会戦〜開幕、対抗試合〜　作：名無しのゴーレム

––あーあ、また負けちゃったね。




……ああ、負けたのか、俺。




––どう？ やっぱり悔しい？




悔しいに決まってる……でも、それ以上に。




––それ以上に？




……勝てない。俺じゃあいつらに、帝国のデュエリストに……俺は、弱いから。




––情けないなぁ。たかが2回負けただけでしょ？ それで諦めちゃうの？




…………




––大丈夫、だってあなたはヒーローだから。私が保証する。あなたは強い。強くなりたいなら強さを求めたらいい。きっと強くなれるよ。だってあなたは……















『私の、ヒーローなんだから』















ー ー ー ー ー ー ー



「…………」


目を覚ませば、そこはベッドの上だった。体を起こすと、すぐ隣でライトが椅子に座っているのが見えた。


「お、起きたか。気分はどうだ？」
「…………」
「……あの後、お前は気絶したんだよ。ここは前に言ってた宿舎、丸一日ほど寝てたんだよ」
「そうか……！！ 待て、対抗試合は！？」


ライオネルの話が正しければ、今日が対抗試合の日だったはず。もう昼頃……とっくに始まっているはずだ。


「もう始まってるよ。と言っても午前中は開会式、その後2、3試合ほどして昼休憩に入ったが……遊介、お前は2日目だから大丈夫だよ」
「なら、良かった……姫様たちは？」
「姫王のことか？ 基本的に強い奴ほど後に回す予定だから、多分最後の方だと思うぜ。今はお偉い人用の観戦席に居るはすだ」
「行ってもいいか？」
「おう。案内してやるよ」






「なあ、ライト」
「どうした？」


宿舎から闘技場まで徒歩で数分。その途中、ライトに疑問をぶつける事にした。


「あいつ……何者なんだよ」
「……『ネロ・グランベルゼ』。それが名前だ」
「グランベルゼ……そうだ、女帝と同じ！」


となれば、まさか……


「先に言っておくが、ネロと俺たちに血縁関係は無いからな。帝国領付近の森で姉様が見つけて、そのまま拾って名前を付けただけだ。……何でも、デュエルをしたら盛り上がったから拾って来ただとか」
「……あのドラゴンは？ 女帝のエクシーズモンスターと似た感じがしたんだが」
「俺もよくは知らねえよ。でも、ネロ曰くあのカードには精霊が宿っているとか。たまに1人で話し出すことがあるから、あながち嘘とも思えないんだよなぁ」


カードの精霊。普段ならあり得ないと笑い物にするかもしれないが、あれを体験した後だと……信じざるを得ない。


「一応ネロのお守りは俺の担当だが、あんなの面倒見きれる訳ないだろ？」
「そうだな……ああそうだ、じゃあライオネルっていう親戚はいるか？」


思い出したついでだ、これも聞いておこう。


「ライオネル、だと？」
「えっと、やっぱり知らないか？ そうだよな、旅人だって言ってたし……」
「待てよ遊介。……『ライオネル』は先代皇帝の姓だ。そいつが俺の親戚……つまり、ライオネル・グランベルゼとでも名乗ったのか？」
「あ、ああ」
「……遊介、お前遊ばれてんぞ。お前が何も知らないのをいい事に、適当言ってるだけだな」
「じゃ、じゃあライオネルって名前は……」
「100パーセント偽名。つーかこの世界の人間なら誰でも気付くだろ？ どんだけ間抜けなんだよ」
「ぐむっ……」


……つまり、ライオネル（これは偽名であることが判明したが）は俺がこの世界に疎いことを知っていて……いや、逆か。


「あいつは、俺が何者かを知る為にカマを掛けてたんだ……」
「ともかく災難だったな。まあネロは対抗試合には出ないし、その自称旅人だってもう会うこともないだろ。姉様もお前のところの姫王との再戦を楽しみにしてたし、これ以上の厄介事はないさ」
「だと、いいんだが」
「ははっ、少しは気楽に考えろって……ほら、着いたぜ。ここを真っ直ぐ行けば姫王たちと会えるはずだ」
「ありがとう、ライト」
「気にすんなって。さて、この対抗試合……どっちが勝つかねぇ？」










––––ライトと別れ歩くこと数分。俺はついにその人の姿を見つけた。


「遊介！！」


俺に気付いた姫様は、すぐさま席を立ってこちらへ駆けて来た。


「おっ……姫様、どうしたんだ？」
「それは私の台詞です！ 各所への挨拶を済ませて宿舎に入ったと思ったら、遊介のことを聞かされて……本当に、心配したんですよ！？」


…………そうだったのか。


「……悪い。俺が、もっと強かったら……」
「そんなこと関係ないです！ 私は……無事で、本当に良かったです」
「っ…………」


俺のせいだ。俺が弱いから、姫様にこんな顔をさせてしまったんだ……


「姫、それに遊介殿。ひとまずその辺りにしておいて、席に座りましょう。……もうすぐ、次の試合が始まります」
「……分かりました。ほら、遊介もこちらに」
「……ああ」


クイナさんの指示に従い、用意されていた観戦席に座る。今まさに、デュエルが始まろうとしていた……













ー ー ー ー ー ー




「さぁって、いよいよ俺の出番っスね」


向こうのデュエリストよりも一足先に会場入り。初日の午後の部、盛り上がっている観客……ああ、最高の舞台っス！


「俺の相手は……」
「私よ」


その姿が見えた瞬間、観客のボルテージが一層高まったように見えた……なるほど、彼女が相手っスか。


「久しぶりっスねぇ、女帝の側近さん」
「……ああ、そういえば見た顔ね。確か……どこであったかしら？」
「むっ、俺はエルド・テイラー！ シズク様率いるカーバンクル隊の一員っス！」
「あっそう。悪いけど私、興味無い男のことは記憶に留めないことにしてるから。アンタは無い、マジで無い。ライト様の1億分の1の魅力もないっての」
「なっ！？」


勝手に評価、さらに酷評！？ 『ライト』ってのが何者かは知らないっスけど、さすがにそれは……


「仮にも男として、その評価は傷つくっスねぇ……ならこのデュエルで認めさせてやるっス！！」
「無理無理。あんた、この前2対1でようやくいい勝負だったの覚えてないの？ それが今度はタイマン、結果は見えてるっての」
「……いいんスか？ 油断は禁物っスよ」
「へぇ、ようやく戦士の顔になったじゃない。面白いわね」
「『面白い』？ いいや、その言葉はこれからに取って置いて欲しいっスね」


そう、楽しいのはこれから。何たって……


「ヘクシエールの誇るエンターテイナー、『バブルパフォーマー』とは俺のことっス！ さぁ、最高のデュエルを見せてあげるっスよ！」
「出来るものなら、ね。帝国とライト様の為に捻り潰してあげる！」











「それでは……ヤノカ・セシルvsエルド・テイラー、デュエル開始！！」














「「デュエル！！」」