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竜の恩返し 作:エスカル
「不破君に恩返ししたいですの」
アカデミアの授業も終わり、家に帰ってきてからのこと。
宿題を始めようとカバンから教科書を取り出した瞬間、ラドちゃんが私に囁いた。
「恩返し?」
「ラドリーが追われてたとき、不破君と愛流お嬢様に助けてもらったですの」
うん、そうだったね。
それが私たちとラドちゃんとの出会いだった。
「愛流お嬢様に仕えることになって、お嬢様だけじゃなくて、お嬢様のお父さんやお母さんとも親しくなって、家事をしたりご飯を作ったり、愛流お嬢様には恩返しが出来てると思いますの」
うん、確かに。
家事の手伝いをしてもらってお母さんは助かるといつも言ってる。
そのたびにそれに比べて愛流はと少し意地悪いことを言ってくるが、ちゃんとお手伝いをするとお母さんは喜んでくれる。
お父さんも最初は訝しげだったが、ラドちゃんが作る冷やしキュウリなどといったおつまみを気に入り、すっかりラドちゃんを受け入れてくれている。
……胃袋を掴まれると人は弱いんだよね。
美味しいご飯は人を幸せにするというが、まさにその通りだ。
「だけども不破君にはまだ恩返しが出来てないですの」
まあ実際不破君が追跡者を倒した。
もしあの場にいたのが私とラドちゃんだけだったら、何も出来ずラドちゃんが捕まっていたかもしれない。
不破君がいたからあの時は助かったのだ。
「確かに、私もまだ恩返しできて無い。それになんでだろう、不破君とちょっと『χ Card』について話をしたいと思ってたんだ」
「だったら願ったり叶ったりですの。明日は土曜日、アカデミアは休みだから2人で不破君の家にレッツゴーして恩返しですの」
「いやいや、不破君にちゃんと用事を聞かないと……」
私の目の前にラドちゃんが眼をきらきらさせてスマホを持っていた。
相変わらず可愛いなぁラドちゃん。
もしこんなスマホスタンドがあったら一日中眺めてられそうだよ。
「早く早くですの」
ぐはっ、追い討ちに尻尾をパタパタ振って急かしてくるだとぉ!
予想外の追撃に私の胸キュンポイントが天井突破だぁ!
ラドちゃんの頭をよしよしと撫でながらスマホを受け取る。
「もしもし、不破君?」
『おー、愛流さん。どした?』
「明日の土曜日、用事ある?」
『用事は元々無いからぶらぶらしようと思ってたけど、それが?』
「ラドちゃんがこの間助けられたことで恩返ししたいって張り切ってるんだけど、大丈夫かな?」
『別にそんなこと気にしなくていいんだけどな。愛流さんだって同じ立場なら同じことしてただろ?』
もちのろん。
ドラゴン、しかも可愛いラドちゃんの幸せを奪ったやつなど許して置けるわけが無い。
「愛流お嬢様、代わって欲しいですの」
ラドちゃんが私の腕をぐいぐい引っ張ってくるのでラドちゃんにスマホを渡す。
「ラドリーですの」
『おっす、ラドリーちゃん。恩返しなんて気にしなくていいんだぞ? せっかくアカデミア休みなんだから愛流さんといっぱいスキンシップしてあげな。愛流さん、すっごく喜ぶぞ?』
「確かにそれも重要事項ですが、それよりも不破君に対する恩返しのほうが大事ですの。メイドたるもの、受けた恩は忘れないですの」
電話をしながら尻尾をぶんぶん振ってる。
ああ可愛いよぅ。
背後からハグしたら尻尾が優しく私の背中を撫でてきた。
喜んでくれてるんだろうなぁ。
『……まあ、そこまで言うなら来てもいいぞ』
「ありがとうですの! では明日、愛流お嬢様と一緒に不破君のお家にお邪魔するですの」
私の背中を撫でてた尻尾が激しく動き、私の背中が摩擦熱で熱くなった。
もう、うっかりさん。
「明日が楽しみですの。よーし、恩返しするですの」
気合たっぷりだねラドちゃん。
でも、気合入れすぎると空回りするのはどの生物でも変わらないから……明日は私がラドちゃんをフォローしなくちゃ。
翌朝。
「じゃ、遊びに行ってきますね」
「行って来るですの」
ラドちゃんを連れ、家を後にする。
外は快晴。
曇りひとつ無い空の下を歩いていると気分が良くなるというものだ。
「いい恩返し日和になりそうですの」
ラドちゃんもご機嫌で角も尻尾も元気よく動いてる。
格好自体はいつものエプロン着物のメイドスタイルだ。
私は黒のジーンズに青色の半袖シャツ。
まだ夏には少し早いけども、気持ちよい天気には相応しい格好だ。
一応夜になったら冷えるかもしれないからカバンに長袖入れてある。
「……お友達の家に遊びに行くといっていたが」
愛流とラドリーが家を後にし、2人を見送った相座が共子に話しかける。
「どうしたの、あなた」
「ラドリーちゃんはもちろんのこと、愛流もうきうきしていたが」
「アカデミアで早速お友達が出来たんでしょ、うれしいことじゃない」
「もしかしたら……男じゃないだろうな?」
「あら、別に男でもいいじゃないの。愛流だってもう子供じゃないし、ラドリーちゃんもいるのよ」
共子が相座に優しく話しかけるが、相座が首を横に振る。
「いいや、愛流はただでさえ可愛いのに、ラドリーちゃんと一緒にいるときは更に愛くるしさがアップした! そんな状態で男に会ってみろ、コロリといくぞ!」
「まあ言いたい事は分からなくは無いですが、大丈夫ですよ。だってドラゴンが大好きだと毎日公言しているような子ですし、男の子のほうが引いちゃうわよ」
相座が思わず黙り込むと、共子がくすりと笑う。
「まあ大丈夫ですよ。愛流はああ見えてしっかりしてますし。なんせあなたと私の子供ですからね」
「……そうだな。男らしくどーんと構えておかないとな」
相座がふぅと息をつき、共子の傍に擦り寄る。
「せっかくの休みに2人きりだし、俺らも昔に戻るか?」
「あら、嬉しいわ」
共子も相座の傍に擦り寄っていき、お互い腕をお互いの背中に回していった。
「おはようですの」
「おー、おはよ」
ホー、ホケキョみたいな朝の挨拶だね不破君。
まあそんなことは口にせず、私も挨拶して不破君の家に入っていく。
「元気そうで何よりだ」
不破君がラドちゃんの頭を優しく撫で、ラドちゃんがえへへとまぶしい笑顔を浮かべる。
いいなぁ……あれ、どっちに対してだろ?
まあ、いいか。
「まあ座った座った」
ちょっと前に訪れた不和君の家の居間に再び座る。
少しくつろいでいると不破君がガラスのコップに入った麦茶と黒豆が入ったおかきを持ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうですの」
小学生のころに両親と姉と生き別れし、祖父に育てられたからかチョイスが年寄りくさい。
まあ美味しいし、ありがたくいただこう。
「おいしいですの」
ラドちゃんが黒豆おかきを気に入ったらしく、尻尾をぴーんと立てる。
尻尾の先に何もなくてよかったよかった。
なんせ一回尻尾をぴーんと立てたときに家の壁に激突して涙目になってたことがあったし、それに前にこの家に来たときその尻尾にスカートめくられ不破君にパンツ見られちゃったし。
「……って恩返ししに来たのに更に恩を与えられちゃダメですの!」
おかきを食べ終わったラドちゃんがはっとし、首をぶんぶんと横に振る。
「何かしてほしいことはあるですの? 出来る範囲でラドリーがやるですの」
「私も手伝うよ」
「ま、まあ……ならラドリーちゃんはお洗濯を任せてもいいかな?」
「お洗濯! お任せくださいですの!」
ラドちゃんが得意げな顔になる。
カードイラストでこそドジを発揮しているが、このラドリーちゃんは前の主人と一緒にいた影響か、結構家事は得意なんだよね。
「そろそろシーツとかも洗っておきたいと思っていたところだし、願ったり叶ったりだ」
「では、早速洗って欲しいのをお願いしたいですの」
ラドちゃんが万歳すると、ぽんと音を立てて洗濯籠が現れる。
落ちてきたそれを尻尾で受け取り、不破君の胸の前へと持ってくる。
「あー、これとあれだな」
不破君がクッションからシーツをはがしていき、それを洗濯籠に入れる。
ある程度溜まり、ラドちゃんがそれを手で持つ。
「洗濯機はあるですの? なければ外で洗ってくるですの」
「いやさすがに洗濯機はあるぞ。こっちこっち」
不破君がラドちゃんを連れ部屋を出て行く。
にしても……ラドちゃんのご主人様となってる私も恩返しのお手伝いをするべきだろう。
不破君が戻ってきたらやることないか聞かなきゃ。
「おせんたく~おせんたく~対象を取るですの~洗うのは、シーツ類~」
せんたくってそっちの選択!?
にしてもそんな歌を歌いながらお洗濯してたんだラドちゃん。
お母さんだったら聞いてたかもしれない……実の母親に嫉妬する日が来るとは。
「元気いっぱいでやる気満々だなラドちゃん。まっすぐでさ、見てるこっちが笑顔になる」
居間に戻ってきた不破君が座る。
「不破君、私も何か手伝うことある?」
「そうだなー」
「あ、宿題とかはNGね。自分でやらなきゃためにならないからね。分からないところとかあったら教えてはあげるけど」
「それはもうすでに済ませてる」
え、もう済ませてるの!?
「だって家に帰ってもやることといったら家事以外はデッキ弄るか小説読むかパソコン弄るしかないし。時間は基本的にあまってるんだよな」
「そっか」
「それよりも……」
不破君?
じっと顔を私の顔に近づけてきて……
「き、キスとかはなおさらダメだよ!」
「ち、違っ!?」
不破君が何をしていたのかに気づき、顔を赤くして慌てている。
私だってあんなに顔を近づけられて恥ずかしかったんだから、仕返しだよ~。
「で、なんで私の顔に顔を近づけてきてたの? 何かついてた?」
「いや……気のせいかもしれないけど……『χ Card』を手に入れた?」
え?
確かに夢で『χ Card』を手に入れ、しかもラドちゃんと一緒に未知のドラゴンを見た幸せな夢だった。
それを余すことなく言うと、不破君が首をかしげる。
「夢にしてはずいぶんとリアルだな……」
確かにリアル感はあった。
だけどさすがに夢……だよね?
なんかだんだん自信なくなってきた。
「失礼」
不破君の目の前に『χ Card』が現れ、私の周りを飛び回る。
なんか意思を持ってるかのように動くんだねそれ。
……うわっ!
私の目の前に『χ Card』が!?
「手にとって」
「うん」
不破君に言われ、私の目の前に現れた『χ Card』を手に取る。
『Master Airu Approval』
「認証済み……か」
「ゆ、夢じゃなかったのかな?」
あれほど待ち望んでいた物が私の手にあるなんて。
となるとあれは一体なんだったんだろう?
「洗濯機に入れ終わって、後は終わるのを待つだけですの~」
あ、ラドちゃんが戻ってきた。
「次は何をすればいいですの? 張り切って恩返しするですの」
「お、ちょうどいいところに。じゃ、ちょっと愛流さんと一緒に外でて、それを使ってもらっていいかな?」
ラドちゃんが私の手にした『χ Card』を目の当たりにし、眼を輝かせる。
「わぁ、あれってもしかして夢じゃなかったみたいですの。愛流お嬢様と一緒に戦えるあの姿をお披露目してほしいってことですの?」
「その通り。お願いできるかな?」
「もちろんですの!」
ラドちゃんがぐいぐいと私と不破君の腕を引っ張る。
さすがはドラゴン、なかなか力強いなぁ。
というわけで不破君の家の庭に来たわけだけども。
「さっそくやるですの!」
ラドちゃんがやる気満々になり、即座に『ドラゴンメイド・フルス』のカードになる。
それを手に取り、目を閉じる。
「えっと、確か……水と炎の相反する存在が交差するとき、異端なる竜は君臨する」
2枚を手に取り、目の前でクロスさせる。
『ドラゴンメイド・フルス』
『真紅眼の黒竜』
『メイディング・ドラゴニウス』
水と炎を同時に浴び、私は戦闘服に着替え終わり、ラドちゃんも瞳の色を赤くし、きりっとした感じで上空に浮かび上がっていた。
「これが愛流お嬢様と力を合わせた変身ですの」
「おー、ラドリーちゃんも愛流さんも格好いい。しかも愛流さん、ドラゴンを模した銃を持ってるんだ」
不破君に褒められるとなんか照れくさいや。
ラドちゃんも上空で照れてるし。
「ちょっと銃を見せて」
「うん、いいよ」
そして不破君に銃を手渡し、それを不破君はまじまじと見つめていた。
「これまたイケてるな」
「そうだ、せっかくだし撃ってみるね」
夢の中では発砲しなかったけど、銃の撃鉄部分に『真紅眼の黒竜』を置いてっと。
「ファイヤー!」
銃から炎の玉が放たれ、それが石壁にぶつかり消える。
「おお、すげぇ。ドラゴンと共に戦う姿ってわけか。それもなかなか格好いいな」
「ありがとう」
「褒めてくれて嬉しいですの。そうだ、せっかくだし不破君も変身すればいいですの」
「そうだね、せっかくだしあの氷の竜になったらどう?」
私とラドちゃんが提案すると、不破君も笑顔で頷く。
不破君がノリのよい性格で助かるし、嬉しいや。
「OK」
不破君の変身……ってあれ、ポーズとか取らないの?
「時間が無いときとかはこうやって簡易的に変身できる。変身ポーズ中に攻撃してくる奴もいたからな」
まあ確かに現実は特撮じゃないもんね。
なぜか敵は変身中に攻撃してこないけど、現実だったら攻撃するチャンスだからね、変身する瞬間って。
現実で変身できることが判明したんだし、私も練習しなくちゃ。
不破君の目の前に『χ Card』が浮かび上がり、即座に2枚のカードがクロスした。
『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』
『アイス・ブリザード・マスター』
『アイスドラグニック』
不破君の体を氷山が押しつぶしたと思ったら中から氷の竜が飛び上がる。
うっひゃあ、相変わらず凍てつく冷気が私の体を震わせ、未知のドラゴンに会えたという感動で心も震わせるぅ!
『にしても俺の庭にドラゴン2体と愛流さんの戦闘服姿か……誰かに見られたらデュエル中ってことでごまかすか』
確かに。
こんなとんでもない状況になってもデュエル中だからという魔法の言葉を使えば誤魔化せる、便利だね。
「次はどうするですの? この状態でお散歩でもするですの?」
『いやそれはさすがに目立つというレベルを超越するからやめておく』
庭に私と不破君、そしてラドちゃんの笑い声が響き渡っていた。
そして幸運なことに、変身を解除するまでの間に誰かが通りすがるということは一切なかった。
アカデミアの授業も終わり、家に帰ってきてからのこと。
宿題を始めようとカバンから教科書を取り出した瞬間、ラドちゃんが私に囁いた。
「恩返し?」
「ラドリーが追われてたとき、不破君と愛流お嬢様に助けてもらったですの」
うん、そうだったね。
それが私たちとラドちゃんとの出会いだった。
「愛流お嬢様に仕えることになって、お嬢様だけじゃなくて、お嬢様のお父さんやお母さんとも親しくなって、家事をしたりご飯を作ったり、愛流お嬢様には恩返しが出来てると思いますの」
うん、確かに。
家事の手伝いをしてもらってお母さんは助かるといつも言ってる。
そのたびにそれに比べて愛流はと少し意地悪いことを言ってくるが、ちゃんとお手伝いをするとお母さんは喜んでくれる。
お父さんも最初は訝しげだったが、ラドちゃんが作る冷やしキュウリなどといったおつまみを気に入り、すっかりラドちゃんを受け入れてくれている。
……胃袋を掴まれると人は弱いんだよね。
美味しいご飯は人を幸せにするというが、まさにその通りだ。
「だけども不破君にはまだ恩返しが出来てないですの」
まあ実際不破君が追跡者を倒した。
もしあの場にいたのが私とラドちゃんだけだったら、何も出来ずラドちゃんが捕まっていたかもしれない。
不破君がいたからあの時は助かったのだ。
「確かに、私もまだ恩返しできて無い。それになんでだろう、不破君とちょっと『χ Card』について話をしたいと思ってたんだ」
「だったら願ったり叶ったりですの。明日は土曜日、アカデミアは休みだから2人で不破君の家にレッツゴーして恩返しですの」
「いやいや、不破君にちゃんと用事を聞かないと……」
私の目の前にラドちゃんが眼をきらきらさせてスマホを持っていた。
相変わらず可愛いなぁラドちゃん。
もしこんなスマホスタンドがあったら一日中眺めてられそうだよ。
「早く早くですの」
ぐはっ、追い討ちに尻尾をパタパタ振って急かしてくるだとぉ!
予想外の追撃に私の胸キュンポイントが天井突破だぁ!
ラドちゃんの頭をよしよしと撫でながらスマホを受け取る。
「もしもし、不破君?」
『おー、愛流さん。どした?』
「明日の土曜日、用事ある?」
『用事は元々無いからぶらぶらしようと思ってたけど、それが?』
「ラドちゃんがこの間助けられたことで恩返ししたいって張り切ってるんだけど、大丈夫かな?」
『別にそんなこと気にしなくていいんだけどな。愛流さんだって同じ立場なら同じことしてただろ?』
もちのろん。
ドラゴン、しかも可愛いラドちゃんの幸せを奪ったやつなど許して置けるわけが無い。
「愛流お嬢様、代わって欲しいですの」
ラドちゃんが私の腕をぐいぐい引っ張ってくるのでラドちゃんにスマホを渡す。
「ラドリーですの」
『おっす、ラドリーちゃん。恩返しなんて気にしなくていいんだぞ? せっかくアカデミア休みなんだから愛流さんといっぱいスキンシップしてあげな。愛流さん、すっごく喜ぶぞ?』
「確かにそれも重要事項ですが、それよりも不破君に対する恩返しのほうが大事ですの。メイドたるもの、受けた恩は忘れないですの」
電話をしながら尻尾をぶんぶん振ってる。
ああ可愛いよぅ。
背後からハグしたら尻尾が優しく私の背中を撫でてきた。
喜んでくれてるんだろうなぁ。
『……まあ、そこまで言うなら来てもいいぞ』
「ありがとうですの! では明日、愛流お嬢様と一緒に不破君のお家にお邪魔するですの」
私の背中を撫でてた尻尾が激しく動き、私の背中が摩擦熱で熱くなった。
もう、うっかりさん。
「明日が楽しみですの。よーし、恩返しするですの」
気合たっぷりだねラドちゃん。
でも、気合入れすぎると空回りするのはどの生物でも変わらないから……明日は私がラドちゃんをフォローしなくちゃ。
翌朝。
「じゃ、遊びに行ってきますね」
「行って来るですの」
ラドちゃんを連れ、家を後にする。
外は快晴。
曇りひとつ無い空の下を歩いていると気分が良くなるというものだ。
「いい恩返し日和になりそうですの」
ラドちゃんもご機嫌で角も尻尾も元気よく動いてる。
格好自体はいつものエプロン着物のメイドスタイルだ。
私は黒のジーンズに青色の半袖シャツ。
まだ夏には少し早いけども、気持ちよい天気には相応しい格好だ。
一応夜になったら冷えるかもしれないからカバンに長袖入れてある。
「……お友達の家に遊びに行くといっていたが」
愛流とラドリーが家を後にし、2人を見送った相座が共子に話しかける。
「どうしたの、あなた」
「ラドリーちゃんはもちろんのこと、愛流もうきうきしていたが」
「アカデミアで早速お友達が出来たんでしょ、うれしいことじゃない」
「もしかしたら……男じゃないだろうな?」
「あら、別に男でもいいじゃないの。愛流だってもう子供じゃないし、ラドリーちゃんもいるのよ」
共子が相座に優しく話しかけるが、相座が首を横に振る。
「いいや、愛流はただでさえ可愛いのに、ラドリーちゃんと一緒にいるときは更に愛くるしさがアップした! そんな状態で男に会ってみろ、コロリといくぞ!」
「まあ言いたい事は分からなくは無いですが、大丈夫ですよ。だってドラゴンが大好きだと毎日公言しているような子ですし、男の子のほうが引いちゃうわよ」
相座が思わず黙り込むと、共子がくすりと笑う。
「まあ大丈夫ですよ。愛流はああ見えてしっかりしてますし。なんせあなたと私の子供ですからね」
「……そうだな。男らしくどーんと構えておかないとな」
相座がふぅと息をつき、共子の傍に擦り寄る。
「せっかくの休みに2人きりだし、俺らも昔に戻るか?」
「あら、嬉しいわ」
共子も相座の傍に擦り寄っていき、お互い腕をお互いの背中に回していった。
「おはようですの」
「おー、おはよ」
ホー、ホケキョみたいな朝の挨拶だね不破君。
まあそんなことは口にせず、私も挨拶して不破君の家に入っていく。
「元気そうで何よりだ」
不破君がラドちゃんの頭を優しく撫で、ラドちゃんがえへへとまぶしい笑顔を浮かべる。
いいなぁ……あれ、どっちに対してだろ?
まあ、いいか。
「まあ座った座った」
ちょっと前に訪れた不和君の家の居間に再び座る。
少しくつろいでいると不破君がガラスのコップに入った麦茶と黒豆が入ったおかきを持ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうですの」
小学生のころに両親と姉と生き別れし、祖父に育てられたからかチョイスが年寄りくさい。
まあ美味しいし、ありがたくいただこう。
「おいしいですの」
ラドちゃんが黒豆おかきを気に入ったらしく、尻尾をぴーんと立てる。
尻尾の先に何もなくてよかったよかった。
なんせ一回尻尾をぴーんと立てたときに家の壁に激突して涙目になってたことがあったし、それに前にこの家に来たときその尻尾にスカートめくられ不破君にパンツ見られちゃったし。
「……って恩返ししに来たのに更に恩を与えられちゃダメですの!」
おかきを食べ終わったラドちゃんがはっとし、首をぶんぶんと横に振る。
「何かしてほしいことはあるですの? 出来る範囲でラドリーがやるですの」
「私も手伝うよ」
「ま、まあ……ならラドリーちゃんはお洗濯を任せてもいいかな?」
「お洗濯! お任せくださいですの!」
ラドちゃんが得意げな顔になる。
カードイラストでこそドジを発揮しているが、このラドリーちゃんは前の主人と一緒にいた影響か、結構家事は得意なんだよね。
「そろそろシーツとかも洗っておきたいと思っていたところだし、願ったり叶ったりだ」
「では、早速洗って欲しいのをお願いしたいですの」
ラドちゃんが万歳すると、ぽんと音を立てて洗濯籠が現れる。
落ちてきたそれを尻尾で受け取り、不破君の胸の前へと持ってくる。
「あー、これとあれだな」
不破君がクッションからシーツをはがしていき、それを洗濯籠に入れる。
ある程度溜まり、ラドちゃんがそれを手で持つ。
「洗濯機はあるですの? なければ外で洗ってくるですの」
「いやさすがに洗濯機はあるぞ。こっちこっち」
不破君がラドちゃんを連れ部屋を出て行く。
にしても……ラドちゃんのご主人様となってる私も恩返しのお手伝いをするべきだろう。
不破君が戻ってきたらやることないか聞かなきゃ。
「おせんたく~おせんたく~対象を取るですの~洗うのは、シーツ類~」
せんたくってそっちの選択!?
にしてもそんな歌を歌いながらお洗濯してたんだラドちゃん。
お母さんだったら聞いてたかもしれない……実の母親に嫉妬する日が来るとは。
「元気いっぱいでやる気満々だなラドちゃん。まっすぐでさ、見てるこっちが笑顔になる」
居間に戻ってきた不破君が座る。
「不破君、私も何か手伝うことある?」
「そうだなー」
「あ、宿題とかはNGね。自分でやらなきゃためにならないからね。分からないところとかあったら教えてはあげるけど」
「それはもうすでに済ませてる」
え、もう済ませてるの!?
「だって家に帰ってもやることといったら家事以外はデッキ弄るか小説読むかパソコン弄るしかないし。時間は基本的にあまってるんだよな」
「そっか」
「それよりも……」
不破君?
じっと顔を私の顔に近づけてきて……
「き、キスとかはなおさらダメだよ!」
「ち、違っ!?」
不破君が何をしていたのかに気づき、顔を赤くして慌てている。
私だってあんなに顔を近づけられて恥ずかしかったんだから、仕返しだよ~。
「で、なんで私の顔に顔を近づけてきてたの? 何かついてた?」
「いや……気のせいかもしれないけど……『χ Card』を手に入れた?」
え?
確かに夢で『χ Card』を手に入れ、しかもラドちゃんと一緒に未知のドラゴンを見た幸せな夢だった。
それを余すことなく言うと、不破君が首をかしげる。
「夢にしてはずいぶんとリアルだな……」
確かにリアル感はあった。
だけどさすがに夢……だよね?
なんかだんだん自信なくなってきた。
「失礼」
不破君の目の前に『χ Card』が現れ、私の周りを飛び回る。
なんか意思を持ってるかのように動くんだねそれ。
……うわっ!
私の目の前に『χ Card』が!?
「手にとって」
「うん」
不破君に言われ、私の目の前に現れた『χ Card』を手に取る。
『Master Airu Approval』
「認証済み……か」
「ゆ、夢じゃなかったのかな?」
あれほど待ち望んでいた物が私の手にあるなんて。
となるとあれは一体なんだったんだろう?
「洗濯機に入れ終わって、後は終わるのを待つだけですの~」
あ、ラドちゃんが戻ってきた。
「次は何をすればいいですの? 張り切って恩返しするですの」
「お、ちょうどいいところに。じゃ、ちょっと愛流さんと一緒に外でて、それを使ってもらっていいかな?」
ラドちゃんが私の手にした『χ Card』を目の当たりにし、眼を輝かせる。
「わぁ、あれってもしかして夢じゃなかったみたいですの。愛流お嬢様と一緒に戦えるあの姿をお披露目してほしいってことですの?」
「その通り。お願いできるかな?」
「もちろんですの!」
ラドちゃんがぐいぐいと私と不破君の腕を引っ張る。
さすがはドラゴン、なかなか力強いなぁ。
というわけで不破君の家の庭に来たわけだけども。
「さっそくやるですの!」
ラドちゃんがやる気満々になり、即座に『ドラゴンメイド・フルス』のカードになる。
それを手に取り、目を閉じる。
「えっと、確か……水と炎の相反する存在が交差するとき、異端なる竜は君臨する」
2枚を手に取り、目の前でクロスさせる。
『ドラゴンメイド・フルス』
『真紅眼の黒竜』
『メイディング・ドラゴニウス』
水と炎を同時に浴び、私は戦闘服に着替え終わり、ラドちゃんも瞳の色を赤くし、きりっとした感じで上空に浮かび上がっていた。
「これが愛流お嬢様と力を合わせた変身ですの」
「おー、ラドリーちゃんも愛流さんも格好いい。しかも愛流さん、ドラゴンを模した銃を持ってるんだ」
不破君に褒められるとなんか照れくさいや。
ラドちゃんも上空で照れてるし。
「ちょっと銃を見せて」
「うん、いいよ」
そして不破君に銃を手渡し、それを不破君はまじまじと見つめていた。
「これまたイケてるな」
「そうだ、せっかくだし撃ってみるね」
夢の中では発砲しなかったけど、銃の撃鉄部分に『真紅眼の黒竜』を置いてっと。
「ファイヤー!」
銃から炎の玉が放たれ、それが石壁にぶつかり消える。
「おお、すげぇ。ドラゴンと共に戦う姿ってわけか。それもなかなか格好いいな」
「ありがとう」
「褒めてくれて嬉しいですの。そうだ、せっかくだし不破君も変身すればいいですの」
「そうだね、せっかくだしあの氷の竜になったらどう?」
私とラドちゃんが提案すると、不破君も笑顔で頷く。
不破君がノリのよい性格で助かるし、嬉しいや。
「OK」
不破君の変身……ってあれ、ポーズとか取らないの?
「時間が無いときとかはこうやって簡易的に変身できる。変身ポーズ中に攻撃してくる奴もいたからな」
まあ確かに現実は特撮じゃないもんね。
なぜか敵は変身中に攻撃してこないけど、現実だったら攻撃するチャンスだからね、変身する瞬間って。
現実で変身できることが判明したんだし、私も練習しなくちゃ。
不破君の目の前に『χ Card』が浮かび上がり、即座に2枚のカードがクロスした。
『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』
『アイス・ブリザード・マスター』
『アイスドラグニック』
不破君の体を氷山が押しつぶしたと思ったら中から氷の竜が飛び上がる。
うっひゃあ、相変わらず凍てつく冷気が私の体を震わせ、未知のドラゴンに会えたという感動で心も震わせるぅ!
『にしても俺の庭にドラゴン2体と愛流さんの戦闘服姿か……誰かに見られたらデュエル中ってことでごまかすか』
確かに。
こんなとんでもない状況になってもデュエル中だからという魔法の言葉を使えば誤魔化せる、便利だね。
「次はどうするですの? この状態でお散歩でもするですの?」
『いやそれはさすがに目立つというレベルを超越するからやめておく』
庭に私と不破君、そしてラドちゃんの笑い声が響き渡っていた。
そして幸運なことに、変身を解除するまでの間に誰かが通りすがるということは一切なかった。
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