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Phase1「復讐者、起動」 作:Holic
2030年2月14日。珍しく雪が降り積もったあの日。
この国では最大の記録を更新したマグニチュード9.2の首都直下型地震。通称「CAEDES」が発生した。死者約19000人、行方不明者約5000人を記録した、戦後最悪の大災害。
そしてその影響か、首都圏に属する県の市街地の外れにあった研究所で爆発事故が起きた。生存者は私を含めた4名。建物内にいた研究員、被験者は皆死亡したといわれている大事故...
俗称、「研究所爆発事故」。
アナウンス「非常事態発生。非常事態発生。フェーズ0へと移行します。研究員は直ちに第一シェルターへ、被験体は速やかに殺処分を...」
研究員A「クッ!このままでは我々の研究が!こんなところで頓挫してたまるか...!!!」
研究員B「誰か助けてくれぇ!足を挟まれて動けない!誰かぁ!」
被験体A「ねぇ…ボクたちしんじゃうの...?」
研究員C「諸君...。大丈夫だ。君達を殺処分なんてしないよ。さぁこの水をかぶって炎の中を出るんだ。」
被験体A「うん!」
被験体B「早くいこーぜ!もたもたしてると...。っておまえ!だいじょうぶか!」
被験体C「ぎゃぁぁぁ!!ボ、ボクの体が解けて、、、!熱い!熱いよぉ!いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
研究員C「ハハハハハハ!知能の低いガキはチョロいな!それは水ではなく硫酸だ!貴様らは用済みだからこのままくたばれ!ゴミにも劣る被験体共が!」
被験体B「て、、めぇ、!よくも!!呪ってやる!醜くもえちまえぇぇぇ!!!」
被験体A「あなたのこと、信じてたのに...!」
アナウンス「繰り返しお伝えします。非常事態発生。非常事態発生。フェーズ0へと移行します。研究員は直ちに第一シェルターへ、被験体は速やかに殺処分を...」
その中は、まさに地獄。
地震の後が生々しく残る瓦礫の跡。巻き上がる硝煙。逃げ行く人々。鳴り止まぬ悲鳴と警報。形容し難い恐怖の温床がそこにあった。
当然ながら私も被検体としてそこにいた。目の前でたくさんの人が死んでいく渦中、もう諦めるしかなかったからずっと炎の中で立ち尽くしているほか無かった。
でも、何故だろう。私の目の前には別の何かが見えていた。
???「...。」
地獄の底をひっくり返したようなこの場にはあまりにも不釣合いぎる風貌の男の人が立っていた。燃え盛る炎の中優雅にマフラーをたなびかせている。
被験体の少女「あなたは...?」
???「うーんと...そうだな。精霊使い(ゴーストライダー)とでも呼んでくれ。
君を、助けに来た。」
絶望の中の、唯一の真実(きせき)だった。
まるで、私を救いに来た天使のようだった。
自らを精霊使い(ゴーストライダー)と名乗った男の人は私を抱きしめ、燃え盛る施設内を風のごとく駆け抜けていった。私が気付いたころには、街の中心の時計台のところまで来ていた。
被験体の少女「お、おにぃちゃん...。わたしどうしたらいいの?」
???「あのねぇ、僕のことは精霊使い(ゴーストライダー)と呼んでくれと...いや今はそんなことにこだわっている暇ではないか。
まァ、問題ないよ。頼りになる人を呼んだから君はここで大人しくしているといい。」
被験体の少女「ありがと!でもなんでわたしをたすけてくれたの?」
???「君は、いつか戦う宿命にある。しかも矢鱈目鱈に強いやつらとね。」
被験体の少女「そうなんだぁ。でも、わたしぜったいにかつね!だっておにぃちゃんがたすけてくれたんだから。ぜったいにまけないんだから!」
私はただただ嬉しかった。だからあの頃はわけの分からないことを言われても、何でも出来る気がしたんだ。
???「そうか。君は強い子だね。きっと君ならこの悲しき定めを超えられるよ。ところで君の名前は?」
被験体の少女「...ゆ、め。しいな、ゆめ!」
???「ゆめ、か。これもまた、因果な事だな。」
私を助けてくれた男の人は、どこかへ消えてしまった。追いかけようにも、裸足では雪の中を走ることは出来なかった。
その後私は救助に来た人に身柄を保護され、その後に児童養護施設へと預けられた。私が覚えているのはここまでだ。
―これは、悲しき定めを背負った少女の決闘劇である。―
遊戯王サヴァイバーズ
Phase1「復讐者、起動」
時にして十年後。2040年。
ジリリリ!!!
少女「...ん。うるさいなぁもう。」
おぼつかない手つきで目覚まし時計を止め、布団から出る。
時刻は朝の6時半。健全な学生ならもう起きている時間であろう。
重い瞼を擦って起床した彼女は途中何度も転びそうになりながら寝室からリビングに向かった。面倒くささを理由に朝食を抜いた彼女は制服に着替え、玄関を後にする。
少女「さて、行くか。
て、危ない。忘れるところだった...。」
早足で自室に戻り、小さめのかばんとなにやら複数のカードが入ったケースを手にする。それから玄関に置いてある写真に一礼し、改めて玄関を後にした。
彼女の名は「誣名 遊冥(シイナ ユメ)」。デュエルアカデミア国立校高等部2年生。
趣味は作曲、好きな言葉は杞憂の17歳。今日は1月10日。冬の鋭い朝日を浴びながらイヤホンを耳につけ小走りでバス停へ向かう。
ちなみにデュエルアカデミアとは、数10年前にとある大企業が監督、監修して設立された「デュエルモンスターズの理解、発展に重点を置いた学校」である。数々のプロデュエリストやデザイナー、インストラクターを産出し、常にデュエルモンスターズの最先端を行く授業や教育の徹底ぶりから、入学を希望するものが後を絶たない。今でこそ落ち着いているものの、最盛期は入学の倍率が10倍以上にも跳ね上がったこともあったくらいである。しかし、入学は一筋縄ではいかない。
その理由のひとつに、実技試験なるものがある。受験生とアカデミアのデュエル専門の実技講師が直々に対戦するのである。生徒のデッキが自前の使い慣れたものに対し、講師のデッキは実技試験一日前に配布されたものだけとなる。だがこれだけのハンデを背負っていても、殆どの受験生は敗北し不合格となる。そんな腕に自身のある講師を打ち破って、やっとアカデミアに入学できるのだ。
ちなみに遊冥は、実技試験の講師を後攻2ターン目にしてワンターンキルを仕掛けた猛者である。筆記も含め満点合格で入学している。
家を出、しばらく1人で歩いていると見知った顔の少女が遠くから黄色いマフラーをぱたぱたとさせながら走ってきた。
学生「遊冥(ユメ)ちゃーん!おはよ!」
遊冥「あ、おはよう。七海さん。」
遊冥に元気な声をかけた少女は「栗原 七海(クリハラ ナツミ)」。遊冥と同じ学年の子である。彼女もアカデミアの実技試験を満点で切り抜けた猛者だ。
学生→七海「どした?顔色悪いよ?」
遊冥「あぁ...。朝ごはん食べてないからかな。」
七海「それはだめだよぉ!あたしが近くのパン屋で奢ったげるから食べよ!」
遊冥「気持ちはありがたいんだけど...でもこのままだと遅刻しちゃう。」
七海「そ、、、それもそうだね。あはは!
じゃあさ、アカデミアついたら購買いこ?」
遊冥「うん。そこで奢ってもらおうかしら。」
2人が他愛も無い会話をしているうちに、アカデミア送迎バスがやってきた。
朝早いというのもあり、ガラガラだ。出入り口より少し離れた席が2つ空いていたのでそこに座ることにした。
移動中に睡眠をとろうとする遊冥に、七海が間髪入れずに話しかける。
七海「ねえねえ、今日は校内でデュエル大会だね!また遊冥ちゃんの連勝記録のびるのかな?」
遊冥「さぁね。流石に今日こそは負けちゃうかも...。」
七海「そういいながらもう20連勝じゃないのよ!上級生相手にも楽勝じゃん!」
遊冥「たまたまよ。それに愛用の姫だったからね。」
七海「レンタルデッキとかでも優勝してたじゃない!アンタ何者さ!?」
遊冥「あれもたまたま。ライトロードも昔使ってた事あるの。あと芝刈りの落ちが良かった。シラユキ2枚落とせれば勝利確定よ。」
七海「ぶー。しかも私のデッキ使っても優勝じゃん。私なんか準決勝が関の山よ?」
遊冥「七海さん恐竜サンドラだったからね。ちょっと構築に荒があるけどデュエルとか動画で動きはある程度把握してたから。」
七海「なによー!カッコいいからってヌメシス出張つかっちゃダメ?」
遊冥「それを言うならネメシス。ヌメシスだとなんだか汚そうね...。そういう構築もあなたらしくて嫌いじゃないのよ?少々過剰気味ではあったけどフィニッシャー要因のリンクモンスターとか超雷サンドラも出しやすくなったし。」
七海「そっかー!なんなら遊冥ちゃん対策にもっと強いカード突っ込もうかしら~♪たとえば勅命とか」
遊冥「......七海さんなんて嫌い。」
七海「うそうそー!あたしはあたしの流儀を貫くの!!」
遊冥「そっか。私貴女のそういうとこ好きよ。」
七海「えへへ~♪」
会話をしているうちにバスは満員となっていた。七海が他の友人に話しかけ始めたタイミングを見計らって遊冥は少しばかりの睡眠をとることにした。
遊冥「ここは...どこ?」
バスの揺れがないことに違和感を感じ眼をさますと、バス内はブラックアウトしたかのような真っ暗の空間と化していた。あまりにも暗く、何も見えない。何か掴めるものがないか手探りするが、極度の緊張感とどこからか漂う血の臭いと腐臭に耐え切れず嘔吐した。
遊冥「げぇッ、、、!げほっげほっ!
...はぁ、はぁ、、、これ、また...。夢にうなされるって事ね。」
夢の中だと知り平静を保とうとするが、暗闇と悪臭が彼女の不安を掻き立てる。何も出来ないまま肩を抱きかかえてがたがた震えるしかなかった。
遊冥「...
もう、嫌...。ここから出して....!」
負の感情に負けた遊冥の脳内に、ノイズとともに忘れ難い過去の記憶が蘇る。
男「被験体2号!さっさと眼をさまさないか!このっ!このっ!!」
白衣を着込んだ男に殴られているのは、幼い頃の遊冥だった。
遊冥「きゃっ!い、いたいです...!」
男「投薬されないだけありがたく思わないか!これ以上喚くと貴様の家族に手が及ぶぞ...?」
遊冥「それは、、、それだけはやめてください!」
男「物分りのいいガキだ。さっさと檻に戻れ!でないと今日の飯はないぞ!」
遊冥「ご、ごめんなさい...。」
男「ふん。まあいいだろう。それより、こっちを向きなさい。」
遊冥「?」
男は遊冥が振り向いた瞬間に思い切り押し倒し、馬乗りになって殴りかかった。
男「俺はなあ、貴様みたいに妙に大人ぶったガキが嫌いなんだよ!」
遊冥「いやぁ...いやぁ!!!やめてよぉ!!!」
しこたま殴られた後、服を無理やり脱がされた。その後の出来事は気絶してしまったから覚えていない。ただ、大切な何かを犯され、奪われた事だけは幼い自分にも理解できていた。
遊冥「嫌ぁぁぁァァァ!!!来るな!来るなぁぁぁ!!!」
恐怖から無我夢中になって叫ぶ。そうしてから自分がやっと眼を覚ましたのだと自覚する。
賑やかだった送迎バスが一瞬にして凍りついた。
女子生徒1「誣名さん、どうかしたのかしら...。」
女子生徒2「あの子いつも1人だからね。みんなの注目浴びたいのかな?」
男子生徒1「キモ...。」
男子生徒2「七海がかわいそうじゃん。最低だな。」
男子生徒3「ほんとそれな!誣名最低!」
女子生徒2「つーか七海も七海だよなぁ。あんな奴と仲良くしてるからやばい奴に決まってるよ!」
悪夢の次は生徒からの非難の声と畏怖の眼差しだ。耐えられなくなった彼女はかばんを抑えて俯く。自分が怖いのではなく、そばにいた七海にまで迷惑をかけてしまったことにひどく罪悪感を覚えていた。
七海「ったくもう~!遊冥ちゃん、あんな奴らの話なんかに耳傾けちゃだめ!」
七海は強かった。自分よりも、友人である遊冥を心配していたのだ。周りの声が聞こえなくなるように、優しく抱きしめる。
遊冥「な、七海さん...。私の事はいいから、、、」
七海「友達が泣いてたら支えてあげるもんでしょ?まったく....。みーんな遊冥ちゃんのいいとこなんて一つも見ようとしないんだから。」
遊冥「う、うぅ...ぐすっ、、、ごめんね..。」
七海「もう~。かわいいなぁ、あはは」
男子生徒1「うわぁ...馴れ合ってるよあいつら。」
七海「友達同士で悪かったわね!あんた確かこの前遊冥ちゃんにフられてた男子だよね?まさか逆恨み?」
男子生徒1「ば、ばか!それを言うなよ!」
七海「だって事実でしょーに。こんな根暗な奴に遊冥ちゃん渡さないわ!」
男子生徒1「お、お前ぇ!痛い目見ねえと分かんねぇか!」
遊冥「七海さん...!」
逆上して殴りかかる男子生徒。しかし彼は手を止めた。いいや、止められたのだ。
謎の女子生徒「こんな狭い空間で喧嘩をするのは止めたまえ。朝からうるさくてしょうがない。」
突然現れた生徒は男子生徒の腕を払いのけ、七海と遊冥を守るように立ちふさがる。
彼女の名は「冴渡 篝(サエワタリ カガリ)」。アカデミアにおいては知らない者がいない位に有名な凄腕決闘者だ。それに加え空手の有段者でもある。勝ち目がない事を悟った男子生徒は退くことにした。
篝「やれやれ。朝から元気で羨ましいな。怪我はなかったかい?君達。」
七海「ありがとうございます!やっぱ先輩はかっこいいなぁ!」
遊冥「あ、ありがとうございます...。」
篝「とにかく無事なようだね。良かったよ。
そういえば七海君、今日は部活に来られるかい?」
七海「はい!今日こそは勝ちますよ?」
篝「良い心がけだ。それと、誣名君も今日は来てくれるかい?」
遊冥「は、はい。私なんかでよければ、、、」
篝「それは良かった。君にも部活に協力してもらいたいしね。何せ君は期待の新人(ルーキー)だからさ。」
七海「ちょっとォ、先輩あたしはー?」
篝「ば、バスの中なんだから落ち着きたまえ!」
はしゃぐ2人を横目に微笑む遊冥。バスはまもなくアカデミアに到着する。
七海「ついたー!いやー今日も空気が美味しい!」
遊冥「冴渡先輩、先程は大変お世話になりました。」
篝「良いんだよ誣名君。じゃ、私はこれで。バイバーイ」
何か用事があるのか、篝は足早に遊冥たちの元から離れていった。しかし冬の空気を楽しんでいる余裕はない。少し目を離しているうちに七海は遠くに行ってしまったから大変だ。
七海「遊冥ちゃん早くー!って、アイツ!
ゆーきー!!!」
遊冥「栗原さん待ってよー。ああもう.....、あの子朝から元気すぎるのよっ!」
七海「遊殻―!おはー!」ギュッ
遊殻「おわぁっっっ!!おはよっ、て、いきなり飛び込んでくる馬鹿があるか!」
彼の名は故我 遊殻(コガ ユウキ)。アカデミア高等部所属、栗原七海の彼氏である。
七海は彼を見つけては勢いのまま抱きついた。
七海「だってぇ、昨日通話したかったのに出なかったんだもん。心配したんだからね。」
遊殻「悪かったよ。家に従兄弟共が来てデッキ勝手に触られててよー。」
七海「ありゃりゃ、ごめーん。遊殻も忙しかったんだね。」
遊殻「良いって事よ。そういえば誣名はどうした?」
七海「そうだった!ごめーーん!!」
置いてけぼりにされてしまった遊冥は軽く走って2人の元へ向かって行く。
朝から走らされたせいか少し疲れ気味だが、心なしか嬉しそうだ。
遊殻「よ、誣名。おはようさん!」
遊冥「ぜぇ、ぜぇ、、、。おはよう。あなたも朝から大変ね...」
遊殻「まぁこれくらいならいいさ。この前なんてタックルされたんだからな!?」
遊冥「あらま、、、ご愁傷様ね。私から注意しておこうか?」
七海「遊冥ちゃんそれだけはやめて!それだけはー!」
遊殻「誣名怒ったら怖そうだもんな~。俺も気をつけよ...」
遊冥「ん?故我君何か言った?」
遊殻「な、何でもねぇよ!?
(今アイツの笑顔の裏に修羅が見えた気がするんだが!?)」
七海「ねね、朝礼までまだまだ時間あるしそこの売店のテラスでのんびりしてこーよ!」
時刻はまだ7時半である。朝礼が始まるのは9時過ぎ(大体は職員会議などで時間が前後する)ので、3人で休息を取ろうと提案した。幸い一番早いバスで来たおかげか、人はまばらである。
遊殻「よし、そうと決まればデッキ構築だな。七海と誣名がいれば百人力だしな!」
遊冥「ん...
私なんかがいて良いのかな。朝の事もあるし。」
七海「遊冥ちゃん逃げちゃだーめ!」
そっと二人から離れようとする遊冥の手を掴み、半ば強引に連れ戻す。
七海「あなたは私の友達なんだから~!だから私なんかがなんて寂しいこと言っちゃやだよ...。」
本当ならこの場を離れ、読書をするはずだったのだが根負けして二人に付き合うことにした。遊冥のことも考慮し、壁際の目立たない席を選んだ。
七海「そうだ!遊冥ちゃんの朝ごはん忘れてた!なにがいいの?」
遊冥「そうねぇ。じゃあ緑茶とおむすびが良いかな。昆布とか梅干とかツナマヨが入ってるやつ。」
七海「オッケー!遊殻はいつもので良い?」
遊殻「ああ。済まねぇな、お前にまかせっきりで」
二人の注文を聞いてから売店を物色し始める七海。そんな間にも残された遊冥と遊殻のデッキの見せ合いが始まっていた。
遊冥「あなたのデッキはHEROなのね。これはファリスとか入れて積極的に攻めるタイプかしら」
遊殻「いかにもだな。もうダークロウ立てて罠ビするしかねーと思ってたんだが、こいつやアダスターゴールドのおかげで展開重視にすることが出来たってワケよ。そういやお前は閃刀姫か?」
遊冥「私は無難にそれかな。オルガとか転生も良いんだけどさ・・・ほら、戦う女性ってかっこよくない?あとね、この娘(レイ)をテーマに楽曲が作れそうでさ。」
遊殻「なるほどなぁ。じゃあさ、よければ俺のHEROにも作ってくれないか?」
遊冥「そうねー...。暇が出来たら考えておくわね。今ネットで受注しているのが何曲かあって大変なのよ。」
七海「すっごーい!遊冥ちゃんもいつかは天才コンポーザーになれるってことじゃん!あ、隣しつれーね♪」
2人分の朝食を両手に駆け込み会話に割り込む七海。遊冥は渡されたおむすびを片手にちょっとした愚痴をこぼす
遊冥「私なんかじゃ流石になぁ。自分でも思うけど曲調が古臭くてさ。いつまでもインスト楽曲にこだわってちゃだめなのかもしれないわ。」
七海「でも、この前私の恐竜サンドラデッキに作ってくれた曲めっちゃかっこよかったよ!うちのクラスの一部の女子は遊冥ちゃんのファンなのよ!」
遊殻「それマジかよ!?うらやまだぜ~。」
遊冥「ふぁ、ファン...//よ、よしっ...!」
自分の曲に需要があると思ってすらいなかった遊冥は顔を赤らめてガッツポーズをする。自分の作品が誰かに評価されると誰でも嬉しいものだ。
朝礼が始まるまで三人は雑談交じりにデッキ調整を続けていた。
???「ふふ、ふふふ!君は今日も可愛いねェ。」
三人を影から覗き込む怪しい人影。ふと誰かの視線を感じそそくさと隠れる。その手にはビデオカメラが握られていた。
時間は飛び、午前12時30分。
午前中の授業が終わり生徒は一斉に昼食モードに変化する。クラスが離れている遊冥の元には、いつものように七海からメールが届いていた。
七海「<ふぁぁ~、ねむねむ・・・やっと午前の授業終わった・・・>」
遊冥「<抜き打ちテストはきつかったわね。これが英語とかだったらまずいことになっていたわ>」
七海「<遊冥ちゃん意外と英語苦手だもんね~。そだそだ、今日のお昼どこで食べる?>」
遊冥「<今日は~・・・屋上とかどうかしら。曇り気味だから寒いけど、人は少ないはずだわ>」
七海「<りょーかいしましたゆめせんせー!そうと決まれば遊殻に連絡しなきゃ!>」
いつもの三人組で昼食をとろうと遊殻に連絡を入れようとする七海の前に、篝が現れた。何でも昼食の前に部室に来て欲しいとの事だ。本来なら昼食を優先したい七海だが、部活の先輩の頼みごとを断ることが出来ずに部室に行くことにした。
篝「済まないね。申しわけないんだがちょっと用事があってね。」
七海「そうなんですか。あ、あのぉ~...。」
篝「ん?」
七海「あたしこれから遊冥ちゃんとお昼の予定なんです。だから出来れば手短にお願いできますか?」
篝「手短にも何も、すぐに終わる用事さ。だからついてきてくれるかい?」
七海「ハーイ。因みに用事って何ですか?」
篝「ちょっとしたお片づけさ。でも私にとっては重要なね...。」
約束の場に来たのは良いものの、結局七海が来る事はなかった。もう数分待った後一人静かに弁当箱の封を開ける遊冥の前に遊殻が現れた。全力疾走してきたのか、制服を第2ボタンまで開け息を切らしている。
遊殻「おいっ!七海を知らないか!?アイツどこにも居ねぇみたいなんだよ!!」
遊冥「...うそ。私のところにも来なかったわよ?」
遊殻「アイツ心配掛けやがって...。俺午後アカデミアに居ねぇかも知れないからそのときは一人で帰ってくれないか?」
遊冥「分かったわ。故我君も気をつけてね。でも」
遊殻「あ?」
今にも走り出しそうな遊殻にペットボトルを一本渡す。七海がいつも飲んでいるミルクティーだ。意図を理解した遊殻はペットボトルを片手に屋上を後にする。
遊冥「何もなければいいんだけどね...。」
その日の午後は校内でデュエル大会が行われるはずだったが、七海と篝が行方不明になっていることが発覚し中止となった。不安になり何度も七海にメールを送るも一切返信が来ない。デュエル部のグループにメッセージを送ったが同様だったため、遊冥は仮病で帰ることにした。
遊冥「...。結局1人かぁ」
早めに帰宅したため送迎用のバスも無く、徒歩で行くしかない。孤独を実感し1人ごちる遊冥。何度か携帯の通知音が鳴り慌てて確認するも、どれも七海関連のものではなかったため余計に不安が募る。そうこうしているうち自宅に着いたが、作曲しようにもデッキ調整しようにも気分が乗らない。
結局日が暮れるまでソファーに寝転んでいた遊冥だが、着信音がなると同時に飛び起きた。メールのやり取りをする相手ならいるが通話をせがんでくるのは七海だけだ。心配と期待を胸に電話に出たものの、声の主は何故か篝だった。
遊冥「篝先輩、、、!七海さんは!?ねぇ!」
篝「まぁ落ち着きたまえ。七海君は私のところにいるからさ。取り敢えず七海君の家に来てくれ。」
乱暴に電話を切り、駆け足で七海宅へ向かう。何度か遊びに行ったことがあるため人ごみが少ないルートを把握してたことが幸いだった。
遊冥「すごく、、、嫌な予感がする...!七海さん、待ってて!!」
高層ビル8階までの階段をもものともせず全力疾走し、やっと七海宅に着いた。鍵が開けられていたので入ったが、真っ暗で何も見えない。やっとの事で明かりをつけ今に向かうと、立ちふさがるように篝が立っていた。
篝「やぁ、よく来たね。まさかこんなに早く」
遊冥「退いてください!!」
何故電話に出たのが七海ではなく篝だったのか、そもそも何故この場に篝がいるのかすらどうでも良かった。今はただ早く七海に会いたい、その一心だった...
そのユメは、脆く儚く崩れた。
目の前にあったのは、七海のような何かだった。服は無造作に破られ体中に殴られた後がある。既に呼吸は無く、その身は既に屍と化していた。
遊冥「ウソ、、、嘘よ...!!なんで七海さんが!」
篝「何故そんな有様になったか、知りたいかい?」
遊冥「...まさか貴女が」
目の前の遺骸を前に愉快そうな笑みを浮かべる篝。その口から告げられた真実は、あまりにも残酷なものだった。
篝「昼休みにさ、部室に七海君を呼び出して撲殺したんだ。存外頑丈な子だったよ。後頭部を金属バットで殴ったのに意識が残っててさ。それが気に食わないから制服をビリビリに破って顔面を殴打してやった。ほら見てくれよ、ほらァ!」
振り上げた足で、七海を蹴り飛ばす。髪に遮られていた顔が見えるようになると、遊冥は言葉を失った。原型を留めていないかのごとく痣だらけで腫れ上がっていた。
遊冥「...」
篝「全てはね、七海君が...悪いんだ。私の事に気付いちゃったんだからさ。私が...誣名君の事を好きだという事実にさ。
そう!私は、いいやボクは生まれつき女にして男の心をもって痛(いた)んだ。昔から汚物を見るような眼差しを向けられ、友達も作れず、、、ずっと孤独だった。だから...もう誰も好きにならないと決めた!!せめて男性的になりたかったから空手を学んだ!幼少期から長く伸ばしていた髪もバッサリ切り落とした!デュエルモンスターズだって誰よりも頑張った!いつしかボクは周りの人間から期待の目を向けられる立場になり、コンプレックスからも脱却できてたと思えるようになった。それでも...。不覚にもボクは君に一目ぼれしてしまったんだよ。凛としながらも力強い真紅の眼。雪のように純白で滑らかな髪。ぱっと見か弱そうだがその実逆境に強く、まるで幼い頃からデュエルの英才教育でも受けているかのように凄腕だ。」
遊冥「...」
篝「臆病者のボクは陰から見ることしかできなかったんだ。せめて校内で行われるデュエル大会の上位に居続けることで、少しでも君の近くにいられれば...ってさ。
そう思っていた矢先だよ。君を遠くから眺めていたところを七海君に見つかったんだ。景色を眺めていたとごまかしたがあっさりとばれてしまった。何故だろうね...。ボクは嬉しかったんだ、この気持ちを理解してくれる人間ができるのかもしれないかと。でも彼女は違った。ボクの事を臆病者呼ばわりしたんだ。影でしか見れない臆病者だってね。こんな屈辱初めてだ...。今まで誰もがボクを敬いボクを称えた。ソレなのに七海君は僕を臆病者呼ばわりした。校内のデュエル大会すら優勝したこと無いのにだよ?誰よりも馬鹿面してそうなあの女がだよ?そんなのおかしいに決まっているじゃないか。だから殺したんだよ...?」
遊冥「...それで?」
篝「は、、、?」
遊冥「臆病者って言われて、当たり前じゃない。そんなの!」
あっけに取られる篝の頬に、本気の平手打ちを浴びせる遊冥。
篝「き、君まで...君までそんなことを、、、!」
遊冥「あなたの苦労の全てを私は理解することは出来ない。私はきっとあなたに比べれば易しい人生を歩んでいるのかもしれないから。
でも...。少なくとも七海さんのほうがあなたより強い」
篝「何...!!」
遊冥「誰よりも強くあろうと自分を磨いてきたところは認めるわ。だけどいつからなの。その純粋な心が歪み始めたのは?」
遊冥からの問いに激しく頭を抱え、悩み始める。
遊冥「皮肉にも貴方の言うとおりになったわね、精霊使い(ゴーストライダー)。はっきり言ってサイアクよ。」
篝「ゴーストライダー...?
まさか、、、まさか君が被験体だったのか。あの男の言ったとおりだ!」
遊冥「あの男...?」
篝「そうさ!ボクはとある男の依頼で君をデュエルで下し、捕獲するように依頼されている」
篝は懐から一枚の写真を出し、遊冥に見せ付ける。その姿は確かに自分だ。
篝「君も手に入り、序(ついで)に報酬金で一生遊んで暮らせる。ここまで行けばもう二度とボクに比肩できなくなる!ボクこそが最強になるんだ!」
遊冥「...やれやれ。あなたは歪んだ果てに力に溺れたのね。」
篝「は?」
遊冥は目を閉じ、自分を救ってくれた精霊使いの言葉を思い出す。
―いつか君は、大切なものを失う。―
「そ、それって...おともだちのこと?」
―そうかもしれないし、違うのかもしれない。でもね、これだけは覚えていて欲しいんだ。
其の時こそが、君の戦いの合図。大切なものを失って初めて戦いが幕を開ける。―
遊冥「そうね。今がきっと、その時なのね...。」
―そして君にはこのデッキを託す。―
「ふぇ?いいの?」
―ただし1つだけ約束して欲しい。戦いの時が来るまで決して誰かに見せてはいけないよ。いつか来るその日まで己の手で練り上げるんだ。―
「で、でも、、、ひとりじゃうまくなれないよ...?」
―安心してくれ。君には最強のコーチを用意しておいた。そのデッキを使いたいと強く思えば、そいつはデッキから語りかけてくれるよ。―
「...わかった!そのひとととっくんして、だれにもまけないくらいつよくなる!」
―きっと君なら。本当に無敵に成れるかもね。―
遊冥「力に溺れ、本来の気高さを捨てた臆病者は、デュエルで解らせるしかない様ね」
右の腰に装着したデッキケースに触れ、決闘盤にセットしようとしたが、今朝まで調整していたデッキが無い。異変に気付き篝のもとに振り向く。
篝「アッハハハははハハハ!!!今更気付いたのかい?バスで会ったときにボクが没収したのさぁ!」
遊冥「どおりでね。朝は2人に心配されないようにサブのデッキを調整する羽目になったわ。でも、ソレも必要なしね」
そう言うと遊冥は右腰のデッキケースを投げ捨て、胸ポケットから別のデッキを取り出した。これには篝も驚いた。
篝「馬鹿な...!
だが強がりを抜かしやがって!どうせ三軍みたいな調整もままならないデッキだろう!?」
遊冥「フフッ...。笑止千万ね。
貴女は確か依頼を受けたのよね?誰だか知らないけども。でも少なからず私がどういう人間か聞いたはずよ?」
篝「ああ、聞いたさ。どこの被検体だったかもね。君は研究所爆発事故の生き残りだったんだね。」
遊冥「なら話は簡単よ。貴女は生贄に過ぎない。私の戦いの...!」
篝「生贄...?笑わせる。ボクの目的のために生贄になるのは君さ!!」
遊冥「ここで貴女以外の誰かが。強いて言えば依頼者が見ているなら、是非とも聞いて欲しいわね。
...貴女は、いいやあなた達は大切な人を殺した。私の過去には一切かかわりの無い、唯一の友達を。七海さんは良い人だった。私の過去を教えても、私の傷を知ってしまったとしても普通の人間と同様に接してくれた。」
不意に零れ落ちる涙。震える声を絞り出し、怨敵の篝を睨み付ける。
遊冥「私の心のよりどころだった。クラスで話す相手すら作れず壁を築いていたのに、...あの子だけは話しかけてくれた!!
だから私は前に進めた!今まで周りの目を恐れて参加できなかった校内のデュエル大会に参加するようになった!周りにデッキ構築のアドバイスをしたり、受けることもあった!いじめられたり避けられる事も多々あったけど、、、明日七海さんに会えると思えば耐えられた!」
篝「何だよソレ!ボクは誰の支えも無く誰かに支えられることも無く1人で戦ってきたのに!君は七海君がいなければずっと殻に篭もっていただけじゃないのか!?」
遊冥「...そうね。きっとそうだったわ。」
篝「開き直りやがって!馬鹿にしているのか!!」
遊冥「私は知っていたんだもの。1人ではダメなんだって。だから七海さんが差し伸べてくれた手を取れた。貴女みたいに強くは無かったけど、おかげでゆがむことも無かったはずよ。
...私は貴女のご存知の通り、薄汚れた被検体。そんな私から光を奪った罪はとても大きい。
これ以上は語る必要なしね。さぁ、構えなさいよ。決闘盤(デュエルディスク)を。」
篝「クッ、、、!いいだろう!ボクに大口叩いた罰だ。決闘で潰してやるよォォォ!!!」
篝もつられ、決闘盤を構える。殺意にも似た緊迫感は溢れ漂い、一秒後には破裂してしまいそうなほどだ。最早避けられぬ戦い、その結末や如何に...
「「決闘(デュエル)!!!」」
次回予告
「このカードを拝むのは貴女が初めてになるわね。」
「ッハハハ!かかったな、罠発動!!」
「全ては計算ずくよ。このまま果てろぉッ!!」
「このカードの召喚を許したのが仇となったようだ。さぁ逆転できるかなぁ!?」
「開け!わが因果を照らす未来回路!!
―リンク召喚!!!―」
次回・遊戯王サヴァイバーズ
Phase2「OVERDRIVE」
この国では最大の記録を更新したマグニチュード9.2の首都直下型地震。通称「CAEDES」が発生した。死者約19000人、行方不明者約5000人を記録した、戦後最悪の大災害。
そしてその影響か、首都圏に属する県の市街地の外れにあった研究所で爆発事故が起きた。生存者は私を含めた4名。建物内にいた研究員、被験者は皆死亡したといわれている大事故...
俗称、「研究所爆発事故」。
アナウンス「非常事態発生。非常事態発生。フェーズ0へと移行します。研究員は直ちに第一シェルターへ、被験体は速やかに殺処分を...」
研究員A「クッ!このままでは我々の研究が!こんなところで頓挫してたまるか...!!!」
研究員B「誰か助けてくれぇ!足を挟まれて動けない!誰かぁ!」
被験体A「ねぇ…ボクたちしんじゃうの...?」
研究員C「諸君...。大丈夫だ。君達を殺処分なんてしないよ。さぁこの水をかぶって炎の中を出るんだ。」
被験体A「うん!」
被験体B「早くいこーぜ!もたもたしてると...。っておまえ!だいじょうぶか!」
被験体C「ぎゃぁぁぁ!!ボ、ボクの体が解けて、、、!熱い!熱いよぉ!いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
研究員C「ハハハハハハ!知能の低いガキはチョロいな!それは水ではなく硫酸だ!貴様らは用済みだからこのままくたばれ!ゴミにも劣る被験体共が!」
被験体B「て、、めぇ、!よくも!!呪ってやる!醜くもえちまえぇぇぇ!!!」
被験体A「あなたのこと、信じてたのに...!」
アナウンス「繰り返しお伝えします。非常事態発生。非常事態発生。フェーズ0へと移行します。研究員は直ちに第一シェルターへ、被験体は速やかに殺処分を...」
その中は、まさに地獄。
地震の後が生々しく残る瓦礫の跡。巻き上がる硝煙。逃げ行く人々。鳴り止まぬ悲鳴と警報。形容し難い恐怖の温床がそこにあった。
当然ながら私も被検体としてそこにいた。目の前でたくさんの人が死んでいく渦中、もう諦めるしかなかったからずっと炎の中で立ち尽くしているほか無かった。
でも、何故だろう。私の目の前には別の何かが見えていた。
???「...。」
地獄の底をひっくり返したようなこの場にはあまりにも不釣合いぎる風貌の男の人が立っていた。燃え盛る炎の中優雅にマフラーをたなびかせている。
被験体の少女「あなたは...?」
???「うーんと...そうだな。精霊使い(ゴーストライダー)とでも呼んでくれ。
君を、助けに来た。」
絶望の中の、唯一の真実(きせき)だった。
まるで、私を救いに来た天使のようだった。
自らを精霊使い(ゴーストライダー)と名乗った男の人は私を抱きしめ、燃え盛る施設内を風のごとく駆け抜けていった。私が気付いたころには、街の中心の時計台のところまで来ていた。
被験体の少女「お、おにぃちゃん...。わたしどうしたらいいの?」
???「あのねぇ、僕のことは精霊使い(ゴーストライダー)と呼んでくれと...いや今はそんなことにこだわっている暇ではないか。
まァ、問題ないよ。頼りになる人を呼んだから君はここで大人しくしているといい。」
被験体の少女「ありがと!でもなんでわたしをたすけてくれたの?」
???「君は、いつか戦う宿命にある。しかも矢鱈目鱈に強いやつらとね。」
被験体の少女「そうなんだぁ。でも、わたしぜったいにかつね!だっておにぃちゃんがたすけてくれたんだから。ぜったいにまけないんだから!」
私はただただ嬉しかった。だからあの頃はわけの分からないことを言われても、何でも出来る気がしたんだ。
???「そうか。君は強い子だね。きっと君ならこの悲しき定めを超えられるよ。ところで君の名前は?」
被験体の少女「...ゆ、め。しいな、ゆめ!」
???「ゆめ、か。これもまた、因果な事だな。」
私を助けてくれた男の人は、どこかへ消えてしまった。追いかけようにも、裸足では雪の中を走ることは出来なかった。
その後私は救助に来た人に身柄を保護され、その後に児童養護施設へと預けられた。私が覚えているのはここまでだ。
―これは、悲しき定めを背負った少女の決闘劇である。―
遊戯王サヴァイバーズ
Phase1「復讐者、起動」
時にして十年後。2040年。
ジリリリ!!!
少女「...ん。うるさいなぁもう。」
おぼつかない手つきで目覚まし時計を止め、布団から出る。
時刻は朝の6時半。健全な学生ならもう起きている時間であろう。
重い瞼を擦って起床した彼女は途中何度も転びそうになりながら寝室からリビングに向かった。面倒くささを理由に朝食を抜いた彼女は制服に着替え、玄関を後にする。
少女「さて、行くか。
て、危ない。忘れるところだった...。」
早足で自室に戻り、小さめのかばんとなにやら複数のカードが入ったケースを手にする。それから玄関に置いてある写真に一礼し、改めて玄関を後にした。
彼女の名は「誣名 遊冥(シイナ ユメ)」。デュエルアカデミア国立校高等部2年生。
趣味は作曲、好きな言葉は杞憂の17歳。今日は1月10日。冬の鋭い朝日を浴びながらイヤホンを耳につけ小走りでバス停へ向かう。
ちなみにデュエルアカデミアとは、数10年前にとある大企業が監督、監修して設立された「デュエルモンスターズの理解、発展に重点を置いた学校」である。数々のプロデュエリストやデザイナー、インストラクターを産出し、常にデュエルモンスターズの最先端を行く授業や教育の徹底ぶりから、入学を希望するものが後を絶たない。今でこそ落ち着いているものの、最盛期は入学の倍率が10倍以上にも跳ね上がったこともあったくらいである。しかし、入学は一筋縄ではいかない。
その理由のひとつに、実技試験なるものがある。受験生とアカデミアのデュエル専門の実技講師が直々に対戦するのである。生徒のデッキが自前の使い慣れたものに対し、講師のデッキは実技試験一日前に配布されたものだけとなる。だがこれだけのハンデを背負っていても、殆どの受験生は敗北し不合格となる。そんな腕に自身のある講師を打ち破って、やっとアカデミアに入学できるのだ。
ちなみに遊冥は、実技試験の講師を後攻2ターン目にしてワンターンキルを仕掛けた猛者である。筆記も含め満点合格で入学している。
家を出、しばらく1人で歩いていると見知った顔の少女が遠くから黄色いマフラーをぱたぱたとさせながら走ってきた。
学生「遊冥(ユメ)ちゃーん!おはよ!」
遊冥「あ、おはよう。七海さん。」
遊冥に元気な声をかけた少女は「栗原 七海(クリハラ ナツミ)」。遊冥と同じ学年の子である。彼女もアカデミアの実技試験を満点で切り抜けた猛者だ。
学生→七海「どした?顔色悪いよ?」
遊冥「あぁ...。朝ごはん食べてないからかな。」
七海「それはだめだよぉ!あたしが近くのパン屋で奢ったげるから食べよ!」
遊冥「気持ちはありがたいんだけど...でもこのままだと遅刻しちゃう。」
七海「そ、、、それもそうだね。あはは!
じゃあさ、アカデミアついたら購買いこ?」
遊冥「うん。そこで奢ってもらおうかしら。」
2人が他愛も無い会話をしているうちに、アカデミア送迎バスがやってきた。
朝早いというのもあり、ガラガラだ。出入り口より少し離れた席が2つ空いていたのでそこに座ることにした。
移動中に睡眠をとろうとする遊冥に、七海が間髪入れずに話しかける。
七海「ねえねえ、今日は校内でデュエル大会だね!また遊冥ちゃんの連勝記録のびるのかな?」
遊冥「さぁね。流石に今日こそは負けちゃうかも...。」
七海「そういいながらもう20連勝じゃないのよ!上級生相手にも楽勝じゃん!」
遊冥「たまたまよ。それに愛用の姫だったからね。」
七海「レンタルデッキとかでも優勝してたじゃない!アンタ何者さ!?」
遊冥「あれもたまたま。ライトロードも昔使ってた事あるの。あと芝刈りの落ちが良かった。シラユキ2枚落とせれば勝利確定よ。」
七海「ぶー。しかも私のデッキ使っても優勝じゃん。私なんか準決勝が関の山よ?」
遊冥「七海さん恐竜サンドラだったからね。ちょっと構築に荒があるけどデュエルとか動画で動きはある程度把握してたから。」
七海「なによー!カッコいいからってヌメシス出張つかっちゃダメ?」
遊冥「それを言うならネメシス。ヌメシスだとなんだか汚そうね...。そういう構築もあなたらしくて嫌いじゃないのよ?少々過剰気味ではあったけどフィニッシャー要因のリンクモンスターとか超雷サンドラも出しやすくなったし。」
七海「そっかー!なんなら遊冥ちゃん対策にもっと強いカード突っ込もうかしら~♪たとえば勅命とか」
遊冥「......七海さんなんて嫌い。」
七海「うそうそー!あたしはあたしの流儀を貫くの!!」
遊冥「そっか。私貴女のそういうとこ好きよ。」
七海「えへへ~♪」
会話をしているうちにバスは満員となっていた。七海が他の友人に話しかけ始めたタイミングを見計らって遊冥は少しばかりの睡眠をとることにした。
遊冥「ここは...どこ?」
バスの揺れがないことに違和感を感じ眼をさますと、バス内はブラックアウトしたかのような真っ暗の空間と化していた。あまりにも暗く、何も見えない。何か掴めるものがないか手探りするが、極度の緊張感とどこからか漂う血の臭いと腐臭に耐え切れず嘔吐した。
遊冥「げぇッ、、、!げほっげほっ!
...はぁ、はぁ、、、これ、また...。夢にうなされるって事ね。」
夢の中だと知り平静を保とうとするが、暗闇と悪臭が彼女の不安を掻き立てる。何も出来ないまま肩を抱きかかえてがたがた震えるしかなかった。
遊冥「...
もう、嫌...。ここから出して....!」
負の感情に負けた遊冥の脳内に、ノイズとともに忘れ難い過去の記憶が蘇る。
男「被験体2号!さっさと眼をさまさないか!このっ!このっ!!」
白衣を着込んだ男に殴られているのは、幼い頃の遊冥だった。
遊冥「きゃっ!い、いたいです...!」
男「投薬されないだけありがたく思わないか!これ以上喚くと貴様の家族に手が及ぶぞ...?」
遊冥「それは、、、それだけはやめてください!」
男「物分りのいいガキだ。さっさと檻に戻れ!でないと今日の飯はないぞ!」
遊冥「ご、ごめんなさい...。」
男「ふん。まあいいだろう。それより、こっちを向きなさい。」
遊冥「?」
男は遊冥が振り向いた瞬間に思い切り押し倒し、馬乗りになって殴りかかった。
男「俺はなあ、貴様みたいに妙に大人ぶったガキが嫌いなんだよ!」
遊冥「いやぁ...いやぁ!!!やめてよぉ!!!」
しこたま殴られた後、服を無理やり脱がされた。その後の出来事は気絶してしまったから覚えていない。ただ、大切な何かを犯され、奪われた事だけは幼い自分にも理解できていた。
遊冥「嫌ぁぁぁァァァ!!!来るな!来るなぁぁぁ!!!」
恐怖から無我夢中になって叫ぶ。そうしてから自分がやっと眼を覚ましたのだと自覚する。
賑やかだった送迎バスが一瞬にして凍りついた。
女子生徒1「誣名さん、どうかしたのかしら...。」
女子生徒2「あの子いつも1人だからね。みんなの注目浴びたいのかな?」
男子生徒1「キモ...。」
男子生徒2「七海がかわいそうじゃん。最低だな。」
男子生徒3「ほんとそれな!誣名最低!」
女子生徒2「つーか七海も七海だよなぁ。あんな奴と仲良くしてるからやばい奴に決まってるよ!」
悪夢の次は生徒からの非難の声と畏怖の眼差しだ。耐えられなくなった彼女はかばんを抑えて俯く。自分が怖いのではなく、そばにいた七海にまで迷惑をかけてしまったことにひどく罪悪感を覚えていた。
七海「ったくもう~!遊冥ちゃん、あんな奴らの話なんかに耳傾けちゃだめ!」
七海は強かった。自分よりも、友人である遊冥を心配していたのだ。周りの声が聞こえなくなるように、優しく抱きしめる。
遊冥「な、七海さん...。私の事はいいから、、、」
七海「友達が泣いてたら支えてあげるもんでしょ?まったく....。みーんな遊冥ちゃんのいいとこなんて一つも見ようとしないんだから。」
遊冥「う、うぅ...ぐすっ、、、ごめんね..。」
七海「もう~。かわいいなぁ、あはは」
男子生徒1「うわぁ...馴れ合ってるよあいつら。」
七海「友達同士で悪かったわね!あんた確かこの前遊冥ちゃんにフられてた男子だよね?まさか逆恨み?」
男子生徒1「ば、ばか!それを言うなよ!」
七海「だって事実でしょーに。こんな根暗な奴に遊冥ちゃん渡さないわ!」
男子生徒1「お、お前ぇ!痛い目見ねえと分かんねぇか!」
遊冥「七海さん...!」
逆上して殴りかかる男子生徒。しかし彼は手を止めた。いいや、止められたのだ。
謎の女子生徒「こんな狭い空間で喧嘩をするのは止めたまえ。朝からうるさくてしょうがない。」
突然現れた生徒は男子生徒の腕を払いのけ、七海と遊冥を守るように立ちふさがる。
彼女の名は「冴渡 篝(サエワタリ カガリ)」。アカデミアにおいては知らない者がいない位に有名な凄腕決闘者だ。それに加え空手の有段者でもある。勝ち目がない事を悟った男子生徒は退くことにした。
篝「やれやれ。朝から元気で羨ましいな。怪我はなかったかい?君達。」
七海「ありがとうございます!やっぱ先輩はかっこいいなぁ!」
遊冥「あ、ありがとうございます...。」
篝「とにかく無事なようだね。良かったよ。
そういえば七海君、今日は部活に来られるかい?」
七海「はい!今日こそは勝ちますよ?」
篝「良い心がけだ。それと、誣名君も今日は来てくれるかい?」
遊冥「は、はい。私なんかでよければ、、、」
篝「それは良かった。君にも部活に協力してもらいたいしね。何せ君は期待の新人(ルーキー)だからさ。」
七海「ちょっとォ、先輩あたしはー?」
篝「ば、バスの中なんだから落ち着きたまえ!」
はしゃぐ2人を横目に微笑む遊冥。バスはまもなくアカデミアに到着する。
七海「ついたー!いやー今日も空気が美味しい!」
遊冥「冴渡先輩、先程は大変お世話になりました。」
篝「良いんだよ誣名君。じゃ、私はこれで。バイバーイ」
何か用事があるのか、篝は足早に遊冥たちの元から離れていった。しかし冬の空気を楽しんでいる余裕はない。少し目を離しているうちに七海は遠くに行ってしまったから大変だ。
七海「遊冥ちゃん早くー!って、アイツ!
ゆーきー!!!」
遊冥「栗原さん待ってよー。ああもう.....、あの子朝から元気すぎるのよっ!」
七海「遊殻―!おはー!」ギュッ
遊殻「おわぁっっっ!!おはよっ、て、いきなり飛び込んでくる馬鹿があるか!」
彼の名は故我 遊殻(コガ ユウキ)。アカデミア高等部所属、栗原七海の彼氏である。
七海は彼を見つけては勢いのまま抱きついた。
七海「だってぇ、昨日通話したかったのに出なかったんだもん。心配したんだからね。」
遊殻「悪かったよ。家に従兄弟共が来てデッキ勝手に触られててよー。」
七海「ありゃりゃ、ごめーん。遊殻も忙しかったんだね。」
遊殻「良いって事よ。そういえば誣名はどうした?」
七海「そうだった!ごめーーん!!」
置いてけぼりにされてしまった遊冥は軽く走って2人の元へ向かって行く。
朝から走らされたせいか少し疲れ気味だが、心なしか嬉しそうだ。
遊殻「よ、誣名。おはようさん!」
遊冥「ぜぇ、ぜぇ、、、。おはよう。あなたも朝から大変ね...」
遊殻「まぁこれくらいならいいさ。この前なんてタックルされたんだからな!?」
遊冥「あらま、、、ご愁傷様ね。私から注意しておこうか?」
七海「遊冥ちゃんそれだけはやめて!それだけはー!」
遊殻「誣名怒ったら怖そうだもんな~。俺も気をつけよ...」
遊冥「ん?故我君何か言った?」
遊殻「な、何でもねぇよ!?
(今アイツの笑顔の裏に修羅が見えた気がするんだが!?)」
七海「ねね、朝礼までまだまだ時間あるしそこの売店のテラスでのんびりしてこーよ!」
時刻はまだ7時半である。朝礼が始まるのは9時過ぎ(大体は職員会議などで時間が前後する)ので、3人で休息を取ろうと提案した。幸い一番早いバスで来たおかげか、人はまばらである。
遊殻「よし、そうと決まればデッキ構築だな。七海と誣名がいれば百人力だしな!」
遊冥「ん...
私なんかがいて良いのかな。朝の事もあるし。」
七海「遊冥ちゃん逃げちゃだーめ!」
そっと二人から離れようとする遊冥の手を掴み、半ば強引に連れ戻す。
七海「あなたは私の友達なんだから~!だから私なんかがなんて寂しいこと言っちゃやだよ...。」
本当ならこの場を離れ、読書をするはずだったのだが根負けして二人に付き合うことにした。遊冥のことも考慮し、壁際の目立たない席を選んだ。
七海「そうだ!遊冥ちゃんの朝ごはん忘れてた!なにがいいの?」
遊冥「そうねぇ。じゃあ緑茶とおむすびが良いかな。昆布とか梅干とかツナマヨが入ってるやつ。」
七海「オッケー!遊殻はいつもので良い?」
遊殻「ああ。済まねぇな、お前にまかせっきりで」
二人の注文を聞いてから売店を物色し始める七海。そんな間にも残された遊冥と遊殻のデッキの見せ合いが始まっていた。
遊冥「あなたのデッキはHEROなのね。これはファリスとか入れて積極的に攻めるタイプかしら」
遊殻「いかにもだな。もうダークロウ立てて罠ビするしかねーと思ってたんだが、こいつやアダスターゴールドのおかげで展開重視にすることが出来たってワケよ。そういやお前は閃刀姫か?」
遊冥「私は無難にそれかな。オルガとか転生も良いんだけどさ・・・ほら、戦う女性ってかっこよくない?あとね、この娘(レイ)をテーマに楽曲が作れそうでさ。」
遊殻「なるほどなぁ。じゃあさ、よければ俺のHEROにも作ってくれないか?」
遊冥「そうねー...。暇が出来たら考えておくわね。今ネットで受注しているのが何曲かあって大変なのよ。」
七海「すっごーい!遊冥ちゃんもいつかは天才コンポーザーになれるってことじゃん!あ、隣しつれーね♪」
2人分の朝食を両手に駆け込み会話に割り込む七海。遊冥は渡されたおむすびを片手にちょっとした愚痴をこぼす
遊冥「私なんかじゃ流石になぁ。自分でも思うけど曲調が古臭くてさ。いつまでもインスト楽曲にこだわってちゃだめなのかもしれないわ。」
七海「でも、この前私の恐竜サンドラデッキに作ってくれた曲めっちゃかっこよかったよ!うちのクラスの一部の女子は遊冥ちゃんのファンなのよ!」
遊殻「それマジかよ!?うらやまだぜ~。」
遊冥「ふぁ、ファン...//よ、よしっ...!」
自分の曲に需要があると思ってすらいなかった遊冥は顔を赤らめてガッツポーズをする。自分の作品が誰かに評価されると誰でも嬉しいものだ。
朝礼が始まるまで三人は雑談交じりにデッキ調整を続けていた。
???「ふふ、ふふふ!君は今日も可愛いねェ。」
三人を影から覗き込む怪しい人影。ふと誰かの視線を感じそそくさと隠れる。その手にはビデオカメラが握られていた。
時間は飛び、午前12時30分。
午前中の授業が終わり生徒は一斉に昼食モードに変化する。クラスが離れている遊冥の元には、いつものように七海からメールが届いていた。
七海「<ふぁぁ~、ねむねむ・・・やっと午前の授業終わった・・・>」
遊冥「<抜き打ちテストはきつかったわね。これが英語とかだったらまずいことになっていたわ>」
七海「<遊冥ちゃん意外と英語苦手だもんね~。そだそだ、今日のお昼どこで食べる?>」
遊冥「<今日は~・・・屋上とかどうかしら。曇り気味だから寒いけど、人は少ないはずだわ>」
七海「<りょーかいしましたゆめせんせー!そうと決まれば遊殻に連絡しなきゃ!>」
いつもの三人組で昼食をとろうと遊殻に連絡を入れようとする七海の前に、篝が現れた。何でも昼食の前に部室に来て欲しいとの事だ。本来なら昼食を優先したい七海だが、部活の先輩の頼みごとを断ることが出来ずに部室に行くことにした。
篝「済まないね。申しわけないんだがちょっと用事があってね。」
七海「そうなんですか。あ、あのぉ~...。」
篝「ん?」
七海「あたしこれから遊冥ちゃんとお昼の予定なんです。だから出来れば手短にお願いできますか?」
篝「手短にも何も、すぐに終わる用事さ。だからついてきてくれるかい?」
七海「ハーイ。因みに用事って何ですか?」
篝「ちょっとしたお片づけさ。でも私にとっては重要なね...。」
約束の場に来たのは良いものの、結局七海が来る事はなかった。もう数分待った後一人静かに弁当箱の封を開ける遊冥の前に遊殻が現れた。全力疾走してきたのか、制服を第2ボタンまで開け息を切らしている。
遊殻「おいっ!七海を知らないか!?アイツどこにも居ねぇみたいなんだよ!!」
遊冥「...うそ。私のところにも来なかったわよ?」
遊殻「アイツ心配掛けやがって...。俺午後アカデミアに居ねぇかも知れないからそのときは一人で帰ってくれないか?」
遊冥「分かったわ。故我君も気をつけてね。でも」
遊殻「あ?」
今にも走り出しそうな遊殻にペットボトルを一本渡す。七海がいつも飲んでいるミルクティーだ。意図を理解した遊殻はペットボトルを片手に屋上を後にする。
遊冥「何もなければいいんだけどね...。」
その日の午後は校内でデュエル大会が行われるはずだったが、七海と篝が行方不明になっていることが発覚し中止となった。不安になり何度も七海にメールを送るも一切返信が来ない。デュエル部のグループにメッセージを送ったが同様だったため、遊冥は仮病で帰ることにした。
遊冥「...。結局1人かぁ」
早めに帰宅したため送迎用のバスも無く、徒歩で行くしかない。孤独を実感し1人ごちる遊冥。何度か携帯の通知音が鳴り慌てて確認するも、どれも七海関連のものではなかったため余計に不安が募る。そうこうしているうち自宅に着いたが、作曲しようにもデッキ調整しようにも気分が乗らない。
結局日が暮れるまでソファーに寝転んでいた遊冥だが、着信音がなると同時に飛び起きた。メールのやり取りをする相手ならいるが通話をせがんでくるのは七海だけだ。心配と期待を胸に電話に出たものの、声の主は何故か篝だった。
遊冥「篝先輩、、、!七海さんは!?ねぇ!」
篝「まぁ落ち着きたまえ。七海君は私のところにいるからさ。取り敢えず七海君の家に来てくれ。」
乱暴に電話を切り、駆け足で七海宅へ向かう。何度か遊びに行ったことがあるため人ごみが少ないルートを把握してたことが幸いだった。
遊冥「すごく、、、嫌な予感がする...!七海さん、待ってて!!」
高層ビル8階までの階段をもものともせず全力疾走し、やっと七海宅に着いた。鍵が開けられていたので入ったが、真っ暗で何も見えない。やっとの事で明かりをつけ今に向かうと、立ちふさがるように篝が立っていた。
篝「やぁ、よく来たね。まさかこんなに早く」
遊冥「退いてください!!」
何故電話に出たのが七海ではなく篝だったのか、そもそも何故この場に篝がいるのかすらどうでも良かった。今はただ早く七海に会いたい、その一心だった...
そのユメは、脆く儚く崩れた。
目の前にあったのは、七海のような何かだった。服は無造作に破られ体中に殴られた後がある。既に呼吸は無く、その身は既に屍と化していた。
遊冥「ウソ、、、嘘よ...!!なんで七海さんが!」
篝「何故そんな有様になったか、知りたいかい?」
遊冥「...まさか貴女が」
目の前の遺骸を前に愉快そうな笑みを浮かべる篝。その口から告げられた真実は、あまりにも残酷なものだった。
篝「昼休みにさ、部室に七海君を呼び出して撲殺したんだ。存外頑丈な子だったよ。後頭部を金属バットで殴ったのに意識が残っててさ。それが気に食わないから制服をビリビリに破って顔面を殴打してやった。ほら見てくれよ、ほらァ!」
振り上げた足で、七海を蹴り飛ばす。髪に遮られていた顔が見えるようになると、遊冥は言葉を失った。原型を留めていないかのごとく痣だらけで腫れ上がっていた。
遊冥「...」
篝「全てはね、七海君が...悪いんだ。私の事に気付いちゃったんだからさ。私が...誣名君の事を好きだという事実にさ。
そう!私は、いいやボクは生まれつき女にして男の心をもって痛(いた)んだ。昔から汚物を見るような眼差しを向けられ、友達も作れず、、、ずっと孤独だった。だから...もう誰も好きにならないと決めた!!せめて男性的になりたかったから空手を学んだ!幼少期から長く伸ばしていた髪もバッサリ切り落とした!デュエルモンスターズだって誰よりも頑張った!いつしかボクは周りの人間から期待の目を向けられる立場になり、コンプレックスからも脱却できてたと思えるようになった。それでも...。不覚にもボクは君に一目ぼれしてしまったんだよ。凛としながらも力強い真紅の眼。雪のように純白で滑らかな髪。ぱっと見か弱そうだがその実逆境に強く、まるで幼い頃からデュエルの英才教育でも受けているかのように凄腕だ。」
遊冥「...」
篝「臆病者のボクは陰から見ることしかできなかったんだ。せめて校内で行われるデュエル大会の上位に居続けることで、少しでも君の近くにいられれば...ってさ。
そう思っていた矢先だよ。君を遠くから眺めていたところを七海君に見つかったんだ。景色を眺めていたとごまかしたがあっさりとばれてしまった。何故だろうね...。ボクは嬉しかったんだ、この気持ちを理解してくれる人間ができるのかもしれないかと。でも彼女は違った。ボクの事を臆病者呼ばわりしたんだ。影でしか見れない臆病者だってね。こんな屈辱初めてだ...。今まで誰もがボクを敬いボクを称えた。ソレなのに七海君は僕を臆病者呼ばわりした。校内のデュエル大会すら優勝したこと無いのにだよ?誰よりも馬鹿面してそうなあの女がだよ?そんなのおかしいに決まっているじゃないか。だから殺したんだよ...?」
遊冥「...それで?」
篝「は、、、?」
遊冥「臆病者って言われて、当たり前じゃない。そんなの!」
あっけに取られる篝の頬に、本気の平手打ちを浴びせる遊冥。
篝「き、君まで...君までそんなことを、、、!」
遊冥「あなたの苦労の全てを私は理解することは出来ない。私はきっとあなたに比べれば易しい人生を歩んでいるのかもしれないから。
でも...。少なくとも七海さんのほうがあなたより強い」
篝「何...!!」
遊冥「誰よりも強くあろうと自分を磨いてきたところは認めるわ。だけどいつからなの。その純粋な心が歪み始めたのは?」
遊冥からの問いに激しく頭を抱え、悩み始める。
遊冥「皮肉にも貴方の言うとおりになったわね、精霊使い(ゴーストライダー)。はっきり言ってサイアクよ。」
篝「ゴーストライダー...?
まさか、、、まさか君が被験体だったのか。あの男の言ったとおりだ!」
遊冥「あの男...?」
篝「そうさ!ボクはとある男の依頼で君をデュエルで下し、捕獲するように依頼されている」
篝は懐から一枚の写真を出し、遊冥に見せ付ける。その姿は確かに自分だ。
篝「君も手に入り、序(ついで)に報酬金で一生遊んで暮らせる。ここまで行けばもう二度とボクに比肩できなくなる!ボクこそが最強になるんだ!」
遊冥「...やれやれ。あなたは歪んだ果てに力に溺れたのね。」
篝「は?」
遊冥は目を閉じ、自分を救ってくれた精霊使いの言葉を思い出す。
―いつか君は、大切なものを失う。―
「そ、それって...おともだちのこと?」
―そうかもしれないし、違うのかもしれない。でもね、これだけは覚えていて欲しいんだ。
其の時こそが、君の戦いの合図。大切なものを失って初めて戦いが幕を開ける。―
遊冥「そうね。今がきっと、その時なのね...。」
―そして君にはこのデッキを託す。―
「ふぇ?いいの?」
―ただし1つだけ約束して欲しい。戦いの時が来るまで決して誰かに見せてはいけないよ。いつか来るその日まで己の手で練り上げるんだ。―
「で、でも、、、ひとりじゃうまくなれないよ...?」
―安心してくれ。君には最強のコーチを用意しておいた。そのデッキを使いたいと強く思えば、そいつはデッキから語りかけてくれるよ。―
「...わかった!そのひとととっくんして、だれにもまけないくらいつよくなる!」
―きっと君なら。本当に無敵に成れるかもね。―
遊冥「力に溺れ、本来の気高さを捨てた臆病者は、デュエルで解らせるしかない様ね」
右の腰に装着したデッキケースに触れ、決闘盤にセットしようとしたが、今朝まで調整していたデッキが無い。異変に気付き篝のもとに振り向く。
篝「アッハハハははハハハ!!!今更気付いたのかい?バスで会ったときにボクが没収したのさぁ!」
遊冥「どおりでね。朝は2人に心配されないようにサブのデッキを調整する羽目になったわ。でも、ソレも必要なしね」
そう言うと遊冥は右腰のデッキケースを投げ捨て、胸ポケットから別のデッキを取り出した。これには篝も驚いた。
篝「馬鹿な...!
だが強がりを抜かしやがって!どうせ三軍みたいな調整もままならないデッキだろう!?」
遊冥「フフッ...。笑止千万ね。
貴女は確か依頼を受けたのよね?誰だか知らないけども。でも少なからず私がどういう人間か聞いたはずよ?」
篝「ああ、聞いたさ。どこの被検体だったかもね。君は研究所爆発事故の生き残りだったんだね。」
遊冥「なら話は簡単よ。貴女は生贄に過ぎない。私の戦いの...!」
篝「生贄...?笑わせる。ボクの目的のために生贄になるのは君さ!!」
遊冥「ここで貴女以外の誰かが。強いて言えば依頼者が見ているなら、是非とも聞いて欲しいわね。
...貴女は、いいやあなた達は大切な人を殺した。私の過去には一切かかわりの無い、唯一の友達を。七海さんは良い人だった。私の過去を教えても、私の傷を知ってしまったとしても普通の人間と同様に接してくれた。」
不意に零れ落ちる涙。震える声を絞り出し、怨敵の篝を睨み付ける。
遊冥「私の心のよりどころだった。クラスで話す相手すら作れず壁を築いていたのに、...あの子だけは話しかけてくれた!!
だから私は前に進めた!今まで周りの目を恐れて参加できなかった校内のデュエル大会に参加するようになった!周りにデッキ構築のアドバイスをしたり、受けることもあった!いじめられたり避けられる事も多々あったけど、、、明日七海さんに会えると思えば耐えられた!」
篝「何だよソレ!ボクは誰の支えも無く誰かに支えられることも無く1人で戦ってきたのに!君は七海君がいなければずっと殻に篭もっていただけじゃないのか!?」
遊冥「...そうね。きっとそうだったわ。」
篝「開き直りやがって!馬鹿にしているのか!!」
遊冥「私は知っていたんだもの。1人ではダメなんだって。だから七海さんが差し伸べてくれた手を取れた。貴女みたいに強くは無かったけど、おかげでゆがむことも無かったはずよ。
...私は貴女のご存知の通り、薄汚れた被検体。そんな私から光を奪った罪はとても大きい。
これ以上は語る必要なしね。さぁ、構えなさいよ。決闘盤(デュエルディスク)を。」
篝「クッ、、、!いいだろう!ボクに大口叩いた罰だ。決闘で潰してやるよォォォ!!!」
篝もつられ、決闘盤を構える。殺意にも似た緊迫感は溢れ漂い、一秒後には破裂してしまいそうなほどだ。最早避けられぬ戦い、その結末や如何に...
「「決闘(デュエル)!!!」」
次回予告
「このカードを拝むのは貴女が初めてになるわね。」
「ッハハハ!かかったな、罠発動!!」
「全ては計算ずくよ。このまま果てろぉッ!!」
「このカードの召喚を許したのが仇となったようだ。さぁ逆転できるかなぁ!?」
「開け!わが因果を照らす未来回路!!
―リンク召喚!!!―」
次回・遊戯王サヴァイバーズ
Phase2「OVERDRIVE」
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イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
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57 | Phase1「復讐者、起動」 | 824 | 0 | 2020-02-03 | - |
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