ノワーリヒの日常ー侵略者の思い　作：名無しのゴーレム

「……報告は以上です！」

「……分かったわ。下がりなさい。」

「はい！」


……着実に戦力は整いつつある。前回のデータから『奴ら』専用のチューニングを施すように指示もしてある。報告書によればシミュレーションによる勝率は80パーセントほど。もっとも、そんなものは何を勝利ととるかでどうにでも変わるのだけれど……


「……どうして、こんなことをしているのかしら。」


意味のない、分かりきった問いを自分に投げかけてみる。


（……我ながら、くだらないことを。このところまったく休んでなかったし、疲れが出たのかしら。）


……あの子は今ごろどうしているのやら。十中八九私の提案に乗ってくるとは思うけれど、革命軍全体の動きは完全には読めない。……まぁ、それを明らかにするために……


コンコンコン。


「入りなさい。」

「失礼します！ ノワーリヒ様、斥候兵による革命軍の監視映像が届きました！」

「ご苦労様。さっそく流してちょうだい。」

「了解しました！」



……さて、どんなことになっているのやら。




『……リベル様、どういうことなのですか！ なぜあなたが戦地に赴くことに……』

『我々の計画では今回の侵略戦争に乗じて軍部の中枢を制圧する手はずでしたよね。そのために、リベル様自ら内部の偵察を行ってきたのではなかったのですか？』

『……ええ、あなたの言う通りよ。けれど、あいつ…ノワーリヒが私に約束したの。この戦争に勝利すれば、もう他国への侵攻は行わない、と。』

『奴の言うことを信じるのですか！ 国を蔑ろにし、戦争を推し進めてきた奴を！』

『……正直なところ、私はこの作戦にはあまり乗り気ではなかったの。』

『それは……どういうことですか？』

『いくら手薄になると言っても、軍部には最低限の守りはあるはずよ。それを突破するには少なくない犠牲が出る。……それに、もし革命が成功したとして、その後何が起きると思う？』

『革命の、その後……？』

『……いい？ ノワーリヒ、いや、この国は多くの国を侵略してきた。それが革命によって国内が乱れ、国力が落ちたら……』

『……今まで虐げられてきた彼らが黙ってはいない、ということですか。』

『そうよ。私はこの国を滅ぼしたくはないわ。だから犠牲を出さないで侵略を止めることが出来るなら、その可能性に賭けてみたいの。……あなたたちの意思を無視するような形になってしまったことは悪いと思ってる。責めるなら、期待に応えられなかった私を責めてちょうだい。』

『リベル様……』

『……分かりました。しかし、彼女が約束を守らなかった場合は……』

『そうなれば、今度こそ……私が、ノワーリヒを討つわ。』




「……いかがなさいますか？ やはり、革命軍を鎮圧に……」

「その必要は無いわ。彼らには手を出さないように。……今は彼らに構っている暇はないしね。」

「……はい。」



……思ったよりずっと穏やかに話が進みそうね。私としても嬉しい限りだけど。


「さて、と……」


机の上に広げた地図を見る。赤く印を付けた場所、イヴェール……私が初めて敗北を喫した場所。


「……今度こそ、完全に勝利してみせるわ。」


ここを抑えれば周囲の国はすべて支配下に入ることになる。そうなれば……


「……後は、任せたわよ。」



コン、コン、コン……



「……入りなさい。」

「……失礼するわ。この間の話、その答えを話しに来たわよ。」

「そう、なら聞かせてもらおうかしら。」

「私は……」