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塵と雪 作:コンドル
5月31日追記 「突貫工事で作ってしまったため、後日修正を加えます。その際にはまた修正したとお知らせいたします。」
毎年冬になると思い出します。これからお話しするのは私(本名を出すのは気が引けますのでYと名乗らせていただきます。)の高校二年生の時分の、とある雪の季節のお話でございます。
当時私は県内でもとくに有名でもない平凡な高校に通っておりました。これと言って話題性のある催しを行う訳でもなく、本当に、刺激を求めていく学生が入学すると気が狂うくらいに何の変りもない日々が続くような高校でございました。
学生の顔や性格はと言いますと、これまた面白いことに何の特徴もない、よく言えば普通の、悪く言えば有象無象、そういった社会で塵の一つと数えられて終わりな人間の集まりでございました。そんな何もない人間が集まり、グループを形成しているのです。私もその塵の一つでございました。
自分が周りと違う、塵の一つではないという意味を持った個性を見出したいのですが、残念ながら、私はただの家に帰る前に数名の友人とカードショップで遊ぶことしか楽しみの無いくだらない学生なのでございます。なので、周りと同じであるという事実を認めたくない、しかし現実はそうではないということに辟易していたのです。
そんな有象無象の集まりの中で、一人だけ、異質な存在がおりました。
その女性は、私の左隣の席におりました。名をiと言います。
彼女は今年転校してきた者で、彼女の特徴は何といってもその他大勢とは違う、当時高校生とは思えぬような大人びた雰囲気とそのまるで雪のように透き通った白い肌、見るものすべてを見ほれさせる容姿でございました。
当時、都会ではよく、美人を集めて大会を開いて一番を決める催しが盛んにおこなわれておりましたが、彼女はそれらの大会に出れば優勝は確実だろうと言えるほどの美しさなのです。
他とは違うその美しさと儚げな雰囲気、自分や大勢とは違うその「異質」さを持った彼女に、私は恋をしておりました。
ある日のことでございます。
私は隣で帰り支度をしているiに向かって、勇気を出して一緒に帰るかと誘うつもりでございました。
しかし、この時私は一つミスをおかしました。
己の愚かさをこれほど呪ったことはありません。なにせ彼女に話しかける口実が一切ないのです。
そういうことで一切話しかけられずに私はいつも通りに帰りにカードショップによることにいたした。
「六花聖ティアドロップで直接攻撃。」
聞きなれない声が店内で響いておりました。
その声は生まれた時から散る運命を知っているような悲しく儚い一輪の花のようでございました。
使用する「六花」というデッキもまた雰囲気にとても似合うデッキでございます。
その声の主は私が恋焦がれております、iでございました。
これは何と形容すればよいのでしょうか。私はただのデュエリスト。決して彼女はデュエルモンスターズをしないと思っておりましたから、この光景には信じられるものがありませんでした。とにかく、私はi目掛け歩きました。
そこからでございます。私とiがデュエルモンスターズという共通の趣味を通し話すようになったのは。
彼女によると、デュエルモンスターズは最近始めたばかりで、まだうまくルールを理解しきれていないところがあるらしいのです。これを私はチャンスと思い、様々な召喚方法やチェーン処理などを教えました。教えるたびに、彼女は私を見て顔をほころばせ、美しく微笑むのです。
まるで夢のようでございました。自分が好きな女性とデュエルモンスターズを通して不思議なまでに緊張せずに話ができるのです。これはもう奇跡のようでございました。
時がたち、どんどんと気温が下がり、雪が積もるようになってまいりました。彼女の肌は、さらに白く見えるようになります。
そんな日も、私とiは普段通り、デュエルをしておりました。知り合った当初はたいていは私が勝っていたのですが、iはめきめきと腕を上げ、気づけば私が負けることの方が多くなりました。弟子が師匠を超える...とまでは言い過ぎかもしれませんが、とにかく、彼女は強くなっていきました。
次第に町はクリスマスムードになり、カップルが歩いているのを見かけると、こちらは恥ずかしくなり顔を赤らめるのですが、そんな時に(彼女は時に大胆なことをいたします)まるで自分たちもカップルであるかのように見せかけるためか、手を恋人のようにつないで町を歩くのです。赤面する私を見て彼女が小悪魔のように笑います。その時の彼女から伝わる手の冷たさと、私が彼女に送る体温のぬくもりを今でも覚えています。
さて、彼女と私の話もそうですが、学校はと言いますと、進路の話でもちきりとなっているのでした。わたくしは行きたい大学があるためそこを受験するつもりでしたが、iの進路はと言いますと、私が聞いても、一言も教えてくれないのです。
それからしばらくして、iは学校に来なくなりました。カードショップにも姿を見せなくなり、私の心は焦燥に支配されました。彼女との会話を回想して問題のある部分を探しましたが、特に問題のない箇所は見つかりませんでした。
その頃の彼女とのお話と言えば、進路とデュエル内容の話しかしておらず、進路の話と言っても数分で終わるようなものでありました。
彼女がいなくなり、季節はもうすぐ春を告げようとしています。
春になり雪が解け、桜が咲いて、冬の寒さなど忘れるかのように私以外の塵たちは、不思議とiのことなぞ最初からいなかったかのように扱いました。
お恥ずかしい話ですが、私は彼女と長い間話をしていたにかかわらず、彼女の住所を知らないのです。なので教師に頼んで教えてもらうことにしました。
友達として心配していると言えば、担任は住所を教えてくれました。教えてもらった住所へ向かって、私は何も無いようであってほしいと思いながら歩きました。
しかし、そこについても家と言う建物は一切存在していなかったのです。この住所は偽の住所だったのです。
なぜ偽の住所なぞ担任に教えたのでしょう。これが不思議でなりませんでした。
しかし他の手がかりもない以上、どこを捜索すればよいのか私にはわかるはずがありません。ただ唖然として何もできませんでした。
それからしばらく経って、冬が終わりかけて雪の結晶が見えなくなるくらいの時期でございました。私の家に一通に手紙が届きます。
差出人を見ると、何とそこにはiの名が書いているではありませんか。
驚いて私はすぐさま本文を読みました。
手紙にはこう書いてありました。
「突然いなくなってごめんなさい。じつは、私は別の県へ移り住むことになったのです。なのであなたが家を探しても私はそこにおりません。後日学校で転校することが発表されると思います。なので悲しまないでください。デュエルモンスターズを始めたのは、あなたに近づきたいという意図があって始めたものだったんです。あなたからデュエルモンスターズを教えてもらった感謝の気持ちを忘れません。六花を見つけるたび私を思い出してください。そうしてもらえると、私は嬉しいです。さようなら。Yさんのことが、大好きでした。」
私は彼女に思いを伝えることが出来ませんでした。何という悪戯な展開でしょう。なんという…。
数分経ってから、手紙の裏に何か書いてあるのを見つけました。それを私は読みました。
私は雪となって消えます。ところでYさん、手紙の文章はどこかおかしくないですか?
切れ端にそう書いてあったのです。そこで気づきました。転校するならばもういなくなる前に発表されていてもおかしくないはずだ、と。
彼女は結局謎の美女のままでいなくなりました。私は彼女の正体が何なのかわからないまま高校を卒業しました。
数えきれないほどの謎があります。有象無象の我々塵は、彼女のような雪にはなれません。もしかしたら、彼女はそういう決して雪になれやしない我々の姿を見て心の中では笑っていたのかもしれません。それとも、実は彼女は雪の精で、春が来るといなくなる定めだったのやもしれません。とにかく、謎の女性の出会いで私の人生はどこか不思議なものになりました。彼女と関わったことで、自分という塵が、もしかしたら他の誰とも違う塵になれたのかもしれません。
そう思い、私は今でも息をしているのです。
以上が私のお話であります。退屈な文章だったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
毎年冬になると思い出します。これからお話しするのは私(本名を出すのは気が引けますのでYと名乗らせていただきます。)の高校二年生の時分の、とある雪の季節のお話でございます。
当時私は県内でもとくに有名でもない平凡な高校に通っておりました。これと言って話題性のある催しを行う訳でもなく、本当に、刺激を求めていく学生が入学すると気が狂うくらいに何の変りもない日々が続くような高校でございました。
学生の顔や性格はと言いますと、これまた面白いことに何の特徴もない、よく言えば普通の、悪く言えば有象無象、そういった社会で塵の一つと数えられて終わりな人間の集まりでございました。そんな何もない人間が集まり、グループを形成しているのです。私もその塵の一つでございました。
自分が周りと違う、塵の一つではないという意味を持った個性を見出したいのですが、残念ながら、私はただの家に帰る前に数名の友人とカードショップで遊ぶことしか楽しみの無いくだらない学生なのでございます。なので、周りと同じであるという事実を認めたくない、しかし現実はそうではないということに辟易していたのです。
そんな有象無象の集まりの中で、一人だけ、異質な存在がおりました。
その女性は、私の左隣の席におりました。名をiと言います。
彼女は今年転校してきた者で、彼女の特徴は何といってもその他大勢とは違う、当時高校生とは思えぬような大人びた雰囲気とそのまるで雪のように透き通った白い肌、見るものすべてを見ほれさせる容姿でございました。
当時、都会ではよく、美人を集めて大会を開いて一番を決める催しが盛んにおこなわれておりましたが、彼女はそれらの大会に出れば優勝は確実だろうと言えるほどの美しさなのです。
他とは違うその美しさと儚げな雰囲気、自分や大勢とは違うその「異質」さを持った彼女に、私は恋をしておりました。
ある日のことでございます。
私は隣で帰り支度をしているiに向かって、勇気を出して一緒に帰るかと誘うつもりでございました。
しかし、この時私は一つミスをおかしました。
己の愚かさをこれほど呪ったことはありません。なにせ彼女に話しかける口実が一切ないのです。
そういうことで一切話しかけられずに私はいつも通りに帰りにカードショップによることにいたした。
「六花聖ティアドロップで直接攻撃。」
聞きなれない声が店内で響いておりました。
その声は生まれた時から散る運命を知っているような悲しく儚い一輪の花のようでございました。
使用する「六花」というデッキもまた雰囲気にとても似合うデッキでございます。
その声の主は私が恋焦がれております、iでございました。
これは何と形容すればよいのでしょうか。私はただのデュエリスト。決して彼女はデュエルモンスターズをしないと思っておりましたから、この光景には信じられるものがありませんでした。とにかく、私はi目掛け歩きました。
そこからでございます。私とiがデュエルモンスターズという共通の趣味を通し話すようになったのは。
彼女によると、デュエルモンスターズは最近始めたばかりで、まだうまくルールを理解しきれていないところがあるらしいのです。これを私はチャンスと思い、様々な召喚方法やチェーン処理などを教えました。教えるたびに、彼女は私を見て顔をほころばせ、美しく微笑むのです。
まるで夢のようでございました。自分が好きな女性とデュエルモンスターズを通して不思議なまでに緊張せずに話ができるのです。これはもう奇跡のようでございました。
時がたち、どんどんと気温が下がり、雪が積もるようになってまいりました。彼女の肌は、さらに白く見えるようになります。
そんな日も、私とiは普段通り、デュエルをしておりました。知り合った当初はたいていは私が勝っていたのですが、iはめきめきと腕を上げ、気づけば私が負けることの方が多くなりました。弟子が師匠を超える...とまでは言い過ぎかもしれませんが、とにかく、彼女は強くなっていきました。
次第に町はクリスマスムードになり、カップルが歩いているのを見かけると、こちらは恥ずかしくなり顔を赤らめるのですが、そんな時に(彼女は時に大胆なことをいたします)まるで自分たちもカップルであるかのように見せかけるためか、手を恋人のようにつないで町を歩くのです。赤面する私を見て彼女が小悪魔のように笑います。その時の彼女から伝わる手の冷たさと、私が彼女に送る体温のぬくもりを今でも覚えています。
さて、彼女と私の話もそうですが、学校はと言いますと、進路の話でもちきりとなっているのでした。わたくしは行きたい大学があるためそこを受験するつもりでしたが、iの進路はと言いますと、私が聞いても、一言も教えてくれないのです。
それからしばらくして、iは学校に来なくなりました。カードショップにも姿を見せなくなり、私の心は焦燥に支配されました。彼女との会話を回想して問題のある部分を探しましたが、特に問題のない箇所は見つかりませんでした。
その頃の彼女とのお話と言えば、進路とデュエル内容の話しかしておらず、進路の話と言っても数分で終わるようなものでありました。
彼女がいなくなり、季節はもうすぐ春を告げようとしています。
春になり雪が解け、桜が咲いて、冬の寒さなど忘れるかのように私以外の塵たちは、不思議とiのことなぞ最初からいなかったかのように扱いました。
お恥ずかしい話ですが、私は彼女と長い間話をしていたにかかわらず、彼女の住所を知らないのです。なので教師に頼んで教えてもらうことにしました。
友達として心配していると言えば、担任は住所を教えてくれました。教えてもらった住所へ向かって、私は何も無いようであってほしいと思いながら歩きました。
しかし、そこについても家と言う建物は一切存在していなかったのです。この住所は偽の住所だったのです。
なぜ偽の住所なぞ担任に教えたのでしょう。これが不思議でなりませんでした。
しかし他の手がかりもない以上、どこを捜索すればよいのか私にはわかるはずがありません。ただ唖然として何もできませんでした。
それからしばらく経って、冬が終わりかけて雪の結晶が見えなくなるくらいの時期でございました。私の家に一通に手紙が届きます。
差出人を見ると、何とそこにはiの名が書いているではありませんか。
驚いて私はすぐさま本文を読みました。
手紙にはこう書いてありました。
「突然いなくなってごめんなさい。じつは、私は別の県へ移り住むことになったのです。なのであなたが家を探しても私はそこにおりません。後日学校で転校することが発表されると思います。なので悲しまないでください。デュエルモンスターズを始めたのは、あなたに近づきたいという意図があって始めたものだったんです。あなたからデュエルモンスターズを教えてもらった感謝の気持ちを忘れません。六花を見つけるたび私を思い出してください。そうしてもらえると、私は嬉しいです。さようなら。Yさんのことが、大好きでした。」
私は彼女に思いを伝えることが出来ませんでした。何という悪戯な展開でしょう。なんという…。
数分経ってから、手紙の裏に何か書いてあるのを見つけました。それを私は読みました。
私は雪となって消えます。ところでYさん、手紙の文章はどこかおかしくないですか?
切れ端にそう書いてあったのです。そこで気づきました。転校するならばもういなくなる前に発表されていてもおかしくないはずだ、と。
彼女は結局謎の美女のままでいなくなりました。私は彼女の正体が何なのかわからないまま高校を卒業しました。
数えきれないほどの謎があります。有象無象の我々塵は、彼女のような雪にはなれません。もしかしたら、彼女はそういう決して雪になれやしない我々の姿を見て心の中では笑っていたのかもしれません。それとも、実は彼女は雪の精で、春が来るといなくなる定めだったのやもしれません。とにかく、謎の女性の出会いで私の人生はどこか不思議なものになりました。彼女と関わったことで、自分という塵が、もしかしたら他の誰とも違う塵になれたのかもしれません。
そう思い、私は今でも息をしているのです。
以上が私のお話であります。退屈な文章だったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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