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怨獄の翼 作:ほーがん
遊戯王ロストゲートL 第4話「怨獄の翼」
声が聞こえた。ずっと遠くから響くような声が。それは叫喚か?わからない、ただこの闇の中にいる時、僕はあらゆる苦痛から解放され、万能感が五体に染み渡った。
すべてを屠れ。僕を、我を見下し蔑んできた豪者の皮を被った愚者共を、その翼で天へと巻き上げ、我が怒りのまま、その牙で、その爪で、一粒たりとも現世に残すな。
テサラクトよ。無力なるものに力を、抗い生きるための力を与え給へ。湧き上がる憤怒を具象する翼を与え給へ。
小太郎が意識を取り戻したその時。眼前にあったのは無惨にも切り刻まれ血の海に沈む、二人の人間だったもの。
怯え切った小太郎は、何が起こったのか分からないまま、その場を逃げ出した。
◇
六郎太から得た地図をもとに、かつての街の旧道を進んだ遊牙たち。その先に待っていたのは、名も知らぬ男二人の屍であった。
慄くルナを後ろに下げるリンカ。おぞましい光景に固唾を飲んだカケルが乾いた口先を開く。
「なんだよ、これ…」
「デュエルディスクをつけている…これはデュエルの結果なのか…?」
確かに暴力がものを言うこの世において、デュエルによって実体化したモンスターの攻撃を受け、命を落とす人間は存在する。しかし、こうも凄惨な現場に遭ったのは遊牙にとっても初めての経験だ。
リンカの背中にしがみ付き震えるルナに目をやり、遊牙は「一旦ここから離れよう」と提案した。しかし、カケルは道の先を指さす。
「おい、あれ」
「自転車、今朝小太郎が乗っていたやつだ」
リンカは困惑する。まさかあの温和な小太郎が、こんな真似をするはずがない。つい数時間前には笑顔で配達に出向いていた彼が、このような結果を生むデュエルをしたというのか?
真新しい血の匂いに顔をしかめる。リンカは遊牙の提案に改めて同意し、一行はとにかく現場を後にした。
あのような残酷極まりないデュエルを行う者がこの街に現れたのだとしたら、皆に知らせる必要がある。そう思案する遊牙の脳裏に、かのヴィジョンが蘇る。
一撃一撃に強烈な殺意の乗った、文字通りの決闘。そんな決死のデュエルを遊牙はごく最近、経験している。
「まさか、操り人形…?」
◇
一人の女が居た。先の世界大戦「ラグナロク」が決したと言われる場所、聖戦場。そこはまるで隕石でも衝突したかのような巨大なクレーターになっており、かつてはごく普通の市街地であったとは信じられないような光景であった。
その女、霧野メイコは陽の光に照らされ長い影を生み出している。自身とその仲間が住まう教会から徒歩で数十分のほど場所に位置するこの地は、メイコにとってただの戦火の名残ではない。自らの唯一の肉親、霧野遊牙が発見された地なのだ。はぐれた幼い弟をようやく見つけ抱きあげた時、メイコが覚えた強烈な違和感。10年の時を経てなお、メイコの両手に残っている。
その答えが欲しいのか、それとも別の何かに導かれているのか、メイコはたびたびこの地にやってきて、空を見上げていた。
青い、ただただ青く広い空。世界がこれだけ変化してなお、この星の空は変わらなかった。いつの間にか、彼女の目から一粒の光が流れ落ちる。
「…どうして、あの文字が…」
突然現れた少女ルナ、そしてその左腕に備わった腕輪に刻まれている文字。メイコはその文字を知っていた。それはやはり10年前のあの日、弟を抱きかかえたあの瞬間に見た…否、凄まじい光と共に『流れ込んできた』情報。…二重螺旋の階段を上る、おそらく「根源の何か」と、それを挟むようにそびえる一対の竜。片方は黒く、片方は白く。文字はメイコの脳髄へ刻むように告げる。それは断片的な言葉で、文としての体裁を保っていなかった。
死。闇。負。覚醒。月。箱舟。生命。光。正。革命。遡行する魂。決闘。永劫回路…そして、テサラクト。
メイコはその文字を見た時、直感的に確信を持った。それは、人が、人間が理解してはいけない何か。
人間が背負ってはいけない何か。理解の及ばぬ遠い何か…。
この10年、考えないようにしてきた。弟は帰ってきた。こうして自分も生きているし、仲間もできた。それでいいじゃないか。あの時に見たものは幻で、弟に覚えた違和感も全部関係がない。
そう言い聞かせ、記憶の奥底にしまい込んで、埃をかぶっていたはずだった、しかし。
まさに同じなのだ。ルナの腕輪に記されている文字は、あの時に見た未知の言葉と一字一句重なっていた。再び、得も言われぬ不安感がメイコの心臓を掴み上げていく。
鼓動も、呼吸も誰かに握られるような感覚がした。弟の、遊牙の記憶喪失とルナの存在。記憶の無い少年と少女。本当に無関係なのか?
「うるさい…」
誰に言うでもない、ただ一人メイコはその場に跪く。沸々と湧き上がる思考をかき消そうと首を振る。しかし、思い出す。どれだけ嫌がろうとも記憶は嘘を付いてくれない。
あの時、まるで、名も知らぬ他人を抱えたような感覚が…抱き上げた弟は…うつろに目を開き、だって、心臓が、もう。
“生きているはず、なかったのに”
「うるさい!!」
唾液をまき散らすこともいとわず、メイコは大声で叫んだ。あるのは何も変わらぬ青空だけ。ただ、ただ遠い天へ声が消えていく。
「遊牙…あなたは…」
その刹那だった。メイコは突然背後に気配を察知する。振り向こうとした。だが、体が恐怖で動かない。見てはいけない気がした。見たら全てが終わってしまう…そんな気さえするのだ。
それは、何をするでもなく、ただ語る。
『残酷なものだ、“セイ”とは』
「…」
声だ。男とも女ともとれぬ、性差の曖昧な音。瞬きさえ忘れてメイコは声を待つ。
『我はただ…時間がない…すまないヨシト』
「あ、あっ…あな、たは…」
辛うじて声を絞り出す。話しかけてよいのか何もわからない。気づけば声を出していた。
しばらくの間があった。それからメイコの耳元に、身の毛がよだつほどの、悍ましいほどの冷たい気配が近づき、告げる。
『お前は、間違っていない、霧野メイコ』
「…!?」
やっと体が動いた。振り向いた先には何も変わらぬ青空だけ。
頬を伝う涙と汗だけが、鮮明に触覚を撫ぜていた。
◇
瓦礫の隅に身を隠し、小太郎は頭を抱えて震える。まさか、デュエルで人を殺したというのか?
息が苦しい…。そうだ、デュエルの弱い自分にそんなことができるはずがない、そう言い聞かせようした矢先。デュエルディスクが光っている事に気づき、その光へ手を伸ばす。
取り出されたのは1枚のカード。
『月狂怨竜 アヴェレイジング・ドラゴン』
小太郎は思い出す。その瞳が紅く輝き出していく。
ああ、そうだ。僕がやった。僕が、我ガメッシタ。我ガスベテヲ…
「怨獄の扉開きし時、無力なる者達の慟哭が昇華する。愚鈍なる豪者を一粒たりとも残さず屠り、その翼で天を舞え!!!リンク召喚!!」
「現出せよ!《月狂怨竜 アヴェレイジング・ドラゴン(闇/L4/リンク/幻竜族/攻?)》!!!」
黒き天より、怨嗟の竜が舞い降りる。闇に染まりし牙を携え、二人の愚者を睥睨する。
「な、なんだこいつは…!?」
「リンク、モンスター…!?」
動揺する二人の男。小太郎は紅蓮の眼を滾らせ、怒号の叫びを放つ。
「貴様らが侮辱し、見下してきた者たちの怒りを受けるがいい!我は《アヴェレイジング・ドラゴン》の効果を発動!このモンスターのリンク召喚に成功した場合、フィールドのこのカード及びトークン以外のレベル3以下の通常モンスターを除く、全てのモンスターを破壊する!『マリシャス・ジャッジメント』!!!」
翼を広げた竜より、紅く染まった無数の針が放たれ敵の場に居座る雷の獣共を無に帰してゆく。
「お、俺の《大狼雷鳴》と《大狼雷神》が、全滅っ…!!」
さらに小太郎は男を指さし、その運命を決する。
「そして、この効果によりモンスターを破壊された者は、その攻撃力の合計のダメージを受ける!!《大狼雷鳴》・《大狼雷神》の攻撃力の合計は5000!消え去れ、豪者の皮を被った愚者よ!!」
男が見上げた先には、妖しく揺らめく竜の爪があった。その切っ先が振り下ろされ、袈裟斬りの如く肉体を引き裂き、その命を葬った。
「ぐあああああっ!!!(4000LP→0LP)」
血に沈んでいく片割れの姿に、残った男は慄き嗚咽を漏らし懇願する。
「ま、待ってくれ、俺が悪かった…!」
「少しは虐げられる者の思いを知るといい…《アヴェレイジング・ドラゴン》は我が墓地に眠る尊きはらから達…レベル3以下の通常モンスターの数×1000の攻撃力を得る…!(?→ATK4000)」
腰を抜かし泣きじゃくる男を見据え、竜は怨嗟の翼を広げ紅蓮の月が待つ天へと飛び立つ。
「これで貴様の命も終わりだ…テサラクトの時空へ溶け、再び箱舟の乗員となるがいい!!!《アヴェレイジング・ドラゴン》でダイレクトアタック!!!『怨獄のヘイトレッド・バースト』!!!」
激流の如き具象した怨嗟の炎が男の身を貫き、脳髄から焼き尽くした。もはやそこに命はなく、ただ血と灰に埋もれる肉塊が残ったのみである。
まるで積年の恨みを晴らしたかの如く、竜は高らかに咆哮を上げた…。
…そうだ、今の我には力がある。全ての強者をねじ伏せ、我に仇成す全てを屠る力が。なればこの力、使わずに居られようか。
「ふふふっ、はははははっ!!」
瓦礫の中より立ち上がり、小太郎は大声で嗤う。そうだ、いつも強者面をして、街を守るだの、人を助けるだの嘯く男がいたではないか。
「霧野遊牙…」
小太郎は、真昼の空に照らされ凹凸の影を縫う。
次回 第5話「月狂う者の末路」
声が聞こえた。ずっと遠くから響くような声が。それは叫喚か?わからない、ただこの闇の中にいる時、僕はあらゆる苦痛から解放され、万能感が五体に染み渡った。
すべてを屠れ。僕を、我を見下し蔑んできた豪者の皮を被った愚者共を、その翼で天へと巻き上げ、我が怒りのまま、その牙で、その爪で、一粒たりとも現世に残すな。
テサラクトよ。無力なるものに力を、抗い生きるための力を与え給へ。湧き上がる憤怒を具象する翼を与え給へ。
小太郎が意識を取り戻したその時。眼前にあったのは無惨にも切り刻まれ血の海に沈む、二人の人間だったもの。
怯え切った小太郎は、何が起こったのか分からないまま、その場を逃げ出した。
◇
六郎太から得た地図をもとに、かつての街の旧道を進んだ遊牙たち。その先に待っていたのは、名も知らぬ男二人の屍であった。
慄くルナを後ろに下げるリンカ。おぞましい光景に固唾を飲んだカケルが乾いた口先を開く。
「なんだよ、これ…」
「デュエルディスクをつけている…これはデュエルの結果なのか…?」
確かに暴力がものを言うこの世において、デュエルによって実体化したモンスターの攻撃を受け、命を落とす人間は存在する。しかし、こうも凄惨な現場に遭ったのは遊牙にとっても初めての経験だ。
リンカの背中にしがみ付き震えるルナに目をやり、遊牙は「一旦ここから離れよう」と提案した。しかし、カケルは道の先を指さす。
「おい、あれ」
「自転車、今朝小太郎が乗っていたやつだ」
リンカは困惑する。まさかあの温和な小太郎が、こんな真似をするはずがない。つい数時間前には笑顔で配達に出向いていた彼が、このような結果を生むデュエルをしたというのか?
真新しい血の匂いに顔をしかめる。リンカは遊牙の提案に改めて同意し、一行はとにかく現場を後にした。
あのような残酷極まりないデュエルを行う者がこの街に現れたのだとしたら、皆に知らせる必要がある。そう思案する遊牙の脳裏に、かのヴィジョンが蘇る。
一撃一撃に強烈な殺意の乗った、文字通りの決闘。そんな決死のデュエルを遊牙はごく最近、経験している。
「まさか、操り人形…?」
◇
一人の女が居た。先の世界大戦「ラグナロク」が決したと言われる場所、聖戦場。そこはまるで隕石でも衝突したかのような巨大なクレーターになっており、かつてはごく普通の市街地であったとは信じられないような光景であった。
その女、霧野メイコは陽の光に照らされ長い影を生み出している。自身とその仲間が住まう教会から徒歩で数十分のほど場所に位置するこの地は、メイコにとってただの戦火の名残ではない。自らの唯一の肉親、霧野遊牙が発見された地なのだ。はぐれた幼い弟をようやく見つけ抱きあげた時、メイコが覚えた強烈な違和感。10年の時を経てなお、メイコの両手に残っている。
その答えが欲しいのか、それとも別の何かに導かれているのか、メイコはたびたびこの地にやってきて、空を見上げていた。
青い、ただただ青く広い空。世界がこれだけ変化してなお、この星の空は変わらなかった。いつの間にか、彼女の目から一粒の光が流れ落ちる。
「…どうして、あの文字が…」
突然現れた少女ルナ、そしてその左腕に備わった腕輪に刻まれている文字。メイコはその文字を知っていた。それはやはり10年前のあの日、弟を抱きかかえたあの瞬間に見た…否、凄まじい光と共に『流れ込んできた』情報。…二重螺旋の階段を上る、おそらく「根源の何か」と、それを挟むようにそびえる一対の竜。片方は黒く、片方は白く。文字はメイコの脳髄へ刻むように告げる。それは断片的な言葉で、文としての体裁を保っていなかった。
死。闇。負。覚醒。月。箱舟。生命。光。正。革命。遡行する魂。決闘。永劫回路…そして、テサラクト。
メイコはその文字を見た時、直感的に確信を持った。それは、人が、人間が理解してはいけない何か。
人間が背負ってはいけない何か。理解の及ばぬ遠い何か…。
この10年、考えないようにしてきた。弟は帰ってきた。こうして自分も生きているし、仲間もできた。それでいいじゃないか。あの時に見たものは幻で、弟に覚えた違和感も全部関係がない。
そう言い聞かせ、記憶の奥底にしまい込んで、埃をかぶっていたはずだった、しかし。
まさに同じなのだ。ルナの腕輪に記されている文字は、あの時に見た未知の言葉と一字一句重なっていた。再び、得も言われぬ不安感がメイコの心臓を掴み上げていく。
鼓動も、呼吸も誰かに握られるような感覚がした。弟の、遊牙の記憶喪失とルナの存在。記憶の無い少年と少女。本当に無関係なのか?
「うるさい…」
誰に言うでもない、ただ一人メイコはその場に跪く。沸々と湧き上がる思考をかき消そうと首を振る。しかし、思い出す。どれだけ嫌がろうとも記憶は嘘を付いてくれない。
あの時、まるで、名も知らぬ他人を抱えたような感覚が…抱き上げた弟は…うつろに目を開き、だって、心臓が、もう。
“生きているはず、なかったのに”
「うるさい!!」
唾液をまき散らすこともいとわず、メイコは大声で叫んだ。あるのは何も変わらぬ青空だけ。ただ、ただ遠い天へ声が消えていく。
「遊牙…あなたは…」
その刹那だった。メイコは突然背後に気配を察知する。振り向こうとした。だが、体が恐怖で動かない。見てはいけない気がした。見たら全てが終わってしまう…そんな気さえするのだ。
それは、何をするでもなく、ただ語る。
『残酷なものだ、“セイ”とは』
「…」
声だ。男とも女ともとれぬ、性差の曖昧な音。瞬きさえ忘れてメイコは声を待つ。
『我はただ…時間がない…すまないヨシト』
「あ、あっ…あな、たは…」
辛うじて声を絞り出す。話しかけてよいのか何もわからない。気づけば声を出していた。
しばらくの間があった。それからメイコの耳元に、身の毛がよだつほどの、悍ましいほどの冷たい気配が近づき、告げる。
『お前は、間違っていない、霧野メイコ』
「…!?」
やっと体が動いた。振り向いた先には何も変わらぬ青空だけ。
頬を伝う涙と汗だけが、鮮明に触覚を撫ぜていた。
◇
瓦礫の隅に身を隠し、小太郎は頭を抱えて震える。まさか、デュエルで人を殺したというのか?
息が苦しい…。そうだ、デュエルの弱い自分にそんなことができるはずがない、そう言い聞かせようした矢先。デュエルディスクが光っている事に気づき、その光へ手を伸ばす。
取り出されたのは1枚のカード。
『月狂怨竜 アヴェレイジング・ドラゴン』
小太郎は思い出す。その瞳が紅く輝き出していく。
ああ、そうだ。僕がやった。僕が、我ガメッシタ。我ガスベテヲ…
「怨獄の扉開きし時、無力なる者達の慟哭が昇華する。愚鈍なる豪者を一粒たりとも残さず屠り、その翼で天を舞え!!!リンク召喚!!」
「現出せよ!《月狂怨竜 アヴェレイジング・ドラゴン(闇/L4/リンク/幻竜族/攻?)》!!!」
黒き天より、怨嗟の竜が舞い降りる。闇に染まりし牙を携え、二人の愚者を睥睨する。
「な、なんだこいつは…!?」
「リンク、モンスター…!?」
動揺する二人の男。小太郎は紅蓮の眼を滾らせ、怒号の叫びを放つ。
「貴様らが侮辱し、見下してきた者たちの怒りを受けるがいい!我は《アヴェレイジング・ドラゴン》の効果を発動!このモンスターのリンク召喚に成功した場合、フィールドのこのカード及びトークン以外のレベル3以下の通常モンスターを除く、全てのモンスターを破壊する!『マリシャス・ジャッジメント』!!!」
翼を広げた竜より、紅く染まった無数の針が放たれ敵の場に居座る雷の獣共を無に帰してゆく。
「お、俺の《大狼雷鳴》と《大狼雷神》が、全滅っ…!!」
さらに小太郎は男を指さし、その運命を決する。
「そして、この効果によりモンスターを破壊された者は、その攻撃力の合計のダメージを受ける!!《大狼雷鳴》・《大狼雷神》の攻撃力の合計は5000!消え去れ、豪者の皮を被った愚者よ!!」
男が見上げた先には、妖しく揺らめく竜の爪があった。その切っ先が振り下ろされ、袈裟斬りの如く肉体を引き裂き、その命を葬った。
「ぐあああああっ!!!(4000LP→0LP)」
血に沈んでいく片割れの姿に、残った男は慄き嗚咽を漏らし懇願する。
「ま、待ってくれ、俺が悪かった…!」
「少しは虐げられる者の思いを知るといい…《アヴェレイジング・ドラゴン》は我が墓地に眠る尊きはらから達…レベル3以下の通常モンスターの数×1000の攻撃力を得る…!(?→ATK4000)」
腰を抜かし泣きじゃくる男を見据え、竜は怨嗟の翼を広げ紅蓮の月が待つ天へと飛び立つ。
「これで貴様の命も終わりだ…テサラクトの時空へ溶け、再び箱舟の乗員となるがいい!!!《アヴェレイジング・ドラゴン》でダイレクトアタック!!!『怨獄のヘイトレッド・バースト』!!!」
激流の如き具象した怨嗟の炎が男の身を貫き、脳髄から焼き尽くした。もはやそこに命はなく、ただ血と灰に埋もれる肉塊が残ったのみである。
まるで積年の恨みを晴らしたかの如く、竜は高らかに咆哮を上げた…。
…そうだ、今の我には力がある。全ての強者をねじ伏せ、我に仇成す全てを屠る力が。なればこの力、使わずに居られようか。
「ふふふっ、はははははっ!!」
瓦礫の中より立ち上がり、小太郎は大声で嗤う。そうだ、いつも強者面をして、街を守るだの、人を助けるだの嘯く男がいたではないか。
「霧野遊牙…」
小太郎は、真昼の空に照らされ凹凸の影を縫う。
次回 第5話「月狂う者の末路」
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