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019:顕現する暴威 作:天2
019:顕現する暴威
ユーイ:LP4000/手札2
●モンスター
ダークコード・トーカー:ATK2300
●魔法・罠
伏せカード2枚
鬼柳:LP3500/手札2
●モンスター
なし
●魔法・罠
伏せカード2枚
2枚の伏せカードを警戒しながらも果敢に攻めたユーイの《ダークコード・トーカー》の一撃は、見事鬼柳の《インフェルニティ・デーモン》を両断した。
「おっしゃあ! ファーストバトルはユーイの勝ちだッ!」
それを観ていた城之内が喜色を表す。
「初っぱなから《ダークコード・トーカー》で先制とは、ユーイのヤツ飛ばしてるぜッ!」
《ダークコード・トーカー》はユーイのエースモンスター。展開の要になりつつ、一撃必殺の破壊力も生み出せる優秀なモンスターだ。
手札に更に展開できるモンスターなり魔法カードなりがなかったため、このターンにはその真価を見せることはできなかったが、それでもユーイのアタッカー陣の要であることは確か。それを早々に喚び出したことから、ユーイが1ターン目から全力投球でこのデュエルに臨んでいることが分かる。
城之内はユーイのその意気込みを好ましく感じているようだが、一方でドールはそれに危うさを感じていた。
確かにユーイの攻撃には気迫が籠っていた。
だが《ダークコード・トーカー》の利点は、更なる展開をしつつ攻撃力を上げることができる点にある。つまり《ダークコード・トーカー》をリンク召喚した上で、そのリンク先に更なるモンスターを召喚することがその真価を引き出す上で必須と言える。
しかし、ユーイはそれをせず《ダークコード・トーカー》素の攻撃力のみで《インフェルニティ・デーモン》に挑んだ。その状態の《ダークコード・トーカー》は攻撃力が高いだけの通常モンスターと大して変わらないにも関わらずだ。これまでのデュエルでユーイがその選択をしたことはなかった。
故にドールにはユーイが何か焦っているように思えたのだ。
(攻め急ぎすぎるなよ、ユーイ。其奴はまだ真の力を見せてはおらぬ。何を仕掛けてくるか分からぬぞ……!)
ドールは表情に喜色は表さず、物憂げな瞳で対峙する2人を見つめていた。
そんな視線など意に介さず鬼柳はクツクツと嗤う。
「リンク召喚……面白ェ召喚法だなァ。モンスターに矢印が付いていて、そいつに指定されたメインモンスターゾーンを使い展開したり補助し合ったりするわけかァ」
たった1ターンでリンク召喚の肝と言える特性を見抜いた鬼柳の洞察力に目を見張る。
「だが、今の《ダークコード・トーカー》のリンク先にはモンスターがいねェ。これは攻め時ってヤツだよなァ!」
鬼柳の闘志が牙を剥いたのを感じ、ユーイの背筋に緊張が走る。
(来るか……!)
警戒の色を強めたユーイを愉しそうに見て、鬼柳はドローする。
「オレのターン! ドローォ!!」
ドローしたカードを見てニヤリと嗤うと、鬼柳はデュエルディスクを操作する。
「まずはリバース罠発動だッ!」
前のターンからフィールドに伏せられていた鬼柳の伏せカードーーーその1枚が翻る。
「罠カード《極限への衝動》ッ!!」
鬼柳がその名を唱えると、そのフィールドの中央が光り出した。
†
《極限への衝動》
通常罠
手札を2枚墓地へ送って発動する。自分フィールド上に「ソウルトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。
†
「オレは手札の《インフェルニティ・ビートル》と《インフェルニティ・セイジ》を墓地に送り、《ソウルトークン》2体をフィールドに特殊召喚するッ!!」
鬼柳が手札の2枚のモンスターカードを墓地に送ると、光っていた地面から青白い霊魂のような《ソウルトークン》が2体飛び出してきた。
フィールド中空を飛びかい、ユーイを見下ろしてケラケラ嗤う。
しかしその《ソウルトークン》はすぐさま光の渦となる。
「《ソウルトークン》2体をリリースし、《インフェルニティ・ジェネラル》をアドバンス召喚だァッ!!」
《ソウルトークン》は儀式召喚やカード効果、コストとしてリリースすることはできないが、アドバンス召喚のリリースにすることはできる。
光の渦から現れ出たのは、黒い甲冑で全身を覆った立派な体躯の騎士。その全身から放たれる闘気は、ユーイの《ダークコード・トーカー》に比するか、あるいはそれ以上だ。
†
《インフェルニティ・ジェネラル》
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守1500
自分の手札が0枚の場合、自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外し、自分の墓地に存在するレベル3以下の 「インフェルニティ」と名のついたモンスター2体を選択して発動できる。選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
†
レベル7の最上級モンスターであることや『ジェネラル』という名前から察すると、鬼柳の使う『インフェルニティ』の将軍ーーー指揮官階級のモンスターなのかもしれない。
その有する攻撃力は2700。
元々の攻撃力2300の《ダークコード・トーカー》を上回っている。
「テメェのモンスターにコイツの攻撃が受け止めきれるかなァ! バトルいくぜッ! 《インフェルニティ・ジェネラル》で《ダークコード・トーカー》に攻撃ッ!!」
飛び出した《インフェルニティ・ジェネラル》が剣を構える。
それは一撃の威力で《ダークコード・トーカー》を上下に二分しようかという構え。
「“煉獄断殺(インフェルニティ・ブレード)”ッ!!」
横薙ぎに放たれる剣撃。
いくら鎧があろうと、まともに喰らえば次の瞬間には《ダークコード・トーカー》の胴と下半身はおさらばすることになる。
「くッ……! させないッ!! 速攻魔法発動ッ!!」
ユーイの伏せカードが発動すると同時に、《ダークコード・トーカー》は《インフェルニティ・ジェネラル》の剣を自身の剣で受け止めていた。
ギィィィィンと乾いた音を立てて互いの剣がぶつかり、せめぎ合っていくつもの火花が散る。
「速攻魔法《セキュリティ・ブロック》!! これでこのターン、《ダークコード・トーカー》は戦闘では破壊されずダメージも0になるッ!!」
†
《セキュリティ・ブロック》
速攻魔法
(1):フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは戦闘では破壊されず、お互いが受ける全ての戦闘ダメージは0になる。
†
力任せに押し込もうとする《インフェルニティ・ジェネラル》の剣を《ダークコード・トーカー》は押し返し、その体ごと思い切り弾き飛ばした。
《セキュリティ・ブロック》の効果により、このターン《ダークコード・トーカー》は戦闘では破壊されずダメージも受けなくなっている。
戦闘が不発となった《インフェルニティ・ジェネラル》が鬼柳のフィールドへ舞い戻る。
「防いだかッ! 流石にこの程度の攻撃じゃあ倒せねェな!」
鬼柳は感嘆を口にするが、当のユーイは一瞬立ち眩みを覚える。
(ーーーなんだ?)
唐突に生じたそれにユーイは戸惑いを浮かべた。
初めての経験だが、本能的にその原因に思い到る。
(今の攻防で思った以上に魔力を持っていかれた……?)
モンスター召喚時以外にデュエリストは魔法・罠カードを発動する際にも魔力を使用するが、モンスター召喚時と違って魔法・罠カードを発動するだけなら、そう多量の魔力が要るわけではない。
しかし《インフェルニティ・ジェネラル》の攻撃を防ぐために発動した《セキュリティ・ブロック》に、ユーイの意思とは関係なく必要以上の魔力を注いでしまったのだ。
デュエリストにとってデュエル中の魔力管理は基礎中の基礎。ましてユーイは他者より魔力量で劣っている分、魔力切れになるリスクが高く、少ない魔力のやりくりはまさに生命線と言える。
いくら鬼柳の凄まじい魔力に威圧されているとは言え、ユーイにとって考えられないミスだ。
(なんで今更こんな初歩的なミスを……?)
「オレはこれでターンエンドだぜェ。さぁ、テメェのターンだ。見事《インフェルニティ・ジェネラル》を越えてみせろよォ!!」
ユーイが自問に答えを出す間もなく、鬼柳はターンを渡してくる。
その表情は戦いの愉悦に酔っているよう。
その顔にまたユーイはかすかな胸の痛みを感じるが、それを振り払うようにデッキからカードをドローした。
(集中しろ。散漫な精神で勝てる相手じゃあない。ここで俺が負ければ、皆まとめてゲームオーバーだ。このデュエル、決して負けられないんだ……!)
ユーイには悠長に自問自答している猶予などない。謎が謎として残ることになろうとも、まずはこのデュエルに勝たなければどのみち永遠に答えはでないのだ。
引いたカードを確認すると、それは《ダークコード・トーカー》を強化できる魔法カードだった。
素の攻撃力では《ダークコード・トーカー》は《インフェルニティ・ジェネラル》には及ばない。リンク先にモンスターを出せれば超えることは可能だが、手札にモンスターカードもそれを喚び出すカードもないこの状況では魔法カードとのコンボ攻撃に託すしかない。
(鬼柳の手札は0枚。ここで《インフェルニティ・ジェネラル》を叩ければ流れを一気に引き寄せられる!)
《インフェルニティ・ジェネラル》を喚ぶのに鬼柳が使ったカードは4枚。
ここでそれを失えば鬼柳のディスアドバンテージは甚大だ。余程の運がなければ、ほとんどユーイの勝利を決定着けると言って良い。
(ここは何としても征す!)
ユーイはドローカードをそのまま発動した。
「魔法カード《破天荒な風》!! このカードで《ダークコード・トーカー》の攻撃力は1000アップする!!」
《ダークコード・トーカー》の周りを荒風が旋り始める。
《破天荒な風》は荒れる風の勢いでモンスターの攻撃の威力を高める魔法カード。その攻撃力の上昇値は1000と高く、これで強化すれば《ダークコード・トーカー》の戦闘力は《インフェルニティ・ジェネラル》を大きく上回る。
ダークコード・トーカー:ATK2300→3300
「バトルだッ、行け《ダークコード・トーカー》!!」
ユーイの号令とともに、《ダークコード・トーカー》は吹き荒ぶ風に乗り一瞬でトップスピードに加速。勢いそのままに剣を《インフェルニティ・ジェネラル》に振り下ろす。
しかしその剣は止められた。《インフェルニティ・ジェネラル》が先の《ダークコード・トーカー》同様、その剣で受け止めたのだ。
互いの刃が軋り、闘志がぶつかるように火花が散る。
ビキリと何かが砕ける音がした。
見ると、ヒビが入っているのは《インフェルニティ・ジェネラル》の剣だ。そのままビキビキとヒビは剣身全体に広がり、やがて砕け散ってしまった。
武器を砕いた《ダークコード・トーカー》の剣は勢いを失うことなく、そのまま《インフェルニティ・ジェネラル》を袈裟斬りに斬り裂く。
更に吹き荒ぶ風が《インフェルニティ・ジェネラル》の身体を舞い上げ吹き飛ばした。
《インフェルニティ・ジェネラル》は中空で砕けるように消滅。
そして《ダークコード・トーカー》の振り抜いた剣の衝撃波が《破天荒な風》に乗って鬼柳の身体も叩く。
「ぬぐゥ……!」
鬼柳:LP3500→2900
「やったんだな……!」
鬼柳のLPが削られたのを見て歓声を上げたのはハヤト。
鬼柳のLPはまだ半分以上残ってはいるが、手札はなく、伏せカードが1枚残っているのみだ。対するユーイは手札をまだ2枚残し、フィールドには攻撃力3300の《ダークコード・トーカー》に伏せカードが1枚の状況。
この状況からの逆転は限りなく困難で、誰が見ても鬼柳はすでに詰んでいると言えた。
「このデュエルはもうユーイの勝ちなんだな!」
ハヤトはユーイの勝利を確信したようだ。
しかしそう喜色を露にしたのはハヤト1人だった。ドールも城之内も未だ厳しい表情を崩してはいない。
そのことに気付きハヤトは顔に困惑を浮かべる。
「ど、どうしたんだな? これってもう決まったも同然じゃないのか?」
「ああ、決まったも同然だよ。……普通ならな」
ハヤトの問いに城之内が応える。しかしその声はやはり固い。
戸惑うハヤトに城之内は周りを固めるグールズ達の様子を指し示す。
「見ろよ。自分達の大将がこの状況に追い込まれれば、普通もうちょい動揺するぜ。だが、奴らにそんな様子はねー。まるでこうなることは想定内っつー感じだ」
確かに鬼柳の部下であるはずのグールズ達に、追い込まれたような焦りや慄きはない。むしろニヤニヤと笑う余裕すらあった。
「……どういうことなんだな。どう見たって俄然ユーイの方が優勢なのに……」
「まだあの鬼柳ってヤツには何か隠し玉があるっつーことだろうぜ。この局面すら簡単に覆せるほどのとんでもねーのがな」
鬼柳に何か隠し玉があるはずと警戒する城之内。
しかしその言葉にドールは神妙な面持ちを崩さず「いやーーー」と否定を口にする。
「ーーー確かにあやつにまだ隠している力があるのは間違いなかろう。じゃが、あやつの狙いがそれだけとは思えん」
「どういうことだ?」
ドールが歯軋りするように口を歪める。
「この状況になることそのものが、最初からあやつの思惑通りだったとしたらどうじゃ?」
城之内もハヤトも一様にギョッとする。
「わざと追い詰められたってのか?」
「いや、鬼柳は追い詰められてすらおらん。追い詰めているつもりが追い詰められていたのは、ユーイの方なのかもしれぬという話じゃ。儂らが巧妙に誘導され此処に追い詰められたようにの」
ドール達はこの場に来るまで上手くグールズ達を避けてきたつもりだった。しかしそれは鬼柳の計略であり、避けていたつもりが巧妙に誘導され、結果的に鬼柳と闘う現在がある。
ユーイもまたデュエル中にこれと同じく、この状況を作り出すためにプレイを誘導された可能性があった。
そしてそれはドールだけでなく、当のユーイ自身も薄々気付いてきていた。
《ダークコード・トーカー》の剣によりダメージを受けた鬼柳は長めの髪を垂らし俯いたまま。確かにダメージを与えている証拠だ。
しかしーーー
(致命傷というわけじゃあないが、着実にダメージは与えている。アドバンテージの差もかなり開いた。だがーーー何故だ、鬼柳から感じられるプレッシャーはむしろ増している!)
なかなか顔を上げようとしない鬼柳。
だがその全身から放たれる威圧感は、衰えるどころかますます強くなっていた。
ユーイが見ていると、鬼柳の肩が小刻みに震え始める。
その口からクツクツと笑い声が漏れ聞こえてきた。
「防御カードでピンチを凌ぎ……返しのターンですぐさま状況を覆してくる……。ククク……流石だなァ」
鬼柳はバッと顔を上げる。
「ーーーだがまだ足りねェ」
悦びながらも鬼気迫る鬼柳の表情に肌が総毛立つのを感じた。
それを極力相手に気取られぬようユーイは眉を寄せる。
「足りない?」
「ああ、そうだァ」
鬼柳は両手を広げる。
「攻撃力は十分。気迫もある。だがテメェの攻撃には足りねェのさ、『殺気』ってやつがな。オレを倒すという気迫はあっても、オレを殺してやるっていう覚悟がねェ。」
「殺意……だと?」
「そうだァ。この攻撃で相手を仕留めるーーーブッ殺すっていう気概がまるで感じられねェんだよ」
ユーイ:LP4000/手札2
●モンスター
ダークコード・トーカー:ATK2300
●魔法・罠
伏せカード2枚
鬼柳:LP3500/手札2
●モンスター
なし
●魔法・罠
伏せカード2枚
2枚の伏せカードを警戒しながらも果敢に攻めたユーイの《ダークコード・トーカー》の一撃は、見事鬼柳の《インフェルニティ・デーモン》を両断した。
「おっしゃあ! ファーストバトルはユーイの勝ちだッ!」
それを観ていた城之内が喜色を表す。
「初っぱなから《ダークコード・トーカー》で先制とは、ユーイのヤツ飛ばしてるぜッ!」
《ダークコード・トーカー》はユーイのエースモンスター。展開の要になりつつ、一撃必殺の破壊力も生み出せる優秀なモンスターだ。
手札に更に展開できるモンスターなり魔法カードなりがなかったため、このターンにはその真価を見せることはできなかったが、それでもユーイのアタッカー陣の要であることは確か。それを早々に喚び出したことから、ユーイが1ターン目から全力投球でこのデュエルに臨んでいることが分かる。
城之内はユーイのその意気込みを好ましく感じているようだが、一方でドールはそれに危うさを感じていた。
確かにユーイの攻撃には気迫が籠っていた。
だが《ダークコード・トーカー》の利点は、更なる展開をしつつ攻撃力を上げることができる点にある。つまり《ダークコード・トーカー》をリンク召喚した上で、そのリンク先に更なるモンスターを召喚することがその真価を引き出す上で必須と言える。
しかし、ユーイはそれをせず《ダークコード・トーカー》素の攻撃力のみで《インフェルニティ・デーモン》に挑んだ。その状態の《ダークコード・トーカー》は攻撃力が高いだけの通常モンスターと大して変わらないにも関わらずだ。これまでのデュエルでユーイがその選択をしたことはなかった。
故にドールにはユーイが何か焦っているように思えたのだ。
(攻め急ぎすぎるなよ、ユーイ。其奴はまだ真の力を見せてはおらぬ。何を仕掛けてくるか分からぬぞ……!)
ドールは表情に喜色は表さず、物憂げな瞳で対峙する2人を見つめていた。
そんな視線など意に介さず鬼柳はクツクツと嗤う。
「リンク召喚……面白ェ召喚法だなァ。モンスターに矢印が付いていて、そいつに指定されたメインモンスターゾーンを使い展開したり補助し合ったりするわけかァ」
たった1ターンでリンク召喚の肝と言える特性を見抜いた鬼柳の洞察力に目を見張る。
「だが、今の《ダークコード・トーカー》のリンク先にはモンスターがいねェ。これは攻め時ってヤツだよなァ!」
鬼柳の闘志が牙を剥いたのを感じ、ユーイの背筋に緊張が走る。
(来るか……!)
警戒の色を強めたユーイを愉しそうに見て、鬼柳はドローする。
「オレのターン! ドローォ!!」
ドローしたカードを見てニヤリと嗤うと、鬼柳はデュエルディスクを操作する。
「まずはリバース罠発動だッ!」
前のターンからフィールドに伏せられていた鬼柳の伏せカードーーーその1枚が翻る。
「罠カード《極限への衝動》ッ!!」
鬼柳がその名を唱えると、そのフィールドの中央が光り出した。
†
《極限への衝動》
通常罠
手札を2枚墓地へ送って発動する。自分フィールド上に「ソウルトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。
†
「オレは手札の《インフェルニティ・ビートル》と《インフェルニティ・セイジ》を墓地に送り、《ソウルトークン》2体をフィールドに特殊召喚するッ!!」
鬼柳が手札の2枚のモンスターカードを墓地に送ると、光っていた地面から青白い霊魂のような《ソウルトークン》が2体飛び出してきた。
フィールド中空を飛びかい、ユーイを見下ろしてケラケラ嗤う。
しかしその《ソウルトークン》はすぐさま光の渦となる。
「《ソウルトークン》2体をリリースし、《インフェルニティ・ジェネラル》をアドバンス召喚だァッ!!」
《ソウルトークン》は儀式召喚やカード効果、コストとしてリリースすることはできないが、アドバンス召喚のリリースにすることはできる。
光の渦から現れ出たのは、黒い甲冑で全身を覆った立派な体躯の騎士。その全身から放たれる闘気は、ユーイの《ダークコード・トーカー》に比するか、あるいはそれ以上だ。
†
《インフェルニティ・ジェネラル》
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守1500
自分の手札が0枚の場合、自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外し、自分の墓地に存在するレベル3以下の 「インフェルニティ」と名のついたモンスター2体を選択して発動できる。選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
†
レベル7の最上級モンスターであることや『ジェネラル』という名前から察すると、鬼柳の使う『インフェルニティ』の将軍ーーー指揮官階級のモンスターなのかもしれない。
その有する攻撃力は2700。
元々の攻撃力2300の《ダークコード・トーカー》を上回っている。
「テメェのモンスターにコイツの攻撃が受け止めきれるかなァ! バトルいくぜッ! 《インフェルニティ・ジェネラル》で《ダークコード・トーカー》に攻撃ッ!!」
飛び出した《インフェルニティ・ジェネラル》が剣を構える。
それは一撃の威力で《ダークコード・トーカー》を上下に二分しようかという構え。
「“煉獄断殺(インフェルニティ・ブレード)”ッ!!」
横薙ぎに放たれる剣撃。
いくら鎧があろうと、まともに喰らえば次の瞬間には《ダークコード・トーカー》の胴と下半身はおさらばすることになる。
「くッ……! させないッ!! 速攻魔法発動ッ!!」
ユーイの伏せカードが発動すると同時に、《ダークコード・トーカー》は《インフェルニティ・ジェネラル》の剣を自身の剣で受け止めていた。
ギィィィィンと乾いた音を立てて互いの剣がぶつかり、せめぎ合っていくつもの火花が散る。
「速攻魔法《セキュリティ・ブロック》!! これでこのターン、《ダークコード・トーカー》は戦闘では破壊されずダメージも0になるッ!!」
†
《セキュリティ・ブロック》
速攻魔法
(1):フィールドのサイバース族モンスター1体を対象として発動できる。このターン、そのモンスターは戦闘では破壊されず、お互いが受ける全ての戦闘ダメージは0になる。
†
力任せに押し込もうとする《インフェルニティ・ジェネラル》の剣を《ダークコード・トーカー》は押し返し、その体ごと思い切り弾き飛ばした。
《セキュリティ・ブロック》の効果により、このターン《ダークコード・トーカー》は戦闘では破壊されずダメージも受けなくなっている。
戦闘が不発となった《インフェルニティ・ジェネラル》が鬼柳のフィールドへ舞い戻る。
「防いだかッ! 流石にこの程度の攻撃じゃあ倒せねェな!」
鬼柳は感嘆を口にするが、当のユーイは一瞬立ち眩みを覚える。
(ーーーなんだ?)
唐突に生じたそれにユーイは戸惑いを浮かべた。
初めての経験だが、本能的にその原因に思い到る。
(今の攻防で思った以上に魔力を持っていかれた……?)
モンスター召喚時以外にデュエリストは魔法・罠カードを発動する際にも魔力を使用するが、モンスター召喚時と違って魔法・罠カードを発動するだけなら、そう多量の魔力が要るわけではない。
しかし《インフェルニティ・ジェネラル》の攻撃を防ぐために発動した《セキュリティ・ブロック》に、ユーイの意思とは関係なく必要以上の魔力を注いでしまったのだ。
デュエリストにとってデュエル中の魔力管理は基礎中の基礎。ましてユーイは他者より魔力量で劣っている分、魔力切れになるリスクが高く、少ない魔力のやりくりはまさに生命線と言える。
いくら鬼柳の凄まじい魔力に威圧されているとは言え、ユーイにとって考えられないミスだ。
(なんで今更こんな初歩的なミスを……?)
「オレはこれでターンエンドだぜェ。さぁ、テメェのターンだ。見事《インフェルニティ・ジェネラル》を越えてみせろよォ!!」
ユーイが自問に答えを出す間もなく、鬼柳はターンを渡してくる。
その表情は戦いの愉悦に酔っているよう。
その顔にまたユーイはかすかな胸の痛みを感じるが、それを振り払うようにデッキからカードをドローした。
(集中しろ。散漫な精神で勝てる相手じゃあない。ここで俺が負ければ、皆まとめてゲームオーバーだ。このデュエル、決して負けられないんだ……!)
ユーイには悠長に自問自答している猶予などない。謎が謎として残ることになろうとも、まずはこのデュエルに勝たなければどのみち永遠に答えはでないのだ。
引いたカードを確認すると、それは《ダークコード・トーカー》を強化できる魔法カードだった。
素の攻撃力では《ダークコード・トーカー》は《インフェルニティ・ジェネラル》には及ばない。リンク先にモンスターを出せれば超えることは可能だが、手札にモンスターカードもそれを喚び出すカードもないこの状況では魔法カードとのコンボ攻撃に託すしかない。
(鬼柳の手札は0枚。ここで《インフェルニティ・ジェネラル》を叩ければ流れを一気に引き寄せられる!)
《インフェルニティ・ジェネラル》を喚ぶのに鬼柳が使ったカードは4枚。
ここでそれを失えば鬼柳のディスアドバンテージは甚大だ。余程の運がなければ、ほとんどユーイの勝利を決定着けると言って良い。
(ここは何としても征す!)
ユーイはドローカードをそのまま発動した。
「魔法カード《破天荒な風》!! このカードで《ダークコード・トーカー》の攻撃力は1000アップする!!」
《ダークコード・トーカー》の周りを荒風が旋り始める。
《破天荒な風》は荒れる風の勢いでモンスターの攻撃の威力を高める魔法カード。その攻撃力の上昇値は1000と高く、これで強化すれば《ダークコード・トーカー》の戦闘力は《インフェルニティ・ジェネラル》を大きく上回る。
ダークコード・トーカー:ATK2300→3300
「バトルだッ、行け《ダークコード・トーカー》!!」
ユーイの号令とともに、《ダークコード・トーカー》は吹き荒ぶ風に乗り一瞬でトップスピードに加速。勢いそのままに剣を《インフェルニティ・ジェネラル》に振り下ろす。
しかしその剣は止められた。《インフェルニティ・ジェネラル》が先の《ダークコード・トーカー》同様、その剣で受け止めたのだ。
互いの刃が軋り、闘志がぶつかるように火花が散る。
ビキリと何かが砕ける音がした。
見ると、ヒビが入っているのは《インフェルニティ・ジェネラル》の剣だ。そのままビキビキとヒビは剣身全体に広がり、やがて砕け散ってしまった。
武器を砕いた《ダークコード・トーカー》の剣は勢いを失うことなく、そのまま《インフェルニティ・ジェネラル》を袈裟斬りに斬り裂く。
更に吹き荒ぶ風が《インフェルニティ・ジェネラル》の身体を舞い上げ吹き飛ばした。
《インフェルニティ・ジェネラル》は中空で砕けるように消滅。
そして《ダークコード・トーカー》の振り抜いた剣の衝撃波が《破天荒な風》に乗って鬼柳の身体も叩く。
「ぬぐゥ……!」
鬼柳:LP3500→2900
「やったんだな……!」
鬼柳のLPが削られたのを見て歓声を上げたのはハヤト。
鬼柳のLPはまだ半分以上残ってはいるが、手札はなく、伏せカードが1枚残っているのみだ。対するユーイは手札をまだ2枚残し、フィールドには攻撃力3300の《ダークコード・トーカー》に伏せカードが1枚の状況。
この状況からの逆転は限りなく困難で、誰が見ても鬼柳はすでに詰んでいると言えた。
「このデュエルはもうユーイの勝ちなんだな!」
ハヤトはユーイの勝利を確信したようだ。
しかしそう喜色を露にしたのはハヤト1人だった。ドールも城之内も未だ厳しい表情を崩してはいない。
そのことに気付きハヤトは顔に困惑を浮かべる。
「ど、どうしたんだな? これってもう決まったも同然じゃないのか?」
「ああ、決まったも同然だよ。……普通ならな」
ハヤトの問いに城之内が応える。しかしその声はやはり固い。
戸惑うハヤトに城之内は周りを固めるグールズ達の様子を指し示す。
「見ろよ。自分達の大将がこの状況に追い込まれれば、普通もうちょい動揺するぜ。だが、奴らにそんな様子はねー。まるでこうなることは想定内っつー感じだ」
確かに鬼柳の部下であるはずのグールズ達に、追い込まれたような焦りや慄きはない。むしろニヤニヤと笑う余裕すらあった。
「……どういうことなんだな。どう見たって俄然ユーイの方が優勢なのに……」
「まだあの鬼柳ってヤツには何か隠し玉があるっつーことだろうぜ。この局面すら簡単に覆せるほどのとんでもねーのがな」
鬼柳に何か隠し玉があるはずと警戒する城之内。
しかしその言葉にドールは神妙な面持ちを崩さず「いやーーー」と否定を口にする。
「ーーー確かにあやつにまだ隠している力があるのは間違いなかろう。じゃが、あやつの狙いがそれだけとは思えん」
「どういうことだ?」
ドールが歯軋りするように口を歪める。
「この状況になることそのものが、最初からあやつの思惑通りだったとしたらどうじゃ?」
城之内もハヤトも一様にギョッとする。
「わざと追い詰められたってのか?」
「いや、鬼柳は追い詰められてすらおらん。追い詰めているつもりが追い詰められていたのは、ユーイの方なのかもしれぬという話じゃ。儂らが巧妙に誘導され此処に追い詰められたようにの」
ドール達はこの場に来るまで上手くグールズ達を避けてきたつもりだった。しかしそれは鬼柳の計略であり、避けていたつもりが巧妙に誘導され、結果的に鬼柳と闘う現在がある。
ユーイもまたデュエル中にこれと同じく、この状況を作り出すためにプレイを誘導された可能性があった。
そしてそれはドールだけでなく、当のユーイ自身も薄々気付いてきていた。
《ダークコード・トーカー》の剣によりダメージを受けた鬼柳は長めの髪を垂らし俯いたまま。確かにダメージを与えている証拠だ。
しかしーーー
(致命傷というわけじゃあないが、着実にダメージは与えている。アドバンテージの差もかなり開いた。だがーーー何故だ、鬼柳から感じられるプレッシャーはむしろ増している!)
なかなか顔を上げようとしない鬼柳。
だがその全身から放たれる威圧感は、衰えるどころかますます強くなっていた。
ユーイが見ていると、鬼柳の肩が小刻みに震え始める。
その口からクツクツと笑い声が漏れ聞こえてきた。
「防御カードでピンチを凌ぎ……返しのターンですぐさま状況を覆してくる……。ククク……流石だなァ」
鬼柳はバッと顔を上げる。
「ーーーだがまだ足りねェ」
悦びながらも鬼気迫る鬼柳の表情に肌が総毛立つのを感じた。
それを極力相手に気取られぬようユーイは眉を寄せる。
「足りない?」
「ああ、そうだァ」
鬼柳は両手を広げる。
「攻撃力は十分。気迫もある。だがテメェの攻撃には足りねェのさ、『殺気』ってやつがな。オレを倒すという気迫はあっても、オレを殺してやるっていう覚悟がねェ。」
「殺意……だと?」
「そうだァ。この攻撃で相手を仕留めるーーーブッ殺すっていう気概がまるで感じられねェんだよ」
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