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05:未知との会遇② 作:天2
「やった・・・」
《サファイアドラゴン》を倒し見事ファーストバトルを制したコナミに、遊唯は思わずそう呟いていた。
もちろんコナミは最初の一戦に勝っただけでデュエルはまだ最序盤。まだまだナグモにも余裕で逆転のチャンスはあり、油断はできない。
しかし、このバトルを目の当たりにして遊唯が最初から抱いていた懸念はますます疑惑を深めた。
(コナミとか言ったっけ・・・この子、一体何者? なんて言うか・・・奇妙だわ。モンスターの召喚に驚いていたように所作は完全にDゲーム初心者なのに、今のターンの攻防は少なくとも初めてデュエルをした者のそれじゃあない。いえ、新しい召喚法であるリンク召喚を操るにはそれなりの訓練が必要なはず。ある程度の熟練者である可能性が高い。『ちぐはぐ』だわ。彼の存在は、片足ずつ違う靴下のように何か不揃い・・・!)
デュエルが運に勝敗を左右されることはままあり、故にレベルの低いデュエリストが格上の相手にデュエルで勝つことはなくはない。またDゲームの玄人が必ずしも一流のデュエリストとは限らない。
しかしデュエリスト=DゲームプレイヤーでありDゲーム以外でデュエルが行われることがない以上、Dゲーム初心者がデュエルの玄人であることはまずあり得ない。デュエルの上達にはデュエルの実戦あるのみであり、それはそれなりの時間をDゲームプレイヤーとして過ごすことを意味するからだ。
そういう意味では、コナミは『Dゲーム初心者でありながら熟練のデュエリスト』という不可解な存在であると言えた。
眉をひそめる遊唯を余所にデュエルは進んでいく。
彼女の視線の先では、《サファイアドラゴン》を撃破されたナグモが胸を押さえて呻いていた。
「ぐうぅ・・・」
「どうした、モンスターがやられたことがそんなにショックだったのか?」
コナミが茶化すように言うと、顔色を悪くしたナグモが舌を打つ。
「チッ、これだからクソ素人は・・・! モンスターはデュエリストの魔力で形作られてるってそこの女が言ってたろーが。謂わば魂の分身だ。そいつがやられりゃデュエリストの魂が傷付く。そいつは肉体にも痛みとなって表れるんだよッ」
どうやら悪態をつく力はまだ残っているようだ。
ナグモ/LP4000→3300
攻撃力2600の《電影の騎士ガイアセイバー》に攻撃力1900の《サファイアドラゴン》がやられたことにより、その差分の700ポイントがダメージとしてナグモのLPから削られる。しかし削られたのはLPだけではないようだ。
(モンスターがやられるとデュエリストの精神と肉体にもダメージがあるのか。なるほど、まさに分身だな)
Dゲームのデュエルに於いてのモンスターはただのゲームの駒ではない。モンスターはデュエリストの分身であり一心同体。魂のロープで繋がっているわけだ。
「ケッ、この俺がそんなことも知らねぇ雑魚にダメージを負わされるとはな。だがこのままでは済まさねぇぞ。オラァ、もうやることがねぇならさっさとエンド宣言しやがれッ!」
痛みが退いたのかナグモが口から唾を飛ばす。
コナミは言われた通りにターンエンドした。
「俺のターン! ドロー!」
ターンが移り、ナグモがカードをドローする。
そのカードを確認して、にやりと笑った。
「オラァ! 俺は手札から魔法カード《融合》を発動ッ! 手札の《ロード・オブ・ドラゴン-竜の支配者-》と《神竜ラグナロク》を融合ッ!」
ナグモが魔法カードを発動させると、指定された2体の融合素材モンスターが中空で溶けるように混ざり合う。
混ざるのは、竜を模した意匠の魔法使いと銀色の滑らかな体をした神々しい姿の竜。両方とも下級モンスターであり、単体ではそれほど強力な存在ではない。しかし単体では弱いモンスター同士を合体させ、強力なモンスターへと生まれ変わらせるのが『融合召喚』である。
「こいつが俺の最強モンスターだッ! 融合召喚!! 来いよッ、レベル7!《竜魔人キングドラグーン》!!」
融合の渦が解けると共に2体のモンスターが融合した融合モンスターが姿を現した。
それは《サファイアドラゴン》とは比べ物にならないほど巨大なモンスターだった。
《神竜ラグナロク》の体、その頭の部分が《ロード・オブ・ドラゴン-竜の支配者-》の上半身と化している。まさに『竜魔人』の名に相応しい異形。歪さの中に他を圧倒する威圧感を秘めた強大なモンスターだ。
竜魔人キングドラグーン/星7・ATK2400
そのレベルは7。レベルという概念が適応されるモンスターの中ではかなり上位の最上級モンスターだ。
しかしその攻撃力は2400。攻撃力2600の《電影の騎士ガイアセイバー》には及ばない。
「そしてッ《竜魔人キングドラグーン》のモンスター効果ッ! 1ターンに1度、手札のドラゴン族モンスター1体をそのレベルに関わらずフィールドに特殊召喚できるッ!」
《竜魔人キングドラグーン》が妖しいオーラを発しながら雄叫びを上げる。
ナグモは最後に残った手札をデュエルディスクに叩きつける。
「《ダイヤモンドドラゴン》を特殊召喚ッ!」
《竜魔人キングドラグーン》の竜気を受けてフィールドに現れたのは、またもきらびやかな光を放つドラゴンだった。
ダイヤモンドドラゴン/星7・ATK2100
そのドラゴンの体は頭部の一本角に至るまで光を屈折させキラキラと眩い輝きを発するダイヤモンド。その硬度に裏打ちされたその攻撃力は2100。こちらも紛れもなく最上級モンスターの1体だ。
これでナグモのフィールドに2体の最上級モンスターが並んだ。双方ともに攻撃力は2000以上。
しかしそれを目の当たりにしてもコナミの顔に焦りはない。最上級モンスターを一気に2体出してきたのは中々だが、そのどちらもコナミの《電影の騎士ガイアセイバー》を超える攻撃力を持っていないからだ。
しかし《竜魔人キングドラグーン》はともかく《ダイヤモンドドラゴン》はダイヤモンドのボディによる2800という驚異的な守備力を有するモンスター。守備表示で出せば、少なくとも《電影の騎士ガイアセイバー》に対する壁にはなるはず。しかもこれでナグモの手札は0。何故及ばないと分かりきっているモンスターをわざわざ攻撃表示で展開するのか。
「ククク、テメェの浅はかな考えはお見通しよ。何故攻撃力の及ばないモンスターを出してきたのか不可解っつーとこだろう? それが分からねぇのが低レベルのデュエリストの限界ってやつだッ!」
ナグモがデュエルディスクを掲げる。
「俺の墓地にはテメェに破壊された永続罠カード《ジュエル・スケイル》があるッ! こいつには墓地にあっても発揮できる効果があるんだよッ!」
デュエルのカードにはフィールドだけではなく墓地にあっても効果を発揮することができるカードがある。それは一度破壊しただけではそれを無力化することはできないことを意味している。むしろこちらの効果だけを目当てにしてデッキ・手札から直接墓地に送る戦術すら存在するのだ。
「《ジュエル・スケイル》の第2の効果ッ! 墓地のこのカードを除外することで自分フィールドのドラゴン族モンスター1体の攻撃力を600ポイントアップさせるッ!」
《竜魔人キングドラグーン》の体がゴツゴツと隆起しまるで鉱物のように硬質化し始める。《神竜ラグナロク》の体色を踏襲しているのか、さながらプラチナでコーティングされたかのようだ。
竜魔人キングドラグーン/ATK2400→3000
《ジュエル・スケイル》でコーティングされた《竜魔人キングドラグーン》の攻撃力は驚異の3000。ついに《電影の騎士ガイアセイバー》を上回った。
「ハハハ、どうだッこれが上級デュエリストのデュエルだッ! バトルいくぜぇッ! やれッ《キングドラグーン》!!」
ナグモが高らかに笑い、《竜魔人キングドラグーン》はそれに呼応してオーラを増した。
《竜魔人キングドラグーン》の前にそのオーラが集まり球状に凝縮していく。
「喰らえッ“トワイライト・バーン”ッ!!」
そしてそのエネルギーを一気に解放して《電影の騎士ガイアセイバー》目掛けて放出した。
指向性を与えられたエネルギー波が一直線の帯となり《電影の騎士ガイアセイバー》を襲う。それはもはやランスだけでは到底抗うことのできない圧倒的な奔流。《電影の騎士ガイアセイバー》は為す術なくその流れに飲み込まれ消し去られてしまった。
「うああァァ・・・!」
途端、コナミの全身に痛みが走った。体の中が焼かれていくような激しい痛み。肺の中の空気を全て吐き出さずにはいられない。
コナミ/LP3000→2600
(こ、これがモンスターを失う痛みか・・・! こんなもの続けて何度も経験すれば痛みでショック死しかねないぞ・・・!)
体を震わせながら痛みに耐えるコナミに、ナグモは意地悪く笑う。
「痛ぇだろッ!? だがまだこんなもんじゃねぇぞッ! 俺にはまだ《ダイヤモンドドラゴン》が残ってんだからなッ! 行けぇッ《ダイヤモンドドラゴン》ッ、ダイレクトアタックだッ!!」
ダイヤモンドの体を持つドラゴンがバサリと翼を広げ、更なる追い打ちをかける。今度はコナミ自身がその標的だ。
《ダイヤモンドドラゴン》の口の中に光り輝くエネルギーが集まっている。光のブレスだ。《ダイヤモンドドラゴン》はそれをまるでビームのように放射した。
コナミにそれを避けるような猶予などなかった。ピカッと光ったと思った瞬間にはもう体全体がブレスの直撃を受けており、砂浜を十数メートルは吹っ飛ばされていた。
なんとか受け身は取ったものの、ブレスを受けた身体中が焼けるように痛む。
「ぐ・・・ああ・・・!」
砂にまみれるも厭わずゴロゴロと転がり回る。
それを見てナグモは「まさに痛快」と言った風にゲラゲラと嗤う。
「ギャハハハッ! どうだどうだッ見たかッ! これが上級デュエリスト様の攻撃だッ!!」
コナミ/LP2600→500
ようやく痛みが和らいできたところでコナミはなんとか立ち上がった。
髪も顔も服も砂まみれ。その表情もデュエル開始より更に憔悴極まる有り様。LPも残り500。まさにボロボロといった風体である。
「クク、ようやく自分がどれだけ無謀な闘いを挑んだか理解できたか? リンク召喚なんていう奇抜なだけの戦法がテメェの自信の源だったんだろうが、んなもん俺様には通用しねぇんだよッ。んなチンケな奇策なんざ、俺様にかかれば更に圧倒的な力でぶっ潰せば良いだけ代物に過ぎねぇってことだッ」
まだ笑いを堪えきれない様子でナグモが勝ち誇る。彼は完全に自分の勝利を確信している。
「俺はこれでターンエンドだ。さあ、テメェのラストターンだぜ。せいぜい悪あがきしてみせろ。次の俺様のターンでテメェは終わりだ」
コナミはゼイゼイと肩で息をしながらデッキに手をかける。
もともと行き倒れていたせいで体力は万全ではなかった。それに加えてこれだけのダメージを受けたのだ、既に虫の息と言って間違いない。
しかしそれでもコナミは闘志を失ってはいない。いや、むしろ・・・。
無言でカードをドローする。
それを確認して、コナミは微かに笑った。
(こいつ、いま笑ったのか? この状況で何を笑う? まだ絶望してないっつーのか?)
コナミは視線を目の前で怪訝な顔をしているナグモに戻すと指を3本立てて見せる。
「・・・この状況で俺がアンタに勝っている点が3つある」
「なんだと?」
更に眉をひそめるナグモに、今度は手に持つ手札を見せた。
「1つは手札の数。アンタの手札は既に0。対して俺はまだ4枚の手札を残している。手札はデュエリストにとっての可能性。可能性の分だけ勝機はある。俺はアンタより4手もまだ勝利の可能性を残してるってわけだ」
確かに、既に手札のないナグモはこれから先ドローフェイズにデッキからドローできる1ターンに1枚のカードだけで闘っていかなくてはならない。一方、まだ手札を4枚も残しているコナミはその枚数分の手数があることになる。
ナグモは鼻で笑う。
「それがどうした? そりゃテメェが生き延びられればの話だろうが。その手札で俺のこの布陣を突破できなきゃ、んなことに意味なんかねぇ。手札が多かろうが少なかろうが俺の勝ちは揺るがねぇんだよッ!」
「それが2つ目だ」
「あん?」
「アンタは俺を追い詰めたつもりでいるんだろうが、そいつは間違いだ。俺は初手で防御系のカードを1枚も引けなかった。もしアンタが俺を瞬殺できるほどの打点を出せていたなら、俺に勝ち目はなかっただろう。だがアンタは俺に500のLPを残してしまった。俺の思い描いた通りにね」
ナグモの顔が歪む。
「最初からLPがほんの少し残る可能性に賭けていた」と、「そしてその想定通りにアンタは動いた」と、「つまりアンタは俺の想定の範囲内のデュエリストでしかなかった」と、そうコナミは言っているのだ。
「そして3つ目。これがアンタにとって致命的な、俺とアンタとの決定的な差だ」
そう言うとコナミは片手を高々と掲げた。
するとナグモの後方からそよそよと風が吹いてくるのに気付いた。最初は気付かないくらいに穏やかに、しかしその風は次第に強くなっていく。
それがナグモの金髪を激しく揺さぶるくらいになって、初めて彼は気付いた。
(なんだ・・・!? この風はただの海風じゃあねぇッ!! いや、こいつは風ですらねぇッ!! ヤツの手に風・・・いや空気が吸い込まれてんだッ!!)
それはまるで嵐だった。
つい先ほどまで穏やかだった浜辺にまるで台風の時のような激しい風が吹き荒んでいた。波も高くなり、さながら嵐でも来たような有り様へと変わっていた。
その中心にいるのは確かにコナミ。正確にはコナミの掲げた手の平が中心となって周りの空気を吸い込み竜巻のような渦を作り出している。
「俺の戦法がリンク召喚だけだとアンタは言ってたな。確かにリンク召喚は俺のデッキの核だよ。だけど俺の切り札はそれだけじゃあないんだぜ」
もはや風の奔流は明確に竜巻へと変わっていた。浜辺の砂を巻き込み、それは肉眼でもはっきりと分かった。
そしてそれが充分な勢力へと成長したことを見届け、コナミはその現象の名前を口にした。
「・・・俺の右手は風を掴む!スキル発動ッ!『ストーム・アクセス』!!」
と同時にコナミの手が強い光を放つ。
ナグモはその発光に目を瞑り、遊唯は思わず「なんですって!!」と叫んでいた。
徐々に光は収束していく。
光の消失に伴い竜巻は霧散し、風も元通りに戻る。
光の消えたその手には、まるで光と風がその形を成したかのように光り輝く1枚のカードが握られていた。
「スキル『ストーム・アクセス』は、LPが1000以下の時サイバース族のリンクモンスターをランダムに1体エクストラデッキに加えることができる」
光のカードはコナミが手元に引き寄せると、その輝きを収めそのイラストやテキストを明らかにした。そのカード枠の色は確かにリンクモンスターを示す紺色。
「カードを・・・作り出したってのか・・・」
流石のナグモもこの現象には驚愕を隠し切れない。半開きの唇はわなわなと震え、冷や汗が噴き出す。
だが、それ以上の反応を見せていたのは遊唯だった。目を見開き、呆然とした様子。
「嘘でしょ・・・。『スキル』が使えるようになるのはレベル5以上のデュエリストだけのはず・・・」
言葉通りそのカードをエクストラデッキへと加えるコナミから視線が動かせない。
全くデタラメだ。
Dゲームは恐ろしいゲームだが、最低限ルールだけはあるゲームだ。完全な無法の闘争ではない。それが数少ない心の拠り所だった。しかしここにきてその拠り所を根底から崩しかねない存在が目の前にいる。
コナミというデュエリストネームを名乗る少年。
下手をすればDゲーム全体のゲームバランスを揺るがしかねない少年。要するに『チート』。
「君は・・・本当に・・・何者なの・・・?」
《サファイアドラゴン》を倒し見事ファーストバトルを制したコナミに、遊唯は思わずそう呟いていた。
もちろんコナミは最初の一戦に勝っただけでデュエルはまだ最序盤。まだまだナグモにも余裕で逆転のチャンスはあり、油断はできない。
しかし、このバトルを目の当たりにして遊唯が最初から抱いていた懸念はますます疑惑を深めた。
(コナミとか言ったっけ・・・この子、一体何者? なんて言うか・・・奇妙だわ。モンスターの召喚に驚いていたように所作は完全にDゲーム初心者なのに、今のターンの攻防は少なくとも初めてデュエルをした者のそれじゃあない。いえ、新しい召喚法であるリンク召喚を操るにはそれなりの訓練が必要なはず。ある程度の熟練者である可能性が高い。『ちぐはぐ』だわ。彼の存在は、片足ずつ違う靴下のように何か不揃い・・・!)
デュエルが運に勝敗を左右されることはままあり、故にレベルの低いデュエリストが格上の相手にデュエルで勝つことはなくはない。またDゲームの玄人が必ずしも一流のデュエリストとは限らない。
しかしデュエリスト=DゲームプレイヤーでありDゲーム以外でデュエルが行われることがない以上、Dゲーム初心者がデュエルの玄人であることはまずあり得ない。デュエルの上達にはデュエルの実戦あるのみであり、それはそれなりの時間をDゲームプレイヤーとして過ごすことを意味するからだ。
そういう意味では、コナミは『Dゲーム初心者でありながら熟練のデュエリスト』という不可解な存在であると言えた。
眉をひそめる遊唯を余所にデュエルは進んでいく。
彼女の視線の先では、《サファイアドラゴン》を撃破されたナグモが胸を押さえて呻いていた。
「ぐうぅ・・・」
「どうした、モンスターがやられたことがそんなにショックだったのか?」
コナミが茶化すように言うと、顔色を悪くしたナグモが舌を打つ。
「チッ、これだからクソ素人は・・・! モンスターはデュエリストの魔力で形作られてるってそこの女が言ってたろーが。謂わば魂の分身だ。そいつがやられりゃデュエリストの魂が傷付く。そいつは肉体にも痛みとなって表れるんだよッ」
どうやら悪態をつく力はまだ残っているようだ。
ナグモ/LP4000→3300
攻撃力2600の《電影の騎士ガイアセイバー》に攻撃力1900の《サファイアドラゴン》がやられたことにより、その差分の700ポイントがダメージとしてナグモのLPから削られる。しかし削られたのはLPだけではないようだ。
(モンスターがやられるとデュエリストの精神と肉体にもダメージがあるのか。なるほど、まさに分身だな)
Dゲームのデュエルに於いてのモンスターはただのゲームの駒ではない。モンスターはデュエリストの分身であり一心同体。魂のロープで繋がっているわけだ。
「ケッ、この俺がそんなことも知らねぇ雑魚にダメージを負わされるとはな。だがこのままでは済まさねぇぞ。オラァ、もうやることがねぇならさっさとエンド宣言しやがれッ!」
痛みが退いたのかナグモが口から唾を飛ばす。
コナミは言われた通りにターンエンドした。
「俺のターン! ドロー!」
ターンが移り、ナグモがカードをドローする。
そのカードを確認して、にやりと笑った。
「オラァ! 俺は手札から魔法カード《融合》を発動ッ! 手札の《ロード・オブ・ドラゴン-竜の支配者-》と《神竜ラグナロク》を融合ッ!」
ナグモが魔法カードを発動させると、指定された2体の融合素材モンスターが中空で溶けるように混ざり合う。
混ざるのは、竜を模した意匠の魔法使いと銀色の滑らかな体をした神々しい姿の竜。両方とも下級モンスターであり、単体ではそれほど強力な存在ではない。しかし単体では弱いモンスター同士を合体させ、強力なモンスターへと生まれ変わらせるのが『融合召喚』である。
「こいつが俺の最強モンスターだッ! 融合召喚!! 来いよッ、レベル7!《竜魔人キングドラグーン》!!」
融合の渦が解けると共に2体のモンスターが融合した融合モンスターが姿を現した。
それは《サファイアドラゴン》とは比べ物にならないほど巨大なモンスターだった。
《神竜ラグナロク》の体、その頭の部分が《ロード・オブ・ドラゴン-竜の支配者-》の上半身と化している。まさに『竜魔人』の名に相応しい異形。歪さの中に他を圧倒する威圧感を秘めた強大なモンスターだ。
竜魔人キングドラグーン/星7・ATK2400
そのレベルは7。レベルという概念が適応されるモンスターの中ではかなり上位の最上級モンスターだ。
しかしその攻撃力は2400。攻撃力2600の《電影の騎士ガイアセイバー》には及ばない。
「そしてッ《竜魔人キングドラグーン》のモンスター効果ッ! 1ターンに1度、手札のドラゴン族モンスター1体をそのレベルに関わらずフィールドに特殊召喚できるッ!」
《竜魔人キングドラグーン》が妖しいオーラを発しながら雄叫びを上げる。
ナグモは最後に残った手札をデュエルディスクに叩きつける。
「《ダイヤモンドドラゴン》を特殊召喚ッ!」
《竜魔人キングドラグーン》の竜気を受けてフィールドに現れたのは、またもきらびやかな光を放つドラゴンだった。
ダイヤモンドドラゴン/星7・ATK2100
そのドラゴンの体は頭部の一本角に至るまで光を屈折させキラキラと眩い輝きを発するダイヤモンド。その硬度に裏打ちされたその攻撃力は2100。こちらも紛れもなく最上級モンスターの1体だ。
これでナグモのフィールドに2体の最上級モンスターが並んだ。双方ともに攻撃力は2000以上。
しかしそれを目の当たりにしてもコナミの顔に焦りはない。最上級モンスターを一気に2体出してきたのは中々だが、そのどちらもコナミの《電影の騎士ガイアセイバー》を超える攻撃力を持っていないからだ。
しかし《竜魔人キングドラグーン》はともかく《ダイヤモンドドラゴン》はダイヤモンドのボディによる2800という驚異的な守備力を有するモンスター。守備表示で出せば、少なくとも《電影の騎士ガイアセイバー》に対する壁にはなるはず。しかもこれでナグモの手札は0。何故及ばないと分かりきっているモンスターをわざわざ攻撃表示で展開するのか。
「ククク、テメェの浅はかな考えはお見通しよ。何故攻撃力の及ばないモンスターを出してきたのか不可解っつーとこだろう? それが分からねぇのが低レベルのデュエリストの限界ってやつだッ!」
ナグモがデュエルディスクを掲げる。
「俺の墓地にはテメェに破壊された永続罠カード《ジュエル・スケイル》があるッ! こいつには墓地にあっても発揮できる効果があるんだよッ!」
デュエルのカードにはフィールドだけではなく墓地にあっても効果を発揮することができるカードがある。それは一度破壊しただけではそれを無力化することはできないことを意味している。むしろこちらの効果だけを目当てにしてデッキ・手札から直接墓地に送る戦術すら存在するのだ。
「《ジュエル・スケイル》の第2の効果ッ! 墓地のこのカードを除外することで自分フィールドのドラゴン族モンスター1体の攻撃力を600ポイントアップさせるッ!」
《竜魔人キングドラグーン》の体がゴツゴツと隆起しまるで鉱物のように硬質化し始める。《神竜ラグナロク》の体色を踏襲しているのか、さながらプラチナでコーティングされたかのようだ。
竜魔人キングドラグーン/ATK2400→3000
《ジュエル・スケイル》でコーティングされた《竜魔人キングドラグーン》の攻撃力は驚異の3000。ついに《電影の騎士ガイアセイバー》を上回った。
「ハハハ、どうだッこれが上級デュエリストのデュエルだッ! バトルいくぜぇッ! やれッ《キングドラグーン》!!」
ナグモが高らかに笑い、《竜魔人キングドラグーン》はそれに呼応してオーラを増した。
《竜魔人キングドラグーン》の前にそのオーラが集まり球状に凝縮していく。
「喰らえッ“トワイライト・バーン”ッ!!」
そしてそのエネルギーを一気に解放して《電影の騎士ガイアセイバー》目掛けて放出した。
指向性を与えられたエネルギー波が一直線の帯となり《電影の騎士ガイアセイバー》を襲う。それはもはやランスだけでは到底抗うことのできない圧倒的な奔流。《電影の騎士ガイアセイバー》は為す術なくその流れに飲み込まれ消し去られてしまった。
「うああァァ・・・!」
途端、コナミの全身に痛みが走った。体の中が焼かれていくような激しい痛み。肺の中の空気を全て吐き出さずにはいられない。
コナミ/LP3000→2600
(こ、これがモンスターを失う痛みか・・・! こんなもの続けて何度も経験すれば痛みでショック死しかねないぞ・・・!)
体を震わせながら痛みに耐えるコナミに、ナグモは意地悪く笑う。
「痛ぇだろッ!? だがまだこんなもんじゃねぇぞッ! 俺にはまだ《ダイヤモンドドラゴン》が残ってんだからなッ! 行けぇッ《ダイヤモンドドラゴン》ッ、ダイレクトアタックだッ!!」
ダイヤモンドの体を持つドラゴンがバサリと翼を広げ、更なる追い打ちをかける。今度はコナミ自身がその標的だ。
《ダイヤモンドドラゴン》の口の中に光り輝くエネルギーが集まっている。光のブレスだ。《ダイヤモンドドラゴン》はそれをまるでビームのように放射した。
コナミにそれを避けるような猶予などなかった。ピカッと光ったと思った瞬間にはもう体全体がブレスの直撃を受けており、砂浜を十数メートルは吹っ飛ばされていた。
なんとか受け身は取ったものの、ブレスを受けた身体中が焼けるように痛む。
「ぐ・・・ああ・・・!」
砂にまみれるも厭わずゴロゴロと転がり回る。
それを見てナグモは「まさに痛快」と言った風にゲラゲラと嗤う。
「ギャハハハッ! どうだどうだッ見たかッ! これが上級デュエリスト様の攻撃だッ!!」
コナミ/LP2600→500
ようやく痛みが和らいできたところでコナミはなんとか立ち上がった。
髪も顔も服も砂まみれ。その表情もデュエル開始より更に憔悴極まる有り様。LPも残り500。まさにボロボロといった風体である。
「クク、ようやく自分がどれだけ無謀な闘いを挑んだか理解できたか? リンク召喚なんていう奇抜なだけの戦法がテメェの自信の源だったんだろうが、んなもん俺様には通用しねぇんだよッ。んなチンケな奇策なんざ、俺様にかかれば更に圧倒的な力でぶっ潰せば良いだけ代物に過ぎねぇってことだッ」
まだ笑いを堪えきれない様子でナグモが勝ち誇る。彼は完全に自分の勝利を確信している。
「俺はこれでターンエンドだ。さあ、テメェのラストターンだぜ。せいぜい悪あがきしてみせろ。次の俺様のターンでテメェは終わりだ」
コナミはゼイゼイと肩で息をしながらデッキに手をかける。
もともと行き倒れていたせいで体力は万全ではなかった。それに加えてこれだけのダメージを受けたのだ、既に虫の息と言って間違いない。
しかしそれでもコナミは闘志を失ってはいない。いや、むしろ・・・。
無言でカードをドローする。
それを確認して、コナミは微かに笑った。
(こいつ、いま笑ったのか? この状況で何を笑う? まだ絶望してないっつーのか?)
コナミは視線を目の前で怪訝な顔をしているナグモに戻すと指を3本立てて見せる。
「・・・この状況で俺がアンタに勝っている点が3つある」
「なんだと?」
更に眉をひそめるナグモに、今度は手に持つ手札を見せた。
「1つは手札の数。アンタの手札は既に0。対して俺はまだ4枚の手札を残している。手札はデュエリストにとっての可能性。可能性の分だけ勝機はある。俺はアンタより4手もまだ勝利の可能性を残してるってわけだ」
確かに、既に手札のないナグモはこれから先ドローフェイズにデッキからドローできる1ターンに1枚のカードだけで闘っていかなくてはならない。一方、まだ手札を4枚も残しているコナミはその枚数分の手数があることになる。
ナグモは鼻で笑う。
「それがどうした? そりゃテメェが生き延びられればの話だろうが。その手札で俺のこの布陣を突破できなきゃ、んなことに意味なんかねぇ。手札が多かろうが少なかろうが俺の勝ちは揺るがねぇんだよッ!」
「それが2つ目だ」
「あん?」
「アンタは俺を追い詰めたつもりでいるんだろうが、そいつは間違いだ。俺は初手で防御系のカードを1枚も引けなかった。もしアンタが俺を瞬殺できるほどの打点を出せていたなら、俺に勝ち目はなかっただろう。だがアンタは俺に500のLPを残してしまった。俺の思い描いた通りにね」
ナグモの顔が歪む。
「最初からLPがほんの少し残る可能性に賭けていた」と、「そしてその想定通りにアンタは動いた」と、「つまりアンタは俺の想定の範囲内のデュエリストでしかなかった」と、そうコナミは言っているのだ。
「そして3つ目。これがアンタにとって致命的な、俺とアンタとの決定的な差だ」
そう言うとコナミは片手を高々と掲げた。
するとナグモの後方からそよそよと風が吹いてくるのに気付いた。最初は気付かないくらいに穏やかに、しかしその風は次第に強くなっていく。
それがナグモの金髪を激しく揺さぶるくらいになって、初めて彼は気付いた。
(なんだ・・・!? この風はただの海風じゃあねぇッ!! いや、こいつは風ですらねぇッ!! ヤツの手に風・・・いや空気が吸い込まれてんだッ!!)
それはまるで嵐だった。
つい先ほどまで穏やかだった浜辺にまるで台風の時のような激しい風が吹き荒んでいた。波も高くなり、さながら嵐でも来たような有り様へと変わっていた。
その中心にいるのは確かにコナミ。正確にはコナミの掲げた手の平が中心となって周りの空気を吸い込み竜巻のような渦を作り出している。
「俺の戦法がリンク召喚だけだとアンタは言ってたな。確かにリンク召喚は俺のデッキの核だよ。だけど俺の切り札はそれだけじゃあないんだぜ」
もはや風の奔流は明確に竜巻へと変わっていた。浜辺の砂を巻き込み、それは肉眼でもはっきりと分かった。
そしてそれが充分な勢力へと成長したことを見届け、コナミはその現象の名前を口にした。
「・・・俺の右手は風を掴む!スキル発動ッ!『ストーム・アクセス』!!」
と同時にコナミの手が強い光を放つ。
ナグモはその発光に目を瞑り、遊唯は思わず「なんですって!!」と叫んでいた。
徐々に光は収束していく。
光の消失に伴い竜巻は霧散し、風も元通りに戻る。
光の消えたその手には、まるで光と風がその形を成したかのように光り輝く1枚のカードが握られていた。
「スキル『ストーム・アクセス』は、LPが1000以下の時サイバース族のリンクモンスターをランダムに1体エクストラデッキに加えることができる」
光のカードはコナミが手元に引き寄せると、その輝きを収めそのイラストやテキストを明らかにした。そのカード枠の色は確かにリンクモンスターを示す紺色。
「カードを・・・作り出したってのか・・・」
流石のナグモもこの現象には驚愕を隠し切れない。半開きの唇はわなわなと震え、冷や汗が噴き出す。
だが、それ以上の反応を見せていたのは遊唯だった。目を見開き、呆然とした様子。
「嘘でしょ・・・。『スキル』が使えるようになるのはレベル5以上のデュエリストだけのはず・・・」
言葉通りそのカードをエクストラデッキへと加えるコナミから視線が動かせない。
全くデタラメだ。
Dゲームは恐ろしいゲームだが、最低限ルールだけはあるゲームだ。完全な無法の闘争ではない。それが数少ない心の拠り所だった。しかしここにきてその拠り所を根底から崩しかねない存在が目の前にいる。
コナミというデュエリストネームを名乗る少年。
下手をすればDゲーム全体のゲームバランスを揺るがしかねない少年。要するに『チート』。
「君は・・・本当に・・・何者なの・・・?」
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