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Episode2【海炎の神話】 作:雷音@菅野獅龍
2ターン目
璃雄手札 4
リバースカード 1
モンスター ポセイドラ
焔手札 5
リバースなし
モンスター ガルドニクス
またもや会場は、歓声が響き渡った。
ガルドニクスが金切り声の様な咆哮を上げる。ソリッドヴィジョンな筈なのに、その威圧感はまるで現実染みていて、璃雄は怯みそうになった。
「まだだ。手札から、魔法発動。炎王炎環!」
焔が魔法を発動すると、一瞬にしてガルドニクスの体が炎に包まれ、彼の墓地へと吸い込まれていく。すると彼の墓地から新たなる炎が巻き上がり、咆哮と共に二枚目の「炎王」がその姿を現した。
「まさか、お前、トレードインをしたとき……!」
璃雄の問いに焔は答えず、ただにやりと厭らしく笑った。炎王炎環は、自分の場の炎属性を破壊して、墓地に存在する炎属性モンスターを特殊召喚する、いわばディストラクショントレードマジックだ。普通に使うだけならば、ポセイドラよりも強いモンスターを呼び寄せる方が普通である。しかし、炎王を使用するならば話は別だ。
炎王神獣ガルドニクスは、破壊された場合次のターンのスタンバイフェイズに蘇る。そして蘇った瞬間、自身以外のモンスターを爆殺するという超破壊効果を所持したモンスターなのだ。それは璃雄も知っていた。しかし、特殊召喚した後は、戦闘破壊してしまえば墓地よりの復活は不可能である。だが、それはあくまでも炎王が『一体の場合なら』の話だ。
炎王神獣ガルドニクスの効果は、勿論他のガルドニクスにも効果は及ぶ。つまり、炎王を効果で破壊しておけば、片方は戦闘破壊されたとしても、もう片方が墓地から現れ、フィールドを制圧する―――炎環ループ。つまりそう言う事だ。
「更に手札のモンスター効果発動する。炎王獣バロン! 炎王が破壊された為、こいつは特殊召喚される!」
彼の口上の通り手札から何処と無くアジアの神を思わせる風貌のモンスターが、炎の中から現れた。バロン……それはインドネシアに伝わる神獣で、魔女ランダを倒す為に日々戦う英雄でもある。
「そしてもう一体、キリン!」
続いて白い馬の様なモンスターが同じく炎の中より現れた。璃雄は麒麟ならば知っていた。中国由来の神獣だ。詳しく言うと古代中国の瑞獣――とても尊い存在と思えばいい――の一体で、とてもおとなしい存在と言われている。鳳凰・龍・亀も瑞獣だが、それらよりも高位な存在とされている。ガルドニクスはフェニックス……つまり鳳凰由来のモンスターなので、皮肉にもそのおとなしい性格ゆえか、簡単に懐柔されてしまったのだろうか。
「最後だ、行け、ヤクシャ!」
今度は炎王が天井に着きかかるぐらいのところにまで上がると、背後から端の部分が燃え上がった棒の様な物を持った獣人が現れた。ヤクシャは本来夜叉といいインド神話に現れる鬼である。男性体をヤクシャといい、女性体はヤクシニーという。
「カードを伏せ、ターン終了。お前のターンだ。どうせ負けるんだし、特に考える事無くそのまま負けてくれ」
2ターン目終了
璃雄手札 4
リバースカード 1
モンスター ポセイドラ
焔手札 0
リバース 1
モンスター ヤクシャ・バロン・キリン
最後に璃雄を挑発する。しかし、璃雄の方はそんな事など聞いておらず、ただ目の前の神鳥に見惚れていた。だが、直ぐに自分を取り戻すと、デッキに指を当てた。
「俺のターン……ドロー!」
ドローしたカードは永続罠カードだった。
「瞬間、ガルドニクスは蘇る」
前のターンの炎王炎環により破壊されたガルドニクスは炎と共に蘇り、自身の味方も含め、敵を破壊する為に炎の鳥へと変化する。
「不死鳥の力は飾りじゃねえ。やれ、『バーンデス・オブ・バース』!」
主の命聞き、ガルドニクスは階層を超えて空に飛んだ。直ぐに屋上を越えて大空に輝いて、尚天を突き進む。道行く人はそれを見て、まるで二つ目の太陽が出たとばかりに驚いた。そして、上空はるか千メートルにまで達すると、ガルドニクスは空中で弧を描いて滑空し、一直線にフィールド上へと突進した。加速していく度、摩擦熱のように炎王の体が燃え上がり、尚火力を上げる。そしてフィールド上に到達した瞬間、激しい爆発音と共に場のモンスターを殲滅した。
「ぐぁぁあああっ!」
ソリッドヴィジョンである為、本来は痛みを感じないが、より立体感のある幻像により、璃雄には千度火傷を全身に負った様な錯覚を受けた。ちなみに、ソリッドヴィジョンシステムにより本当に死人がでたという事も過去に何度かあった。現在でも時々ある為、デュエルディスクの説明書には『心臓の弱い方等は使用しないでください』と態々書いてあるぐらいだ。
「キリンの効果を発動する。デッキから、ネフティスを墓地へ」
破壊されたキリンの効果で、焔のデッキは圧縮された。
フィールド上には炎が吹き上がり、その中で悠々とした炎の鳥が璃雄を睨み付ける。しかし璃雄は怯まない。今の彼の頭の中には、どうやって炎王を倒すかという思考しかなかったのだ。
璃雄の手札には既に二枚目のディーヴァと、サルベージ、狙撃兵が揃っており、ダメージを受けた時、自分フィールド上にカードが無い時呼び出せるゴーズや、水精鱗専用の装備魔法、アビスケイル―ミズチがある。サルベージを行い、墓地のディーヴァとネプトアビスを手札に加え、ディーヴァを召喚、そして重装兵を特殊召喚し、更にネプトアビスを召喚し、効果で竜騎隊を墓地に送って適当な海皇を手札に加えた後、竜騎隊の効果で水精鱗メガロアビスを手札に加える。後は手札の海皇を二枚墓地に送ってメガロアビスを特殊召喚し、二枚目のミズチを手札に加え、狙撃兵により後は場の三体をリリースしてポセイドラを呼び出し、重装兵で炎王を破壊する。後はミズチを二枚メガロアビスに装備させれば攻撃力は4000となり、ポセイドラをリリースしてがら空きの場に二回攻撃を行い、倒す。
「……ワンターンKILL」
璃雄はそう呟くとほくそ笑んだ。目の前にいる敵を牧場と同じ様に呆然とさせて倒す事が出来る、と心の中で同じ様に厭らしく笑った。
「いくぜ、俺はサルベージを行い、墓地のディーヴァとネプトアビスを手札に。そしてディーヴァ召喚! デッキから重装兵、そして効果でネプトアビスを召喚!」
怒涛の召喚劇を行い、璃雄は一気にメガロアビスの召喚まで繋げた。
一方焔の方は詰まらなそうに眉間に皺を寄せた。狙撃兵の効果発動を理解しての事だ。
「そして、メガロアビスの効果発動! デッキからミズチを手札に……そして墓地に送った狙撃兵で、相手のセットカードを破壊!」
璃雄が焔のリバースカードを指し示すと、墓地から現れた狙撃兵がカードに向かってライフルを撃った。
その瞬間、璃雄はぞくりとするぐらいの殺意を感じた。視線を追うと、焔に辿り着いた。
「つまらねえコンボだなぁ……うざってえんだよ、お前!」
そう彼が言った瞬間、リバースカードが発動した。対象が表になった為、狙撃兵の効果は不発に終わる。
「速攻魔法発動、バーンデス・オブ・バースを発動!」
「ガルドニクスの攻撃名と同じカード……まさか!」
「そう。俺の場にガルドニクスがいるならば、フィールド上のカードを全て破壊し、その分だけお前に500ポイントダメージを与える!」
焔が言い切ると、再び炎王は空へ舞い、同じ様に突進してフィールド上のカードを消滅させた。勿論、それは璃雄の伏せた激流葬も同じである。幾ら敵を流しきる激流でさえ、カードのままでは炎に巻かれて消える運命だったのだ。そして、ガルドニクスの突進はモンスターたちを破壊するだけでは終わらず、プレイヤーである璃雄にまで攻撃を行った。
「が、ぁあああっ!」
炎に包まれ、璃雄はバーンデス・オブ・バーンの効果により、フィールド上のカード……ディーヴァ・重装兵・ネプトアビス・メガロアビス・激流葬の五枚の数×500ポイントである2500ダメージを受けた。それは殆ど、ガルドニクスの攻撃力と殆ど同じ数値であった。
璃雄LP8000→5500
だが、ピンチの後にはチャンスありとは言う物である。璃雄の手札には、自分の場が空の時にダメージを受けた時に特殊召喚できるモンスターが存在していた。璃雄は痛む身体を支えながら、モンスター効果を発動した。
「く……モンスター効果、発動、冥府の使者ゴーズ!」
一瞬にして闇が璃雄の場に現れたかと思うと、一瞬にして冥府の使者がその姿を現した。冥府の使者ゴーズ、その効果は、ダメージを受けた時特殊召喚でき、そのダメージの種類にあわせて、更なる強力効果を発動する、彼の伝説の決闘者が使用した事もあるカードである。
「ゴーズは、俺のフィールド上にモンスターが存在しない時、特殊召喚できる! そして、俺は効果ダメージを受けた為―――焔、お前に俺と同じ痛みを与える! やれ、ゴーズ……ダークネス・ミラーフォース!」
璃雄の声にゴーズが頷き、その剣から黒い光弾を数発発射し、焔の胸を直撃した。
「ぐっ……」
焔の顔が苦痛に歪み、苦しそうに胸元を押さえた。それをガルドニクスが、一瞬心配そうにちらりと見た。
焔LP8000→5500
ゴーズの攻撃力はガルドニクスと同じ2700である。このまま特攻すれば、ゴーズはガルドニクスと相打ちになり、璃雄のフィールドはがら空きとなる。それだけは避けたいものだった。璃雄は手札をもう一度見直す。すると、手札にはアビスフィアーが存在していた。アビスフィアーは、デッキから水精鱗を呼び寄せる永続罠カードである。これでアビスリンデを特殊召喚し、一時の壁として扱えば十分だと璃雄は考えて、決意した。
「バトルフェイズ……ゴーズ、ガルドニクスに攻撃だ! ダークネス・ソード・ブラッシュ!」
ゴーズは勇敢にガルドニクスに向かって突撃する。しかし、ガルドニクスは攻撃されまいと空を舞った。
「残念だが―――空を飛ぶ不死鳥には、剣の攻撃は通用しないんだよ馬鹿が!」
焔が厭らしい笑みを浮かべる。しかし、璃雄は一切怯まずに言った。
「なら……飛べ! ゴーズ!」
冥府の使者は正義の戦士ではあるが戦士族モンスターではない。冥府より使わされた悪魔である。よって空を飛ぶ事等造作も無いこと。冥府の主の命に従い、対象のモンスターは確実に冥府へと送らされる。相方たるカイエンが居なかった事が残念だと、ゴーズは自嘲混じりに笑った。
「く……ガルドニクス、迎撃しろ!」
ガルドニクスは止むを得ないと言った様子で嘴(くちばし)に火炎を貯め、ゴーズが目の前に来た瞬間に炎を放った。しかし、ゴーズは自身の攻撃が届かない事を見切ると、自分の得物を投げ、ガルドニクスの頚を掻き斬らせた。その瞬間、ガルドニクスの炎がゴーズを襲い、ゴーズは黒い灰となって消えた。ガルドニクスも、頚を落とされ倒れた。
「すまない……ゴーズ……」
璃雄はゴーズを生贄に使ってしまった事に感謝を込めた謝罪を呟く。しかし、焔の方は違った。
「ち……つまらねえ真似しやがって……ガルドニクスの効果発動! 戦闘破壊された時、デッキから炎王獣を特殊召喚する! こい、バロン!」
ガルドニクスの効果により、すばやくバロンが焔の場に現れた。これで更に、次のターンにはガルドニクスが蘇る為、バロンを破壊し、前のターンに特殊召喚したバロンの効果で炎王カードを手札に加える。これこそ炎王の真骨頂、ディストラクションコンボである。
「カードを1枚伏せて……ターン終了」
伏せたカードは勿論アビスフィアーであった。次のターン呼び出されるガルドニクスの攻撃を、これで耐えようというのだ。炎王円環を手札に加えられようとも、破壊されたリンデの効果で次の水精鱗をデッキから特殊召喚し、壁として扱えれば、1ターンは耐えられると踏んだのだ。これしか出来ないという事に、璃雄は苦々しい顔をした。
その頃。
「……まずいわ」
牧場が呟いた。「何が?」と隣で観戦していた竜輝は訊きかえした。
「バーンデス・オブ・バース、ディストラクションコンボ……私はアレにやられたのよ」
思い出すのも癪な様で、親指の爪を噛んで苛立ちを紛らわせていた。
「次、奴がドローするカードがあのカードなら……璃雄は、負けてしまう……!」
璃雄手札 2
リバースカード 1
モンスター無し
焔手札 0
リバースなし
モンスター 無し
「俺のターン!」
焔の怒りの限界点はとっくに超えていた。やりたくもない雑魚どもの大会に、自分の力の象徴を使ってデュエルをしなければならないという状況が、とてもじゃないが彼にとっては苦痛であり、どうしようもない怒りを齎す存在であった。
「ドロー……っ!」
更にはさっきと今の相手、それがどうにも強いのか弱いのか曖昧なところで止まっていて、尚且つそれが強いという扱いをされているのが癇に障るのだった。
だがそのデュエルももう終わる。何故なら、彼が今ドローしたカードは、正に今の状況ではワンターンキルも可能であるほどの超火力カードだったからだ。
「前のターンに破壊されたバロンの効果を発動! デッキから炎王の魔法を手札に―――そして、効果で破壊されたガルドニクスを特殊召喚する!」
もう一体のガルドニクスが炎の中より復活する。咆哮をあげ、璃雄に執拗にプレッシャーをかけた。璃雄はそれに臆する事も無く、リバースカードを発動した。
「リバース発動! アビスフィアー! デッキより、リンデ特殊召喚! ガルドニクスの特殊召喚の後に特殊召喚したため、このカードは破壊されない!」
璃雄の場に巨大な泡が出現し、その中にリンデが苦しそうにしながら入っていた。璃雄はリンデにこんな行為をさせて申し訳ないと思いながらも、もう少しだけ我慢してくれと願った。
その行動も、焔の怒りに触れた。さっさとゲームを終わらせたいというのに、未だこうして邪魔をするのがうざったらしかったのだ。
「メインフェイズに移行する。手札から、魔法を発動する!」
焔がそう言った瞬間、フィールド上のガルドニクスとリンデが一瞬にして爆発した。璃雄は何が起こったのか判らぬまま、爆風から顔を隠す。観客も一同にそうしたが、爆風がとかれた後に、それを目にして驚愕した。
「……ドローして、しまった」
牧場の首が垂れた。もう一筋すらの希望も失ったようにだ。
「おい、何だよあのカード……炎王と組ませる様に作られたカードじゃねえか!」
竜輝はテキストを遠目で見て、歯軋りした。
「魔法カード、巨獣の輪唱を発動した」
「巨獣の、輪唱?」
璃雄が思わず訊きかえした。
「巨獣の輪唱は、俺の場の特殊召喚されたモンスターと同名モンスターが墓地に存在する時のみ発動できる魔法カード。俺の場のそのモンスターと、相手モンスターを破壊し―――手札の同名モンスターを、通常召喚扱いで特殊召喚する!」
璃雄は唖然とした。つまり、クロス・ソウルの条件が厳しくなった代わりに、破壊効果に変更されたカードという訳だった。炎王にとっては、ただのメリットでしかない。
「まだだ! 手札の魔法発動! 炎王炎焼! フィールド上に炎王が存在する時、墓地・手札のガルドニクスを特殊召喚する!」
「なっ……」
瞬く間に焔の場は炎の渦が二つ上がり、その中から差異無き灼熱の赤を纏いし炎王がその姿を見せた。バロンの効果で手札に加えたカードはこれだったのだ。つまり、全ては計算ずくで決まった事実だという事になる。
しかし、璃雄の反撃もまたあった。
「破壊されたリンデの効果! デッキからアビスキューレを守備表示で特殊召喚する!」
リンデが死に際に法螺貝を噴くと、デッキから駆けつけた水精鱗は可愛らしい少女であった。
「アビスキューレが水属性モンスターの効果で特殊召喚に成功した時、このターン、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃を無効にすることが出来る! 俺は1体のガルドニクスの攻撃を無効!」
「何だと……」
これには焔も予想外だった様だ。新たな水精鱗が出たことは知っていたが、此処まで面倒なモンスターがいた事は知らなかったのだ。それによって焔はまた脳味噌が沸騰しそうなまでに苛立った。
「く……ならばガルドニクスでアビスキューレを破壊! もう一体でダイレクトアタックだ! 死ぬがいい、炎王 炎上砲(ヴォルケイノ・ストーム)!」
二体の炎王が先程の様に嘴の先に炎を貯めたと思うと、1体はそれをキューレに与え、もう片方はがら空きの璃雄に向かって放った。
璃雄LP5500→2800
「ぐあああぁぁあ……!」
全身が熱い、熱い、熱い。璃雄の頭はそれしか残らなくなった。
幻覚でありながら、幻影でありながら、その熱自体は本当のように、璃雄の心を燃やしていく。
―――彼らはこうして殺されたのだ。
―――お前はこうして殺したのだ。
幻聴まで、彼には聞こえてきた。
「ほらほら、俺のターンは終了したんだ。早くドローしろ。それとも、もうおしまいか?」
焔がやっと終わったと面倒臭い蝿を叩き潰した後の様なすがすがしい顔で言った。
璃雄はもう戦う意思なんて残っていなかった。昨日の出来事が、昨日の惨劇が、璃雄の心に蘇った。
赤い、赤い、炎。燃えて燃えて、何処までも高く燃えていく。
私が殺した。
私が殺してしまった。
あの人達を、この手で。
璃雄は何も無い暗い空間の中に居た。そして、そこに唯一居た殺してしまった家族にガソリンを浴びせられる。
「お前が私たちを殺したんだ」
そう言ってマッチを投げられ、燃やされる。
熱い、熱いと嘆いても、助けなんて一切来ない。来るわけがない。逃げた自分に助けなんてあっていいわけが無い。私は此処で朽ちればいい。
璃雄の心は、折れた。
4ターン目
璃雄手札 2
リバースカード無し
モンスター 守備
焔手札 なし
リバースなし
モンスター ガルドニクス×3
璃雄はドローしたモンスターを禄に見ずにセットした。それを見て、焔は勝負を投げたと理解して、早々に決着を決める事にした。
「俺のターンドロー。おいお前、まあ何だ、よく耐えたもんだと思うぜ俺はよ」
焔は心の片隅にも思っていない言葉を璃雄に投げつけた。璃雄は俯いたまま無言だった。
「だが英雄も此処までだ。さっさと倒れて帰りやがれってんだ―――俺は、フィールド上のガルドニクス3体でオーバーレイネットワークを構築!」
そう宣言した瞬間、璃雄以外の全員がどよめいた。レベル8モンスター3体でオーバーレイするエクシーズなんて限られているからだ。しかし焔がエクシーズすると予想されたモンスターの召喚時のエフェクトではなく、場が炎に包まれまた場が隠れるエフェクトが起こったからだ。
「そんな、璃雄! いい加減本気を出せ!」
牧場が危険を察して璃雄に叫ぶも、璃雄の心は奥底で、炎に燃えながら蹲っていた。
そして、炎が少しずつ晴れていく。
「極炎よ。汝の神を、汝の主を、我がしもべとして召喚する。敵を燃焼する絶対の力! 敵を粉砕する完全なる力! それを―――俺の為に! 俺の力として、俺の剣となりて、この場に現れろ!」
最後に炎が天高くに吹き上がり、その神々しい姿を晒した。
「―――炎王神鳥、アグニクスだ! さあ、貴様はこれで終わりだ!」
焔が笑う。璃雄は、もうとうに決闘者の心すら消えていた。
璃雄手札 4
リバースカード 1
モンスター ポセイドラ
焔手札 5
リバースなし
モンスター ガルドニクス
またもや会場は、歓声が響き渡った。
ガルドニクスが金切り声の様な咆哮を上げる。ソリッドヴィジョンな筈なのに、その威圧感はまるで現実染みていて、璃雄は怯みそうになった。
「まだだ。手札から、魔法発動。炎王炎環!」
焔が魔法を発動すると、一瞬にしてガルドニクスの体が炎に包まれ、彼の墓地へと吸い込まれていく。すると彼の墓地から新たなる炎が巻き上がり、咆哮と共に二枚目の「炎王」がその姿を現した。
「まさか、お前、トレードインをしたとき……!」
璃雄の問いに焔は答えず、ただにやりと厭らしく笑った。炎王炎環は、自分の場の炎属性を破壊して、墓地に存在する炎属性モンスターを特殊召喚する、いわばディストラクショントレードマジックだ。普通に使うだけならば、ポセイドラよりも強いモンスターを呼び寄せる方が普通である。しかし、炎王を使用するならば話は別だ。
炎王神獣ガルドニクスは、破壊された場合次のターンのスタンバイフェイズに蘇る。そして蘇った瞬間、自身以外のモンスターを爆殺するという超破壊効果を所持したモンスターなのだ。それは璃雄も知っていた。しかし、特殊召喚した後は、戦闘破壊してしまえば墓地よりの復活は不可能である。だが、それはあくまでも炎王が『一体の場合なら』の話だ。
炎王神獣ガルドニクスの効果は、勿論他のガルドニクスにも効果は及ぶ。つまり、炎王を効果で破壊しておけば、片方は戦闘破壊されたとしても、もう片方が墓地から現れ、フィールドを制圧する―――炎環ループ。つまりそう言う事だ。
「更に手札のモンスター効果発動する。炎王獣バロン! 炎王が破壊された為、こいつは特殊召喚される!」
彼の口上の通り手札から何処と無くアジアの神を思わせる風貌のモンスターが、炎の中から現れた。バロン……それはインドネシアに伝わる神獣で、魔女ランダを倒す為に日々戦う英雄でもある。
「そしてもう一体、キリン!」
続いて白い馬の様なモンスターが同じく炎の中より現れた。璃雄は麒麟ならば知っていた。中国由来の神獣だ。詳しく言うと古代中国の瑞獣――とても尊い存在と思えばいい――の一体で、とてもおとなしい存在と言われている。鳳凰・龍・亀も瑞獣だが、それらよりも高位な存在とされている。ガルドニクスはフェニックス……つまり鳳凰由来のモンスターなので、皮肉にもそのおとなしい性格ゆえか、簡単に懐柔されてしまったのだろうか。
「最後だ、行け、ヤクシャ!」
今度は炎王が天井に着きかかるぐらいのところにまで上がると、背後から端の部分が燃え上がった棒の様な物を持った獣人が現れた。ヤクシャは本来夜叉といいインド神話に現れる鬼である。男性体をヤクシャといい、女性体はヤクシニーという。
「カードを伏せ、ターン終了。お前のターンだ。どうせ負けるんだし、特に考える事無くそのまま負けてくれ」
2ターン目終了
璃雄手札 4
リバースカード 1
モンスター ポセイドラ
焔手札 0
リバース 1
モンスター ヤクシャ・バロン・キリン
最後に璃雄を挑発する。しかし、璃雄の方はそんな事など聞いておらず、ただ目の前の神鳥に見惚れていた。だが、直ぐに自分を取り戻すと、デッキに指を当てた。
「俺のターン……ドロー!」
ドローしたカードは永続罠カードだった。
「瞬間、ガルドニクスは蘇る」
前のターンの炎王炎環により破壊されたガルドニクスは炎と共に蘇り、自身の味方も含め、敵を破壊する為に炎の鳥へと変化する。
「不死鳥の力は飾りじゃねえ。やれ、『バーンデス・オブ・バース』!」
主の命聞き、ガルドニクスは階層を超えて空に飛んだ。直ぐに屋上を越えて大空に輝いて、尚天を突き進む。道行く人はそれを見て、まるで二つ目の太陽が出たとばかりに驚いた。そして、上空はるか千メートルにまで達すると、ガルドニクスは空中で弧を描いて滑空し、一直線にフィールド上へと突進した。加速していく度、摩擦熱のように炎王の体が燃え上がり、尚火力を上げる。そしてフィールド上に到達した瞬間、激しい爆発音と共に場のモンスターを殲滅した。
「ぐぁぁあああっ!」
ソリッドヴィジョンである為、本来は痛みを感じないが、より立体感のある幻像により、璃雄には千度火傷を全身に負った様な錯覚を受けた。ちなみに、ソリッドヴィジョンシステムにより本当に死人がでたという事も過去に何度かあった。現在でも時々ある為、デュエルディスクの説明書には『心臓の弱い方等は使用しないでください』と態々書いてあるぐらいだ。
「キリンの効果を発動する。デッキから、ネフティスを墓地へ」
破壊されたキリンの効果で、焔のデッキは圧縮された。
フィールド上には炎が吹き上がり、その中で悠々とした炎の鳥が璃雄を睨み付ける。しかし璃雄は怯まない。今の彼の頭の中には、どうやって炎王を倒すかという思考しかなかったのだ。
璃雄の手札には既に二枚目のディーヴァと、サルベージ、狙撃兵が揃っており、ダメージを受けた時、自分フィールド上にカードが無い時呼び出せるゴーズや、水精鱗専用の装備魔法、アビスケイル―ミズチがある。サルベージを行い、墓地のディーヴァとネプトアビスを手札に加え、ディーヴァを召喚、そして重装兵を特殊召喚し、更にネプトアビスを召喚し、効果で竜騎隊を墓地に送って適当な海皇を手札に加えた後、竜騎隊の効果で水精鱗メガロアビスを手札に加える。後は手札の海皇を二枚墓地に送ってメガロアビスを特殊召喚し、二枚目のミズチを手札に加え、狙撃兵により後は場の三体をリリースしてポセイドラを呼び出し、重装兵で炎王を破壊する。後はミズチを二枚メガロアビスに装備させれば攻撃力は4000となり、ポセイドラをリリースしてがら空きの場に二回攻撃を行い、倒す。
「……ワンターンKILL」
璃雄はそう呟くとほくそ笑んだ。目の前にいる敵を牧場と同じ様に呆然とさせて倒す事が出来る、と心の中で同じ様に厭らしく笑った。
「いくぜ、俺はサルベージを行い、墓地のディーヴァとネプトアビスを手札に。そしてディーヴァ召喚! デッキから重装兵、そして効果でネプトアビスを召喚!」
怒涛の召喚劇を行い、璃雄は一気にメガロアビスの召喚まで繋げた。
一方焔の方は詰まらなそうに眉間に皺を寄せた。狙撃兵の効果発動を理解しての事だ。
「そして、メガロアビスの効果発動! デッキからミズチを手札に……そして墓地に送った狙撃兵で、相手のセットカードを破壊!」
璃雄が焔のリバースカードを指し示すと、墓地から現れた狙撃兵がカードに向かってライフルを撃った。
その瞬間、璃雄はぞくりとするぐらいの殺意を感じた。視線を追うと、焔に辿り着いた。
「つまらねえコンボだなぁ……うざってえんだよ、お前!」
そう彼が言った瞬間、リバースカードが発動した。対象が表になった為、狙撃兵の効果は不発に終わる。
「速攻魔法発動、バーンデス・オブ・バースを発動!」
「ガルドニクスの攻撃名と同じカード……まさか!」
「そう。俺の場にガルドニクスがいるならば、フィールド上のカードを全て破壊し、その分だけお前に500ポイントダメージを与える!」
焔が言い切ると、再び炎王は空へ舞い、同じ様に突進してフィールド上のカードを消滅させた。勿論、それは璃雄の伏せた激流葬も同じである。幾ら敵を流しきる激流でさえ、カードのままでは炎に巻かれて消える運命だったのだ。そして、ガルドニクスの突進はモンスターたちを破壊するだけでは終わらず、プレイヤーである璃雄にまで攻撃を行った。
「が、ぁあああっ!」
炎に包まれ、璃雄はバーンデス・オブ・バーンの効果により、フィールド上のカード……ディーヴァ・重装兵・ネプトアビス・メガロアビス・激流葬の五枚の数×500ポイントである2500ダメージを受けた。それは殆ど、ガルドニクスの攻撃力と殆ど同じ数値であった。
璃雄LP8000→5500
だが、ピンチの後にはチャンスありとは言う物である。璃雄の手札には、自分の場が空の時にダメージを受けた時に特殊召喚できるモンスターが存在していた。璃雄は痛む身体を支えながら、モンスター効果を発動した。
「く……モンスター効果、発動、冥府の使者ゴーズ!」
一瞬にして闇が璃雄の場に現れたかと思うと、一瞬にして冥府の使者がその姿を現した。冥府の使者ゴーズ、その効果は、ダメージを受けた時特殊召喚でき、そのダメージの種類にあわせて、更なる強力効果を発動する、彼の伝説の決闘者が使用した事もあるカードである。
「ゴーズは、俺のフィールド上にモンスターが存在しない時、特殊召喚できる! そして、俺は効果ダメージを受けた為―――焔、お前に俺と同じ痛みを与える! やれ、ゴーズ……ダークネス・ミラーフォース!」
璃雄の声にゴーズが頷き、その剣から黒い光弾を数発発射し、焔の胸を直撃した。
「ぐっ……」
焔の顔が苦痛に歪み、苦しそうに胸元を押さえた。それをガルドニクスが、一瞬心配そうにちらりと見た。
焔LP8000→5500
ゴーズの攻撃力はガルドニクスと同じ2700である。このまま特攻すれば、ゴーズはガルドニクスと相打ちになり、璃雄のフィールドはがら空きとなる。それだけは避けたいものだった。璃雄は手札をもう一度見直す。すると、手札にはアビスフィアーが存在していた。アビスフィアーは、デッキから水精鱗を呼び寄せる永続罠カードである。これでアビスリンデを特殊召喚し、一時の壁として扱えば十分だと璃雄は考えて、決意した。
「バトルフェイズ……ゴーズ、ガルドニクスに攻撃だ! ダークネス・ソード・ブラッシュ!」
ゴーズは勇敢にガルドニクスに向かって突撃する。しかし、ガルドニクスは攻撃されまいと空を舞った。
「残念だが―――空を飛ぶ不死鳥には、剣の攻撃は通用しないんだよ馬鹿が!」
焔が厭らしい笑みを浮かべる。しかし、璃雄は一切怯まずに言った。
「なら……飛べ! ゴーズ!」
冥府の使者は正義の戦士ではあるが戦士族モンスターではない。冥府より使わされた悪魔である。よって空を飛ぶ事等造作も無いこと。冥府の主の命に従い、対象のモンスターは確実に冥府へと送らされる。相方たるカイエンが居なかった事が残念だと、ゴーズは自嘲混じりに笑った。
「く……ガルドニクス、迎撃しろ!」
ガルドニクスは止むを得ないと言った様子で嘴(くちばし)に火炎を貯め、ゴーズが目の前に来た瞬間に炎を放った。しかし、ゴーズは自身の攻撃が届かない事を見切ると、自分の得物を投げ、ガルドニクスの頚を掻き斬らせた。その瞬間、ガルドニクスの炎がゴーズを襲い、ゴーズは黒い灰となって消えた。ガルドニクスも、頚を落とされ倒れた。
「すまない……ゴーズ……」
璃雄はゴーズを生贄に使ってしまった事に感謝を込めた謝罪を呟く。しかし、焔の方は違った。
「ち……つまらねえ真似しやがって……ガルドニクスの効果発動! 戦闘破壊された時、デッキから炎王獣を特殊召喚する! こい、バロン!」
ガルドニクスの効果により、すばやくバロンが焔の場に現れた。これで更に、次のターンにはガルドニクスが蘇る為、バロンを破壊し、前のターンに特殊召喚したバロンの効果で炎王カードを手札に加える。これこそ炎王の真骨頂、ディストラクションコンボである。
「カードを1枚伏せて……ターン終了」
伏せたカードは勿論アビスフィアーであった。次のターン呼び出されるガルドニクスの攻撃を、これで耐えようというのだ。炎王円環を手札に加えられようとも、破壊されたリンデの効果で次の水精鱗をデッキから特殊召喚し、壁として扱えれば、1ターンは耐えられると踏んだのだ。これしか出来ないという事に、璃雄は苦々しい顔をした。
その頃。
「……まずいわ」
牧場が呟いた。「何が?」と隣で観戦していた竜輝は訊きかえした。
「バーンデス・オブ・バース、ディストラクションコンボ……私はアレにやられたのよ」
思い出すのも癪な様で、親指の爪を噛んで苛立ちを紛らわせていた。
「次、奴がドローするカードがあのカードなら……璃雄は、負けてしまう……!」
璃雄手札 2
リバースカード 1
モンスター無し
焔手札 0
リバースなし
モンスター 無し
「俺のターン!」
焔の怒りの限界点はとっくに超えていた。やりたくもない雑魚どもの大会に、自分の力の象徴を使ってデュエルをしなければならないという状況が、とてもじゃないが彼にとっては苦痛であり、どうしようもない怒りを齎す存在であった。
「ドロー……っ!」
更にはさっきと今の相手、それがどうにも強いのか弱いのか曖昧なところで止まっていて、尚且つそれが強いという扱いをされているのが癇に障るのだった。
だがそのデュエルももう終わる。何故なら、彼が今ドローしたカードは、正に今の状況ではワンターンキルも可能であるほどの超火力カードだったからだ。
「前のターンに破壊されたバロンの効果を発動! デッキから炎王の魔法を手札に―――そして、効果で破壊されたガルドニクスを特殊召喚する!」
もう一体のガルドニクスが炎の中より復活する。咆哮をあげ、璃雄に執拗にプレッシャーをかけた。璃雄はそれに臆する事も無く、リバースカードを発動した。
「リバース発動! アビスフィアー! デッキより、リンデ特殊召喚! ガルドニクスの特殊召喚の後に特殊召喚したため、このカードは破壊されない!」
璃雄の場に巨大な泡が出現し、その中にリンデが苦しそうにしながら入っていた。璃雄はリンデにこんな行為をさせて申し訳ないと思いながらも、もう少しだけ我慢してくれと願った。
その行動も、焔の怒りに触れた。さっさとゲームを終わらせたいというのに、未だこうして邪魔をするのがうざったらしかったのだ。
「メインフェイズに移行する。手札から、魔法を発動する!」
焔がそう言った瞬間、フィールド上のガルドニクスとリンデが一瞬にして爆発した。璃雄は何が起こったのか判らぬまま、爆風から顔を隠す。観客も一同にそうしたが、爆風がとかれた後に、それを目にして驚愕した。
「……ドローして、しまった」
牧場の首が垂れた。もう一筋すらの希望も失ったようにだ。
「おい、何だよあのカード……炎王と組ませる様に作られたカードじゃねえか!」
竜輝はテキストを遠目で見て、歯軋りした。
「魔法カード、巨獣の輪唱を発動した」
「巨獣の、輪唱?」
璃雄が思わず訊きかえした。
「巨獣の輪唱は、俺の場の特殊召喚されたモンスターと同名モンスターが墓地に存在する時のみ発動できる魔法カード。俺の場のそのモンスターと、相手モンスターを破壊し―――手札の同名モンスターを、通常召喚扱いで特殊召喚する!」
璃雄は唖然とした。つまり、クロス・ソウルの条件が厳しくなった代わりに、破壊効果に変更されたカードという訳だった。炎王にとっては、ただのメリットでしかない。
「まだだ! 手札の魔法発動! 炎王炎焼! フィールド上に炎王が存在する時、墓地・手札のガルドニクスを特殊召喚する!」
「なっ……」
瞬く間に焔の場は炎の渦が二つ上がり、その中から差異無き灼熱の赤を纏いし炎王がその姿を見せた。バロンの効果で手札に加えたカードはこれだったのだ。つまり、全ては計算ずくで決まった事実だという事になる。
しかし、璃雄の反撃もまたあった。
「破壊されたリンデの効果! デッキからアビスキューレを守備表示で特殊召喚する!」
リンデが死に際に法螺貝を噴くと、デッキから駆けつけた水精鱗は可愛らしい少女であった。
「アビスキューレが水属性モンスターの効果で特殊召喚に成功した時、このターン、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃を無効にすることが出来る! 俺は1体のガルドニクスの攻撃を無効!」
「何だと……」
これには焔も予想外だった様だ。新たな水精鱗が出たことは知っていたが、此処まで面倒なモンスターがいた事は知らなかったのだ。それによって焔はまた脳味噌が沸騰しそうなまでに苛立った。
「く……ならばガルドニクスでアビスキューレを破壊! もう一体でダイレクトアタックだ! 死ぬがいい、炎王 炎上砲(ヴォルケイノ・ストーム)!」
二体の炎王が先程の様に嘴の先に炎を貯めたと思うと、1体はそれをキューレに与え、もう片方はがら空きの璃雄に向かって放った。
璃雄LP5500→2800
「ぐあああぁぁあ……!」
全身が熱い、熱い、熱い。璃雄の頭はそれしか残らなくなった。
幻覚でありながら、幻影でありながら、その熱自体は本当のように、璃雄の心を燃やしていく。
―――彼らはこうして殺されたのだ。
―――お前はこうして殺したのだ。
幻聴まで、彼には聞こえてきた。
「ほらほら、俺のターンは終了したんだ。早くドローしろ。それとも、もうおしまいか?」
焔がやっと終わったと面倒臭い蝿を叩き潰した後の様なすがすがしい顔で言った。
璃雄はもう戦う意思なんて残っていなかった。昨日の出来事が、昨日の惨劇が、璃雄の心に蘇った。
赤い、赤い、炎。燃えて燃えて、何処までも高く燃えていく。
私が殺した。
私が殺してしまった。
あの人達を、この手で。
璃雄は何も無い暗い空間の中に居た。そして、そこに唯一居た殺してしまった家族にガソリンを浴びせられる。
「お前が私たちを殺したんだ」
そう言ってマッチを投げられ、燃やされる。
熱い、熱いと嘆いても、助けなんて一切来ない。来るわけがない。逃げた自分に助けなんてあっていいわけが無い。私は此処で朽ちればいい。
璃雄の心は、折れた。
4ターン目
璃雄手札 2
リバースカード無し
モンスター 守備
焔手札 なし
リバースなし
モンスター ガルドニクス×3
璃雄はドローしたモンスターを禄に見ずにセットした。それを見て、焔は勝負を投げたと理解して、早々に決着を決める事にした。
「俺のターンドロー。おいお前、まあ何だ、よく耐えたもんだと思うぜ俺はよ」
焔は心の片隅にも思っていない言葉を璃雄に投げつけた。璃雄は俯いたまま無言だった。
「だが英雄も此処までだ。さっさと倒れて帰りやがれってんだ―――俺は、フィールド上のガルドニクス3体でオーバーレイネットワークを構築!」
そう宣言した瞬間、璃雄以外の全員がどよめいた。レベル8モンスター3体でオーバーレイするエクシーズなんて限られているからだ。しかし焔がエクシーズすると予想されたモンスターの召喚時のエフェクトではなく、場が炎に包まれまた場が隠れるエフェクトが起こったからだ。
「そんな、璃雄! いい加減本気を出せ!」
牧場が危険を察して璃雄に叫ぶも、璃雄の心は奥底で、炎に燃えながら蹲っていた。
そして、炎が少しずつ晴れていく。
「極炎よ。汝の神を、汝の主を、我がしもべとして召喚する。敵を燃焼する絶対の力! 敵を粉砕する完全なる力! それを―――俺の為に! 俺の力として、俺の剣となりて、この場に現れろ!」
最後に炎が天高くに吹き上がり、その神々しい姿を晒した。
「―――炎王神鳥、アグニクスだ! さあ、貴様はこれで終わりだ!」
焔が笑う。璃雄は、もうとうに決闘者の心すら消えていた。
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