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HOME > 遊戯王SS一覧 > アンコール&レスポンス、ノーハートビート

アンコール&レスポンス、ノーハートビート 作:匙川

「……《ヒツギツギ》」

 ステージの上。
 いつものように曲名だけ宣言して歌い始める。
 MCとか、そういう面倒くさいことはできない。

 観客は沸いている。
 だけど、私の心を埋めていたのは、焦りだった。

 ……ああ、やっぱり。
 もう、歌っている時さえ虚しさが消えない。
 歓声が降り注ぐ中、私の胸は氷のように冷えていた。
 それでも最後まで歌い切り、顔を落としたまま、ステージ袖に捌ける。

「アンコールには、応えないのですね。いつものことですが……」

 そこにいたのは、見慣れた骨の顔。
 《ボーンテッド・ライブハウス》の総支配人、ソウルキングだ。

「キング……私は、もう」

「この後、予定はありますか?」

「……え?」

「どんな予定でも、ぶっ千切ってしまいなさい」

 違和感があった。
 彼は常識のある方だし、不義理はしない。
 だからこんな物言いは、よっぽどのことが無ければあり得ないはず。
 キングにそう言わせるほどのものって、一体――

「彼女の一世一代の舞台です。どうか見てあげてください」

 私に代わってステージに上がっていたのは、あの時の確か――サティアだったか。
 彼女のパフォーマンスを見ろ、ということ?

「いくよー! 《ドレッシング☆プリンセス》!」

 弾けるような声。観客が一斉に手を掲げ、飛び跳ねる。
 その光景は、私が喪った熱を当然のように持っている彼女を突きつけてくる。

 私は見た上で記憶に残るか残らないかで判断している。
 最初から見ていない歌い手なんて存在しない。
 だから、今更彼女の歌声を聞いたところで――何の意味もない。

「……それじゃあ、次の曲! ソウルキングさんに無理を言って、なんとかねじ込んでもらいました!」

 観客は喜んでいる。
 彼女なら私をライバル視なんてしなくても、勝手に私を超えていくだろう。
 もう、私は萎れていくだけなのだから。

「…………《ヒツギツギ》!」

「……え?」

 私の、曲……?

「シェプスタさんは、権利関係も全てこちらに任せられてますから……私が許可を出しました」

 ソウルキングの声が、頭に入らない。
 聞き慣れたイントロだ。
 反射的に声が出そうになるほど、体に染み付いている。

「『声だけを震わす 一人の世界 叫んでる レゾンデートル』」

 混乱する頭で考える。
 彼女と私では、声質も何もかも違うはずだ。
 自分に合わない曲をカバーして、そうまでして私を意識する理由は――?

「『太陽さえ堕ちる物なら この声よ昇れ 昼も夜も忘れるほどの熱を込め』」

 なんで、そんなに楽しそうに歌えるのだろうか。
 ……ああ、ずるいなぁ。

「あれ……」

 見ていると、なんだろう。
 顔が熱くなる。多分頬が赤い。
 彼女の持ち歌でもこんなことは無かったのに、なぜ合わないはずの曲でこんな――?

「『受け継いだ魂が 胸の奥の奥にある』」

 気づけば虚しさは消え、渇望だけが私の胸にあった。
 歌いたい。歌いたい。歌いたい。

「『私はここにいる』」

 どうして彼女の歌がここまでも、心を揺さぶる……?

「サティアさんは、ただあなたに勝ちたいのではない。あなた以上にお客さんを盛り上げたい、そう思って努力し、そうしてステージに立っているのです」

 私は彼の言葉を聞きながらも、視線はずっとサティアに向いていた。
 おそらく、キングもそうしているだろう。

「一度、あなたも目を向けてみませんか? ただの聴衆ではない、共にライブを盛り上げるオーディエンス達に」

「キング……」

 私の口から溢れたのは、その言葉への返答ではない。

「アンコールってさ、まだ有効?」

――――――――――――
――――

「全部……出し切った……」

 疲労困憊で、ステージ袖にへたり込む。
 今にも気絶しそうだけど……そういう訳にはいかない。
 私に替わってステージに上がったのが、シェプスタちゃんだったからだ。
 ……私からのメッセージ、届いたみたい。

「……いくよ」

 シェプスタちゃんはいつも通り、ぶっきらぼうにそれだけ言って。
 ……今までに見たこともない鮮烈なパフォーマンスで、絶対的な存在を示した。

 魂を震わす叫び。下支えする技術。
 舞台を支配する圧倒的な存在感。
 誰もが彼女に全意識を集中する。

 これがシェプスタちゃんの本気なんだ。
 私が沸かせた観客全員の心を、一瞬で塗り替えた。
 ……ああ、ずるいなぁ。
 そう思って、意識を落とした。




 目が覚めた頃には、ライブは既に終わっていて……。
 私と言えば、不安に俯いていた。
 あんなに凄いものを見た後で……私はまた、シェプスタちゃんをライバルと言えるだろうか。

 帰り道。
 出口のそば、壁にもたれかかるシェプスタちゃんの姿を見つけて、足が止まる。
 ただ自然体で立っているだけなのに、隠しきれないオーラが空気を張り詰めさせる。
 胸がぎゅっと縮み、呼吸を忘れるほどだった。

 そんな私を見て、彼女は一度だけ目を合わせ――ふっと口を開いた。

「じゃあね、サティア」

「……え?」

「どうしたの。ライバルに挨拶したら、おかしい?」

――――――――――――
――――

「ふふっ」

 思わず笑みが溢れる。
 サティアの驚いた顔を思い返すと、帰路に足が弾む。
 私の胸に空いた穴に、彼女が入り込んでしまったようだ。

「責任取ってね、お姫様」

 いつになく、上を向いて歩き出す。
 今日は、月が綺麗だ。
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