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HOME > 遊戯王SS一覧 > 炎の錬装戦士

炎の錬装戦士 作:エスカル

心地よい風が俺の頬と黒い髪の毛を撫でる。
今日の天気は快晴らしいがそれでも風は吹く。
首にしている炎が燃え盛る様子を模したネックレスも、肩に背負われているリュックにつけている『鳳 炎牙』と書かれたネームタグも歩く度少し揺れる。

今、俺がリュックを背負いながら歩いているのはロッサスと呼ばれている街中だ。
ロッサスの街は『デュエルモンスターズ』と呼ばれるカードゲームを中心にして発展した都市だ。
ビルやそれなりの大きさの建物は立ち並んでいるが、大都会と言える程ではない街並みだ。
だが、それぐらいの方が息苦しくなく過ごせて俺は気に入っている。

「炎牙」

俺の名を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。
振り返ると黒髪をサイドテールに纏めた女性が走ってきた。

「おはよう、美穂」

俺は美穂に軽く挨拶を返す。
彼女の名前は桜庭 美穂。
このロッサスの街で小学生の頃からの長い付き合いの、いわゆる幼なじみだ。

中学、それから高校になって進学したデュエルアカデミア·ロッサス校でも美穂と一緒だった。
おかげで小学生時代からの同級生たちからはその仲をからかわれたものだ。

「今日の神崎講師の課題やってきた?」
「当然」

神崎はロッサス大学でも特に厳しいと呼ばれている教授だ。
課題を1回でも忘れるようなら単位は絶望的とまで噂されている。
そんな教授だからこそ課題をきちんとやらなきゃいけないのは子供にだって分かることだろう。

「そうよね、あんたが忘れるわけないよね」

この言いかたは、もしかして。
内心では彼女から次に何を言われるかはわかっていた。

「お願い、課題見せて」

やっぱりか。
肩に寄りかかられて頼み事をしてくる。
昔からまったく変わっていない美穂の癖だ。
そしてこうなったときの対処方も心得ている。

「今日のおやつ、イチゴ大福がいいなぁ」
「イチゴ大福でピンチを脱出出来るなら安いもんよ!」

美穂の頼まれ事をイチゴ大福をおごってもらう事で解決する。
これもまた昔からの習慣だ。
いい加減学習しろよと思わなくはないが、頼られるのも悪くはないので現状維持のままだ。

「神崎講師の授業は昼からだからそれまでにノートコピーしておけよ」

大学に到着してリュックから取り出したノートを美穂から手渡す。
うわ、すっごくいい笑顔。

「ありがとう! 早速イチゴ大福買ってあげるね」

大学購買へと走っていき、ちょっとしてビニール袋片手に戻ってきた。
そのビニール袋を受け取り中を確認するとピンク色の大福が2つ入っており、レシートに『イチゴ大福×2 380円』と記されていたので間違いない。

「これで取引成立だな」
「本当にありがとね!」

いい笑顔のまま美穂は手を振りながら去っていった。
確か田中講師の授業が朝からあったはずだ。
俺は日野講師の授業があるから別の教室へ向かう。

『相変わらず美穂に甘いのう』
『そうだ。少しくらい厳しくして痛い目遭わせてやれば少しは懲りるだろ』

俺の背後から呆れた声が聞こえてきた。
背後には誰もいなかったから間違いなく『彼ら』だと確信する。

「いいだろ。昔からこうやってきたんだし、今さらだ。それに皆も世話になってんだからあまり強く言えないだろ?」

声の主たちにそう言い返すと、納得してないのだろう、大きなため息が返った後何も言わなくなった。
まあ度が超すようなら少し厳しくするつもりだ。
田中講師も遅刻には厳しいから早く講義室へ向かわないと。

俺は少し早足で購買前を後にした。

昼になり大学の食堂にやってきた。
一品400円程度なのにボリュームもあって、ロッサス大学の生徒達の人気を集めている。
カレー中盛380円の食事券を買い厨房入り口の受付口に提出し、代わりに音が鳴る機械を受け取った。
出来上がりの時に音が鳴り知らせてくれる便利な代物だ。
空いていた机に座り少し待っていると、美穂がやってきた。
いつもと違い、美穂の隣に少し大人しそうな女の子がやってきていた。

「炎牙、ちょっと相談があるんだけど」

美穂の口調もいつもと違い真剣だ。
ちゃんと話を聞いてあげるか。

「あ、あの。実は」

少し震えていた彼女から聞いた話を纏めるとこういうことらしい。

ストーカー被害に遭っており、そのストーカーを懲らしめてほしいとの事だった。

彼女の名前は氷見 和恵。

ロッサス大学に入って一人暮らしを始めたらしいがその1ヶ月後、ストーカー被害に遭い始めたとの事。
最初はベランダに干した下着を何度か盗まれ、室内干を始めたら玄関のドアを何度も叩かれるという事があった。
夜道を歩いていると、何度も同じ服装をした相手につけられたこと。
そのせいで参っているのか、少しやつれていた。

「こんな見た目なのに何で」

彼女は大学生にしては小柄で、中学生と言われても納得する人はいるだろう。
だからそんな体型をしてる自分がなぜ狙われるのか理解出来なかったみたいだ。

「私、どうしても許せなくて。でも女2人じゃストーカーを相手にするのは危ないから炎牙も協力して」

確かに話を聞いた限る許すことが出来ない相手だ。
ただ、それよりも気になることがあった。

「セキュリティに相談したのか?」

ただつけ纏われているだけなら判断材料が少なくて厳しいが下着まで盗まれているのだ。
窃盗犯として通報するのに十分だ。

「セキュリティにも通報したんですが、下着を盗まれたのは勘違いで自意識過剰だと馬鹿にされて。もう信用出来ないんです」

あまりに酷い言い草だ。
横にいる美穂も怒り心頭だ。
それと、セキュリティが相手しないということは、きな臭い裏側があるということだろう。

「炎牙、お願い」

美穂と和恵さんが頭を下げる。
それと同時に機械のアラームが鳴った。
なんとタイミングが悪いと内心毒づいた。
とりあえずアラームを一旦停止させ、改めて2人に向き直る。

「美穂さんから聞きました。イチゴ大福を買ってあげると頼み事を聞いてくれると。一週間、いえ、一ヶ月分買います! だからお願いします!」

美穂を見ると少しだけばつの悪そうな顔をしていた。
そんな風に俺の事を認識してたのか。

「草餅もお付けします。だからお願いします!」

「承った」

もはや断るという選択肢は頭になかった。
和恵さんが安堵した顔を浮かべ、美穂もよかったねと和恵さんの肩を軽くポンポンとしていた。
その様子を尻目にカレーを受け取るべく席を立った。

『安請け合いしたな』

一人になった時、また声が聞こえてきた。
さっきとは違い真剣な声だった。

「別に大福を条件に出されなくても受けていたさ。お前たちも気持ちは同じだろ?」
『当然じゃ。か弱い女子を狙うなど不届き千万。懲らしめてやろうぞ』
『非紳士な変態野郎に対して慈悲なんか必要ないね』

やる気十分で何よりだ。
この場にいた皆はざわざわして食事を受け取ったり友達とお喋りしており、彼らの声は誰にも聞こえていなかったようだ。

カレーを受け取り、2人が待っている席まで戻っていった。

午後の講義もすべて終わり、第一講義棟から出てくると、美穂と和恵さんが待っていた。
まずは和恵さんのアパートに向かうべく大学を後にする。
ストーカーにもし襲われたら、ということを考えると日が沈む前に帰る方がいい。

「夕食は私たちが買ってくるね」

俺の背中をばんと叩きながら美穂が言う。
力強く叩かれて背中が痛く、少し加減しろよと思った。
まあ和恵さんにしかめ顔を見せるわけにはいかないので笑顔を取り繕ったが。

「ここ?」

少し歩いた後、アパートに到着すた。

1階に彼女の部屋があるらしく、その部屋まで送った。
彼女が鍵を開け部屋の中に入っていった。
とりあえずここまで歩いて来る間に様子を伺っていたかが、ストーカーに付けられた様子はなかったので一安心した。

「きゃあああ!」

だがその安心を掻き消すぐらいの悲鳴が部屋の中から響いてきた。

「何事!?」

美穂が我先にと部屋に入っていき、少し遅れる形で俺も部屋に入った。
部屋の中は惨状が広がっていた。
部屋の中はまず本のページの破片や割れた皿の破片などが散らばっていた。
本はおそらく彼女が読んでいた物だろう。
ただ、それよりも目を引いたのは、部屋の真ん中に今、和恵さんが着ているのと同じ服を着た巨大な女性型人形が倒れていた事だ。
その人形を中心に赤黒い液体が部屋中に撒き散らされていた。

そして部屋の奥の壁に赤黒い字で『殺す』と書かれていた。

「何これ」

美穂が顔を青ざめさせて人形を見つめる。
和恵さんに至っては涙を目に浮かべながら口元を手で抑えていた。
こんな狂気としか言えないような光景を見たんだ、彼女たちに情けないなんて責める者がいたら、そいつはもはや鬼だ。

「セキュリティに連絡を」

美穂が体を震わせながらもスマホを手にして通報しようとする。
だけどもうまく操作出来ず、しまいには床に落としてしまった。

「俺がする」

そんな彼女を軽く手で制止し、代わりに俺が通報するべく床に落ちたスマホを拾いあげて操作する。
スマホに付着したのは水で薄められたペンキみたいだ。
部屋全体を覆う本物の血は確保できなかったみたいだ。
っと、今はそんなことはどうでもいい、早く通報を……

ん?

和恵さんはちゃんと鍵をかけていた。
実際に彼女が鍵を使ってドアを開けたのは見た。
だけども中は荒らされていた。
窓を見たが、鍵はかかっていた。
想像したくない恐ろしい現実を理解してしまった。

「美穂、和恵さん、今すぐ部屋から出ろ、ストーカーはまだこの部屋の中のどこかにいる!」

全力で叫んだときだった。
浴室の扉がいきなり開き、異様な事に黒いモヤモヤが飛び出し、瞬く間に部屋が黒いモヤモヤに包まれ視界が真っ黒に覆われた。

「勘のいいヤツを連れてきやがって。その女だけになった時に人形と同じように殺してやるつもりだったのに」

視界が開けた時、部屋の中は囚人が入る檻のようになっていた。
俺たち3人が檻に閉じ込められ、外側に偉そうな髭を生やした男がいた。
そいつの服装はセキュリティの管轄の一つであるデュエルポリスの格好をしていた。
ロッサスの街で『デュエルモンスターズ』を悪用した悪人を逮捕する仕事をするセキュリティがデュエルポリスだ。
そして、俺が憧れ将来の夢を決めた特別な存在でもある。

「現役デュエルポリスがストーカーするとは世も末だな」
「女を付け回すだけじゃなく、あんなキモい真似するなんてサイテー」

和恵さんの代わりに俺と美穂が苦言を呈する。
すると男は顎の髭を一撫でして気持ち悪い笑みを浮かべた。

「ふん、俺のような権力者なら、あのような真似も許されるのだ。その和恵とかいう小娘が気にいってな。下着を頂戴したり部屋に押し掛けたが拒絶の態度を示したからな。体を好きにした後殺すつもりだったのだ」

こんなクズを超えた外道が人の平和を守っているデュエルポリスの中にいたなんて。
ロッサスはいい街だと思っていたが膿はあるところにはあるのだな。

「だからそれにふさわしい模様替えをしていたのにまさか2人も余計な連中を連れてくるとは。まあ良い」

いきなり檻の扉が開かれた。
そして中に入ってきた男が俺の腕を掴み、俺を檻の外へと引きずり出した。

「まあいい。まずは余計な事に気づいた貴様からだ。恨むなら貴様らを連れてきたその女を恨むのだな」
「やめてよ、その2人は関係ないでしょ!」

和恵さんの叫び声が檻の中で響き渡る。
その泣きそうで心が張り裂けそうな辛い声を聞いたなら、やることは一つしかないだろう。

「さあデュエルだ。デュエルポリスの岩沢 尚志が貴様らをデュエルで罪人の貴様らを始末してやる」
「お願い、やるなら私をやって」
「大丈夫。むしろバカなのはあの最低野郎の方。炎牙はデュエルが強いんだから」

悲痛な顔で懇願する和恵さんを美穂が励ます。
美穂にそんな風に言われたら、男として格好つけたくなるだろうが。
背負ったリュックが勝手に開き、デュエルディスクが俺の右手の上に舞い降りる。
間違いなくあいつらが取り出した物だろう。
デッキもすでにディスクにセットされており、ディスクを左腕に装着する。
さあ、和恵さんが受けた苦痛、彼女の分まで思う存分やり返してやるぜ!

「「デュエル」」

炎牙 LP8000 VS 岩沢 尚志 LP8000

「先攻は俺からだ。俺は片方のペンデュラムゾーンに『レアメタルフォーゼ·ビスマギア』を、もう片方に『メタルフォーゼ·ヴォルフレイム』をセッティングする」

デュエルモンスターズには魔法·罠カードを置くゾーンがある。

5枚のカードを置けるが、その右端と左端には『ペンデュラムモンスター』と呼ばれるモンスターを置くことが出来る。
そして置かれたペンデュラムモンスターたちは光の柱になって待機する。
彼らを使う『ペンデュラム召喚』のために。

「……貴様はバカのようだな。そいつらのスケールは両方8。それじゃペンデュラム召喚は出来ないぞ」
「そう慌てるなって。ビスマギアのペンデュラム効果発動。こいつ以外の俺の表側カードを破壊してデッキから『メタルフォーゼ』と名のつく魔法·罠カードを、1枚セット出来る。ヴォルフレイムを破壊して『メタルフォーゼ·コンビネーション』をセットだ」

ヴォルフレイムの柱が粉々に砕け散り、その破片が『メタルフォーゼ·コンビネーション』のカードに変わり俺の場にセットされた。

「そしてヴォルフレイムの置かれていた所に『メタルフォーゼ·ゴルドライバー』をセッティング」
「これでペンデュラムスケールは8から1になった。行けー炎牙!」

美穂に言われるまでもない。
さぁ、思い切り行くぜ!

「ペンデュラム召喚! EXデッキより出でよ『メタルフォーゼ·ヴォルフレイム』」

戦車に乗った錬装戦士が光の柱の間から降りてきて少しだけ地面を揺らしながら着地した。
守備力2000なら壁にはなるだろう。
相手の様子を伺うにはもってこいだ。

「俺は更にゴルドライバーの効果でビスマギアを破壊し『メタルフォーゼ·カウンター』をセットして、破壊されたビスマギアのモンスター効果発動。カードを1枚セットしてターンエンド」

そして破壊されたビスマギアにはエンドフェイズにデッキからメタルフォーゼモンスター1枚を手札に加える事が出来る効果がある。
デッキから再び『レアメタルフォーゼ·ビスマギア』を手札に加えた。

鳳 炎牙 LP8000

EXモンスターゾーン メタルフォーゼ·ヴォルフレイム
魔法·罠カードゾーン メタルフォーゼ·ゴルドライバー セットカード3枚
手札2枚


さて、岩沢のターンだ。

セットカードで相手を迎えうつ準備は整えてある。
だが油断と慢心がデュエル中最大の敵だ。
常に何が起こるか想定しておかねば足元を掬われ敗北してしまう。

「俺様のターン、ドロー。スタンバイフェイズに俺様は手札から速攻魔法『ツインツイスター』発動だ。貴様が自力でセットした魔法·罠カードゾーンのカードと効果でセットされた『メタルフォーゼ·カウンター』を破壊させてもらう」

伏せていた『神の通告』と『メタルフォーゼ·カウンター』が岩沢の場から吹き上がった二対の竜巻に吹き飛ばされていった。

「そしてメインフェイズ1の開始時に先ほど手札コストにして墓地に送っておいた『インヴェルズの斥候』の効果発動だ。こいつは俺様の魔法·罠カードゾーンにカードがなければ特殊召喚出来る」

墓地から目玉が大きな虫のような小型悪魔が現れる。
辺りをキョロキョロと見回している様子はまさに斥候だ。

「そして斥候をリリースして『インヴェルズ·モース』をアドバンス召喚だ」

岩沢の場に置かれた1枚から腕が伸び、その手で掴まれた斥候がカードのイラストの中に取り込まれていく。
そしてそのイラストの中から蛾が人の形になろうとして失敗したような悪魔が飛び出した。

「モースの力だ。インヴェルズモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した時1000LPを払う。こいつで貴様がセットした『メタルフォーゼ·コンビネーション』とヴォルフレイムを手札へと戻す」

モースの両腕から激しい勢いの竜巻が巻き起こされる。
ヴォルフレイムの車体が竜巻に飲み込まれ、カードのイラストの中へと戻されていく。
そしてコンビネーションのカードごと手札に押し戻された。

「まずい、炎牙の場ががら空き!」
「その通りだ。バトルフェイズ! 『インヴェルズ·モース』でダイレクトアタック!」

先ほどと同じように両腕から竜巻が巻き起こされ、俺は回避する間もなく飲み込まれる。
視界が激しく移り変わり、酔いそうになった瞬間に竜巻から弾き出されそのまま勢いよく背中からモロに落ち、体が地面に叩きつけられた。
その衝撃が激しく、相当な痛みが背中を襲った。

鳳 炎牙 LP8000→5600

「がはは、どうだ実際の痛みを受けた気分は」
「どういう意味だ」

実際のリアルソリッドビジョンでここまでの痛みは発生しない。
奴の口振りから何かしらの細工を仕掛けられたのは明白だ。

「俺様が『インヴェルズ』達から受け取った闇の力は絶大でな。このような気に喰わない相手を痛め付けたり、人の心を好き勝手にする力が備わったのだ」

なるほど。
その力でセキュリティの人を操り、和恵さんからの通報の時に酷い対応をさせたのか。
背中は痛いが、まだ立てないほどではない。
立ち上がり岩沢を睨み付けるとその目線が気に喰わないのかこめかみをピクピクさせ怒り顔になる。

「大人しく動けないままになっておけば良かったのに」
「生憎、こんぐらいの痛みは初めてというわけじゃないんでね」
「舐めおって。メイン2だ。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

岩沢 尚志 LP7000

モンスターゾーン インヴェルズ·モース
魔法·罠カードゾーン セットカード2枚
手札1枚

さてと、奴のやり口は分かった。
ここから俺の反撃開始だ。

「俺のターン、ドロー。俺はさっきと同じように『メタルフォーゼ·ヴォルフレイム』をペンデュラムゾーンにセットしゴルドライバーのペンデュラム効果でヴォルフレイムを破壊しデッキから『錬装融合』をセット。そして手札から『レアメタルフォーゼ·ビスマギア』をセッティング」

さあ、再び再登場だ!

「ペンデュラム召喚! EXデッキから出でよ『メタルフォーゼ·ヴォルフレイム』! そしてセットしておいた『錬装融合』を発動!」

メタルフォーゼたちが真の力を発揮するのは、他のモンスターと融合した時だ。

「場のヴォルフレイムと手札の『パラメタルフォーゼ·メルキャスター』の2体で融合! さぁ、錬装だ! 出でよ『メタルフォーゼ·ミスリエル』!」

女性の錬装戦士が背中のジェットブースターのスイッチを入れジェットブースターが火を吹き空を飛ぶ。
それで場を飛び回った後、モンスターゾーンの中心に華麗に着地する。
さぁ、思い切り行ってこいミスリエル!

「墓地の『錬装融合』はデッキに戻して1枚ドローする効果がある。当然使わせてもらう」

デッキに『錬装融合』を戻し、デッキが自動的にシャッフルされる。
そしてシャッフルが止まった時に勢いよく1枚ドローした。

『ようやっと出番か。待ちくたびれたぞ』

この声は。
待たせましたね。

「『妖精伝姫-カグヤ』召喚!」

『遅いのじゃ、まったくもう』

「何、あの狐のお姫様、喋らなかった?」
「和恵さんは知らなかったよね。炎牙の傍にはカードでありながら意志と肉体を持つ事が出来る存在がいるの。その1体があのカグヤなのよ」

美穂の言う通りだ。
普段はリュックから文句や意見ばかり言うが、いざというときには頼れる存在だ。

「何だ貴様、男の癖にそんな女々しいカード持ってるのか。キモいオタク野郎だったか」
『黙れストーカーでありデュエリストの皮を被った悪徳外道』

相変わらずカグヤは口が悪い。
姫様故にプライドが高いからかもしれないが、もう少し心の余裕を見せてほしい。

「何だと?」

だがその煽りは効果抜群だったのか顔を真っ赤にして歯を思い切り噛み締めていた。

『見た目だけで判断し対戦相手を貶めるなど外道のやること。さぁ、わらわの素晴らしき効果を発動するのじゃ』

「召喚に成功した時、デッキから攻撃力1850のモンスター1体を手札に加える。2枚目のカグヤを手札に」

これで戦力を補充する事が出来る。もっとも彼女の力はこれだけではないのだが。

「ミスリエルの効果発動だ。墓地の『メタルフォーゼ·カウンター』と『パラメタルフォーゼ·メルキャスター』とお前の場のインヴェルズ·モースを対象にして、メタルフォーゼ2枚は俺のデッキに、モースはお前の手札に戻す」

2枚のカードがミスリエルのブースターに吸い込まれていく。
燃料が満タンになり全力で火を吹きだし、その勢いのままモースにタックルをかました。
モースはタックルの衝撃に耐えられず膝をつき、そのままカードの中へと戻っていく。
岩沢がモースのカードを手札に戻した時、目の前にミスリエルとカグヤが迫っていた。

「バトルフェイズ。ミスリエルでダイレクトアタック!」

ミスリエルが岩沢の鳩尾に全力のニーキックをぶちかました。
闇の力がこの場を支配してるなら、俺だけじゃなくてあいつにも実際に攻撃を受けた影響があるはずだ。

「ぐぅ!」

実際に強烈な一撃が鳩尾に入ったのだろう、吐きたくなる衝動をなんたか口で抑え、うずくまった。

『わらわの大事な主を侮辱した事は許さん』

カグヤが手にしていた扇を魔法で鉄に変化させ、岩沢の股間に鉄の扇を全力で叩きつけた。
岩沢の声にならないほど悲痛な
悲鳴がその場に響き渡る。
岩沢 尚志 LP7000→5400→3550

「それぐらいが丁度いい罰よ。女の敵には丈夫な股間はいらないわ」

美穂とカグヤは満足してるが、俺と和恵さんは少し引いていた。
確かに最低な野郎だが同じ男として少しばかり同情してしまった。

「メイン2、俺はビスマギアのペンデュラム効果でゴルドライバーを破壊してデッキからメタルフォーゼ·カウンターをセット。カードを1枚伏せてターンエンド」


鳳 炎牙 LP5600

モンスターゾーン メタルフォーゼ·ミスリエル 妖精伝姫―カグヤ
魔法·罠カードゾーン レアメタルフォーゼ·ビスマギア セットカード2枚
手札2枚

「許さん」

まだ股間が痛むのか顔がひきつっていた。怒りも混ざっているせいでとても形容し難い表情になっていた。
こんな顔になって追い詰められているのだ、相当激しい反撃が来るのは想像に難くない。

「魔法カード『闇の誘惑』発動! 2枚ドローしてその後手札の闇属性モンスターを1枚除外する」

先ほど手札に戻した『インヴェル·モース』は闇属性。
確実に手札交換は成功すると言っても過言ではない。

「来たぜ魔法カード『サンダー·ボルト』!」

岩沢がデュエルディスクに叩きつけながら発動したのは『相手のモンスターを全て破壊する』といったシンプルだが強力な効果を持つカードだ。
大地、そして空間すら揺るがす雷撃が俺の場に直撃した。

『退避じゃあああ!』

カグヤは魂だけ手札のカグヤのカードに避難していく。
ミスリエルとカグヤは場を覆った雷撃から逃げる事が出来ず一瞬で体が真っ黒なボロ炭になり、体全身が粉々に砕け散ってしまった。

『ひい、恐ろしや』

己の肉体が砕け散る様子を見てしまったのだから怯えたような反応は仕方ない。

「だけどもミスリエルは己の身が破壊されても仲間に後を託す。EXデッキからレアメタルフォーゼ·ビスマギアを守備表示で特殊召喚する」

小型の飛行型バイクに乗った錬装戦士の傍に顔の下半分をマスクで隠した錬装戦士が駆けつける。

「なんだそいつは!」
「ミスリエルが破壊された時に罠カード『メタルフォーゼ·カウンター』を発動していた! デッキから『パラメタルフォーゼ·メルキャスター』を守備表示で特殊召喚した」

これで場には2体のメタルフォーゼたちが揃った。
守備表示であり、この状態なら貫通効果持ちのモンスターが来ない限りは守りきれる。

「手札から『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚する」

さっきまでに比べればまだ愛嬌あるてんとう虫の見た目の小型悪魔が現れた。
場をぶんぶん飛び回っており、こちらの様子を伺っているみたいだ。

「罠カード『侵略の手段』を発動! デッキから『インヴェルズ万能態』を落として魔細胞の攻撃力を800アップさせる」

わざわざ下級モンスターを強化する理由が見当たらない。
となると墓地に落ちたモンスターが本命のはず。

「罠カード『侵略の波紋』発動。500LP支払って墓地の『インヴェルズ万能態』を特殊召喚する」

岩沢の体から闇が溢れだし繭に身を包んだ悪魔が出現する。

岩沢 尚志 LP3550→3050

「そしてインヴェルズの魔細胞とインヴェルズ万能態の2体をリリースして『インヴェルズ·グレズ』をアドバンス召喚する!」

今までのインヴェルズ達よりも遥かに巨体の悪魔が稲妻を降らせながら場に君臨する。
ヘラクレスのような迫力がその場にいる俺達に圧倒的な威圧感を与える。

「『インヴェルズ·グレズ』はインヴェルズ3体の贄を必要とするが万能態はインヴェルズ2体分としてリリース素材にするのだよ。そしてLP半分支払えばグレズ様以外の有象無象を焼き払う」

先程とは違いグレズが岩沢の体を握り、チューブから中身を絞りとるように岩沢から力を吸収した。

岩沢 尚志LP3050→1525

岩沢から力を吸収しきったグレズの手から先ほど以上の威力の雷が放たれる。
2体のメタルフォーゼたちが雷に打たれ、肉体があった痕跡がないぐらいに焼き払われた。
地面には黒焦げになったクレーターが2つだけ残っており、それだけがメタルフォーゼたちが存在していたという証になった。

「破壊されたビスマギアとメルキャスターの効果発動。メルキャスターは破壊されたらEXデッキのメルキャスター以外のメタルフォーゼ1体を手札に加える。ビスマギアを手札に戻すぜ」

次のターンに繋ぐ効果だが、モンスター達は全滅した。
しかもグレズの攻撃力は3200。
これ以上特殊召喚されれば絶対絶命の大ピンチだ。

「貴様は運が無いな」

その一言は俺の心に絶望を落とし込む。
ここまでやって負けるのか、俺は。

「無駄に苦しめちまうからな。グレズだけしか攻撃出来ない」
「それなら炎牙が負ける訳じゃない、驚かさないでよ」
「馬鹿な女だ。先程のモースの攻撃で相当な痛みを与えた。果たしてグレズの攻撃を受けてLPは耐えてもそいつの精神は耐えられるかな?」

美穂がはっと気づいた表情になり岩沢は下品な笑みを浮かべる。

「耐えられるかな? グレズでダイレクトアタック」

グレズの腕から先程メタルフォーゼたちが焼き払われた雷撃が放たれた。
ヤバいと思う間もなく俺の腹を雷が貫き、一瞬で意識が飛んだ。
炎牙の体が地面に倒れこんだが指先がぴくりとも動かない。

「炎牙、冗談やめてよ、立ってよ」
「わ、私のせいで……ごめんなさい」

美穂と和恵、2人の絶望に満ち溢れた声を聞いても炎牙は起き上がるどころか動く様子すら見せない。
その光景を満足げに見ていた岩沢が炎牙から背を向け檻の中の女子2人に下品な笑みを見せつける。

「あの男は死んだ。その絶望に満ち溢れた顔、たまらんわい」
「あんただけは絶対に許せない! 次は私が相手よ! 炎牙の弔い合戦よ!」



『動け』


誰だお前は?
お前の声に聞き覚えはない。
ましてやカグヤでも、メタルフォーゼ·ゴルドライバーでもない。

『やられたまま地に倒れ伏したままなどお前らしくない』

そりゃ俺だってやり返したいさ。
まだLPも残ってるのに、反撃出来ないまま終わったんじゃやりきれない。
でも、指すらまったく動かないんだ。

『今、お前の幼なじみはお前が死んだと勘違いして弔い合戦をしようとしてる。このままではあの娘はお前と同じ目に遭うだろう』

美穂が?
それだけは絶対にさせてはいけない、いや、絶対にさせたくない!
そう思った時、体に力が戻ってきた。

『それこそがお前の本質。やられたらやり返すのは誰かが傷ついた時、その傷ついた者を見捨てない優しさから来た物だ。さあ立ち上がれ。そして我の力で奴に罰を与えよ』

罰。
まさかお前は。
何となくだが声の主の正体が分かった気がする。
なら、共に奴にやり返してやろうぜ!

「待ちな」

なんとか立ち上がって声を精一杯張り上げる。
3人とも驚愕の眼差しで俺をみている。
当然だろう。
さっきまでピクリとも動かなかった死に損ないがまるで何事もなかったかのように立ち上がったんだから。

「馬鹿な、あの一撃を受けて何故立ち上がれる!」
「炎牙、私は信じてたわよ!」

そんな泣き顔で言われても説得力皆無だぜ、美穂。
だけど今からが、やられたらやり返す時だ!

「大人しく死んでおけば良かった物を。このままターンエンド」
「エンドフェイズにビスマギアの効果を適用させて『メタルフォーゼ·バニッシャー』を手札にくわえる」

岩沢 尚志 LP1525

モンスターゾーン インヴェルズ·グレズ
手札1枚

「俺のターン、ドロー!」

すでにグレズを倒す1枚は手札にある。
そして彼を呼び出す準備はすぐに整えられる。

「俺はビスマギアを片方のペンデュラムスケールにセッティングして手札の『メタルフォーゼ·バニッシャー』の効果発動! 場の『メタルフォーゼ』カードを含む表側のカードを2枚破壊する事で手札から特殊召喚出来る!」

『無事で良かった、炎牙。ずっとペンデュラムゾーンで見守ってお前がグレズにやられかけた時は心配したぞ。さぁ、俺を破壊してバニッシャーを呼べ』

その言葉通りゴルドライバーとビスマギアを破壊し、バニッシャーを場に特殊召喚した。
竜の翼を模した装備が格好いいぜ。

「攻撃力2900じゃグレズは倒せない!」
「バカだなあんた。ビスマギアが破壊された効果にチェーンしてバニッシャーの効果発動。相手の場か墓地のモンスター1体を除外する!」

バニッシャーが右手に炎を宿し勢いよくグレズにボディブローをかました。
拳がグレズの胴体を貫き、拳が引き抜かれた瞬間、グレズは胴体を左手で抑えながら勢いよく地面に倒れ伏し消滅していった。

「馬鹿な、グレズがやられるなんて」
「他のメタルフォーゼたちがやられたからな。やり返してやったぜ。さて、バトルフェイズだ。バニッシャー、奴に罰を与えろ!」

バニッシャーが思い切り地面を蹴りジャンプし翼で飛翔した後空中から岩沢に向かって飛び蹴りを放つ。
勢いよく急降下し放たれた蹴りが岩沢の顔面にジャストミートし、岩沢はノックアウトされ地面に横たわった。

岩沢 LP1525→0

デュエルの決着が着いた時、周りの闇と美穂と和恵さんを捕らえていた檻が消滅し、岩沢がトイレの前でうつ伏せで倒れ気絶していた。
岩沢の支配下からすでにセキュリティの人々は逃れてるはずだから事情をきちんと話して通報すれば岩沢を逮捕しにくるはずだ。

「和恵さん、あんたの代わりにやり返してやったぜ」

和恵さんに声をかけた瞬間、体がぐらりと揺れ倒れそうになる。
そういやグレズに相当なダメージ与えられたんだった。
だが美穂が俺の体をキャッチし支えてくれた。

「馬鹿炎牙! 死んだんじゃないかって心配したんだからね!」

美穂はあの時泣いて俺の敵討ちをしてくれようとしたんだっけ。
戦う力が再び湧いたのは美穂のおかげだ。

「頼りないデュリストでごめんな」

通報した後岩沢はセキュリティに連行されていった。
元同僚だからと言って見逃されるのではなく、平等に法の下で裁かれて欲しいと願う。

『まったく、わらわ達も心配したんじゃからな』
『そうだそうだ。心配かけた罰として和恵さんから奢ってもらうイチゴ大福や草餅は俺たちがいただくことにするからな』

単にゴルドライバーが食べたいだけじゃないかと思うが彼らにも心配させてしまった事は事実だ。
だけども、また誰か困っている人がいて助けてほしいと頼まれたらきっと後先考えずに助けようとするのだろう。

何せ俺の夢はデュエルで困ってる人々を助ける、正義のデュエルポリスになることなのだから。



「困り事?」
「人助けすると思ってさ、頼むよ」

「力こそが全てを解決するのだ」

「暴力で平和を勝ち取っても、また新しい暴力に蹂躙され長くは続かない!」

次回『力の在り方』お楽しみに
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イイネ タイトル 閲覧数 コメ数 投稿日 操作
72 炎の錬装戦士 595 0 2021-01-02 -

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