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HOME > 遊戯王SS一覧 > 《ボーンテッド・ノーハート=シェプスタ》

《ボーンテッド・ノーハート=シェプスタ》 作:匙川

 歌は好きだった。
 死ぬ前と今で変わったことは多々あるが、歌だけは変わらない。
 誰かに私の歌が響けば、まだ私にも魂があるんだって証明された気がする。
 心臓を失くした私にとって、それ以外に存在が肯定される時間は無い。
 そのぐらい、私にとって心臓は重要だった。
 人によっては大したことがないと言うかもしれないけど。
 私にとって生とは、心臓が熱くなる瞬間だ。
 それ以外の時間は、嘘だ。

 ……昔は、もっと熱くなれた。
 美味しい物を食べても、猫を抱いても、綺麗な景色を見ても、誰かと一緒に語らっても。
 今はもう、何も感じない。
 唯一残ったのが、歌だ。
 でも、それもきっと永遠じゃない。

 最近、歌っていて感じることがある。
 ……昔ほど熱くなれない。
 あの頃は、歌さえあれば全てを忘れられた。
 今は、どんなに集中しても……歌い終わる頃には、胸の奥に虚しさが広がっている。
 歌さえ私の心臓を満たさなくなった時、私の肉体も朽ちていくのだろうか?
 今は、そうならないことが何よりも恐ろしい。

 そう考えていた時だった。
 誰かが声をかけてきたのは。

「そうわけでシェプスタちゃん! 私の歌で魅了してみせるから、覚悟してよね!」

 確か、同じライブハウスで活動している新人……だったはずだ。
 ソウルキングのように記憶に残っていないということは、熱くなれないものなのだろう。
 構わず歩き続けることにした。

「うぅーっ……いつか絶対、私の歌であなたの心を動かしてみせるんだからーっ!」

 その言葉を聞いて、思わず足が止まった。
 自嘲で顔が歪む。

「……そう、あなたは人の心を動かせるんだ。羨ましいな」

 私は、自分の心すら動かせないのにね。
 何の気なしに空を見る。
 三日月が、私を嘲笑う口に見えた。
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