交流(共通)
メインメニュー
クリエイトメニュー
- 遊戯王デッキメーカー
- 遊戯王オリカメーカー
- 遊戯王オリカ掲示板
- 遊戯王オリカカテゴリ一覧
- 遊戯王SS投稿
- 遊戯王SS一覧
- 遊戯王川柳メーカー
- 遊戯王川柳一覧
- 遊戯王ボケメーカー
- 遊戯王ボケ一覧
- 遊戯王イラスト・漫画
その他
遊戯王ランキング
注目カードランクング
カード種類 最強カードランキング
● 通常モンスター
● 効果モンスター
● 融合モンスター
● 儀式モンスター
● シンクロモンスター
● エクシーズモンスター
● スピリットモンスター
● ユニオンモンスター
● デュアルモンスター
● チューナーモンスター
● トゥーンモンスター
● ペンデュラムモンスター
● リンクモンスター
● リバースモンスター
● 通常魔法
永続魔法
装備魔法
速攻魔法
フィールド魔法
儀式魔法
● 通常罠
永続罠
カウンター罠
種族 最強モンスターランキング
● 悪魔族
● アンデット族
● 雷族
● 海竜族
● 岩石族
● 機械族
● 恐竜族
● 獣族
● 幻神獣族
● 昆虫族
● サイキック族
● 魚族
● 植物族
● 獣戦士族
● 戦士族
● 天使族
● 鳥獣族
● ドラゴン族
● 爬虫類族
● 炎族
● 魔法使い族
● 水族
● 創造神族
● 幻竜族
● サイバース族
● 幻想魔族
属性 最強モンスターランキング
レベル別最強モンスターランキング
レベル1最強モンスター
レベル2最強モンスター
レベル3最強モンスター
レベル4最強モンスター
レベル5最強モンスター
レベル6最強モンスター
レベル7最強モンスター
レベル8最強モンスター
レベル9最強モンスター
レベル10最強モンスター
レベル11最強モンスター
レベル12最強モンスター
デッキランキング
第15話 巨鳥と誤解と努力の意味 作:イベリコ豚丼
「……なにそれ、冗談で言ってるんだとしたらちっとも笑えないわよ」
大通りへと続く道を塞いで立つ遊午に、鶫は低いトーンで聞いた。
「冗談じゃねぇよ。言ったろ、俺は-Noを回収してるって」
「つまり、結局はあんたもあいつらと同類だったってこと?」
「お前の願いを阻むってトコでは同じかもな」
遊午の答えに鶫は一層不機嫌そうに眉をひそめる。
それでも遊午は退こうとしない。軽くデュエルディスクを構えたまままっすぐ鶫を見つめている。
「あっそ。だったらデュエルで黙らせればいいってわけね。話が分かりやすくて助かるわ。――覚悟はできてるんでしょうね」
しびれを切らした鶫は外したばかりのD-ゲイザーを再び装着。勝気な瞳を踊らせ素早く準備を整え直した。
今日三度目となるデュエルの火蓋が、切って落とされる。
「デュエル!!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 4000
「時間押してるつってんの、手早く済ませるわよ。私のターン! まずは魔法カード、スオッチ・スコアを発動!」
スオッチ・スコア 通常魔法
「手札からPN-レッドスパローを捨てることで、デッキから炎属性以外の『PN』モンスターを手札に加える。私はPN-イエローピジョンを選択、そのままフィールドに召喚する!」
PN-イエローピジョン ☆3 ATK 0
「イエローピジョンが召喚に成功したとき、墓地からレベル4以下の『PN』モンスターを特殊召喚することができる。現れなさい、PN-レッドスパロー!」
PN-レッドスパロー ☆3 ATK 1200
「これで私のフィールドに炎属性のレッドスパローと光属性のイエローピジョンが揃った! この2体をリリースすることで、PN-スカーレットストークを手札から特殊召喚!」
PN-スカーレットストーク ☆6 ATK 2600
下級モンスター2体を糧に上級モンスターを特殊召喚。ここまでは先の二戦で見せたのとほとんど同じ動き。
だが今度はそれだけでは終わらない。
「私はライフポイントを800支払うことで、スカーレットストークの効果を発動。デッキからフィールドに存在しない属性の『PN』モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚するわ! 来て、PN-エピナールヘロン!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 3200
PN-エピナールヘロン ☆6 DEF 3000
「いきなり上級モンスターが2体だって!?」
「構えよ遊午! 早々に出てくるぞ!」
身構える二人に鶫は嗜虐的な笑みをもって応えた。
「レベル6のスカーレットストークとエピナールヘロン、異なる属性のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
織り交ぜるは赤、黄、緑、茶の四色。光源は点から線、線から渦となって眩く輝く。
「現れなさい、-No.90。プリズムフェザー・ピーコック!!」
『クエェェェェッッッッ!!!!』
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 2600 ORU 2
先攻1ターン目から-Noの登場。手早く済ませるの言葉通り一切手加減するつもりはないらしい。気を抜いていたら一瞬でライフを削られてしまいそうだ。
改めて気を引き締めて、遊午は相手をよく観察する。ピーコックの周囲を巡る星斗。現状素材となっているモンスターの属性は炎、光、風、地の四属性。
つまり、
「炎属性を素材としているとき、ピーコックの攻撃力は500ポイントアップする!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「風属性を素材としているときピーコックは1度のバトルフェイズに二回攻撃でき、地属性を素材としているとき効果では破壊されなくなる! さらに光属性を素材にしているとき、ライフを800支払ってデッキから光属性モンスターを手札に加えることができる! この効果で私はオレンジホークを手札に加えるわ!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
次々と効果が重なっていく。それに合わせて透き通った体も順々に色を変える。
二回攻撃に効果破壊耐性。攻守ともにバランスの取れた効果構成だ。
「カードを2枚セットして、ターンエンドよ。さぁあんたのターンよ。さっさとサレンダーしてくれるとありがたいんだけど?」
「推しの期待に応えたいのは山々なんだがな。生憎そういうわけにはいかねぇよ。俺のターン!」
サレンダーも手加減もしてやる訳にはいかない。それは負けたら八千代もろとも消滅してしまうから、だけではなく。
「ジャイロガーディアンを召喚!」
ジャイロガーディアン ☆4 ATK 700
「そして、俺のフィールドに戦士族モンスターが存在することで手札からバトルバトラーを特殊召喚!」
バトルバトラー ☆4 DEF 1200
手早く同レベルのモンスターを2体揃えていく。下級モンスターならば遊午にだって訳ないことだ。
「2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、ジャイロブラスター!!」
ジャイロブラスター ★4 ATK 1900 ORU 2
銀河が鎮まると、テンガロンハットを目深に被った冷酷無比なスナイパーが姿を見せた。細身だが、わずかに見える二の腕は筋肉質。背には長大なライフルをぶら下げている。ウィングリッターに出会う以前からの頼れる相棒だ。
早くも-Noをエクシーズ召喚してきたのには少し驚いたが、まだぬるい。-Noも出さなくていい。フルパワーが相手でないならいくらでも手の打ちようがある。
「オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、ジャイロブラスターの効果発動。バトルフェイズ終了時までプリズムフェザー・ピーコックの攻撃力を半分にする!」
ジャイロブラスター ORU 1
雷のような発砲音とともに弾丸が空気を食い破る。ピーコックが大きな翼を羽ばたかせて避けようとするも、ジャイロブラスターがこのサイズの的を外す訳もなく。プリズムでできた腹部にこぶし大の穴が穿たれた。
貫通した穴からオーロラに似た光が漏れ出す。
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 1550
「バトルだ。ジャイロブラスターでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
ジャイロブラスター ATK 1900 vs プリズムフェザー・ピーコック ATK 1550
「甘いっての! 罠発動、エッグ・ボム!」
エッグ・ボム 通常罠
「自分フィールドに鳥獣族モンスターが存在するとき、相手フィールドの表側カード1枚を破壊する!」
突如、宙に巨大な卵が浮かんだ。一瞬の静止の後、いきなり重力を思い出したように卵が落下する。そのまま真下にいたジャイロブラスターを放った弾丸ごと押し潰した。
「その後、デッキからレベル3以下の鳥獣族モンスターであるPN-グリーンパロットを守備表示で特殊召喚するわ!」
PN-グリーンパロット ☆3 DEF 1100
強力なモンスターを用意しておきながら伏せカードで妨害する。完全に裏をかいた一手。
「この瞬間、俺は手札からジャイロールバックを発動する!」
「え!?」
それでも遊午は冷静に対処する。手札から迅速に1枚抜き取り、デュエルディスクのスリットに差し込んだ。
ジャイロールバック 速攻魔法
「今破壊されたジャイロブラスターより攻撃力の低い、墓地のジャイロガーディアンを再びフィールドに呼び戻す!」
ジャイロガーディアン ☆4 DEF 2000
「俺のフィールドにモンスターがこのモンスター以外存在しない場合、ジャイロガーディアンは戦闘・効果では破壊されない。カードを2枚伏せて、これでターンエンドだ。ジャイロブラスターの効果も終了し、ピーコックの攻撃力は元に戻るぜ」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「くっ、面倒なモンスターを……!」
デュエルをできる限り早く終わらせたい鶫がジャイロガーディアンを見て苛立ち混じりに悪態をつく。
「だけどその程度じゃ止められないわよ。私のターン、グリンパロットをリリースしてさっき加えたオレンジホークをアドバンス召喚!」
PN-オレンジホーク ☆6 ATK 2400
「オレンジホークが召喚・特殊召喚に成功したとき、あんたのフィールドに存在する表側表示のカードの効果を全て無効化するわ! 『シーリング・エフェクト』!」
「そうはさせねぇよ。罠発動! ミラー・ヴェール!」
ミラー・ヴェール 通常罠
オレンジホークが飛ばした羽根が透明な幕にぶつかって勢いを失う。いつの間にか風にたゆたうカーテンのようなものがオレンジホークの周りを取り囲んでいた。
「オレンジホークの効果をターン終了時まで無効にさせてもらうぜ」
「このっ……!」
意趣返しのようなやり口に鶫の表情にさらに険しくなる。
「だったら装備魔法、ウッドペック・ビートをピーコックに装備するわ! これにより、ピーコックは貫通効果を得る! これでそいつが戦闘耐性を持ってようと関係ない。ダメージは受けてもらうわよ! 一発目、『セブンレイ・キャノン』!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100 vs ジャイロガーディアン DEF 2000
YUGO 2900
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「二発目ッ!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100 vs ジャイロガーディアン DEF 2000
YUGO 1800
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「ぐっ……!」
ジャイロガーディアンの盾で防ぎきれなかった余波が遊午の所にまで届く。四色の光線は固体とも液体とも気体とも言えない奇妙な感触で体を通過していった。温度が高いのか低いのかもはっきりしない。なんにせよこの世の物質で構成されていないことは確かだった。
四肢を軽く動かして調子を確かめる。……きっちり動く。心臓の痛みもまだ少ない。これならもう少しダメージを受けても大丈夫そうだ。
「おい、遊午。お主何を考えておる?」
「ん?」
デッキトップに手を添えたところで、傍で静観していた八千代が不満そうな声を上げた。
「さっきその伏せカードを使っておれば、このターンで勝利することができたじゃろう。なぜ使わぬ」
「あー……やっぱバレてた?」
「当然じゃ。妾を誰じゃと思うてか」
横柄に返事する八千代。さすが一心同体の相手、隠し事に意味はない。
実を言うと、遊午にはここまでのターンで形勢を握るチャンスを幾度も見逃している。鶫には元々猪突猛進な傾向があったが、今は特に感情的になっている。おかげで先の展開を読み切ることは容易かった。
八千代が言った通り今の攻撃に合わせて伏せカードのひとつを使っていればピーコックを除去することができたし、なんだったらジャイロブラスターを召喚した場面でウィングリッターを出していれば盤面はもっと遊午に有利なものになっていただろう。
そうしなかった理由は、
「あいつはさ、ひとつ大きな勘違いをしてるんだよ」
「勘違い?」
「うん。間違いじゃなくて、勘違い」
秋葉 鶫は-No所有者。つまり彼女にも他の全てを捨てても構わないと思える願いがある。
その内容について、遊午には大体察しが付いていた。
そして、その願いには本人の気づいていない歪みが生じていることにも。
しかし。その歪みは今まで出会った所有者たちが抱えていたほどの取り返しのつかないものではなかった。自分を苦しめる破滅的な思想ではなく、周りを傷つける危険な思考でもなく、ほんの些細な勘違いに過ぎない。多分このまま放っておいったところで、きっと今の秋葉 鶫がこの先も繰り返されていくだけなのだろう。
手遅れになることなどないのだから、わざわざ急いで闘う必要はない。連戦で疲弊した脳を休めて明日また挑めばいい。なんなら先の二戦で得た情報をもとに対鶫用のデッキを組んでもいい。
遊午はそういう選択肢を選ぶことだってできた。
「だけど、俺が出会ったのは今日のあいつなんだ。明日でも昨日でもなく、今日を生きてるあいつなんだ。今日のあいつには今日しか会えない。今日のあいつを糾してやれるのは今日しかない。だったら見て見ぬ振りをしていい理由はどこにもないじゃんか」
機を狙えば簡単に勝てるとしても。
負けて全てを失うリスクを背負おうとしても。
遊午は今日、手を伸ばす。
「相変わらずのお人好しか。世話ないのう。……なんでも構わんがの。最後にはきっちり勝つんじゃろうな」
「そりゃもちろん」
このデュエルに勝利することがそのまま遊午の目的に通じることであるし。
「ちょっと! なに雑談なんかに時間割いてんのよ! あんたのターンでしょうが、早く進めなさい!」
「はいはい、わーってるよ!」
鶫に急かされるままに止めていた手を動かす。もう少しこのデュエルを引き伸ばすために。
「フィルフェアリーを召喚!」
フィルフェアリー ☆4 ATK 400
「レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
逆巻く銀河。プリズムフェザー・ピーコックの輝きに勝るとも劣らぬ閃光とともに一対の柄持つ大剣が現れる。
「現れろ、-No.39。天騎士ウィングリッター!!」
『ハァッ!!』
-No.39 天騎士ウィングリッター ★4 ATK 2500 ORU 2
「ウィングリッターがエクシーズ召喚に成功したことで俺はライフを800回復する」
YUGO 2600
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「同時にオーバーレイ・ユニットをひとつ消費することで回復した数値分ウィングリッターの攻撃力をアップさせる!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 ORU 1
「バトルフェイズだ。ウィングリッターでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「そんな単純な攻撃が通ると思ってんの!? 罠発動、フォルテシモ・ハレーション!」
フォルテシモ・ハレーション 通常罠
「攻撃対象をプリズムフェザー・ピーコックからオレンジホークに変更してダメージ計算を行う!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs PN-オレンジホーク ATK 2400
ウィングリッターとピーコックが衝突する直前で横合いからオレンジホークが割り込み、体全体で双剣を受け止めた。当然ウィングリッターの方が攻撃力は上。十字の斬撃を残してオレンジホークはポリゴン片に変化する。
「そして、戦闘を肩代わりしたモンスターの攻撃力を元のモンスターの攻撃力に加えるわ! オレンジホークの攻撃力は2400。よってピーコックの攻撃力は5500にアップ!」
プリズムフェザー・ピーコック ATK 5500
飛び散ったオレンジホークの残滓がピーコックに吸収される。ポリゴン片はピーコックの体内で新たな鏡面となり、反射した光がさらに輝きを増していく。
「バトルフェイズから、そのままエンドフェイズに移行。カードは伏せず、このままターン終了だ」
「ふん。散々遅延してくれたけど、今度こそ終わりね。このままピーコックで二回攻撃すれば総ダメージは7700。軽くあんたの残りライフを吹っ飛ばして私の勝ちよ。約束どおりライブ会場まで運んでもらうからね」
「さて、それはどうかな」
「言ってなさい。その余裕の表情すぐに泣き顔に変えてあげる! 私のターン!」
意気揚々とカードが引き抜かれる。
「あんたをぶっ倒すのに二発もいらないわ。ピーコックに装備されたウッドペック・ビークを墓地に送ってもう一つの効果を発動。このターンピーコックの攻撃によるダメージは倍になる!」
これで一合目で発生するダメージは4400。確かに遊午の残りライフを一気に削りきることができる。
「行きなさい、プリズムフェザー・ピーコックでウィングリッターを攻撃! 『セブンレイ・キャノン』!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 5500 vs -No,39 天騎士ウィングリッター ATK 3300
ピーコックの太い嘴に光が集まり、空間の明度が徐々に下がっていく。極大攻撃の予備動作。それに怯むことなく遊午はディスクの側面に並んだボタンのひとつを操作する。
刹那、熱線が放たれ、視界が真っ白に染め上げられた。通り道にあった大地が等しく抉れて竜巻のような土埃が巻き起こる。
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「!? どうしてまだライフが残ってんのよ!? それに、あんたの-Noも!」
信じられないものを見たという風に鶫が漏らす。
彼女の言う通り、粉塵が去った後にはプリズムフェザー・ピーコックだけでなくウィングリッターの姿もあった。ぶすぶすと烟る双剣をすり合わせ、刀身についた煤を払っている。
「ダメージ計算の前にリバースカードを発動してたんだよ」
目の前に浮かぶソリッドビジョンは通常罠、チェイン・パリィ。モンスターの戦闘破壊を無効にし、発生するダメージを半分にするカード。
放たれた極太の光の柱をウィングリッターは双剣を器用に操って受け流していたのだ。
「ついでにチェイン・パリィには追加効果があってな。デッキから1枚ドローして、そいつがモンスターなら戦闘を行った相手モンスターを手札に戻せるんだ」
言いながら、遊午はデッキからカードを引き抜いた。こういうときは妙な自信があるものだ。
「ドローしたカードはモンスターカードのジャイロスレイヤー。よって追加効果は発動成功、プリズムフェザー・ピーコックにはデッキに戻ってもらうぜ」
破壊でないならピーコックの地属性効果による効果破壊耐性も関係ない。虹の怪鳥は雲に隠れる太陽のごとくゆっくりと薄くなっていき、そして消えた。
「邪魔、しないでよ……!」
全ての処理が済んだその直後、鶫の奥歯がガキリと鈍い音を立てた。
「今日のために全てを賭けてきたのよ……。ずっとずっと、あのステージで歌うためにやってきたのよ! こんなところでぽっと出のあんたなんかに足止めくらってる場合じゃないの! ここで躓いたら何もかもが無駄になる。家族が、事務所のみんなが、なにより支えてくれるファンたちが、彼らが私に預けてくれた信頼が無意味になる! そんなことできるはずないじゃない……していいはずないじゃない!!」
柔らかい掌に爪が突き刺さるまで拳が握られている。震える肩は今にも爆発してしまいそうだった。
「だからどいてよ、どきなさいよぉぉぉぉッッ!!!」
血反吐を吐くように声を荒らげる鶫に、
遊午は小さくほくそ笑んだ。
ーーーー引き出した。
「ハリボテの信頼に報いて、それこそなんの意味があるってんだよ」
「っ?」
鶫の意識に唐突に空白が挟まる。
「なに、言って……」
「そりゃお前が一番わかってるだろ。そんな風にお前が必死になって守ってる信頼は-Noの力で集めたものなんだろ?」
言いながら、遊午は十数分前の出来事を思い出す。
トリックとのデュエルで、遊午は鶫とタッグを組んで、何度も追い詰められたものの最後には全ての力を鶫に託して辛くも勝利した。
文字に起こせば何気ない一文。論理も結果も完璧で、齟齬はどこにも見当たらない。
けれども遊午を知る人間ならば決定的な不自然に気が付くはずだ。
あの遊午が女の子に頼っている。
守るべき対象を背中側ではなく前側に置いたという前提が、まずおかしい。
いくら鶫が頼り甲斐に溢れた人格者だとしても普段の遊午なら女の子を矢面に立たせるなど、断言していい、絶対にあり得ない。そんなことをするくらいなら自分から矢を受けにいくのが白神 遊午という男だ。現にそれをやって彼は一度命を落としている。
となれば、知らぬ間に彼の本質を狂わすなにかしらが働いたということになる。
そう。それは例えば人の感情という見えないものに干渉する超自然的な力であるとか。
「他人の心を惹きつける能力、ってところか。そりゃライブを観た連中がみんな虜になるわけだ。相性が悪いとはいえ同じ所有者である俺だって毒されちまったんだ、生身の一般人が抗えるはずもない。そうやってお前は今の地位までのし上がった。ファンも会社の人間も、あらゆる人間の心を掌握して全てを手に入れてきたんだろう。あぁまったくもって楽な道のりだったろうぜ。なんたって-Noは願いを限りなく叶えてくれる魔法の力、なにもしなくても世界の方から望み通りに動いてくれるんだからな。…………お前さ。それでいいのかよ?」
呆れたように遊午は問う。
その言葉に顔を上げた鶫は、
「何を言うかと思えばそんなこと。当たり前じゃない。どこに問題があるってのよ」
はっきりと言い切った。
「言ったでしょ。全ては今日のためだったって。今日ハートピアドームのステージに立てるなら私はどんな手を使ったって、どんな目にあったって構わない。こちとらハナからそういう覚悟でアイドルをやってんのよ。そういう覚悟じゃなきゃアイドルはやってけないのよ」
その口ぶりに迷いはない。本心から自分の考えが正しいと確信している。みんなが憧れる夢や希望なんてものはない。揺らぐことのない現実だけがそこにはあった。
「くだらない質問ではあったけど、一応お礼言っとくわね。ーーーーおかげで目が覚めたわ」
いつの間にか怒りと焦りで真っ赤に渦巻いていた鶫の瞳に落ち着きが戻っていた。改めて自分の主張を言葉にすることで昇っていた血がすっかり冷えたのだろう。小刻みに震えていた手も今はしっかりと手札を握っている。
こうなってはもう先程までのように軽くあしらうことはできない。同じ-No所有者を二人も仕留めた強者として遊午も覚悟を決めなければならない。
「バトルフェイズは終了、再度メインフェイズに移るわ。墓地に落ちているエッグ・ボムの効果を発動。このカードと墓地のレベル3以下の鳥獣族モンスター、グリーンパロットを墓地から除外してデッキから1枚ドローする」
手札増強カード。これで鶫の手札は三枚になった。
「このターン、私はまだモンスターを召喚していない。手札のPN-ブラッククロウを通常召喚するわ」
PN-ブラッククロウ ☆3 ATK 1700
「ブラッククロウの召喚時効果発動。デッキからPN-ブルークレインを墓地へ送る。さぁこれで、必要な条件は整った」
「おいまさか……!!」
「ブラッククロウをコストに魔法カード発動! フルカラー・オーケストラ!!」
フルカラー・オーケストラ 通常魔法
「墓地に眠る炎・水・風・地・光・闇の六つの属性を持つモンスターをフィールドに特殊召喚し、それら全てのモンスターを使ってエクシーズ召喚を執り行う!!」
ブラッククロウで足りない属性を補って、さらにそのブラッククロウをも墓地へ送って発動するフルカラー・オーケストラの極大コンボ。トリック戦の決勝札となったスーパープレーを今度は敵側として見せつけられる。遊午の手元に阻む手段は無い。
「スカーレットストーク、エピナールヘロン、ブルークレイン、ブラッククロウ! これら四体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」
六つの属性。六つの力。それら全てが一つに集い、雄麗の女王を光臨させる。
「輝き放つ絢爛なる翼よ、美しくも勇猛なる力で空を裂け! -No.90! プリズムフェザー・ピーコック!!」
-No,90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 2600 ORU 4
普段ならすぐに消えるはずの光の洪水が鎮まらない。薄暗い路地が目一杯の光で埋め尽くされていた。光源はもちろん中心にそびえ立つ巨鳥からだ。
「六つの属性をもつモンスターを素材にしたことにより、プリズムフェザー・ピーコックの能力が限界まで発揮される。炎属性、このカードの攻撃力は500ポイントアップし、」
紅蓮の光が全身に行き渡り、
「水属性、このカードは相手のカード効果の対象にならず、」
紺碧の光が周囲を覆い、
「風属性、このカードは一度のバトルで二回攻撃でき、」
翡翠の光が嘴を尖らせ、
「地属性、このカードは効果で破壊されず、」
琥珀の光が羽毛を固め、
「光属性、ライフと引き換えに仲間を呼んで、」
山吹の光が背後から差し込み、
「闇属性、1ターンに1度フィールドのカード効果を無効化する!!」
漆黒の光が影を生む。
-No,90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「800ポイントのライフを支払い、デッキから光属性のオーロラ・バードを手札に加えるわ」
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 1600
「さらにカードを1枚セットして、ターンエンド。さぁ、お待ちかねのフルパワーよ。なんとかできるもんならしてみなさいよ」
「……俺のターン、ドロー!」
これで遊午の手札も3枚。フルパワーが出てきた以上、次のターンはないと思った方がいい。この3枚で活路を見出さねばならない。
1枚のカードには1つの可能性。手札の数だけ選択肢が存在する。
だが、選択肢はそこにあるだけでしかない。そこから最善の一手を選び出すのが決闘者の役目だ。
「ジャイロスレイヤーを召喚!」
『ハッ!!』
ジャイロスレイヤー ☆4 ATK 800
「バトルだ。ジャイロスレイヤーでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
ジャイロスレイヤー ATK 800 vs -No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「自爆特攻……!? いや……」
鶫の手がわずかに揺れ動く。保険をかけてピーコックの無効化効果をジャイロスレイヤーに使うか迷ったのだろう。
そうやっている間にも状況は刻一刻と進んでいく。攻撃宣言タイミングは一瞬、結局鶫は効果を発動しなかった。
「ルール通り、攻撃力の低いジャイロスレイヤーは破壊される……ただし、ジャイロスレイヤーの先頭で発生する俺へのダメージは0になる。その後、戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に墓地に送る!!」
破壊でもなく、対象も取らない効果。これならばフルパワーのピーコック相手でも通用する。そしてジャイロスレイヤーの効果は墓地で発動する。フィールドの効果を無効化するピーコックでは止めることができない。
そして-Noが持つ耐性も効果で処理するなら関係ない。
「させるか! 手札のオーロラ・バードの効果を発動! このカードを手札から墓地に送ることで、バトルフェイズ中に発生した効果を無効にする!」
「凌いだか。でもまだウィングリッターの攻撃が残ってるぜ。行け!!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs -No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「甘い! この瞬間、プリズムフェザー・ピーコックの効果発動! ウィングリッターの効果を無効にする!」
今度は迷いはなかった。ピーコックの太い嘴から漆黒の光波が矢のように放たれる。
デュエルモンスターでは、効果によって変化した攻撃力は効果を無効化にされれば元に戻ってしまう。ウィングリッターの元々の攻撃力は2500。無効化効果が通れば反射ダメージを受けて遊午は敗北する。
「それは読んでたぜ! 墓地に眠るミラー・ヴェールの効果発動! 自分ターンにこのカードを墓地から除外することで、ウィングリッターはこのターンミラー・ヴェール以外の効果を受けなくなる!」
透明な膜が今度はウィングリッターを覆う。膜に触れた漆黒の矢はあらぬ方向へと跳ね返された。
「『クロスウィング』!!」
マシンガンのごとき光線の猛攻を、ウィングリッターは時には身を捻り、時には剣の峰を使って捌いていく。特別太い一撃を大地を舐めるようにして避けると、翼を水平に広げてピーコックの懐へと潜り込む。
今度はウィングリッターの射程距離。雷剣の先端をガラスの胴へと突き立てる。そのまま残った大剣を振りかぶり、その持ち手で雷剣の柄を思いっきりぶっ叩いた。
ビシリ、という薄氷を踏み潰したような音が辺りに響く。ノミと木槌で木材を削る威力を数倍に底上げしたような一撃。いくら密度が高くとももともと壊れやすいガラスが無事ですむはずがない。音はビシビシ、ピシッと徐々に細かくなっていき、最後に一際大きな残響を残してピーコックが砕け散った。
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 1400
「聞き方が悪かったな。確かに結果だけ見れば完璧かもしれねぇ。ひとつの傷もなく、ひとつの曇りもなく、完全無欠で十全十美な非の打ちどころのない結末かもしれねぇ。けどよ、なにもかも思い通りってわけじゃあないんだろ」
舞い散るポリゴン片の中、遊午は再び問うた。
「お前は他人の手で手にした名声に納得がいってんのかよ。傷ひとつなくただ綺麗なだけの自分の身体を胸張って誇れんのかよ。脈絡も因果もなくいきなり転がり込んできた幸運に今までやってきた全てを否定されて、腹が立ってねぇのかよ。なぁどうなんだ?」
今度はすぐには言い返してこなかった。粒子となったポリゴン片が音を吸ってしまったように静かな帳が下りる。
長い長い間があって、
「……ド素人が。綺麗事ばっか言ってんじゃないわよ。私が何を抱えてここに立ってるかも知らないくせに」
鶫が重々しく口を開いた。声の端に一度は鎮まった怒りの炎がちらつく。
「繁華街の路上で誰も聞いてない歌を歌っていたときから、ううんもっと前、アイドルに憧れたその瞬間からずっとハートピアドームでライブをすることが夢だった。だけど夢は所詮夢、いざ本当にアイドルになってから初めて私がどんな無謀なことを言っていたのか気がついたわ。ねぇ知ってる? 私のファーストライブに何人のお客さんが集まったのか。ちょうどそこの通りでやったんだけど」
言って、鶫は遊午の奥の大通りを指差す。メインストリートから外れた脇道とはいえ曲がりなりにも眠らない3区である。早朝でも深夜でも人通りが途絶えることはない。
「答えは0人よ。オープニングから最後の曲を歌うまで、ただの一人も足を止めてくれなかった。マネージャーが太鼓判押してくれて、事務所も力入れて宣伝してくれてて期待して蓋を開けて見ればこのザマよ。笑っちゃうわよね。そんな奴がハートピアドームなんて寝言ほざくなってのよね」
震える唇から自然に乾いた笑みが溢れた。
「それでも馬鹿なことに、私は夢を諦めることはなかった。無茶で無謀でも、無理だとは思わなかった。案の定それから何度も何度も砂を噛んで、泥を啜って、その度に心が折れそうになった。ストレスで胃を空っぽにしたことなんて数えきれないくらいある。そうやって一年が過ぎて、大雪の中で凍死寸前になりながらデビュー1周年ライブを終えたとき、ついに私の心は折れた。何も考えずに握っていたマイクに触れることが怖くなったの。もう誰でもいいからこの地獄から解放してくれって、そう願ったのよ」
それが-No発現のきっかけ。そして、誰もを虜にするスーパーアイドルの誕生。
「その日から世界が劇的に変わった。ライブを開けば箱は満杯、CDを出せばすぐに完売。今まで見向きもされなかったのが冗談みたいに全てがうまく回ったわ。それまでやってきたことを嘲笑うみたいにね」
デュエルディスクをはめた左腕が髪に触れる。恐らく-Noの影響で色が変わったのであろう髪を、彼女はそのままぐしゃりと握りつぶした。
仮に虚空から見事なガラス細工が生み出せる能力があったとして。
そうやって生まれたものと手ずから作ったものとの間に美しさの違いはあるのだろうか。
結果だけを見る観客からすればどちらも差はない。1から作ったものと、0から生まれたもの。結局どちらも100に到達するならば、なんなら面倒な工程を省略できる後者の方が優れていると評する者もいるだろう。
だが職人だけは真っ向から否定するはずだ。ガラス細工は火に晒されればこそ美しいと、誰に聞かせるでもなく主張するはずだ。
彼らは観客とは違う。彼らだけは無骨なケイ素の塊が見事な芸術へと昇華する過程を間近で見ている。そんな彼らが思い通りの完成品を生み出す能力を得たとして、出来上がったそれになんの感慨を抱くというのか。
「……それでお前は、その状況を受け入れたのか」
「だって仕方ないじゃない。私以外はみんな幸せなのよ? ここでひとりだけ不平不満を訴えたって不必要に輪をかき乱すだけよ。それなら私は心を殺す。徹底的に中身空っぽの偶像《アイドル》になる道を私は選ぶ。結局ね、努力に意味なんてないのよ。私一人が死に物狂いになったところで、みんなが求めているのは完全無欠のスーパーアイドルつぐみんという結果だけ。その過程でどれだけのものを積み上げていようが誰も興味ない。だったらなんにもならない努力なんかするだけ無駄じゃないの。ーーーーえぇほんと、無駄なのよ」
言い切ると同時に鶫はデュエルディスクを操作、伏せていたカードを発動した。
「リバースカードオープン! エクシーズ・レインボー・リボーン!」
エクシーズ・レインボー・リボーン 通常罠
「墓地に眠るエクシーズモンスター1体を再びフィールド上に特殊召喚し、このカードをそのモンスターのオーバーレイ・ユニットとする! 三度舞い戻りなさい、プリズムフェザー・ピーコック!」
飛び散ったはずのポリゴンが再び一点に集中し、元の形が再構成される。
「それだけじゃないわ。オーバーレイ・ユニットとなったレインボー・リボーンは六属性全てを持った素材として扱う! これでピーコックはもう一度全ての力を取り戻す!」
ピーコックの体色が赤から青、青から黄、黄から緑……と瞬きごとに様々に色を変える。そのグラデーションは完全復活の証。攻撃力上昇、破壊耐性、対象回避、追加攻撃、そして効果妨害。ありとあらゆる能力を兼ね備えた巨鳥の再臨である。
『クエェェェェッッ!!』
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 3100 ORU 1
鳥類特有の獲物を狙う鋭い眼光がじろりと遊午とウィングリッターを見下ろしてくる。まだ行動に移すそぶりは見えない。
ピーコックの闇属性効果は相手ターンでも発動できるが、遊午のフィールドで唯一の表側のカードであるウィングリッターは現在効果を受け付けない状態。今ピーコックが動く旨味はない。次の鶫のターンで確実に仕留めようという腹づもりだろう。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」
かといって遊午にもすぐに打てる手は存在しない。とにもかくにも残りの手札を全てセットする。これでなんとかできなければその瞬間彼の敗北は決する。
「私のターン、ドロー!!」
ドローカードが鶫の手に引き寄せられるように光の弧を描いた。
「ピーコックの光属性効果により、ライフを800払ってデッキから光属性のハロー・ファローを手札に加えるわ。そのまま手札から墓地に送ることで、鳥獣族モンスターであるプリズムフェザー・ピーコックの攻撃力をターン終了時まで倍にするわ!!」
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 600
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 6200
「くだらないデュエルも雑談ももうおしまい。この攻撃で決着をつけるわよ。全力全開ーーーー」
路地裏に差し込む薄明がプリズムフェザー・ピーコックに向けて一点に集中する。俗に天使の梯子《エンジェル・ラダー》と呼ばれる自然現象が超常の力によって強引に引き起こされる。極太の光線が放たれるまでのカウントダウンである。
そして、世界が暗転し。
「ーーーー『セブンレイ・キャノン』!!」
ゴオッ!! という爆音を引いて虹色の光芒が空間を抉り取る。美しくも雄々しい、逃れることすらおこがましいと思わせるような神々しさの暴力。あまりの威力に時の流れが遅く感じるほどだった。
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 6200 vs -No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300
放心状態になっていた遊午は、目前まで迫った光の塊に思わず目を逸らしたことで我に返る。
「その攻撃宣言時、リバースカード発動! 慈愛のバリアーミストフォースー!」
慈愛のバリアーミストフォースー 通常罠
「攻撃したモンスターの攻撃力分のライフを回復し、その後全ての相手の攻撃表示モンスターの攻撃力を0にする! さらにこの効果にチェーンして、ウィングリッターの効果も発動させてもらう!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ORU 0
「このターン俺のライフポイントが回復したとき、その数値分だけウィングリッターの攻撃力を上昇させる! 攻撃宣言したピーコックの攻撃力は6200。何もないなら9500のダメージを与えて俺の勝ちだが……」
「ピーコックの闇属性効果発動! ミストフォースの効果を無効化する!」
「まぁもちろんそうするよな。けど今墓地に送られたフィルフェアリーの効果は発動させてもらうぜ。墓地に眠るモンスター1体につき300ポイントのライフを回復する!」
遊午の墓地のモンスターはフィルフェアリー自身を含めて合計5体。よって遊午は1500のライフを回復し、ウィングリッターは攻撃力を1500アップする。
YUGO 1900
ーーーVSーーー
TUGUMI 600
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 4800
これで発生するダメージは1500。この攻撃でライフが削れることはなくなった。
「……だから無駄なのよ。どんなに必死にあがいたって、圧倒的な力の前には無意味だって言ってるでしょうが」
怒りというより哀れみを含んだ声で鶫は言った。
「手札から2枚目のハロー・ファローを墓地に送って効果発動。ピーコックの攻撃力をさらに倍にするわ!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 12400
攻撃力12400。軽く3回分ライフを吹き飛ばせる破壊力。視界を完全に埋め尽くすまでに成長した圧倒的な力の前では遊午たちはもちろんウィングリッターですらちっぽけに見えた。
「あぁ確かにお前の言う通りだ。努力がそのまま結果に直結するほど世の中は甘くない。全部を投げ打ってやったことがこれっぽちも評価されないこともありゃ、ほとんど力を入れてないことが予想外にもてはやされたりもする。皮肉なことにな」
だが、遊午は引かなかった。むしろ真っ向から挑むように一歩前に歩を進める。
「でもな、努力した人間に何も掴ませないほど腐ってもいねーんだよ。全部を投げ打って努力した経験は絶対に何かを残す。もし歩いてきた道がなんにもならなかったように見えてんなら、それは-Noが原因じゃねぇ。お前自身がお前の努力を否定しているから目を逸らしちまってるだけだ」
「ッ! 気休め吐いてんじゃないわよ! そこまで言うなら教えてよ。一体どこに努力の意味が現れてるってのよ!?」
「あるじゃねぇか。はっきり。お前のすぐ目の前に」
そこで遊午は親指を自分の方に向けた。
「え……?」
まったくわけがわからないと言う風に吐息を漏らす鶫。当たり前だ。彼女の勘違いの根幹はそこにある。
「-Noは人智を超えた超常の力。お前の願いを叶えるための魔法のアイテムだ。ファンの数を百倍千倍にすることなんて息をするように実現してくれるさ。ーーーーそんな-Noでも、ないものをあることにはできない。嫌悪を好意に逆転させることはできても、誰にも興味を持たれていない人間を人気者にはできないんだ。0にいくら0をかけたって0のまま。だったらその0を1にしたのは、紛れもない、お前の努力だろ」
「ーーーー!」
プリズムフェザー・ピーコックは事象干渉系、逆に言えば干渉するべき事象がなければなんの意味もないでくのぼうだ。大火が怒るには火種がなくてはならない。それは例えば飽くなき欲望であるとか、世界を恨むほどの絶望であるとか、諦めきれなかった夢の置き土産であるとか。
それらを生むのはいつだってちっぽけな人間の力だ。
「あんまり自分の力を安く見てやるなよ。お前が絶望したってそのライブに希望を貰ったヤツだっているんだぜ」
大雪の中誰も見ていないのにそれでもひたすらにパフォーマンスを続けていた少女の姿を思い出す。あの時の彼女は作り物の太陽なんて比べ物にならないくらいに美しく輝いていた。
「つってもまぁ、このデュエルに関しては俺が貰うけどな」
「へ?」
「罠発動! カウンター・ウィング!!」
カウンター・ウィング 通常罠
「自分のモンスターが攻撃力に倍以上差があるモンスターとバトルを行うとき、戦闘破壊を無効にして相手モンスターを破壊するかもしくは発生するダメージを相手に肩代わりさせることができる! 俺はもちろん二つ目の効果を選択!」
「ってことは……ッ!!」
「あぁそうだ。12400-4800で7600の反射ダメージを与えて、俺の勝ちだ!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 12400 vs -No.39 天騎士ウィングリッター ATK 4800
ウィングリッターが双剣を空に放ると鋭利な刃は元の白い羽根に戻り、背中の翼に吸い込まれていく。羽根の枚数を増やした翼が三倍以上に膨れ上がる。これで単純に先から先までを比べればピーコックの光線と遜色ないサイズになった。
その翼で全身を覆うと、今度は翼の表面だけをさらに細分化して光の粒子に変換。鏡のような光沢を持った皮膜を形成する。
そこまで済ませたところで、間髪入れずに光線が激突した。
轟く轟音。走る雷電。舞う粉塵。
触れた箇所から超高温で熱されていき、翼の表面が赤く煮えたぎる。直接食らわなくともその推進力だけでウィングリッターの体がずりずりと引き下げられていった。吹き荒れる破壊の嵐の中、それでもウィングリッターの眼は死んでいない。じりじり、じりじりと僅かずつだが確実に後ろ向きの加速度を落としていく。
そして、プリズムフェザー・ピーコックの体内から完全に光が吐き切られた、その一瞬。
ウィングリッターは一気に翼を開放した。
『ハアァァァッッ!!!』
翼に付着した光の粒子をピーコックに向かって跳ね返す。エネルギーを蓄えた粒子はひとつひとつが確かな破壊力を持った散弾のようなもの。ピーコックのガラスの体に次々と拳大の穴を貫通させていく。
『グエェェェェエエエッッ!!!』
消滅をまぬがれようともがくピーコック。断末魔の叫びとともに七色に点滅する核のど真ん中に粒子を食らい、輝きを貪る虚栄の巨鳥が風に乗って消えた。
YUGO 1900
ーーーVSーーー
TUGUMI 0
☆ ☆ ☆
「急いで鶫! すぐ始めるわよ!」
「わかってますってば!!」
マネージャーの焦る声を背に受けながら、鶫は立体迷路のように組み上げられたセットを駆け抜けテいく。自分のポジショニングはもちろんどの小道具がどこに終われているかまで事前に頭に入れてある。今日の舞台裏なら目隠ししたって歩き回れる。
すぐに目的のバリを発見。両の踵でしっかりと踏みつけた。
「セリ準備できてます!」
「マイク感度良好!」
「ライト、音響ともに問題なしです!」
胸に手をあてて息を整える。目を閉じると周囲を固めるスタッフの声が自然と耳に入ってきた。
「まもなくカウント始めます! 秋葉さん!」
その言葉に、小さく深呼吸をして、
「いつでもいけます!!」
心なしか重い瞼を見開いて空を仰ぐ。下向きの重力を肩に受けつつ、鶫は憧れの舞台へと躍り出た。
途端にまばゆい照明と雪崩のような歓声が全身を包む。音の震えがステージの揺れとなって伝わってくる。暗闇の中から注がれる合わせて6万の視線が肌に刺さる。今までとは感じる『圧』が大違いだ。
これがハートピアドームのステージ。この街に籍を置くアイドル志望者なら誰もが夢見る大舞台。マイクを握る手が自然と汗ばむ。幼い頃から夢現の両方で夢見てきた空間の中心に立っているという自覚が胸の奥から全身を熱くさせていた。
しばらくして、拍手喝采がまばらになっていく。最後の一人が静かになったタイミングを見計らいもう一度小さく息を吸ってから。
『ーーーーみなさんに言っておかないとといけないことがあります』
挨拶より先に鶫はそう告げた。吐息を拾ったマイクが小さくハウリングする。
突然の宣言に会場がさざ波のようにざわついた。アイドルがこの言葉を出すときは大抵ロクなことがない。延期か中止か、はたまた引退か。生唾が喉を通る音がここまで伝わってくるようだった。
鶫はえも言われぬ不安に揺れ動くファンの眼をまっすぐ見つめ返す。
『今日、ここに来るまで色々なことがありました』
頭の中でひとつひとつ思い返しながら言葉にしていく。
『嬉しいことだけじゃありません。むしろ辛いことや苦しいことの方がたくさんでした。それを乗り越えてこれたのは単に運が良かったから。私にはほんとの実力なんてない。偶然いい人たちに巡り会えて、偶然大きなチャンスを掴めて、偶然みんなが応援してくれて、だから私はアイドルをやっていられているんだって。ずっとそう思っていました。だけど、ある人に言われて気が付いたんです』
別にあの男にほだされたわけじゃない。アイドルたるもの人に言われて簡単に自分の信念を曲げるような軟派な精神ではやっていけない。これはあくまで自分で考えて出した答えである。
『確かに運はよかったのかもしれません。でも今まで私がしてもらったことを全部『運』の一言で片付けるだなんて、今まで自分がしてきたことの責任を全部『運』の一言に押し付けるだなんて、それってすごい失礼な考え方じゃないですか。自分の謙遜のために他人の努力を否定する。そんなことあっていいはずがないんです』
ただ、あの男に出会ってもう一度考え直すきっかけになったのは確かだ。
『……だから、少しだけ。もう少しだけ自分の力を信じてみてもいいですか? 自分が頑張ったからみんなが頑張ってくれてるって胸を張ってもいいですか?』
暗闇に向けて鶫は尋ねた。この話はマネージャーにも通していない。きっと裏でスタッフたちと一緒に息を飲んでいることだろう。彼女のことだからあとでちゃんと説明すれば理解を示してくれるとは思うけれど。
シン、とドーム全体から音が消える。そう、肝心なのはファンに受け入れてもらえるかどうか。-Noの副作用による装飾のなされていない裸の言葉を聞き入れてもらえるかどうかだ。もし本当に彼らが-Noによって毒されていただけならば、この場で鶫のアイドル人生終わってもおかしくない。
怖い、誤魔化しなく自分が評価されることが。
怖い、積み重ねてきたものの価値が判定されることが。
怖い、もし無意味だとはっきりしてしまったら。
怖い、怖い、怖い。
底知れぬ不安に膝が勝手に震えだす。慟哭のような耳鳴りが脳を支配する。
思わず目を背けそうになった、そのとき。
『……つーぐみん』
客席の一角から声が湧いた。
『つーぐみん、つーぐみん、つーぐみん』
その声は次々に隣に伝播して、
『つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん』
やがてはドームを揺らすほどの歓声となった。
「…………っ!」
思わず涙が溢れそうになる。無謀な夢だった。無茶な憧れだった。けれど、無駄な努力じゃあなかった。死に物狂いでもがき、取り返しがつかなくなっても足掻き続けてきた意味は確かにあったのだ。
漏れ出た雫を手首で拭い取り、鶫はもう一度マイクを握る手に力を込めた。
『ありがとう。本当にありがとうっ! 私頑張るから、これからもっともっと頑張るから! だから応援よろしくお願いします!』
心の限り頭を下げた鶫にファンたちはワアァァァッッ!! と盛大な拍手で迎えた。
同時刻同場所、正確にはハートピアドーム正面入り口前で同じく心の限り頭を下げている少年がいた。
「だからですね、チケットはちゃんと手に入れたんですって。なんなら一度ここにもきましたよ」
無事鶫をここまで送り届けた遊午は警備員にもう何度も繰り返した説明を繰り返す。
「けど、ついさっきバイクにはねられたときに落としたんです! あのプレミアチケットを! 半年分の食費を犠牲にしたチケットを! いくらなんでも酷すぎるだろチクショウ! ねぇ酷すぎますよね!?」
「いや知らないけど……。ていうか君ほんとにバイクにはねられたんならなんでそんなピンピンしてんの?」
「愛の力です!!」
「愛の力かぁ……」
呆れたというより疲れた表情になる警備員。
「でもねぇ……別に君が嘘をついてると疑うわけじゃないんだけど、こっちもルールだからさ。チケットを持ってない人を入れるわけにはいかんのよ」
「そこをなんとかお願いしますよ! 俺とあなたの仲でしょう!?」
「私君のこと知らんし……」
はぁ、と大きくため息を吐き、警備員は左手に巻いた腕時計を確認する。
「とにかく、可哀想だけど今回は諦めて。というかそろそろ交代だから帰るね」
「あぁ待って待って! 行かないで! なんでもするから、この場で全裸にだってなるから! ほら!」
「いやなんでいきなり脱ぎだしてんの!?」
「はぁ……はぁ……もう少しだけ時間ください……! すぐに全裸になりますから……! ついに往来のど真ん中で全裸になれますから……!!」
「もはや趣旨変わってるよね!? 君脱ぎたいだけだよね!? ちょ、応援! 応援お願いします! 本部ー!!」
翌日、秋葉 鶫のドームライブはありとあらゆる情報媒体で取り上げられ、その会場で不審者が出たというニュースはちょっとだけネットを騒がせたのであった。
◎-No.90 プリズムフェザー・ピーコック
ーーーー回収完了。残り92枚。
大通りへと続く道を塞いで立つ遊午に、鶫は低いトーンで聞いた。
「冗談じゃねぇよ。言ったろ、俺は-Noを回収してるって」
「つまり、結局はあんたもあいつらと同類だったってこと?」
「お前の願いを阻むってトコでは同じかもな」
遊午の答えに鶫は一層不機嫌そうに眉をひそめる。
それでも遊午は退こうとしない。軽くデュエルディスクを構えたまままっすぐ鶫を見つめている。
「あっそ。だったらデュエルで黙らせればいいってわけね。話が分かりやすくて助かるわ。――覚悟はできてるんでしょうね」
しびれを切らした鶫は外したばかりのD-ゲイザーを再び装着。勝気な瞳を踊らせ素早く準備を整え直した。
今日三度目となるデュエルの火蓋が、切って落とされる。
「デュエル!!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 4000
「時間押してるつってんの、手早く済ませるわよ。私のターン! まずは魔法カード、スオッチ・スコアを発動!」
スオッチ・スコア 通常魔法
「手札からPN-レッドスパローを捨てることで、デッキから炎属性以外の『PN』モンスターを手札に加える。私はPN-イエローピジョンを選択、そのままフィールドに召喚する!」
PN-イエローピジョン ☆3 ATK 0
「イエローピジョンが召喚に成功したとき、墓地からレベル4以下の『PN』モンスターを特殊召喚することができる。現れなさい、PN-レッドスパロー!」
PN-レッドスパロー ☆3 ATK 1200
「これで私のフィールドに炎属性のレッドスパローと光属性のイエローピジョンが揃った! この2体をリリースすることで、PN-スカーレットストークを手札から特殊召喚!」
PN-スカーレットストーク ☆6 ATK 2600
下級モンスター2体を糧に上級モンスターを特殊召喚。ここまでは先の二戦で見せたのとほとんど同じ動き。
だが今度はそれだけでは終わらない。
「私はライフポイントを800支払うことで、スカーレットストークの効果を発動。デッキからフィールドに存在しない属性の『PN』モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚するわ! 来て、PN-エピナールヘロン!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 3200
PN-エピナールヘロン ☆6 DEF 3000
「いきなり上級モンスターが2体だって!?」
「構えよ遊午! 早々に出てくるぞ!」
身構える二人に鶫は嗜虐的な笑みをもって応えた。
「レベル6のスカーレットストークとエピナールヘロン、異なる属性のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
織り交ぜるは赤、黄、緑、茶の四色。光源は点から線、線から渦となって眩く輝く。
「現れなさい、-No.90。プリズムフェザー・ピーコック!!」
『クエェェェェッッッッ!!!!』
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 2600 ORU 2
先攻1ターン目から-Noの登場。手早く済ませるの言葉通り一切手加減するつもりはないらしい。気を抜いていたら一瞬でライフを削られてしまいそうだ。
改めて気を引き締めて、遊午は相手をよく観察する。ピーコックの周囲を巡る星斗。現状素材となっているモンスターの属性は炎、光、風、地の四属性。
つまり、
「炎属性を素材としているとき、ピーコックの攻撃力は500ポイントアップする!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「風属性を素材としているときピーコックは1度のバトルフェイズに二回攻撃でき、地属性を素材としているとき効果では破壊されなくなる! さらに光属性を素材にしているとき、ライフを800支払ってデッキから光属性モンスターを手札に加えることができる! この効果で私はオレンジホークを手札に加えるわ!」
YUGO 4000
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
次々と効果が重なっていく。それに合わせて透き通った体も順々に色を変える。
二回攻撃に効果破壊耐性。攻守ともにバランスの取れた効果構成だ。
「カードを2枚セットして、ターンエンドよ。さぁあんたのターンよ。さっさとサレンダーしてくれるとありがたいんだけど?」
「推しの期待に応えたいのは山々なんだがな。生憎そういうわけにはいかねぇよ。俺のターン!」
サレンダーも手加減もしてやる訳にはいかない。それは負けたら八千代もろとも消滅してしまうから、だけではなく。
「ジャイロガーディアンを召喚!」
ジャイロガーディアン ☆4 ATK 700
「そして、俺のフィールドに戦士族モンスターが存在することで手札からバトルバトラーを特殊召喚!」
バトルバトラー ☆4 DEF 1200
手早く同レベルのモンスターを2体揃えていく。下級モンスターならば遊午にだって訳ないことだ。
「2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、ジャイロブラスター!!」
ジャイロブラスター ★4 ATK 1900 ORU 2
銀河が鎮まると、テンガロンハットを目深に被った冷酷無比なスナイパーが姿を見せた。細身だが、わずかに見える二の腕は筋肉質。背には長大なライフルをぶら下げている。ウィングリッターに出会う以前からの頼れる相棒だ。
早くも-Noをエクシーズ召喚してきたのには少し驚いたが、まだぬるい。-Noも出さなくていい。フルパワーが相手でないならいくらでも手の打ちようがある。
「オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、ジャイロブラスターの効果発動。バトルフェイズ終了時までプリズムフェザー・ピーコックの攻撃力を半分にする!」
ジャイロブラスター ORU 1
雷のような発砲音とともに弾丸が空気を食い破る。ピーコックが大きな翼を羽ばたかせて避けようとするも、ジャイロブラスターがこのサイズの的を外す訳もなく。プリズムでできた腹部にこぶし大の穴が穿たれた。
貫通した穴からオーロラに似た光が漏れ出す。
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 1550
「バトルだ。ジャイロブラスターでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
ジャイロブラスター ATK 1900 vs プリズムフェザー・ピーコック ATK 1550
「甘いっての! 罠発動、エッグ・ボム!」
エッグ・ボム 通常罠
「自分フィールドに鳥獣族モンスターが存在するとき、相手フィールドの表側カード1枚を破壊する!」
突如、宙に巨大な卵が浮かんだ。一瞬の静止の後、いきなり重力を思い出したように卵が落下する。そのまま真下にいたジャイロブラスターを放った弾丸ごと押し潰した。
「その後、デッキからレベル3以下の鳥獣族モンスターであるPN-グリーンパロットを守備表示で特殊召喚するわ!」
PN-グリーンパロット ☆3 DEF 1100
強力なモンスターを用意しておきながら伏せカードで妨害する。完全に裏をかいた一手。
「この瞬間、俺は手札からジャイロールバックを発動する!」
「え!?」
それでも遊午は冷静に対処する。手札から迅速に1枚抜き取り、デュエルディスクのスリットに差し込んだ。
ジャイロールバック 速攻魔法
「今破壊されたジャイロブラスターより攻撃力の低い、墓地のジャイロガーディアンを再びフィールドに呼び戻す!」
ジャイロガーディアン ☆4 DEF 2000
「俺のフィールドにモンスターがこのモンスター以外存在しない場合、ジャイロガーディアンは戦闘・効果では破壊されない。カードを2枚伏せて、これでターンエンドだ。ジャイロブラスターの効果も終了し、ピーコックの攻撃力は元に戻るぜ」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「くっ、面倒なモンスターを……!」
デュエルをできる限り早く終わらせたい鶫がジャイロガーディアンを見て苛立ち混じりに悪態をつく。
「だけどその程度じゃ止められないわよ。私のターン、グリンパロットをリリースしてさっき加えたオレンジホークをアドバンス召喚!」
PN-オレンジホーク ☆6 ATK 2400
「オレンジホークが召喚・特殊召喚に成功したとき、あんたのフィールドに存在する表側表示のカードの効果を全て無効化するわ! 『シーリング・エフェクト』!」
「そうはさせねぇよ。罠発動! ミラー・ヴェール!」
ミラー・ヴェール 通常罠
オレンジホークが飛ばした羽根が透明な幕にぶつかって勢いを失う。いつの間にか風にたゆたうカーテンのようなものがオレンジホークの周りを取り囲んでいた。
「オレンジホークの効果をターン終了時まで無効にさせてもらうぜ」
「このっ……!」
意趣返しのようなやり口に鶫の表情にさらに険しくなる。
「だったら装備魔法、ウッドペック・ビートをピーコックに装備するわ! これにより、ピーコックは貫通効果を得る! これでそいつが戦闘耐性を持ってようと関係ない。ダメージは受けてもらうわよ! 一発目、『セブンレイ・キャノン』!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100 vs ジャイロガーディアン DEF 2000
YUGO 2900
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「二発目ッ!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100 vs ジャイロガーディアン DEF 2000
YUGO 1800
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「ぐっ……!」
ジャイロガーディアンの盾で防ぎきれなかった余波が遊午の所にまで届く。四色の光線は固体とも液体とも気体とも言えない奇妙な感触で体を通過していった。温度が高いのか低いのかもはっきりしない。なんにせよこの世の物質で構成されていないことは確かだった。
四肢を軽く動かして調子を確かめる。……きっちり動く。心臓の痛みもまだ少ない。これならもう少しダメージを受けても大丈夫そうだ。
「おい、遊午。お主何を考えておる?」
「ん?」
デッキトップに手を添えたところで、傍で静観していた八千代が不満そうな声を上げた。
「さっきその伏せカードを使っておれば、このターンで勝利することができたじゃろう。なぜ使わぬ」
「あー……やっぱバレてた?」
「当然じゃ。妾を誰じゃと思うてか」
横柄に返事する八千代。さすが一心同体の相手、隠し事に意味はない。
実を言うと、遊午にはここまでのターンで形勢を握るチャンスを幾度も見逃している。鶫には元々猪突猛進な傾向があったが、今は特に感情的になっている。おかげで先の展開を読み切ることは容易かった。
八千代が言った通り今の攻撃に合わせて伏せカードのひとつを使っていればピーコックを除去することができたし、なんだったらジャイロブラスターを召喚した場面でウィングリッターを出していれば盤面はもっと遊午に有利なものになっていただろう。
そうしなかった理由は、
「あいつはさ、ひとつ大きな勘違いをしてるんだよ」
「勘違い?」
「うん。間違いじゃなくて、勘違い」
秋葉 鶫は-No所有者。つまり彼女にも他の全てを捨てても構わないと思える願いがある。
その内容について、遊午には大体察しが付いていた。
そして、その願いには本人の気づいていない歪みが生じていることにも。
しかし。その歪みは今まで出会った所有者たちが抱えていたほどの取り返しのつかないものではなかった。自分を苦しめる破滅的な思想ではなく、周りを傷つける危険な思考でもなく、ほんの些細な勘違いに過ぎない。多分このまま放っておいったところで、きっと今の秋葉 鶫がこの先も繰り返されていくだけなのだろう。
手遅れになることなどないのだから、わざわざ急いで闘う必要はない。連戦で疲弊した脳を休めて明日また挑めばいい。なんなら先の二戦で得た情報をもとに対鶫用のデッキを組んでもいい。
遊午はそういう選択肢を選ぶことだってできた。
「だけど、俺が出会ったのは今日のあいつなんだ。明日でも昨日でもなく、今日を生きてるあいつなんだ。今日のあいつには今日しか会えない。今日のあいつを糾してやれるのは今日しかない。だったら見て見ぬ振りをしていい理由はどこにもないじゃんか」
機を狙えば簡単に勝てるとしても。
負けて全てを失うリスクを背負おうとしても。
遊午は今日、手を伸ばす。
「相変わらずのお人好しか。世話ないのう。……なんでも構わんがの。最後にはきっちり勝つんじゃろうな」
「そりゃもちろん」
このデュエルに勝利することがそのまま遊午の目的に通じることであるし。
「ちょっと! なに雑談なんかに時間割いてんのよ! あんたのターンでしょうが、早く進めなさい!」
「はいはい、わーってるよ!」
鶫に急かされるままに止めていた手を動かす。もう少しこのデュエルを引き伸ばすために。
「フィルフェアリーを召喚!」
フィルフェアリー ☆4 ATK 400
「レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
逆巻く銀河。プリズムフェザー・ピーコックの輝きに勝るとも劣らぬ閃光とともに一対の柄持つ大剣が現れる。
「現れろ、-No.39。天騎士ウィングリッター!!」
『ハァッ!!』
-No.39 天騎士ウィングリッター ★4 ATK 2500 ORU 2
「ウィングリッターがエクシーズ召喚に成功したことで俺はライフを800回復する」
YUGO 2600
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「同時にオーバーレイ・ユニットをひとつ消費することで回復した数値分ウィングリッターの攻撃力をアップさせる!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 ORU 1
「バトルフェイズだ。ウィングリッターでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「そんな単純な攻撃が通ると思ってんの!? 罠発動、フォルテシモ・ハレーション!」
フォルテシモ・ハレーション 通常罠
「攻撃対象をプリズムフェザー・ピーコックからオレンジホークに変更してダメージ計算を行う!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs PN-オレンジホーク ATK 2400
ウィングリッターとピーコックが衝突する直前で横合いからオレンジホークが割り込み、体全体で双剣を受け止めた。当然ウィングリッターの方が攻撃力は上。十字の斬撃を残してオレンジホークはポリゴン片に変化する。
「そして、戦闘を肩代わりしたモンスターの攻撃力を元のモンスターの攻撃力に加えるわ! オレンジホークの攻撃力は2400。よってピーコックの攻撃力は5500にアップ!」
プリズムフェザー・ピーコック ATK 5500
飛び散ったオレンジホークの残滓がピーコックに吸収される。ポリゴン片はピーコックの体内で新たな鏡面となり、反射した光がさらに輝きを増していく。
「バトルフェイズから、そのままエンドフェイズに移行。カードは伏せず、このままターン終了だ」
「ふん。散々遅延してくれたけど、今度こそ終わりね。このままピーコックで二回攻撃すれば総ダメージは7700。軽くあんたの残りライフを吹っ飛ばして私の勝ちよ。約束どおりライブ会場まで運んでもらうからね」
「さて、それはどうかな」
「言ってなさい。その余裕の表情すぐに泣き顔に変えてあげる! 私のターン!」
意気揚々とカードが引き抜かれる。
「あんたをぶっ倒すのに二発もいらないわ。ピーコックに装備されたウッドペック・ビークを墓地に送ってもう一つの効果を発動。このターンピーコックの攻撃によるダメージは倍になる!」
これで一合目で発生するダメージは4400。確かに遊午の残りライフを一気に削りきることができる。
「行きなさい、プリズムフェザー・ピーコックでウィングリッターを攻撃! 『セブンレイ・キャノン』!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 5500 vs -No,39 天騎士ウィングリッター ATK 3300
ピーコックの太い嘴に光が集まり、空間の明度が徐々に下がっていく。極大攻撃の予備動作。それに怯むことなく遊午はディスクの側面に並んだボタンのひとつを操作する。
刹那、熱線が放たれ、視界が真っ白に染め上げられた。通り道にあった大地が等しく抉れて竜巻のような土埃が巻き起こる。
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 2400
「!? どうしてまだライフが残ってんのよ!? それに、あんたの-Noも!」
信じられないものを見たという風に鶫が漏らす。
彼女の言う通り、粉塵が去った後にはプリズムフェザー・ピーコックだけでなくウィングリッターの姿もあった。ぶすぶすと烟る双剣をすり合わせ、刀身についた煤を払っている。
「ダメージ計算の前にリバースカードを発動してたんだよ」
目の前に浮かぶソリッドビジョンは通常罠、チェイン・パリィ。モンスターの戦闘破壊を無効にし、発生するダメージを半分にするカード。
放たれた極太の光の柱をウィングリッターは双剣を器用に操って受け流していたのだ。
「ついでにチェイン・パリィには追加効果があってな。デッキから1枚ドローして、そいつがモンスターなら戦闘を行った相手モンスターを手札に戻せるんだ」
言いながら、遊午はデッキからカードを引き抜いた。こういうときは妙な自信があるものだ。
「ドローしたカードはモンスターカードのジャイロスレイヤー。よって追加効果は発動成功、プリズムフェザー・ピーコックにはデッキに戻ってもらうぜ」
破壊でないならピーコックの地属性効果による効果破壊耐性も関係ない。虹の怪鳥は雲に隠れる太陽のごとくゆっくりと薄くなっていき、そして消えた。
「邪魔、しないでよ……!」
全ての処理が済んだその直後、鶫の奥歯がガキリと鈍い音を立てた。
「今日のために全てを賭けてきたのよ……。ずっとずっと、あのステージで歌うためにやってきたのよ! こんなところでぽっと出のあんたなんかに足止めくらってる場合じゃないの! ここで躓いたら何もかもが無駄になる。家族が、事務所のみんなが、なにより支えてくれるファンたちが、彼らが私に預けてくれた信頼が無意味になる! そんなことできるはずないじゃない……していいはずないじゃない!!」
柔らかい掌に爪が突き刺さるまで拳が握られている。震える肩は今にも爆発してしまいそうだった。
「だからどいてよ、どきなさいよぉぉぉぉッッ!!!」
血反吐を吐くように声を荒らげる鶫に、
遊午は小さくほくそ笑んだ。
ーーーー引き出した。
「ハリボテの信頼に報いて、それこそなんの意味があるってんだよ」
「っ?」
鶫の意識に唐突に空白が挟まる。
「なに、言って……」
「そりゃお前が一番わかってるだろ。そんな風にお前が必死になって守ってる信頼は-Noの力で集めたものなんだろ?」
言いながら、遊午は十数分前の出来事を思い出す。
トリックとのデュエルで、遊午は鶫とタッグを組んで、何度も追い詰められたものの最後には全ての力を鶫に託して辛くも勝利した。
文字に起こせば何気ない一文。論理も結果も完璧で、齟齬はどこにも見当たらない。
けれども遊午を知る人間ならば決定的な不自然に気が付くはずだ。
あの遊午が女の子に頼っている。
守るべき対象を背中側ではなく前側に置いたという前提が、まずおかしい。
いくら鶫が頼り甲斐に溢れた人格者だとしても普段の遊午なら女の子を矢面に立たせるなど、断言していい、絶対にあり得ない。そんなことをするくらいなら自分から矢を受けにいくのが白神 遊午という男だ。現にそれをやって彼は一度命を落としている。
となれば、知らぬ間に彼の本質を狂わすなにかしらが働いたということになる。
そう。それは例えば人の感情という見えないものに干渉する超自然的な力であるとか。
「他人の心を惹きつける能力、ってところか。そりゃライブを観た連中がみんな虜になるわけだ。相性が悪いとはいえ同じ所有者である俺だって毒されちまったんだ、生身の一般人が抗えるはずもない。そうやってお前は今の地位までのし上がった。ファンも会社の人間も、あらゆる人間の心を掌握して全てを手に入れてきたんだろう。あぁまったくもって楽な道のりだったろうぜ。なんたって-Noは願いを限りなく叶えてくれる魔法の力、なにもしなくても世界の方から望み通りに動いてくれるんだからな。…………お前さ。それでいいのかよ?」
呆れたように遊午は問う。
その言葉に顔を上げた鶫は、
「何を言うかと思えばそんなこと。当たり前じゃない。どこに問題があるってのよ」
はっきりと言い切った。
「言ったでしょ。全ては今日のためだったって。今日ハートピアドームのステージに立てるなら私はどんな手を使ったって、どんな目にあったって構わない。こちとらハナからそういう覚悟でアイドルをやってんのよ。そういう覚悟じゃなきゃアイドルはやってけないのよ」
その口ぶりに迷いはない。本心から自分の考えが正しいと確信している。みんなが憧れる夢や希望なんてものはない。揺らぐことのない現実だけがそこにはあった。
「くだらない質問ではあったけど、一応お礼言っとくわね。ーーーーおかげで目が覚めたわ」
いつの間にか怒りと焦りで真っ赤に渦巻いていた鶫の瞳に落ち着きが戻っていた。改めて自分の主張を言葉にすることで昇っていた血がすっかり冷えたのだろう。小刻みに震えていた手も今はしっかりと手札を握っている。
こうなってはもう先程までのように軽くあしらうことはできない。同じ-No所有者を二人も仕留めた強者として遊午も覚悟を決めなければならない。
「バトルフェイズは終了、再度メインフェイズに移るわ。墓地に落ちているエッグ・ボムの効果を発動。このカードと墓地のレベル3以下の鳥獣族モンスター、グリーンパロットを墓地から除外してデッキから1枚ドローする」
手札増強カード。これで鶫の手札は三枚になった。
「このターン、私はまだモンスターを召喚していない。手札のPN-ブラッククロウを通常召喚するわ」
PN-ブラッククロウ ☆3 ATK 1700
「ブラッククロウの召喚時効果発動。デッキからPN-ブルークレインを墓地へ送る。さぁこれで、必要な条件は整った」
「おいまさか……!!」
「ブラッククロウをコストに魔法カード発動! フルカラー・オーケストラ!!」
フルカラー・オーケストラ 通常魔法
「墓地に眠る炎・水・風・地・光・闇の六つの属性を持つモンスターをフィールドに特殊召喚し、それら全てのモンスターを使ってエクシーズ召喚を執り行う!!」
ブラッククロウで足りない属性を補って、さらにそのブラッククロウをも墓地へ送って発動するフルカラー・オーケストラの極大コンボ。トリック戦の決勝札となったスーパープレーを今度は敵側として見せつけられる。遊午の手元に阻む手段は無い。
「スカーレットストーク、エピナールヘロン、ブルークレイン、ブラッククロウ! これら四体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」
六つの属性。六つの力。それら全てが一つに集い、雄麗の女王を光臨させる。
「輝き放つ絢爛なる翼よ、美しくも勇猛なる力で空を裂け! -No.90! プリズムフェザー・ピーコック!!」
-No,90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 2600 ORU 4
普段ならすぐに消えるはずの光の洪水が鎮まらない。薄暗い路地が目一杯の光で埋め尽くされていた。光源はもちろん中心にそびえ立つ巨鳥からだ。
「六つの属性をもつモンスターを素材にしたことにより、プリズムフェザー・ピーコックの能力が限界まで発揮される。炎属性、このカードの攻撃力は500ポイントアップし、」
紅蓮の光が全身に行き渡り、
「水属性、このカードは相手のカード効果の対象にならず、」
紺碧の光が周囲を覆い、
「風属性、このカードは一度のバトルで二回攻撃でき、」
翡翠の光が嘴を尖らせ、
「地属性、このカードは効果で破壊されず、」
琥珀の光が羽毛を固め、
「光属性、ライフと引き換えに仲間を呼んで、」
山吹の光が背後から差し込み、
「闇属性、1ターンに1度フィールドのカード効果を無効化する!!」
漆黒の光が影を生む。
-No,90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「800ポイントのライフを支払い、デッキから光属性のオーロラ・バードを手札に加えるわ」
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 1600
「さらにカードを1枚セットして、ターンエンド。さぁ、お待ちかねのフルパワーよ。なんとかできるもんならしてみなさいよ」
「……俺のターン、ドロー!」
これで遊午の手札も3枚。フルパワーが出てきた以上、次のターンはないと思った方がいい。この3枚で活路を見出さねばならない。
1枚のカードには1つの可能性。手札の数だけ選択肢が存在する。
だが、選択肢はそこにあるだけでしかない。そこから最善の一手を選び出すのが決闘者の役目だ。
「ジャイロスレイヤーを召喚!」
『ハッ!!』
ジャイロスレイヤー ☆4 ATK 800
「バトルだ。ジャイロスレイヤーでプリズムフェザー・ピーコックを攻撃!」
ジャイロスレイヤー ATK 800 vs -No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「自爆特攻……!? いや……」
鶫の手がわずかに揺れ動く。保険をかけてピーコックの無効化効果をジャイロスレイヤーに使うか迷ったのだろう。
そうやっている間にも状況は刻一刻と進んでいく。攻撃宣言タイミングは一瞬、結局鶫は効果を発動しなかった。
「ルール通り、攻撃力の低いジャイロスレイヤーは破壊される……ただし、ジャイロスレイヤーの先頭で発生する俺へのダメージは0になる。その後、戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に墓地に送る!!」
破壊でもなく、対象も取らない効果。これならばフルパワーのピーコック相手でも通用する。そしてジャイロスレイヤーの効果は墓地で発動する。フィールドの効果を無効化するピーコックでは止めることができない。
そして-Noが持つ耐性も効果で処理するなら関係ない。
「させるか! 手札のオーロラ・バードの効果を発動! このカードを手札から墓地に送ることで、バトルフェイズ中に発生した効果を無効にする!」
「凌いだか。でもまだウィングリッターの攻撃が残ってるぜ。行け!!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300 vs -No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 3100
「甘い! この瞬間、プリズムフェザー・ピーコックの効果発動! ウィングリッターの効果を無効にする!」
今度は迷いはなかった。ピーコックの太い嘴から漆黒の光波が矢のように放たれる。
デュエルモンスターでは、効果によって変化した攻撃力は効果を無効化にされれば元に戻ってしまう。ウィングリッターの元々の攻撃力は2500。無効化効果が通れば反射ダメージを受けて遊午は敗北する。
「それは読んでたぜ! 墓地に眠るミラー・ヴェールの効果発動! 自分ターンにこのカードを墓地から除外することで、ウィングリッターはこのターンミラー・ヴェール以外の効果を受けなくなる!」
透明な膜が今度はウィングリッターを覆う。膜に触れた漆黒の矢はあらぬ方向へと跳ね返された。
「『クロスウィング』!!」
マシンガンのごとき光線の猛攻を、ウィングリッターは時には身を捻り、時には剣の峰を使って捌いていく。特別太い一撃を大地を舐めるようにして避けると、翼を水平に広げてピーコックの懐へと潜り込む。
今度はウィングリッターの射程距離。雷剣の先端をガラスの胴へと突き立てる。そのまま残った大剣を振りかぶり、その持ち手で雷剣の柄を思いっきりぶっ叩いた。
ビシリ、という薄氷を踏み潰したような音が辺りに響く。ノミと木槌で木材を削る威力を数倍に底上げしたような一撃。いくら密度が高くとももともと壊れやすいガラスが無事ですむはずがない。音はビシビシ、ピシッと徐々に細かくなっていき、最後に一際大きな残響を残してピーコックが砕け散った。
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 1400
「聞き方が悪かったな。確かに結果だけ見れば完璧かもしれねぇ。ひとつの傷もなく、ひとつの曇りもなく、完全無欠で十全十美な非の打ちどころのない結末かもしれねぇ。けどよ、なにもかも思い通りってわけじゃあないんだろ」
舞い散るポリゴン片の中、遊午は再び問うた。
「お前は他人の手で手にした名声に納得がいってんのかよ。傷ひとつなくただ綺麗なだけの自分の身体を胸張って誇れんのかよ。脈絡も因果もなくいきなり転がり込んできた幸運に今までやってきた全てを否定されて、腹が立ってねぇのかよ。なぁどうなんだ?」
今度はすぐには言い返してこなかった。粒子となったポリゴン片が音を吸ってしまったように静かな帳が下りる。
長い長い間があって、
「……ド素人が。綺麗事ばっか言ってんじゃないわよ。私が何を抱えてここに立ってるかも知らないくせに」
鶫が重々しく口を開いた。声の端に一度は鎮まった怒りの炎がちらつく。
「繁華街の路上で誰も聞いてない歌を歌っていたときから、ううんもっと前、アイドルに憧れたその瞬間からずっとハートピアドームでライブをすることが夢だった。だけど夢は所詮夢、いざ本当にアイドルになってから初めて私がどんな無謀なことを言っていたのか気がついたわ。ねぇ知ってる? 私のファーストライブに何人のお客さんが集まったのか。ちょうどそこの通りでやったんだけど」
言って、鶫は遊午の奥の大通りを指差す。メインストリートから外れた脇道とはいえ曲がりなりにも眠らない3区である。早朝でも深夜でも人通りが途絶えることはない。
「答えは0人よ。オープニングから最後の曲を歌うまで、ただの一人も足を止めてくれなかった。マネージャーが太鼓判押してくれて、事務所も力入れて宣伝してくれてて期待して蓋を開けて見ればこのザマよ。笑っちゃうわよね。そんな奴がハートピアドームなんて寝言ほざくなってのよね」
震える唇から自然に乾いた笑みが溢れた。
「それでも馬鹿なことに、私は夢を諦めることはなかった。無茶で無謀でも、無理だとは思わなかった。案の定それから何度も何度も砂を噛んで、泥を啜って、その度に心が折れそうになった。ストレスで胃を空っぽにしたことなんて数えきれないくらいある。そうやって一年が過ぎて、大雪の中で凍死寸前になりながらデビュー1周年ライブを終えたとき、ついに私の心は折れた。何も考えずに握っていたマイクに触れることが怖くなったの。もう誰でもいいからこの地獄から解放してくれって、そう願ったのよ」
それが-No発現のきっかけ。そして、誰もを虜にするスーパーアイドルの誕生。
「その日から世界が劇的に変わった。ライブを開けば箱は満杯、CDを出せばすぐに完売。今まで見向きもされなかったのが冗談みたいに全てがうまく回ったわ。それまでやってきたことを嘲笑うみたいにね」
デュエルディスクをはめた左腕が髪に触れる。恐らく-Noの影響で色が変わったのであろう髪を、彼女はそのままぐしゃりと握りつぶした。
仮に虚空から見事なガラス細工が生み出せる能力があったとして。
そうやって生まれたものと手ずから作ったものとの間に美しさの違いはあるのだろうか。
結果だけを見る観客からすればどちらも差はない。1から作ったものと、0から生まれたもの。結局どちらも100に到達するならば、なんなら面倒な工程を省略できる後者の方が優れていると評する者もいるだろう。
だが職人だけは真っ向から否定するはずだ。ガラス細工は火に晒されればこそ美しいと、誰に聞かせるでもなく主張するはずだ。
彼らは観客とは違う。彼らだけは無骨なケイ素の塊が見事な芸術へと昇華する過程を間近で見ている。そんな彼らが思い通りの完成品を生み出す能力を得たとして、出来上がったそれになんの感慨を抱くというのか。
「……それでお前は、その状況を受け入れたのか」
「だって仕方ないじゃない。私以外はみんな幸せなのよ? ここでひとりだけ不平不満を訴えたって不必要に輪をかき乱すだけよ。それなら私は心を殺す。徹底的に中身空っぽの偶像《アイドル》になる道を私は選ぶ。結局ね、努力に意味なんてないのよ。私一人が死に物狂いになったところで、みんなが求めているのは完全無欠のスーパーアイドルつぐみんという結果だけ。その過程でどれだけのものを積み上げていようが誰も興味ない。だったらなんにもならない努力なんかするだけ無駄じゃないの。ーーーーえぇほんと、無駄なのよ」
言い切ると同時に鶫はデュエルディスクを操作、伏せていたカードを発動した。
「リバースカードオープン! エクシーズ・レインボー・リボーン!」
エクシーズ・レインボー・リボーン 通常罠
「墓地に眠るエクシーズモンスター1体を再びフィールド上に特殊召喚し、このカードをそのモンスターのオーバーレイ・ユニットとする! 三度舞い戻りなさい、プリズムフェザー・ピーコック!」
飛び散ったはずのポリゴンが再び一点に集中し、元の形が再構成される。
「それだけじゃないわ。オーバーレイ・ユニットとなったレインボー・リボーンは六属性全てを持った素材として扱う! これでピーコックはもう一度全ての力を取り戻す!」
ピーコックの体色が赤から青、青から黄、黄から緑……と瞬きごとに様々に色を変える。そのグラデーションは完全復活の証。攻撃力上昇、破壊耐性、対象回避、追加攻撃、そして効果妨害。ありとあらゆる能力を兼ね備えた巨鳥の再臨である。
『クエェェェェッッ!!』
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ★6 ATK 3100 ORU 1
鳥類特有の獲物を狙う鋭い眼光がじろりと遊午とウィングリッターを見下ろしてくる。まだ行動に移すそぶりは見えない。
ピーコックの闇属性効果は相手ターンでも発動できるが、遊午のフィールドで唯一の表側のカードであるウィングリッターは現在効果を受け付けない状態。今ピーコックが動く旨味はない。次の鶫のターンで確実に仕留めようという腹づもりだろう。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」
かといって遊午にもすぐに打てる手は存在しない。とにもかくにも残りの手札を全てセットする。これでなんとかできなければその瞬間彼の敗北は決する。
「私のターン、ドロー!!」
ドローカードが鶫の手に引き寄せられるように光の弧を描いた。
「ピーコックの光属性効果により、ライフを800払ってデッキから光属性のハロー・ファローを手札に加えるわ。そのまま手札から墓地に送ることで、鳥獣族モンスターであるプリズムフェザー・ピーコックの攻撃力をターン終了時まで倍にするわ!!」
YUGO 400
ーーーVSーーー
TUGUMI 600
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 6200
「くだらないデュエルも雑談ももうおしまい。この攻撃で決着をつけるわよ。全力全開ーーーー」
路地裏に差し込む薄明がプリズムフェザー・ピーコックに向けて一点に集中する。俗に天使の梯子《エンジェル・ラダー》と呼ばれる自然現象が超常の力によって強引に引き起こされる。極太の光線が放たれるまでのカウントダウンである。
そして、世界が暗転し。
「ーーーー『セブンレイ・キャノン』!!」
ゴオッ!! という爆音を引いて虹色の光芒が空間を抉り取る。美しくも雄々しい、逃れることすらおこがましいと思わせるような神々しさの暴力。あまりの威力に時の流れが遅く感じるほどだった。
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 6200 vs -No.39 天騎士ウィングリッター ATK 3300
放心状態になっていた遊午は、目前まで迫った光の塊に思わず目を逸らしたことで我に返る。
「その攻撃宣言時、リバースカード発動! 慈愛のバリアーミストフォースー!」
慈愛のバリアーミストフォースー 通常罠
「攻撃したモンスターの攻撃力分のライフを回復し、その後全ての相手の攻撃表示モンスターの攻撃力を0にする! さらにこの効果にチェーンして、ウィングリッターの効果も発動させてもらう!」
-No.39 天騎士ウィングリッター ORU 0
「このターン俺のライフポイントが回復したとき、その数値分だけウィングリッターの攻撃力を上昇させる! 攻撃宣言したピーコックの攻撃力は6200。何もないなら9500のダメージを与えて俺の勝ちだが……」
「ピーコックの闇属性効果発動! ミストフォースの効果を無効化する!」
「まぁもちろんそうするよな。けど今墓地に送られたフィルフェアリーの効果は発動させてもらうぜ。墓地に眠るモンスター1体につき300ポイントのライフを回復する!」
遊午の墓地のモンスターはフィルフェアリー自身を含めて合計5体。よって遊午は1500のライフを回復し、ウィングリッターは攻撃力を1500アップする。
YUGO 1900
ーーーVSーーー
TUGUMI 600
-No.39 天騎士ウィングリッター ATK 4800
これで発生するダメージは1500。この攻撃でライフが削れることはなくなった。
「……だから無駄なのよ。どんなに必死にあがいたって、圧倒的な力の前には無意味だって言ってるでしょうが」
怒りというより哀れみを含んだ声で鶫は言った。
「手札から2枚目のハロー・ファローを墓地に送って効果発動。ピーコックの攻撃力をさらに倍にするわ!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 12400
攻撃力12400。軽く3回分ライフを吹き飛ばせる破壊力。視界を完全に埋め尽くすまでに成長した圧倒的な力の前では遊午たちはもちろんウィングリッターですらちっぽけに見えた。
「あぁ確かにお前の言う通りだ。努力がそのまま結果に直結するほど世の中は甘くない。全部を投げ打ってやったことがこれっぽちも評価されないこともありゃ、ほとんど力を入れてないことが予想外にもてはやされたりもする。皮肉なことにな」
だが、遊午は引かなかった。むしろ真っ向から挑むように一歩前に歩を進める。
「でもな、努力した人間に何も掴ませないほど腐ってもいねーんだよ。全部を投げ打って努力した経験は絶対に何かを残す。もし歩いてきた道がなんにもならなかったように見えてんなら、それは-Noが原因じゃねぇ。お前自身がお前の努力を否定しているから目を逸らしちまってるだけだ」
「ッ! 気休め吐いてんじゃないわよ! そこまで言うなら教えてよ。一体どこに努力の意味が現れてるってのよ!?」
「あるじゃねぇか。はっきり。お前のすぐ目の前に」
そこで遊午は親指を自分の方に向けた。
「え……?」
まったくわけがわからないと言う風に吐息を漏らす鶫。当たり前だ。彼女の勘違いの根幹はそこにある。
「-Noは人智を超えた超常の力。お前の願いを叶えるための魔法のアイテムだ。ファンの数を百倍千倍にすることなんて息をするように実現してくれるさ。ーーーーそんな-Noでも、ないものをあることにはできない。嫌悪を好意に逆転させることはできても、誰にも興味を持たれていない人間を人気者にはできないんだ。0にいくら0をかけたって0のまま。だったらその0を1にしたのは、紛れもない、お前の努力だろ」
「ーーーー!」
プリズムフェザー・ピーコックは事象干渉系、逆に言えば干渉するべき事象がなければなんの意味もないでくのぼうだ。大火が怒るには火種がなくてはならない。それは例えば飽くなき欲望であるとか、世界を恨むほどの絶望であるとか、諦めきれなかった夢の置き土産であるとか。
それらを生むのはいつだってちっぽけな人間の力だ。
「あんまり自分の力を安く見てやるなよ。お前が絶望したってそのライブに希望を貰ったヤツだっているんだぜ」
大雪の中誰も見ていないのにそれでもひたすらにパフォーマンスを続けていた少女の姿を思い出す。あの時の彼女は作り物の太陽なんて比べ物にならないくらいに美しく輝いていた。
「つってもまぁ、このデュエルに関しては俺が貰うけどな」
「へ?」
「罠発動! カウンター・ウィング!!」
カウンター・ウィング 通常罠
「自分のモンスターが攻撃力に倍以上差があるモンスターとバトルを行うとき、戦闘破壊を無効にして相手モンスターを破壊するかもしくは発生するダメージを相手に肩代わりさせることができる! 俺はもちろん二つ目の効果を選択!」
「ってことは……ッ!!」
「あぁそうだ。12400-4800で7600の反射ダメージを与えて、俺の勝ちだ!!」
-No.90 プリズムフェザー・ピーコック ATK 12400 vs -No.39 天騎士ウィングリッター ATK 4800
ウィングリッターが双剣を空に放ると鋭利な刃は元の白い羽根に戻り、背中の翼に吸い込まれていく。羽根の枚数を増やした翼が三倍以上に膨れ上がる。これで単純に先から先までを比べればピーコックの光線と遜色ないサイズになった。
その翼で全身を覆うと、今度は翼の表面だけをさらに細分化して光の粒子に変換。鏡のような光沢を持った皮膜を形成する。
そこまで済ませたところで、間髪入れずに光線が激突した。
轟く轟音。走る雷電。舞う粉塵。
触れた箇所から超高温で熱されていき、翼の表面が赤く煮えたぎる。直接食らわなくともその推進力だけでウィングリッターの体がずりずりと引き下げられていった。吹き荒れる破壊の嵐の中、それでもウィングリッターの眼は死んでいない。じりじり、じりじりと僅かずつだが確実に後ろ向きの加速度を落としていく。
そして、プリズムフェザー・ピーコックの体内から完全に光が吐き切られた、その一瞬。
ウィングリッターは一気に翼を開放した。
『ハアァァァッッ!!!』
翼に付着した光の粒子をピーコックに向かって跳ね返す。エネルギーを蓄えた粒子はひとつひとつが確かな破壊力を持った散弾のようなもの。ピーコックのガラスの体に次々と拳大の穴を貫通させていく。
『グエェェェェエエエッッ!!!』
消滅をまぬがれようともがくピーコック。断末魔の叫びとともに七色に点滅する核のど真ん中に粒子を食らい、輝きを貪る虚栄の巨鳥が風に乗って消えた。
YUGO 1900
ーーーVSーーー
TUGUMI 0
☆ ☆ ☆
「急いで鶫! すぐ始めるわよ!」
「わかってますってば!!」
マネージャーの焦る声を背に受けながら、鶫は立体迷路のように組み上げられたセットを駆け抜けテいく。自分のポジショニングはもちろんどの小道具がどこに終われているかまで事前に頭に入れてある。今日の舞台裏なら目隠ししたって歩き回れる。
すぐに目的のバリを発見。両の踵でしっかりと踏みつけた。
「セリ準備できてます!」
「マイク感度良好!」
「ライト、音響ともに問題なしです!」
胸に手をあてて息を整える。目を閉じると周囲を固めるスタッフの声が自然と耳に入ってきた。
「まもなくカウント始めます! 秋葉さん!」
その言葉に、小さく深呼吸をして、
「いつでもいけます!!」
心なしか重い瞼を見開いて空を仰ぐ。下向きの重力を肩に受けつつ、鶫は憧れの舞台へと躍り出た。
途端にまばゆい照明と雪崩のような歓声が全身を包む。音の震えがステージの揺れとなって伝わってくる。暗闇の中から注がれる合わせて6万の視線が肌に刺さる。今までとは感じる『圧』が大違いだ。
これがハートピアドームのステージ。この街に籍を置くアイドル志望者なら誰もが夢見る大舞台。マイクを握る手が自然と汗ばむ。幼い頃から夢現の両方で夢見てきた空間の中心に立っているという自覚が胸の奥から全身を熱くさせていた。
しばらくして、拍手喝采がまばらになっていく。最後の一人が静かになったタイミングを見計らいもう一度小さく息を吸ってから。
『ーーーーみなさんに言っておかないとといけないことがあります』
挨拶より先に鶫はそう告げた。吐息を拾ったマイクが小さくハウリングする。
突然の宣言に会場がさざ波のようにざわついた。アイドルがこの言葉を出すときは大抵ロクなことがない。延期か中止か、はたまた引退か。生唾が喉を通る音がここまで伝わってくるようだった。
鶫はえも言われぬ不安に揺れ動くファンの眼をまっすぐ見つめ返す。
『今日、ここに来るまで色々なことがありました』
頭の中でひとつひとつ思い返しながら言葉にしていく。
『嬉しいことだけじゃありません。むしろ辛いことや苦しいことの方がたくさんでした。それを乗り越えてこれたのは単に運が良かったから。私にはほんとの実力なんてない。偶然いい人たちに巡り会えて、偶然大きなチャンスを掴めて、偶然みんなが応援してくれて、だから私はアイドルをやっていられているんだって。ずっとそう思っていました。だけど、ある人に言われて気が付いたんです』
別にあの男にほだされたわけじゃない。アイドルたるもの人に言われて簡単に自分の信念を曲げるような軟派な精神ではやっていけない。これはあくまで自分で考えて出した答えである。
『確かに運はよかったのかもしれません。でも今まで私がしてもらったことを全部『運』の一言で片付けるだなんて、今まで自分がしてきたことの責任を全部『運』の一言に押し付けるだなんて、それってすごい失礼な考え方じゃないですか。自分の謙遜のために他人の努力を否定する。そんなことあっていいはずがないんです』
ただ、あの男に出会ってもう一度考え直すきっかけになったのは確かだ。
『……だから、少しだけ。もう少しだけ自分の力を信じてみてもいいですか? 自分が頑張ったからみんなが頑張ってくれてるって胸を張ってもいいですか?』
暗闇に向けて鶫は尋ねた。この話はマネージャーにも通していない。きっと裏でスタッフたちと一緒に息を飲んでいることだろう。彼女のことだからあとでちゃんと説明すれば理解を示してくれるとは思うけれど。
シン、とドーム全体から音が消える。そう、肝心なのはファンに受け入れてもらえるかどうか。-Noの副作用による装飾のなされていない裸の言葉を聞き入れてもらえるかどうかだ。もし本当に彼らが-Noによって毒されていただけならば、この場で鶫のアイドル人生終わってもおかしくない。
怖い、誤魔化しなく自分が評価されることが。
怖い、積み重ねてきたものの価値が判定されることが。
怖い、もし無意味だとはっきりしてしまったら。
怖い、怖い、怖い。
底知れぬ不安に膝が勝手に震えだす。慟哭のような耳鳴りが脳を支配する。
思わず目を背けそうになった、そのとき。
『……つーぐみん』
客席の一角から声が湧いた。
『つーぐみん、つーぐみん、つーぐみん』
その声は次々に隣に伝播して、
『つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん! つーぐみん』
やがてはドームを揺らすほどの歓声となった。
「…………っ!」
思わず涙が溢れそうになる。無謀な夢だった。無茶な憧れだった。けれど、無駄な努力じゃあなかった。死に物狂いでもがき、取り返しがつかなくなっても足掻き続けてきた意味は確かにあったのだ。
漏れ出た雫を手首で拭い取り、鶫はもう一度マイクを握る手に力を込めた。
『ありがとう。本当にありがとうっ! 私頑張るから、これからもっともっと頑張るから! だから応援よろしくお願いします!』
心の限り頭を下げた鶫にファンたちはワアァァァッッ!! と盛大な拍手で迎えた。
同時刻同場所、正確にはハートピアドーム正面入り口前で同じく心の限り頭を下げている少年がいた。
「だからですね、チケットはちゃんと手に入れたんですって。なんなら一度ここにもきましたよ」
無事鶫をここまで送り届けた遊午は警備員にもう何度も繰り返した説明を繰り返す。
「けど、ついさっきバイクにはねられたときに落としたんです! あのプレミアチケットを! 半年分の食費を犠牲にしたチケットを! いくらなんでも酷すぎるだろチクショウ! ねぇ酷すぎますよね!?」
「いや知らないけど……。ていうか君ほんとにバイクにはねられたんならなんでそんなピンピンしてんの?」
「愛の力です!!」
「愛の力かぁ……」
呆れたというより疲れた表情になる警備員。
「でもねぇ……別に君が嘘をついてると疑うわけじゃないんだけど、こっちもルールだからさ。チケットを持ってない人を入れるわけにはいかんのよ」
「そこをなんとかお願いしますよ! 俺とあなたの仲でしょう!?」
「私君のこと知らんし……」
はぁ、と大きくため息を吐き、警備員は左手に巻いた腕時計を確認する。
「とにかく、可哀想だけど今回は諦めて。というかそろそろ交代だから帰るね」
「あぁ待って待って! 行かないで! なんでもするから、この場で全裸にだってなるから! ほら!」
「いやなんでいきなり脱ぎだしてんの!?」
「はぁ……はぁ……もう少しだけ時間ください……! すぐに全裸になりますから……! ついに往来のど真ん中で全裸になれますから……!!」
「もはや趣旨変わってるよね!? 君脱ぎたいだけだよね!? ちょ、応援! 応援お願いします! 本部ー!!」
翌日、秋葉 鶫のドームライブはありとあらゆる情報媒体で取り上げられ、その会場で不審者が出たというニュースはちょっとだけネットを騒がせたのであった。
◎-No.90 プリズムフェザー・ピーコック
ーーーー回収完了。残り92枚。
現在のイイネ数 | 76 |
---|
↑ 作品をイイネと思ったらクリックしよう(1話につき1日1回イイネできます)
同シリーズ作品
イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
---|---|---|---|---|---|---|
231 | 第1話 夜と雑誌と銀髪少女 | 1496 | 10 | 2017-05-01 | - | |
129 | 第2話 欲と剣と白い十字架 | 1141 | 7 | 2017-06-01 | - | |
114 | 第3話 部屋とシーツとネーミング | 906 | 4 | 2017-06-21 | - | |
109 | 第4話 寝起きと化学と鎖の槍 | 888 | 2 | 2017-07-16 | - | |
147 | 第5話 拳と支配と月明かり | 1035 | 2 | 2017-08-28 | - | |
119 | 第5.5話 風呂とタオルとハイテンション | 943 | 4 | 2017-08-28 | - | |
117 | 第6話 壁と修理とハリケーン | 966 | 6 | 2017-09-21 | - | |
124 | 第7話 犬と屋敷と都市伝説 | 987 | 4 | 2017-10-31 | - | |
194 | 第8話 掟と違和感と身代わり人形 | 989 | 4 | 2017-11-27 | - | |
76 | 第9話 首輪と矛盾と初めの一歩 | 858 | 6 | 2017-12-25 | - | |
141 | 第10話 後輩と奉仕と路上戦闘 | 988 | 6 | 2018-01-22 | - | |
156 | 第11話 電話とモグラとシャンパンピンク | 869 | 6 | 2018-02-26 | - | |
74 | 第12話 放課後と兎と北斗七星 | 859 | 6 | 2018-03-26 | - | |
94 | 第12.5話 ゴスロリと尾行と着ぐるみ | 878 | 7 | 2018-03-26 | - | |
113 | 第13話 クジと透視と掌握結界 | 865 | 4 | 2018-04-25 | - | |
209 | 第14話 奇術師と孔雀と鏡の主 | 1060 | 5 | 2018-06-07 | - | |
76 | 第15話 巨鳥と誤解と努力の意味 | 752 | 4 | 2018-10-24 | - | |
83 | EX.1 第15話までの登場人物まとめ | 1052 | 2 | 2018-10-24 | - |
更新情報 - NEW -
- 2024/09/30 新商品 WORLD PREMIERE PACK 2024 カードリスト追加。
- 09/30 12:47 評価 8点 《鎖付き飛龍炎刃》「《サラマンドラ》と《鎖付きブーメラン》が合…
- 09/30 12:43 掲示板 オリカコンテスト(R)計画処
- 09/30 12:27 評価 8点 《サラマンドラ・フュージョン》「明らかに《聖騎士の追想 イゾル…
- 09/30 12:15 評価 7点 《果てなき灰滅》「《灰滅》の永続罠。 自身の送り付けが可能な《…
- 09/30 12:15 デッキ 灰よ
- 09/30 11:56 掲示板 オリカコンテスト(R)計画処
- 09/30 11:49 評価 6点 《灰滅せし都の先懸》「相手の場にエース級や《滅亡龍 ヴェイドス…
- 09/30 11:47 評価 9点 《滅亡龍 ヴェイドス》「名前と出で立ちから《ドラゴン族》っぽく…
- 09/30 11:45 評価 7点 《灰滅せし都の英雄》「灰滅の妨害要員になれるカード。 《滅亡龍…
- 09/30 11:41 デッキ さらりと強化された暗黒界
- 09/30 11:37 評価 7点 《灰滅の憤怒》「ほぼ《滅亡龍 ヴェイドス》を墓地に送ってそれを…
- 09/30 11:27 評価 8点 《灰滅せし成れの果て》「素材のゆるさが本体。 《果てなき灰滅》…
- 09/30 11:23 評価 9点 《滅亡き闇 ヴェイドス》「主に《果てなき灰滅》による融合効果で…
- 09/30 11:19 ボケ Voici la Carte~メニューはこちら~の新規ボケ。私の人生…
- 09/30 11:14 評価 7点 《終わりなき灰滅》「《滅亡龍 ヴェイドス》でセットできる永続罠…
- 09/30 11:06 評価 8点 《灰滅の復燃》「灰滅の妨害方法は破壊に偏っていますが、このカー…
- 09/30 11:04 ボケ 狂愛の竜娘アイザの新規ボケ。"狂愛"…? 失礼だな…"純愛"だよ。 …
- 09/30 11:01 ボケ 暗黒界の文殿の新規ボケ。さて…今日は伊東ライフ先生にするか…
- 09/30 11:00 評価 5点 《狂愛の竜娘アイザ》「 自ら相手にくっついた挙げ句に心中してく…
- 09/30 10:58 評価 8点 《果てなき灰滅》「《滅亡龍 ヴェイドス》によってセットできる罠…
Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
そしてクマきtじゃない脱ぎたがり遊午が笑って爽やかに終わらせてくれます。 (2018-10-24 14:17)
コメントありがとうございます! 久しぶりの投稿にも関わらず読んでくださっただけで感無量です……!
でもってストーリーに共感してくれるのは物書き冥利に尽きます。書くべきストーリーに書きたいことをうまく混ぜていけると嬉しいんですよね。
彼もまた、プレミアチケットに踊らされただけの犠牲者の一人に過ぎないってことさ……。 (2018-10-24 16:07)
トリック戦が終わって一先ず安泰と思ったら、そういえばつぐみんも-No持ってたんですよね。こういった事情でしたか。力を使っていた事実はあろうとも努力してきた事実もキチンとありました。しっかりとファンにも伝わっていたようですね。 (2018-10-24 22:03)
コメントありがとうございます! 前回の投稿から間が空いてしまって申し訳ないです……!
いつの世も人が本気で頑張っている姿は泥臭くて綺麗です。夏に甲子園の特集(特に負けた側のチームの)とか見ていると眩しすぎて心がやられそうになります。これが老いですかね。 (2018-10-24 22:43)