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第一話 始まりの刻 作:raw
始まりは、いつも突然だ。
それは、いつも、何の脈絡もなく忍び寄る。
これは、そんないつも通りの朝から始まる話 ―――
「これでよし、と」
その日の朝も俺は、いつも通りにデュエルアカデミアに行く準備をしていた。
繰り返す毎朝の習慣。
デッキを腰のホルダーに入れ、制服を羽織り、デュエルディスクを腕に付けたあたりで、ちょうど「あいつ」が、元気よく玄関に飛び込んでくる。
「おーい!遊士(ゆうし)!早く行くぞー!」
これもいつものこと。その声に、俺はいつも通りに返事をする。
「おう!今行くからちょっと待っててくれ、ミサキ!」
そう。何もかもいつも通りだったんだ。この時までは。
二階の部屋から出て、階段を降り、玄関へと向かう。
その途中で、付けっ放しにされているテレビが目に入った。
玄関への行程を途中で折れ、テレビの前に向かう。
「おーい、遊士ー?何やってんだ?先行くぞー?」
「悪い!ちょっと待っててくれ!WRGPのことテレビでやってるんだ!」
「なんだよ、それなら昨日の夜もやってただろ?」
「昨日はデッキ組んでたら寝落ちしたんだよ!」
まったく…と呟く親友を尻目に、眼前の情報に目を通す。
WRGP。今、ネオ童実野シティで開催されている大規模なライディングデュエルの大会。
全世界から集まった腕自慢のD・ホイーラー達が、互いに最強を目指して競う、ライディングデュエルの最高峰だ。
テレビには、先日行われた本戦第二試合について表示されていた。
その結果は「チーム5D’s」「チーム・ニューワールド」の勝利。
その中でも特筆されていたのが、「チーム・ラグナロク」vs「チーム・5D’s」の内容だった。
優勝候補と目されていた「チーム・ラグナロク」のエースモンスター「三極神」を、
「チーム5D’s」のリーダーにしてエース、「不動遊星」がコンボで葬り、
その後彼のエースモンスター「シューティング・スター・ドラゴン」がフィニッシュを決める様が、大々的に放映されていた。
その光景を俺は、どこか遠い憧憬の様に眺めながら、ぼんやりと呟く。
「やっぱり、遊星さんはかっこいいな…」
その陶酔を打ち砕くかのように、しびれを切らした三佐貴が声を荒げる。
「おーい!!そろそろ行かないと本気で遅刻するぞ!!!」
「ああ、悪い悪い!今行くよ!」
その声に圧されるように、俺はテレビを消しながら立ち上がり、そしてぼそっと囁く。
「…ま、俺には届かない世界の話だ」
そうして、俺は部屋を出て、玄関を出て、親友、美浜ミサキと共に、自転車に乗って駅へと駆けた。
…そういえば、気になったことがあった。
本戦第二試合の、「もう一つの試合」。
その勝利チームの名前。
ペダルを漕ぎながら、親友に尋ねる。
「…なあ、ミサキ」
「んー?なんだ?」
何か、妙なものを感じていた。
「チーム・ニューワールドってさ」
「ああ、あのダークホースのことか。なんでもシンクロメタの見たことないテーマ使うらしいな。それがどうした?」
違和感は、あった。
「ああ…。なんていうか、さ。変なことを聞く事になるかもしれないんだが」
「なんだよ、勿体付けるなんてお前らしくもない。早く言えよ」
さっきのテレビで、それが確信に傾いた。
「…じゃあ聞くけどさ。あのチーム…」
突拍子もないかも、しれないけど。
「最初から、いたか?」
目の前の信号機が赤く染まる。
ミサキが止まり、こちらを向く。
そして、口を開き、言葉を紡ごうとする。
多分、「は?」とでも言おうとしたんだろう。
その言葉は、俺の耳に入ることはなかった。
目の前が、世界が、歪んだから。
何が起こったのかは分からなかった。
正面にいたはずのミサキの姿が、酷く歪曲し、距離感を失う。
その背景のビルが、遠くに見えるデュエルレーンが、すぐ横に立つ信号機が、
そしてさらには、今立ってる地面もが、現実感を失う。
「あっ…がっ…ぐぁ…!?」
メリーゴーランドの様に廻る世界に、俺はたまらず頭を抱え、目を瞑る。
そして俺は、そのまま意識を手放した。
「…ぃ!………い!」
その振動で、俺は意識をゆっくりと取り戻す。
先ほどのあれとは違った、乱暴だが人間的な揺れ。
「…おい!」
「ミサ…キ…?」
目を開けると、そこには、ミサキが心配そうな表情で立っていた。
「ああ、良かった。全く、寝不足か?心配させるなよな」
何秒か、それとも何分かは分からないが、気絶していたようだ。
「あ、ああ……悪い。なんだろうな、急に気分が悪くなったんだ」
とにかく、さっきのあれは治まったみたいだ。
とりあえず、もう変な所は…って、あれ?
「…なあミサキ」
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
『なんだ、俺がおかしいのか?』
「二つだけ質問させてくれ」
「…またか?お前はいつからそんなに質問好きになったんだ」
「いいから。答えてくれ」
『いやそんな筈は無いだろ。だってそうだろ?』
『俺たちは確かにさっきまで、二人で、』
「まず一つ。そいつは、誰だ?」
そう言って俺は、俺が気を失う前にはいなかった、ミサキの隣に立つ、長身の男を指さす。
『自転車に乗ってたはずなんだから』
「もう一つ。どうして俺とお前は、D・ホイールに乗ってる?」
そうして俺は、ミサキの、そして俺の乗るD・ホイールを見る。
どちらも、俺が気を失う前からの明らかな変化だ。
何が起こったかは分からないが、とにかく変わっている。
そもそも、俺は授業演習以外でD・ホイールに乗ったこともなければ、
自分のD・ホイールを持ってすらいない。
それはミサキも同じだったはず。なのに、ミサキは不思議そうに、そして心底心配そうに俺の目を見つめ、そして答えた。
「……ほんとにお前、大丈夫か?こいつは『ブルーノ』で、俺たち『チーム・アルタ』の3人目のメンバー。そんでD・ホイールに乗ってるのなんて、これからWRGPの決勝会場に行くからに決まってるだろ?やっぱりあれか、疲れてるのか?」
その答えに、俺は、目を見開いて驚く事しかできなかった。
――― そう、この朝から、俺の未来を取り戻す戦いは始まったんだ。
それは、いつも、何の脈絡もなく忍び寄る。
これは、そんないつも通りの朝から始まる話 ―――
「これでよし、と」
その日の朝も俺は、いつも通りにデュエルアカデミアに行く準備をしていた。
繰り返す毎朝の習慣。
デッキを腰のホルダーに入れ、制服を羽織り、デュエルディスクを腕に付けたあたりで、ちょうど「あいつ」が、元気よく玄関に飛び込んでくる。
「おーい!遊士(ゆうし)!早く行くぞー!」
これもいつものこと。その声に、俺はいつも通りに返事をする。
「おう!今行くからちょっと待っててくれ、ミサキ!」
そう。何もかもいつも通りだったんだ。この時までは。
二階の部屋から出て、階段を降り、玄関へと向かう。
その途中で、付けっ放しにされているテレビが目に入った。
玄関への行程を途中で折れ、テレビの前に向かう。
「おーい、遊士ー?何やってんだ?先行くぞー?」
「悪い!ちょっと待っててくれ!WRGPのことテレビでやってるんだ!」
「なんだよ、それなら昨日の夜もやってただろ?」
「昨日はデッキ組んでたら寝落ちしたんだよ!」
まったく…と呟く親友を尻目に、眼前の情報に目を通す。
WRGP。今、ネオ童実野シティで開催されている大規模なライディングデュエルの大会。
全世界から集まった腕自慢のD・ホイーラー達が、互いに最強を目指して競う、ライディングデュエルの最高峰だ。
テレビには、先日行われた本戦第二試合について表示されていた。
その結果は「チーム5D’s」「チーム・ニューワールド」の勝利。
その中でも特筆されていたのが、「チーム・ラグナロク」vs「チーム・5D’s」の内容だった。
優勝候補と目されていた「チーム・ラグナロク」のエースモンスター「三極神」を、
「チーム5D’s」のリーダーにしてエース、「不動遊星」がコンボで葬り、
その後彼のエースモンスター「シューティング・スター・ドラゴン」がフィニッシュを決める様が、大々的に放映されていた。
その光景を俺は、どこか遠い憧憬の様に眺めながら、ぼんやりと呟く。
「やっぱり、遊星さんはかっこいいな…」
その陶酔を打ち砕くかのように、しびれを切らした三佐貴が声を荒げる。
「おーい!!そろそろ行かないと本気で遅刻するぞ!!!」
「ああ、悪い悪い!今行くよ!」
その声に圧されるように、俺はテレビを消しながら立ち上がり、そしてぼそっと囁く。
「…ま、俺には届かない世界の話だ」
そうして、俺は部屋を出て、玄関を出て、親友、美浜ミサキと共に、自転車に乗って駅へと駆けた。
…そういえば、気になったことがあった。
本戦第二試合の、「もう一つの試合」。
その勝利チームの名前。
ペダルを漕ぎながら、親友に尋ねる。
「…なあ、ミサキ」
「んー?なんだ?」
何か、妙なものを感じていた。
「チーム・ニューワールドってさ」
「ああ、あのダークホースのことか。なんでもシンクロメタの見たことないテーマ使うらしいな。それがどうした?」
違和感は、あった。
「ああ…。なんていうか、さ。変なことを聞く事になるかもしれないんだが」
「なんだよ、勿体付けるなんてお前らしくもない。早く言えよ」
さっきのテレビで、それが確信に傾いた。
「…じゃあ聞くけどさ。あのチーム…」
突拍子もないかも、しれないけど。
「最初から、いたか?」
目の前の信号機が赤く染まる。
ミサキが止まり、こちらを向く。
そして、口を開き、言葉を紡ごうとする。
多分、「は?」とでも言おうとしたんだろう。
その言葉は、俺の耳に入ることはなかった。
目の前が、世界が、歪んだから。
何が起こったのかは分からなかった。
正面にいたはずのミサキの姿が、酷く歪曲し、距離感を失う。
その背景のビルが、遠くに見えるデュエルレーンが、すぐ横に立つ信号機が、
そしてさらには、今立ってる地面もが、現実感を失う。
「あっ…がっ…ぐぁ…!?」
メリーゴーランドの様に廻る世界に、俺はたまらず頭を抱え、目を瞑る。
そして俺は、そのまま意識を手放した。
「…ぃ!………い!」
その振動で、俺は意識をゆっくりと取り戻す。
先ほどのあれとは違った、乱暴だが人間的な揺れ。
「…おい!」
「ミサ…キ…?」
目を開けると、そこには、ミサキが心配そうな表情で立っていた。
「ああ、良かった。全く、寝不足か?心配させるなよな」
何秒か、それとも何分かは分からないが、気絶していたようだ。
「あ、ああ……悪い。なんだろうな、急に気分が悪くなったんだ」
とにかく、さっきのあれは治まったみたいだ。
とりあえず、もう変な所は…って、あれ?
「…なあミサキ」
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
『なんだ、俺がおかしいのか?』
「二つだけ質問させてくれ」
「…またか?お前はいつからそんなに質問好きになったんだ」
「いいから。答えてくれ」
『いやそんな筈は無いだろ。だってそうだろ?』
『俺たちは確かにさっきまで、二人で、』
「まず一つ。そいつは、誰だ?」
そう言って俺は、俺が気を失う前にはいなかった、ミサキの隣に立つ、長身の男を指さす。
『自転車に乗ってたはずなんだから』
「もう一つ。どうして俺とお前は、D・ホイールに乗ってる?」
そうして俺は、ミサキの、そして俺の乗るD・ホイールを見る。
どちらも、俺が気を失う前からの明らかな変化だ。
何が起こったかは分からないが、とにかく変わっている。
そもそも、俺は授業演習以外でD・ホイールに乗ったこともなければ、
自分のD・ホイールを持ってすらいない。
それはミサキも同じだったはず。なのに、ミサキは不思議そうに、そして心底心配そうに俺の目を見つめ、そして答えた。
「……ほんとにお前、大丈夫か?こいつは『ブルーノ』で、俺たち『チーム・アルタ』の3人目のメンバー。そんでD・ホイールに乗ってるのなんて、これからWRGPの決勝会場に行くからに決まってるだろ?やっぱりあれか、疲れてるのか?」
その答えに、俺は、目を見開いて驚く事しかできなかった。
――― そう、この朝から、俺の未来を取り戻す戦いは始まったんだ。
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