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第1章第1話「夢を掲げる少女達」 作:ベルトラ
ここは天界。冥界を監視し、神界に仕える天使たちが生活し、聖なる力が満ち溢れ、邪なる力は排斥される世界。そこにそれが現れたのは単なる偶然か、はたまた何者かによる気まぐれか。――闇の権化が天界に向けて降下を開始した。
「クロエ、主席卒業おめでとう!」
ここは天界にいくつか存在する近衛天使育成校の一つ。そこでは今日、十年の教育課程を終えた天使たちが卒業式に出席していた。育成校では、近衛天使を志願する天使の卵にあらゆる常識や守護の技術を教え込み、自立できるように支援する機関であり、今日の式で授与される卒業証明書を受け取ることで、初めて天使たちは神界に仕える数多くの部隊に志願することを許可される。また、授与される卒業証明にはレベルが存在し、このレベルが高いほど重要な役目を任される。彼女―クロエ・ガードナーの持つ卒業証明には最高レベルを示す星12が記されていた。
クロエが声のした方を振り返ると、そこにはリィナ・キャラウェルの姿があった。
「さすが私の一番の友人だね。星12の卒業生なんて、ここ何年も出てないって聞いたよ」
「ありがとうリィナ、あなたも次席での卒業おめでとう。親友として祝福するわ」
「そんな、あたしクロエがいなかったらこんなにいい評価なんかもらえなかったよ。せいぜい星3くらいにしかならなかったに決まってるんだから」
謙遜するクロエに、リィナはあたふたと言い返す。その彼女の手には星10の卒業証明が握られていた。クロエとリィナ、二人はこの育成校でも有名なコンビでよく二人で勉強したり談笑している姿を目撃されていた。その仲睦まじい姿もさることながら、クロエの幼さの残る外見から放たれる淑女なオーラ、リィナの活発で陽気な明るい性格から、校内でも人気の高い二人だったが、今回主席と次席で卒業し、片方が最高レベルの評価を得たこともあって、今や二人は羨望やそれを上回る何かを孕んだ眼差しを浴びせられていが、当の彼女たちはそういった視線には慣れているのか、平然としている。
「ところで、クロエは今後どうしたいか決めてる?」
だいぶ歩いていたがそれでも感じる視線を、いい加減鬱陶しく感じていたリィナはクロエにそんな質問をする。言外に伝わってくるリィナの疲労に同感しながら、クロエは何度か話したことを答えとして彼女に返す。
「前にも話したと思うけれど、私はこの世界の外にあるといわれる、あらゆる種族が集う
『遊戯王』と呼ばれる世界に興味を持っているの。きっとそこには私たちが知らない知識や技術に満ちているだろうから。でも、この天界の外を調べるためには天界の最端にある天の門をくぐらなくちゃいけない」
クロエの話す天の門という単語は、リィナも聞いたことがある。この天界とその外を繋ぐ境界にあるとされる門で、上位の天使のみがそこを行き来できるという噂は育成校の中でも時折語られていた。
「だから私、そのために……『セラフィック』に志願しようと思うの」
「『セラフィック』!? あの天界最強の部隊に入りたいと言うの!?」
クロエの口から発された言葉に、何年もの付き合いのあるリィナだからこその驚きの声が上がる。
―冥界より来たる十万の軍を百の天使が聖なる輝きを以てそのすべてを退けり―
千年もの昔、歴史に傷跡を残した大戦において侵攻してきた十万の軍を、聖装や天剣を持った近衛天使がたった百名で撃退したという。その伝説を残した部隊の名を『セラフィック』という。『セラフィック』は少数精鋭で有名な部隊だが、戦闘能力は天界に存在する部隊の中でも頭一つ抜けていて、それ故に毎年数名しか天使を募っていない。しかし、リィナが心配したのはそこではなかった。
「でも、クロエってあまり舞闘は好きじゃなかったよね。『セラフィック』に入ったら、それこそ訓練の毎日なんじゃないの?」
その言葉を聞いたクロエの表情が少し陰る。リィナが懸念するように、クロエはあまり戦闘を好む性質ではない。育成校に通っていたころは、技術でこそ周りの生徒に勝っていたものの、リィナとの舞闘では毎回クロエは負けていた。苦い表情のまま、クロエは言葉を吐き出す。
「……そうね。でも私に選り好みしている余裕なんてないの。私は必ず天の門をくぐらなきゃいけない。でなければきっと後悔することになる。それに……」
クロエは一度顔をうつむけたが、その後顔を上げた時にはすでにそこから憂いは消え、替わりに好奇心が満ちていた。
「私はもっと世界のことを知りたいの。みんなは千年前の戦争のこともあって天界の外は不浄に満ちているというけれど、それはこの世界に何があるのか知らないからだと思う。だから私が世界の全てを明らかにして、みんなに世界の本当の姿を知ってもらいたい」
そこで一度言葉を切ると、クロエは再びリィナをまっすぐ見据え、決意するかのように言葉を紡ぎだす。
「そしてリィナと一緒に行くんだ……。『遊戯王』と呼ばれる世界に」
自らの夢を語り到達点を夢見て微笑むクロエを見て、リィナは彼女に改めて憧れに似た感情を覚えていた。時たま感じるこの思いは、クロエがいつまでも自分の最愛の友であることを思い出させてくれる。彼女がいてくれるなら、あたしはずっと頑張れる。リィナは一抹の思いを胸にしまい、クロエの隣に並ぶ。
「そっかぁ、じゃああたしがこれから稽古して、クロエが舞闘を好きになるようにしてあげないといけないなぁ。それにクロエが戦いで怪我しないようにそばにいてあげないとね」
「なら、私はリィナが無茶しすぎないようにストッパーになってあげる」
そして、顔を見合わせ笑いあった二人は、この先もずっと共に歩めることを確信した。
数日経ち、配属先確定日。今日この日、新たに志願した近衛天使の卵たちの配属先が決定される。配属先は志願者全員に同時に通達され、その後に公表される。クロエとリィナの二人が志願したのは――『セラフィック』。数々の志願者が第一希望とするその部隊の席を争う競争。だが二人は不安など感じはしなかった。この十年で得た二人の絆はその程度のことで揺らぎはしない。二人は既に勝利を確信していた。
そして勝者の名が今、告げられる。
通達
特級近衛天使部隊『セラフィック』
第一候補者―「リィナ・キャラウェル」
第二候補者―「クロエ・ガードナー」
第三候補者―……
以上の者を特級近衛天使部隊『セラフィック』の一員として後日改めて召集する。
「クロエ、主席卒業おめでとう!」
ここは天界にいくつか存在する近衛天使育成校の一つ。そこでは今日、十年の教育課程を終えた天使たちが卒業式に出席していた。育成校では、近衛天使を志願する天使の卵にあらゆる常識や守護の技術を教え込み、自立できるように支援する機関であり、今日の式で授与される卒業証明書を受け取ることで、初めて天使たちは神界に仕える数多くの部隊に志願することを許可される。また、授与される卒業証明にはレベルが存在し、このレベルが高いほど重要な役目を任される。彼女―クロエ・ガードナーの持つ卒業証明には最高レベルを示す星12が記されていた。
クロエが声のした方を振り返ると、そこにはリィナ・キャラウェルの姿があった。
「さすが私の一番の友人だね。星12の卒業生なんて、ここ何年も出てないって聞いたよ」
「ありがとうリィナ、あなたも次席での卒業おめでとう。親友として祝福するわ」
「そんな、あたしクロエがいなかったらこんなにいい評価なんかもらえなかったよ。せいぜい星3くらいにしかならなかったに決まってるんだから」
謙遜するクロエに、リィナはあたふたと言い返す。その彼女の手には星10の卒業証明が握られていた。クロエとリィナ、二人はこの育成校でも有名なコンビでよく二人で勉強したり談笑している姿を目撃されていた。その仲睦まじい姿もさることながら、クロエの幼さの残る外見から放たれる淑女なオーラ、リィナの活発で陽気な明るい性格から、校内でも人気の高い二人だったが、今回主席と次席で卒業し、片方が最高レベルの評価を得たこともあって、今や二人は羨望やそれを上回る何かを孕んだ眼差しを浴びせられていが、当の彼女たちはそういった視線には慣れているのか、平然としている。
「ところで、クロエは今後どうしたいか決めてる?」
だいぶ歩いていたがそれでも感じる視線を、いい加減鬱陶しく感じていたリィナはクロエにそんな質問をする。言外に伝わってくるリィナの疲労に同感しながら、クロエは何度か話したことを答えとして彼女に返す。
「前にも話したと思うけれど、私はこの世界の外にあるといわれる、あらゆる種族が集う
『遊戯王』と呼ばれる世界に興味を持っているの。きっとそこには私たちが知らない知識や技術に満ちているだろうから。でも、この天界の外を調べるためには天界の最端にある天の門をくぐらなくちゃいけない」
クロエの話す天の門という単語は、リィナも聞いたことがある。この天界とその外を繋ぐ境界にあるとされる門で、上位の天使のみがそこを行き来できるという噂は育成校の中でも時折語られていた。
「だから私、そのために……『セラフィック』に志願しようと思うの」
「『セラフィック』!? あの天界最強の部隊に入りたいと言うの!?」
クロエの口から発された言葉に、何年もの付き合いのあるリィナだからこその驚きの声が上がる。
―冥界より来たる十万の軍を百の天使が聖なる輝きを以てそのすべてを退けり―
千年もの昔、歴史に傷跡を残した大戦において侵攻してきた十万の軍を、聖装や天剣を持った近衛天使がたった百名で撃退したという。その伝説を残した部隊の名を『セラフィック』という。『セラフィック』は少数精鋭で有名な部隊だが、戦闘能力は天界に存在する部隊の中でも頭一つ抜けていて、それ故に毎年数名しか天使を募っていない。しかし、リィナが心配したのはそこではなかった。
「でも、クロエってあまり舞闘は好きじゃなかったよね。『セラフィック』に入ったら、それこそ訓練の毎日なんじゃないの?」
その言葉を聞いたクロエの表情が少し陰る。リィナが懸念するように、クロエはあまり戦闘を好む性質ではない。育成校に通っていたころは、技術でこそ周りの生徒に勝っていたものの、リィナとの舞闘では毎回クロエは負けていた。苦い表情のまま、クロエは言葉を吐き出す。
「……そうね。でも私に選り好みしている余裕なんてないの。私は必ず天の門をくぐらなきゃいけない。でなければきっと後悔することになる。それに……」
クロエは一度顔をうつむけたが、その後顔を上げた時にはすでにそこから憂いは消え、替わりに好奇心が満ちていた。
「私はもっと世界のことを知りたいの。みんなは千年前の戦争のこともあって天界の外は不浄に満ちているというけれど、それはこの世界に何があるのか知らないからだと思う。だから私が世界の全てを明らかにして、みんなに世界の本当の姿を知ってもらいたい」
そこで一度言葉を切ると、クロエは再びリィナをまっすぐ見据え、決意するかのように言葉を紡ぎだす。
「そしてリィナと一緒に行くんだ……。『遊戯王』と呼ばれる世界に」
自らの夢を語り到達点を夢見て微笑むクロエを見て、リィナは彼女に改めて憧れに似た感情を覚えていた。時たま感じるこの思いは、クロエがいつまでも自分の最愛の友であることを思い出させてくれる。彼女がいてくれるなら、あたしはずっと頑張れる。リィナは一抹の思いを胸にしまい、クロエの隣に並ぶ。
「そっかぁ、じゃああたしがこれから稽古して、クロエが舞闘を好きになるようにしてあげないといけないなぁ。それにクロエが戦いで怪我しないようにそばにいてあげないとね」
「なら、私はリィナが無茶しすぎないようにストッパーになってあげる」
そして、顔を見合わせ笑いあった二人は、この先もずっと共に歩めることを確信した。
数日経ち、配属先確定日。今日この日、新たに志願した近衛天使の卵たちの配属先が決定される。配属先は志願者全員に同時に通達され、その後に公表される。クロエとリィナの二人が志願したのは――『セラフィック』。数々の志願者が第一希望とするその部隊の席を争う競争。だが二人は不安など感じはしなかった。この十年で得た二人の絆はその程度のことで揺らぎはしない。二人は既に勝利を確信していた。
そして勝者の名が今、告げられる。
通達
特級近衛天使部隊『セラフィック』
第一候補者―「リィナ・キャラウェル」
第二候補者―「クロエ・ガードナー」
第三候補者―……
以上の者を特級近衛天使部隊『セラフィック』の一員として後日改めて召集する。
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