな建物が姿を現した。
「あそこね・・・。」
凛香は目を細めて言う。
「紙の通りだと、左に迂回するようにと書いてある。」
その指示通りに湖を迂回すると目当ての物が見えて来た。
「まさか、あれか?」
カケルが指差した先。大きなパイプが湖に向かって伸びている。
「あれだな。」
遊牙はそのパイプに向かってスタスタと進んだ。
「うへぇ、湖真っ黒だよ・・・。どんだけゴミ流してるんだ?」
カケルが湖を覗きながら言う。
そして三人はパイプの前にたどり着いた。
「ジャンプすれば入れそうね・・・。」
凛香が腕を組んで言う。
「あ、そうだ!こんな時の為にっと・・・」
カケルは自分のポケットから3つのバッジの用な物を取り出した。
「なんだこれは?」
受け取った遊牙はカケルに問う。
「通信機だよ!俺が昨日の夜に作ったんだぜ!」
凛香はその通信機を自分の胸に取り付けて言った。
「なるほど、これでいつでも連絡が取れるってわけね。カケルにしては気が利くじゃない。」
カケルは鼻をこすって言う。
「へへっ、まあな。」
三人は改めて、パイプに向き直った。
「じゃあ、行こう。」
「おう!」
「うん!」
遊牙がジャンプする。それに続いてカケル、凛香の順にパイプの中へと飛び込んだ。
「くっ・・・!」
パイプの中は三人の予想以上に急であり、凄まじいスピードで落下してゆく。
「ど、どこまで続いてるんだぁああ!?」
「しかも、やっぱり臭うしぃぃ!!」
カケルと凛香の叫びがパイプの内部に響く。その時であった。
「なんだぁ!?」
カケルが前を指差す。そこにはパイプの先は三つに分かれていた。
「まずい!」
遊牙、カケル、凛香はそれぞれバラバラのパイプへと入り込んでしまった。
「みんな!!」
遊牙の言葉は他の二人には届かず、一人狭いパイプを降りて行った。
「くそっ・・・!!」
しばらくして遊牙の降りていたパイプの先に光が見えた。
「うおっ・・!!」
パイプから抜けた先。遊牙はゴミの山に身を落とした。
「ここは・・・。」
ガラスに囲まれたゴミ箱から出た遊牙は辺りを見渡した。
「これは一体・・・。」
その部屋は機械的な壁に囲まれ、数々のロボットが立ち並んでいた。
「・・・・。」
遊牙は黙って、その部屋の中を歩く。途中、遊牙のつま先がロボットの足に触れた。
その瞬間。
『デュエル・ドロイド114・起動テスト開始。』
突如として、そのロボットのカメラアイに光が灯り、立ち上がった。
「なんだ・・・!」
遊牙は思わずD・ディスクを構える。
ロボットはセンサーを遊牙の顔に当てた。
『データ内を検索・・・データ未登録。侵入者と認定。デュエルテストを行う。』
そのとき、遊牙はロボットの向こう側に扉のようなものを見つけた。
「俺は、お前に付き合っている暇はない。先を行かせてもらう。」
遊牙は駆け出そうとしたが、ロボットが遊牙の前に立ちはだかる。
『無効コード未入力。よってデュエルテストは通常通り開始。』
ロボットの胸のモニターに5枚のカードが表示される。
「どうしてもと言うのなら、相手をしてやる。来い。」
「デュエル!!(LP4000 VS LP4000)」
先にロボットが動き出した。
『私のターン。私は手札からレベル10の《マシンナーズ・フォース》を捨て《マシンナーズ・フォートレス(☆7/地/機械/2500・1600)》を特殊召喚する。』
ロボットのフィールドに戦車のような砲塔を備えたマシンが出現する。
『そして手札から《ブリキンギョ(☆4/水/機械/800・2000)》を召喚。」
ブリキのおもちゃを象った金魚が《マシンナーズ・フォートレス》の横に並ぶ。
『この瞬間《ブリキンギョ》の効果発動。召喚成功時に手札からレベル4のモンスターを特殊召喚できる。私は手札から《マシンナーズ・スナイパー(☆4/地/機械/1800・800)》を特殊召喚。』
さらにライフル銃を携えた機械の兵士がロボットのフィールドに現れた。
『私はレベル4の《ブリキンギョ》と《マシンナーズ・スナイパー》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。』
2体のマシンが光の渦へと飛び込んでゆく。
『ランク4。《ギアギガント X(★4/地/機械/2300・1500)》を召喚。』
たくさんの歯車を持ったヒーローロボットがフィールドに降り立った。
「1ターン目からエクシーズ召喚か・・・。」
遊牙は目を細め警戒する。
『私は《ギアギガント X》の効果発動。1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、デッキ・墓地からレベル4以下の機械族モンスターを手札に加える。私はデッキから《強化支援メカ・ヘビーウェポン(☆3/闇/機械/ユニオン/500・500)》を手札に加える。』
ロボットのモニターに手札へ加わったカードが表示された。
『さらに永続魔法《前線基地》を発動。1ターンに1度、手札からレベル4以下のユニオンモンスターを特殊召喚できる。この効果で手札から《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を特殊召喚。』
新たなモンスターがロボットのフィールドに出現する。
『そして、《強化支援メカ・ヘビーウェポン》の効果発動。1ターンに1度、フィールドのこのカードを自分の機械族モンスター1体に装備できる。私は《ギアギガント X》に《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を装備。その効果で《ギアギガント X》の攻撃力は500アップする。(ATK2300→2800)」』
ロボットは全てのカードを出し切り、遊牙に告げる。
『私はこれでターンエンド。』
遊牙は自分のデッキに手を伸ばした。
「俺のターン。」
そしてカードを勢いよくドローする。
「ドロー!」
遊牙は引いたカードを見てフッと笑った。
「俺は相手フィールドの《マシンナーズ・フォートレス》をリリースし、手札から《コープスナイト・フラーケン(☆5/闇/アンデット/チューナー/2000・2000)》を相手のフィールドに特殊召喚する!」
突如、ロボットのフィールドからモンスターが消え、巨大な体躯を誇る闇の騎士が大腕を振って現れた。
「このモンスターは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドに手札から特殊召喚できる。そして《コープスナイト・アイン(☆2/闇/アンデット/0・600)》を召喚!」
遊牙のフィールドに華奢な体付きの女騎士が出現する。
「《コープスナイト・アイン》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、手札の「コープスナイト」を墓地に捨てる事で相手フィールドのチューナー1体のコントロールを奪う事ができる。」
遊牙は手札を1枚墓地に送る。
「俺は手札の《コープスナイト・ダリアン(☆4/闇/アンデット/1300・0)》を墓地に捨て、相手のチューナー1体のコントロールを奪う。」
ロボットは困惑する。
『私のデッキのカードにチューナーは存在しない。よって効果の発動は不可能。』
遊牙は答えた。
「俺は、俺自身が相手フィールドに特殊召喚した《コープスナイト・フラーケン》のコントロールを奪う!」
『アイン』の腕から伸びた黒いロープに腕を掴まれた『フラーケン』は遊牙のフィールドへと引っ張られた。
「そして、《コープスナイト・アイン》はこの効果でコントロールを奪ったモンスターのレベルの数×300のダメージを相手に与える。《コープスナイト・フラーケン》のレベルは5!よって1500のダメージを相手に与える!」
咆哮を上げた『フラーケン』はその巨大な腕で『アイン』の体を掴むと、ロボット目掛けて投げ飛ばした。その勢いのまま『アイン』は構えた剣をロボット目掛けて振り下ろす。
『私は1500のダメージ。残りLPは2500。(LP4000→2500)』
遊牙は叫んだ。
「俺はレベル2の《コープスナイト・アイン》にレベル5の《コープスナイト・フラーケン》をチューニング!」
『フラーケン』の体は5つの光の輪となり、女騎士の体を包み込んでゆく。
「闇の甲冑よ!鋼の闘志をその身に宿し、敵を切り裂く騎士となれ!シンクロ召喚!現れろ!《コープスナイト・デッドジャック(☆7/闇/アンデット/シンクロ/2500・2000)》!!」
誇り高き闇の騎士は漆黒の剣を携え、フィールドに舞い降りる。
「俺は墓地の《コープスナイト・ダリアン》の効果を発動!相手フィールドに存在する全てのモンスターが、自分フィールドに存在する「コープスナイト」よりも高い攻撃力を持っている場合、このカードを除外する事で、このターン自分フィールドの「コープスナイト」1体は相手に直接攻撃できる!」
遊牙の墓地が光り、カードが取り出される。それと同時に闇の騎士は剣を構えた。
「バトルだ!《コープスナイト・デッドジャック》でダイレクトアタック!!」
一気に駆け出した闇の騎士はロボットの目の前で上空へと飛び上がり、天井擦れ擦れで剣を振り上げた。
「『殲滅のサイレントスライサー』!!!」
その刹那。わずかな残像を空中に残し、闇の騎士は音も無く相手の身を切り裂いた。
『私は2500のダメージ。残りLPは0・・・残りLPは0・・・0・・ぜ・・ろ・・。(LP2500→0)」
ロボットは煙を吹き出しながらその場に倒れ込んだ。
『勝者:霧野遊牙』
遊牙はD・ディスクを仕舞い、扉に近づく。ノブのような物はなく平面の扉を探るように触っていると、タッチパネルのようなものに触れた。
『遺伝子認証確認:解除』
パネルがそう告げたと同時に扉はスライドして開いた。遊牙は不思議そうな顔をしながら扉を見つめた。
「・・・まぁいい。とにかく二人を探さなければ。」
遊牙は部屋の外に広がる長い廊下を走り出した。
一方、別のパイプを辿った仁ノ森カケルは。
「侵入者に告ぐ!お前は完全に包囲されている!」
カケルは冷や汗をたらしながら呟いた。
「へっ、ヒーローにはピンチがお似合いってか?」
次回第9話「風の王者・2番隊隊長リチャード」
※《コープスナイト・フラーケン》を考案してくださったター坊さんありがとうございました。
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