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HOME > 遊戯王SS一覧 > EP.01 望月イツキの苦難

EP.01 望月イツキの苦難 作:イツとき


夜の暗闇に響く豪雨。それに掻き消されそうなほど小さく、不規則にアスファルトの水を弾く音が紛れこむ。少女はコンクリートの壁にもたれ、雨の中をずぶ濡れになりながら歩く。傘を持つはずの右腕は左の二の腕を握り、その左腕は力なく垂れ下がるのみ。さらに左脚も糸の切れたように引きずられるままである。夜の豪雨に晒された少女の体は冷え切ってだんだんと呼吸が荒くなる。それに対して左半身の帯びる熱はその熱さを増していく。
少女の左腕と左ももには穿たれたような傷、そこから手では抑えられぬほどの血が溢れ出していた。
右脚と右肩だけで体を支えながら歩く少女の顔は痛みと焦りそして恐怖に歪んでいた。
やがて跳ねるように進んでいた少女の右脚が小石に躓きその場に崩れ落ちる。
必死にもがく少女だが冷たくなった右腕と右脚は思うように動いてはくれない。
焦る少女の顔を影が覆う。恐る恐る見上げた少女の視線に映ったのは雨に濡れる鉄の塊と吊り上がった口角だった。
そっと瞳を閉じる少女、その後には酷い鉄臭さだけが残った。

「っ!!…はぁ…はぁ……」
俺は上半身を跳ねるよに持ち上げ飛び起きた。息は荒く身体には汗が滲んでいる。
息を整えるように軽く深呼吸をして寝ぼけた頭に酸素を送る。
あれ、俺は今どんな夢を…?
余程の悪夢だったはずだが頭の中に靄がかかったように思い出せない。暫く粘ってみるが結局記憶の片鱗も見出せず、残ったのはモヤモヤした感覚と胸を締めつけるような痛みだけだった。
夢なんて久しぶりに見たな、余程疲れてたってことだろうが…久しぶりの夢がよりにもよって悪夢っていうのはどうなんだ。
などとくだらない事を考えながら左に目線をスライドさせる。
寝ぼけ眼が捉えたのは半開きのカーテンとその隙間から溢れる光と、昨夜の俺の疲労と怠惰。
枕元のスマホが写す現在の時刻は11:43。
もうすぐ1日の半分が過ぎようとしていた。
自分の無駄にした時間に少し憂鬱になりながら、そっと目を逆側に向ける。
視線の先には空のものから未開封のものまで段ボールがゴロゴロと転がっており、その全てに「Area9 仙羽 14-c7 聖北学園 A寮第3棟-410 望月イツキ」と記されている。
「はぁ…起きるか」
昨日部屋に入った時と同じため息を吐いてベッドから降り、カーテンを開ける。
明るい日の光に思わず目を細めた。
「人間は日光を浴びると体の中のスイッチが切り替わる」とかテレビでどっかのおばさんが言ってたが、それが真実なら俺は人間ではないようだ。まだまだ眠い眼をこすりながら、ベッドの反対側のリビングスペースへ向かう。
リビングとは言ってもソファにテーブル、ラック、テレビと本棚に加え備え付けのクローゼットがあるだけの、寝室と一体のワンルームだ。そんな部屋に段ボールが所狭しと置いてあっては寛ぐことなどできるはずもなく、早く片付けなきゃなーと思いながらソファに腰を下ろしテレビをつける俺なのだった。
何かないかとテレビをボーッとザッピングする。
なんもないなーと映像が流れていく中、一つのニュース映像を遅れて認識した俺は急いでチャンネルをそのニュース番組に戻す。

「ーー日の佐久間台駅で起きた停電・閉鎖事件で、警察は目撃者の情報から得た、犯人と思われる人物の特徴を公開しました。
犯人は20代後半から30代前半の男で、黒のスーツに黒の帽子を目深に被っており上半身にカラーボールの液体が大量に付着していたようで、駆けつけた救援隊員が開いた閉鎖扉からモンスターに乗って飛び立つ犯人と思われる人物を見たとのことです。
また駅の制御室のパネルにハッキングの痕跡があり、警察は監禁罪及び不正アクセス禁止法の疑いで調査を続けています。続いてーー」

佐久間台の駅の閉鎖、飛び去った黒服の男、おとといのマキナをめぐる事件のことだ。
あの後俺は救援隊員に保護され服が血まみれだったこともあり病院に運ばれ検査を受けた。だが当然のようにかすり傷は数あれマキナのせいで大きな怪我はなく、ほどなくして警察にそのことも含め色々と事情聴取された訳だ。大体のことは真実を喋ったがハクアさんとマキナのことは喋れる訳も無く、消えた傷のことも誤魔化すしかなかった。
その後念のためと入院させられ昨日の昼頃にようやく俺は解放されて…ここに辿り着いた頃にはもう日は沈みかけていた。
疲れ果てた俺は夕日をバックに無駄に広い学園の、この部屋の扉を開き盛大にため息を吐いたのだった。
そして深夜2時まで段ボールと格闘し死ぬように眠りに落ちて今に至る。
こうやって聞くと悪夢の一つや二つ見てもおかしくないな…
などと宣い今度こそ覚醒した頭と体で段ボールを片付け始めたのだった。
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