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第01話:アカデミア入学試験! 作:ジュリウス
(このカードの効果はこうで、このタイミングで発動したらこうなって…)
(デッキレシピは…よし、これでいいかな…)
デュエルアカデミア光札(ひかりふだ)校の一階、1年A組の教室。
だが、今日はいつもの風景と違って、様々な学校の制服を着た少年少女が、席についている。
今日は、このデュエルアカデミアの入学試験。受験生の控え室になっているからだ。
(受かりますように…」
試験に向けた最後の復習を終え、目を瞑って普段信じもしない神様に祈る少女がいた。
彼女の名前は坂崎 望美(さかざき のぞみ)。黒髪のおかっぱヘアーで、丸い眼鏡をかけており、ブレザーの胸ポケットには『39』の番号札が提げてある。受験番号を表しているのだ。
最後のあがきにも等しい、祈りを捧げた後、望美は、目を開けて周りの受験生の様子を伺う。
様々な人物がいた。頭を掻きながら参考書を読み返す者、複数のデッキを並べ、試験に臨むものにふさわしいデッキはどれかと思考する者、そして。既に合格することが分かっているのか、あるいは諦めているのか、姿勢を正し、試験の時が来るのを待っている者…狭い教室は、そんな受験生達に平等にプレッシャーを与えてゆく。
そんな中、望美の隣に座っていた受験生の一人は、絶体絶命のピンチを迎えていた。
(ね…眠い……)
瞼を擦り、口の中を噛んだりして、自分に襲いかかる眠気と決闘している少女がいた。
この少女こそ、この物語の主役となる信楽 遊裕(しがらき ゆゆ)である。
彼女が眠気に抗おうと頭を起こす度、外側にハネた茶色の髪が揺れる。
(ちくしょお…試験前日だからって…夜中まで父さんとデュエルするんじゃ…なかった…ここの…先生は、受験生がちゃんと待ってるって……信じてるはずなんだ…だから…ねちゃ…あ……だ………め……)
遊裕の視界が黒に染まる。体全体が、闇に預けられてゆく。
教室の暖房が送る暖かい風が、彼女の堕落を後押ししてくる。
(もう…だめ……だ)
その時、遊裕は肩に軽い衝撃を二、三回感じた。
(ん……?)
その正体を確かめようと目を開きかけた瞬間、彼女の右頬が何者かに思い切りつねられた。
(いっ!!?)
その瞬間、遊裕の意識が現実の世界へ帰ってきた。前の教壇には、いつのまにか試験官の教員が立って、試験の説明を始めようとしており、受験生がそれを聞く姿勢になっている。
頬をつねった人は誰か確かめようと、彼女が右を向いた時、本当に申し訳なさそうな顔をして、小さく頭を下げる黒髪おかっぱの少女がいた。坂崎 望美である。
遊裕は、顔も名も知らない自分を助けてくれたお礼に、その少女にサムズアップを返すと、少女は、さらに申し訳なさそうに頭を下げた。罪悪感をさらに煽ってしまったのだろう。
「それでは、試験の概要を説明します。」
教壇に立った男の教師が、話し出す。あまりこういった役割を任されたことがないのか、声が震え気味でどこかたどたどしい印象を受ける。
「皆さんはこの後、デュエルコートAに移動し、9時30分からデュエルの実技試験を行います。こちらの人数と、建物の広さの関係上、一度に試験を受けるのは五人ずつです。」
「また、デュエルが終了次第、その場で解散となりますので、この教室には戻ってきません。荷物を全て持って移動してください。」
他にも、トイレの場所や、待っている時の行動の仕方、緊急時の対応などの説明が行われ、受験生達は、戦いの場たるデュエルコートへと移っていく。
その移動の際、遊裕は隣を歩く望美に、改めて礼を言う。
「さっきはありがとね」
「い、いえ…勝手につねったりして、すみません…」
「気にしなくていいって!」
明るく活発な遊裕と、静かで怯えた態度をとる望美。対象的な二人は、お互いの合格を、そして自分の合格を祈りつつ、試験会場へと入っていった…。
二人の順番が回ってくるまでの30分と言う時間は、短かくも、刺激的な時だった。
ソリッドビジョンによって実体化したモンスター達、そしてそれを操る決闘者達のタクティクスのぶつかり合い。特に、受験生の相手となる試験官の技術は圧倒的で、勝利できた者は一人としていなかった。デュエル終了後、今後の日程を説明され、解散する受験生の顔は、決して明るくなかった。
『受験生の呼び出しをいたします。40番、信楽 遊裕さん、一番コートにてデュエルを行います。』
「よっし!!行くかー!」
勝利は絶望的。それでも遊裕の顔は曇らない。勇ましい足取りで、決戦の舞台へと歩みを進めていく。
そこで待っていたのは、青いロングコートを着用し、片眼鏡をかけ、金髪の長髪をポニーテールにまとめた若い女性のデュエリスト。その出で立ちは、中世の貴族を思わせるものだった。
「はじめましてナノーネ!未来あるデュエリストガール!ワタクシが試験官を務めるカテリーナ・デ・メディチ!デェス!」
…数秒前までの優雅な雰囲気が、その素っ頓狂な語尾によって一気に吹き飛ばされる。
そのギャップに、遊裕はつい、笑みをこぼす。
「……フフッ、受験番号40番!信楽 遊裕です!」
「オー!緊張がほぐれてよかったノーネ!本番のデュエルもその調子で臨んでくだサーイ!試験の流れは先程まで見てもらったから、説明は省くノーネ!ディスクを構えてくだサーイ!」
「はい!!」
「「デュエル!!」」
遊裕 LP4000 手札5枚 デッキ35枚
VS
カテリーナ LP4000 手札5枚 デッキ35枚
「先攻はセニョールに譲るノーネ!」
「ありがとうございます!私のターン!……モンスターをセットし、カードを1枚伏せ、ターンエンドです!」
遊裕 LP4000 手札3枚
横向きのカードと、縦向きのカードが一枚ずつ、遊裕の目の前に表示される。
いずれも裏側であり、セットされた状態を表している。
(消極的なスタート…いや、あの顔は伏せカードに自信を持っている顔なノーネ!)
「ならば、ワタクシのターン!ドローナノーネ!手札から、『古代の機械騎士』を召喚するノーネ!」
地中から、茶色い機械の部品がひとりでに組み合わさってゆき、一人の騎士を作り上げる。そうして組み上がった騎士の兜の中に赤い光が灯る。
古代の機械騎士 星4 ATK1800
「さらに手札かーら、装備魔法『古代の機械戦車』を騎士に装備するノーネ!これによって騎士の攻撃力は600アップナノーネ!」
古代の機械騎士 ATK1800→2400
「バトル!古代の機械騎士で、セットモンスターに攻撃ナノーネ!」
「セットモンスターオープン!『B・HERO(ビー・ヒーロー)バリアマン』!」
B・HERO バリアマン 星3 DEF2000
水色の戦闘服に身を包んだ戦士が飛び出す。
(守備力の高いモンスター、攻撃を凌げると思ってたようだけーど、そうはいかないのが教師のデュエルナノーネ!)
古代の機械騎士の槍が、勢いよくバリアマンに突き刺さるその直前に、バリアマンの周囲に薄い水色の壁が現れ、騎士の槍を防いだ。
「マルガリータ!?何が起こったノーネ!」
「バリアマンは1ターンに一度まで、戦闘・効果では破壊されません!」
「…フォッカチーオ、どうやら甘く見ていたようデスーノ、カードを二枚伏せ、ターンエンドナノーネ」
カテリーナ LP4000 手札2枚
「私のターン!ドロー!場のバリアマンをリリースし『B・HERO ブラッドマン』をアドバンス召喚!」
青き戦士が光りとなって消えた跡地に、赤黒いスーツの戦士が舞い降りる。
B・HEROブラッドマン 星6 ATK2300
「バリアマンが場から墓地に送られた場合に発動!デッキからレベル4以下の『B・HERO』と名のつくモンスターを一体、手札に加えます!『B・HERO ブレードマン』を手札に!」
「そして、ブラッドマンは、1ターンに一度、手札から『B・HERO』モンスターを墓地へ送り、送ったモンスターの攻撃力の半分の数値を、自身の攻撃力に加えます!ブレードマンを墓地へ送り、その攻撃力の半分、900ポイントアップ!」
B・HERO ブラッドマン ATK2300→3200
「バトル!ブラッドマンでナイトを攻撃!ジャスティス・ブラッド!」
ブラッドマンの手刀が、騎士の喉元奥深くに突き刺さる。抵抗を試みる騎士であったが、虚しく手が空回りするばかり。やがて、兜の奥に灯っていた赤き光が消え、機械の身体が音を立てて崩れ落ちた。
カテリーナ LP4000→3200
「なるほど…でもただでは転びまないノーネ!装備モンスターが墓地に送られたことによって破壊された戦車の効果発動!相手に600ポイントのダメージを与えるノーネ!」
遊裕 LP4000→3400
「ターンエンドです!」
遊裕 LP3400 手札3枚
「ワタクシのターンデェス!ドローナノーネ!………?」
カテリーナがカードを引いたその時、デュエルディスクから電子音が鳴る。他者からのメッセージを受信した証である。
カテリーナが見つめたディスプレイには『手を抜くな』と表示されていた。
(……人が悪いノーネ、校長先生も)
「手札かーら『古代の機械人形(アンティーク・ギアドール)』を召喚しまスーノ!」
現れたのは、歪な部品で構成された機械の兎。
古代の機械人形 星1 ATK0
(攻撃力0…何かある!)
「このカードは、『古代の機械』モンスターをアドバンス召喚する時、2体分の素材とすることができるノーネ!」
「…でも、もう通常召喚は行ってる…アドバンス召喚はこのターン行えませんよ!」
「セットしていた『古代の機械行進(アンティーク・ギアマーチ)』発動ナノーネ!このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて、『古代の機械』モンスターを一回、召喚することができるノーネ!」
「なっ!?」
人形がバラバラに散乱し、光となって消える。
「『古代の機械人形』をリリースし、アドバンス召喚!現れるノーネ!『古代の機械巨人』!」
歯車が何重にも重なり、回転し、音を奏でる。
駆動するそれは、遊裕がこれまで見てきた『古代の機械』達と一線を画した巨大さであった。
顔の部分から覗く赤き光が、遊裕を見下ろした時、遊裕は思わず息を飲んだ。
古代の機械巨人 星8 ATK3000
「バトル!『古代の機械巨人』で、ブラッドマンを攻撃!アルティメット・パウンド!この瞬間、『古代の機械行進』の恐るべき効果発動ナノーネ!このカードが魔法・罠ゾーンに表側表示で存在し、自分フィールド上の『古代の機械』モンスターが自身より攻撃力が高いモンスターに攻撃を行う時、そのモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせまスーノ!」
B・HERO ブラッドマン ATK3200
古代の機械巨人 ATK 3000→4000
「ブラッドマンの攻撃力を…!?くっ、罠カードオープ…!」
「させないノーネ!『古代の機械巨人』が攻撃を行う場合、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できないノーネ!」
「なっ!?」
遊裕のデュエルディスクのディスプレイに表示される『ERROR』の文字が、彼女に絶望を突きつける。
巨大な手から繰り出される強烈なパンチが、ブラッドマンの身体を砕く。
その衝撃は、遊裕の身体にダメージを錯覚させるほどの威力を持っていた。
「ブラッドマン!!ぐぅぅっ!」
遊裕 LP3400→2600
「『古代の機械行進』の第3の効果ナノーネ!1ターンに一度、自分の『古代の機械』モンスターが戦闘でモンスターを破壊した時に発動できるノーネ!破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、相手に与えルーニョ!」
「うわあああっ!!!」
遊裕LP2600→300
「…っ、だけど!ブラッドマンが場から墓地へ送られた場合、次の私のターン、私のB・HERO達は、攻撃力が1000ポイントアップする!」
「…ターンエンドナノーネ。ごめんなさいーニョ、試験官として、私も手を抜く訳にはいかないノーネ…」
「……謝ることはないよ、先生!」
「え…?」
遊裕は、明るく笑った。今日一番の笑顔だった。
「私、今ワクワクしてるんだ!ピンチの自分に、強大な敵!すっごくワクワクする!こんなデュエルをできることに、こっちが感謝したいくらいだよ!」
「セニョール…」
そう言って、遊裕は自分のデッキに指を乗せる。
「それに私、信じてるんだ。自分のデッキを!自分の勝ちを!だから謝る必要なんてない!だから…!」
「このデュエル…最後まで楽しもうよっ!ドローッ!!」
遊裕は引き抜いたカードを確認する。その表情に、不安や恐怖といった感情は全く無かった。
「きた…きたきたきたーっ!手札から!魔法カード『ビリーヴフュージョン』発動!ライフを半分払い、自分の手札・場の『B・HERO』を墓地に送り、融合召喚を行う!」
遊裕 LP300→150
「手札のビートマンとボールマンで融合!」
「行くよ…私のエース!信じる正義を貫け!『B・HERO ビリーヴマン』!!」
空中で閃光が起こり、カテリーナをはじめ、他の試験官や受験生までもが反射で目を覆う中、遊裕だけは、その光の中のヒーローの姿を捉えていた。
自分が信じる、勝利のヒーローの姿を。
黄金に輝くスーツ、強靭な肉体、そして風になびく赤いマフラー。
逆境を乗り越えられる。そんな確信を持たせてくれる戦士が登場した。
B・HERO ビリーヴマン 星8
ATK2500
「ビリーヴフュージョンで融合召喚したモンスターは攻撃力が二倍になる!そして、前のターンのブラッドブラッドマンの効果により、さらに1000ポイントアップ!」
B・HERO ビリーヴマン 星8 ATK2500→5000→6000
「ビリーヴマンの効果発動!このカードが融合召喚に成功したターン、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない!」
「ペペロンチーノッ!?(私の『リミッター解除』が…!)」
「その様子だと、重要なカードを伏せてたっぽいね…危ない危ない…バトル!ビリーヴマンで『古代の機械巨人』を攻撃!そしてこれでトドメだ!リバースカードオープン!罠カード『B・HERO バトルソウル』!自分の『B・HERO』が戦闘を行う時に発動できる!相手モンスターの攻撃力を、自分のモンスターに加える!」
「ナナ、ナ、ナポリタ〜ンッ!?」
「巨人の魔法・罠を封じる効果は『攻撃を行う場合』だから、発動できるよね、先生!」
B・HERO ビリーヴマン ATK6000→9000
「やったあああ!!いっけえええーー!!ビリーヴマン!」
遊裕の喜びに呼応するかのように、ビリーヴマンが高くジャンプし、古代の機械巨人の頭部めがけて必殺のパンチを繰り出す。巨人は衝撃でバランスを崩し、カテリーナの方へと倒れこむ。
(…ご先祖様…ワタクシはまだ、ご先祖様みたいなデュエリストには程遠いみたいナノーネ)
カテリーナ LP3200→0
「先生っ!!!」
遊裕は、すぐにカテリーナの方へ駆け寄る。
「………ソリッドビジョンだから、大丈夫ナノーネ。セニョール信楽」
土煙が晴れ、カテリーナが姿をあらわす。その様子から、身体の何処にも異常は無いようだ。
「はぁ…はぁ…よかった…!」
「それよりーも、周りをご覧くださーい!」
「え…?」
遊裕が振り返ると同時に、耳に入ってくる拍手喝采の音。別の試験官と試験をやっていたはずの望美や、他の受験生が、試験官が、全員が遊裕とカテリーナのデュエルに惹かれたのだ。自分達のデュエルを投げ出してまで。
「…うそ……」
「嘘なんかじゃ無いノーネ、あなたの最後まで諦めない精神が繋いだ勝利。それを見たギャラリーの感想が『これ』なノーネ、さ、何か答えてあげるノーネ」
「……はい!」
「みんなー!ありがとー!!」
両手を振って感謝の意を伝えると同時に、拍手の音がより一層強まる。
デュエルアカデミア光札校入学試験。信楽遊裕は、この日が一生忘れられない思い出となった。
(デッキレシピは…よし、これでいいかな…)
デュエルアカデミア光札(ひかりふだ)校の一階、1年A組の教室。
だが、今日はいつもの風景と違って、様々な学校の制服を着た少年少女が、席についている。
今日は、このデュエルアカデミアの入学試験。受験生の控え室になっているからだ。
(受かりますように…」
試験に向けた最後の復習を終え、目を瞑って普段信じもしない神様に祈る少女がいた。
彼女の名前は坂崎 望美(さかざき のぞみ)。黒髪のおかっぱヘアーで、丸い眼鏡をかけており、ブレザーの胸ポケットには『39』の番号札が提げてある。受験番号を表しているのだ。
最後のあがきにも等しい、祈りを捧げた後、望美は、目を開けて周りの受験生の様子を伺う。
様々な人物がいた。頭を掻きながら参考書を読み返す者、複数のデッキを並べ、試験に臨むものにふさわしいデッキはどれかと思考する者、そして。既に合格することが分かっているのか、あるいは諦めているのか、姿勢を正し、試験の時が来るのを待っている者…狭い教室は、そんな受験生達に平等にプレッシャーを与えてゆく。
そんな中、望美の隣に座っていた受験生の一人は、絶体絶命のピンチを迎えていた。
(ね…眠い……)
瞼を擦り、口の中を噛んだりして、自分に襲いかかる眠気と決闘している少女がいた。
この少女こそ、この物語の主役となる信楽 遊裕(しがらき ゆゆ)である。
彼女が眠気に抗おうと頭を起こす度、外側にハネた茶色の髪が揺れる。
(ちくしょお…試験前日だからって…夜中まで父さんとデュエルするんじゃ…なかった…ここの…先生は、受験生がちゃんと待ってるって……信じてるはずなんだ…だから…ねちゃ…あ……だ………め……)
遊裕の視界が黒に染まる。体全体が、闇に預けられてゆく。
教室の暖房が送る暖かい風が、彼女の堕落を後押ししてくる。
(もう…だめ……だ)
その時、遊裕は肩に軽い衝撃を二、三回感じた。
(ん……?)
その正体を確かめようと目を開きかけた瞬間、彼女の右頬が何者かに思い切りつねられた。
(いっ!!?)
その瞬間、遊裕の意識が現実の世界へ帰ってきた。前の教壇には、いつのまにか試験官の教員が立って、試験の説明を始めようとしており、受験生がそれを聞く姿勢になっている。
頬をつねった人は誰か確かめようと、彼女が右を向いた時、本当に申し訳なさそうな顔をして、小さく頭を下げる黒髪おかっぱの少女がいた。坂崎 望美である。
遊裕は、顔も名も知らない自分を助けてくれたお礼に、その少女にサムズアップを返すと、少女は、さらに申し訳なさそうに頭を下げた。罪悪感をさらに煽ってしまったのだろう。
「それでは、試験の概要を説明します。」
教壇に立った男の教師が、話し出す。あまりこういった役割を任されたことがないのか、声が震え気味でどこかたどたどしい印象を受ける。
「皆さんはこの後、デュエルコートAに移動し、9時30分からデュエルの実技試験を行います。こちらの人数と、建物の広さの関係上、一度に試験を受けるのは五人ずつです。」
「また、デュエルが終了次第、その場で解散となりますので、この教室には戻ってきません。荷物を全て持って移動してください。」
他にも、トイレの場所や、待っている時の行動の仕方、緊急時の対応などの説明が行われ、受験生達は、戦いの場たるデュエルコートへと移っていく。
その移動の際、遊裕は隣を歩く望美に、改めて礼を言う。
「さっきはありがとね」
「い、いえ…勝手につねったりして、すみません…」
「気にしなくていいって!」
明るく活発な遊裕と、静かで怯えた態度をとる望美。対象的な二人は、お互いの合格を、そして自分の合格を祈りつつ、試験会場へと入っていった…。
二人の順番が回ってくるまでの30分と言う時間は、短かくも、刺激的な時だった。
ソリッドビジョンによって実体化したモンスター達、そしてそれを操る決闘者達のタクティクスのぶつかり合い。特に、受験生の相手となる試験官の技術は圧倒的で、勝利できた者は一人としていなかった。デュエル終了後、今後の日程を説明され、解散する受験生の顔は、決して明るくなかった。
『受験生の呼び出しをいたします。40番、信楽 遊裕さん、一番コートにてデュエルを行います。』
「よっし!!行くかー!」
勝利は絶望的。それでも遊裕の顔は曇らない。勇ましい足取りで、決戦の舞台へと歩みを進めていく。
そこで待っていたのは、青いロングコートを着用し、片眼鏡をかけ、金髪の長髪をポニーテールにまとめた若い女性のデュエリスト。その出で立ちは、中世の貴族を思わせるものだった。
「はじめましてナノーネ!未来あるデュエリストガール!ワタクシが試験官を務めるカテリーナ・デ・メディチ!デェス!」
…数秒前までの優雅な雰囲気が、その素っ頓狂な語尾によって一気に吹き飛ばされる。
そのギャップに、遊裕はつい、笑みをこぼす。
「……フフッ、受験番号40番!信楽 遊裕です!」
「オー!緊張がほぐれてよかったノーネ!本番のデュエルもその調子で臨んでくだサーイ!試験の流れは先程まで見てもらったから、説明は省くノーネ!ディスクを構えてくだサーイ!」
「はい!!」
「「デュエル!!」」
遊裕 LP4000 手札5枚 デッキ35枚
VS
カテリーナ LP4000 手札5枚 デッキ35枚
「先攻はセニョールに譲るノーネ!」
「ありがとうございます!私のターン!……モンスターをセットし、カードを1枚伏せ、ターンエンドです!」
遊裕 LP4000 手札3枚
横向きのカードと、縦向きのカードが一枚ずつ、遊裕の目の前に表示される。
いずれも裏側であり、セットされた状態を表している。
(消極的なスタート…いや、あの顔は伏せカードに自信を持っている顔なノーネ!)
「ならば、ワタクシのターン!ドローナノーネ!手札から、『古代の機械騎士』を召喚するノーネ!」
地中から、茶色い機械の部品がひとりでに組み合わさってゆき、一人の騎士を作り上げる。そうして組み上がった騎士の兜の中に赤い光が灯る。
古代の機械騎士 星4 ATK1800
「さらに手札かーら、装備魔法『古代の機械戦車』を騎士に装備するノーネ!これによって騎士の攻撃力は600アップナノーネ!」
古代の機械騎士 ATK1800→2400
「バトル!古代の機械騎士で、セットモンスターに攻撃ナノーネ!」
「セットモンスターオープン!『B・HERO(ビー・ヒーロー)バリアマン』!」
B・HERO バリアマン 星3 DEF2000
水色の戦闘服に身を包んだ戦士が飛び出す。
(守備力の高いモンスター、攻撃を凌げると思ってたようだけーど、そうはいかないのが教師のデュエルナノーネ!)
古代の機械騎士の槍が、勢いよくバリアマンに突き刺さるその直前に、バリアマンの周囲に薄い水色の壁が現れ、騎士の槍を防いだ。
「マルガリータ!?何が起こったノーネ!」
「バリアマンは1ターンに一度まで、戦闘・効果では破壊されません!」
「…フォッカチーオ、どうやら甘く見ていたようデスーノ、カードを二枚伏せ、ターンエンドナノーネ」
カテリーナ LP4000 手札2枚
「私のターン!ドロー!場のバリアマンをリリースし『B・HERO ブラッドマン』をアドバンス召喚!」
青き戦士が光りとなって消えた跡地に、赤黒いスーツの戦士が舞い降りる。
B・HEROブラッドマン 星6 ATK2300
「バリアマンが場から墓地に送られた場合に発動!デッキからレベル4以下の『B・HERO』と名のつくモンスターを一体、手札に加えます!『B・HERO ブレードマン』を手札に!」
「そして、ブラッドマンは、1ターンに一度、手札から『B・HERO』モンスターを墓地へ送り、送ったモンスターの攻撃力の半分の数値を、自身の攻撃力に加えます!ブレードマンを墓地へ送り、その攻撃力の半分、900ポイントアップ!」
B・HERO ブラッドマン ATK2300→3200
「バトル!ブラッドマンでナイトを攻撃!ジャスティス・ブラッド!」
ブラッドマンの手刀が、騎士の喉元奥深くに突き刺さる。抵抗を試みる騎士であったが、虚しく手が空回りするばかり。やがて、兜の奥に灯っていた赤き光が消え、機械の身体が音を立てて崩れ落ちた。
カテリーナ LP4000→3200
「なるほど…でもただでは転びまないノーネ!装備モンスターが墓地に送られたことによって破壊された戦車の効果発動!相手に600ポイントのダメージを与えるノーネ!」
遊裕 LP4000→3400
「ターンエンドです!」
遊裕 LP3400 手札3枚
「ワタクシのターンデェス!ドローナノーネ!………?」
カテリーナがカードを引いたその時、デュエルディスクから電子音が鳴る。他者からのメッセージを受信した証である。
カテリーナが見つめたディスプレイには『手を抜くな』と表示されていた。
(……人が悪いノーネ、校長先生も)
「手札かーら『古代の機械人形(アンティーク・ギアドール)』を召喚しまスーノ!」
現れたのは、歪な部品で構成された機械の兎。
古代の機械人形 星1 ATK0
(攻撃力0…何かある!)
「このカードは、『古代の機械』モンスターをアドバンス召喚する時、2体分の素材とすることができるノーネ!」
「…でも、もう通常召喚は行ってる…アドバンス召喚はこのターン行えませんよ!」
「セットしていた『古代の機械行進(アンティーク・ギアマーチ)』発動ナノーネ!このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて、『古代の機械』モンスターを一回、召喚することができるノーネ!」
「なっ!?」
人形がバラバラに散乱し、光となって消える。
「『古代の機械人形』をリリースし、アドバンス召喚!現れるノーネ!『古代の機械巨人』!」
歯車が何重にも重なり、回転し、音を奏でる。
駆動するそれは、遊裕がこれまで見てきた『古代の機械』達と一線を画した巨大さであった。
顔の部分から覗く赤き光が、遊裕を見下ろした時、遊裕は思わず息を飲んだ。
古代の機械巨人 星8 ATK3000
「バトル!『古代の機械巨人』で、ブラッドマンを攻撃!アルティメット・パウンド!この瞬間、『古代の機械行進』の恐るべき効果発動ナノーネ!このカードが魔法・罠ゾーンに表側表示で存在し、自分フィールド上の『古代の機械』モンスターが自身より攻撃力が高いモンスターに攻撃を行う時、そのモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせまスーノ!」
B・HERO ブラッドマン ATK3200
古代の機械巨人 ATK 3000→4000
「ブラッドマンの攻撃力を…!?くっ、罠カードオープ…!」
「させないノーネ!『古代の機械巨人』が攻撃を行う場合、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できないノーネ!」
「なっ!?」
遊裕のデュエルディスクのディスプレイに表示される『ERROR』の文字が、彼女に絶望を突きつける。
巨大な手から繰り出される強烈なパンチが、ブラッドマンの身体を砕く。
その衝撃は、遊裕の身体にダメージを錯覚させるほどの威力を持っていた。
「ブラッドマン!!ぐぅぅっ!」
遊裕 LP3400→2600
「『古代の機械行進』の第3の効果ナノーネ!1ターンに一度、自分の『古代の機械』モンスターが戦闘でモンスターを破壊した時に発動できるノーネ!破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、相手に与えルーニョ!」
「うわあああっ!!!」
遊裕LP2600→300
「…っ、だけど!ブラッドマンが場から墓地へ送られた場合、次の私のターン、私のB・HERO達は、攻撃力が1000ポイントアップする!」
「…ターンエンドナノーネ。ごめんなさいーニョ、試験官として、私も手を抜く訳にはいかないノーネ…」
「……謝ることはないよ、先生!」
「え…?」
遊裕は、明るく笑った。今日一番の笑顔だった。
「私、今ワクワクしてるんだ!ピンチの自分に、強大な敵!すっごくワクワクする!こんなデュエルをできることに、こっちが感謝したいくらいだよ!」
「セニョール…」
そう言って、遊裕は自分のデッキに指を乗せる。
「それに私、信じてるんだ。自分のデッキを!自分の勝ちを!だから謝る必要なんてない!だから…!」
「このデュエル…最後まで楽しもうよっ!ドローッ!!」
遊裕は引き抜いたカードを確認する。その表情に、不安や恐怖といった感情は全く無かった。
「きた…きたきたきたーっ!手札から!魔法カード『ビリーヴフュージョン』発動!ライフを半分払い、自分の手札・場の『B・HERO』を墓地に送り、融合召喚を行う!」
遊裕 LP300→150
「手札のビートマンとボールマンで融合!」
「行くよ…私のエース!信じる正義を貫け!『B・HERO ビリーヴマン』!!」
空中で閃光が起こり、カテリーナをはじめ、他の試験官や受験生までもが反射で目を覆う中、遊裕だけは、その光の中のヒーローの姿を捉えていた。
自分が信じる、勝利のヒーローの姿を。
黄金に輝くスーツ、強靭な肉体、そして風になびく赤いマフラー。
逆境を乗り越えられる。そんな確信を持たせてくれる戦士が登場した。
B・HERO ビリーヴマン 星8
ATK2500
「ビリーヴフュージョンで融合召喚したモンスターは攻撃力が二倍になる!そして、前のターンのブラッドブラッドマンの効果により、さらに1000ポイントアップ!」
B・HERO ビリーヴマン 星8 ATK2500→5000→6000
「ビリーヴマンの効果発動!このカードが融合召喚に成功したターン、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない!」
「ペペロンチーノッ!?(私の『リミッター解除』が…!)」
「その様子だと、重要なカードを伏せてたっぽいね…危ない危ない…バトル!ビリーヴマンで『古代の機械巨人』を攻撃!そしてこれでトドメだ!リバースカードオープン!罠カード『B・HERO バトルソウル』!自分の『B・HERO』が戦闘を行う時に発動できる!相手モンスターの攻撃力を、自分のモンスターに加える!」
「ナナ、ナ、ナポリタ〜ンッ!?」
「巨人の魔法・罠を封じる効果は『攻撃を行う場合』だから、発動できるよね、先生!」
B・HERO ビリーヴマン ATK6000→9000
「やったあああ!!いっけえええーー!!ビリーヴマン!」
遊裕の喜びに呼応するかのように、ビリーヴマンが高くジャンプし、古代の機械巨人の頭部めがけて必殺のパンチを繰り出す。巨人は衝撃でバランスを崩し、カテリーナの方へと倒れこむ。
(…ご先祖様…ワタクシはまだ、ご先祖様みたいなデュエリストには程遠いみたいナノーネ)
カテリーナ LP3200→0
「先生っ!!!」
遊裕は、すぐにカテリーナの方へ駆け寄る。
「………ソリッドビジョンだから、大丈夫ナノーネ。セニョール信楽」
土煙が晴れ、カテリーナが姿をあらわす。その様子から、身体の何処にも異常は無いようだ。
「はぁ…はぁ…よかった…!」
「それよりーも、周りをご覧くださーい!」
「え…?」
遊裕が振り返ると同時に、耳に入ってくる拍手喝采の音。別の試験官と試験をやっていたはずの望美や、他の受験生が、試験官が、全員が遊裕とカテリーナのデュエルに惹かれたのだ。自分達のデュエルを投げ出してまで。
「…うそ……」
「嘘なんかじゃ無いノーネ、あなたの最後まで諦めない精神が繋いだ勝利。それを見たギャラリーの感想が『これ』なノーネ、さ、何か答えてあげるノーネ」
「……はい!」
「みんなー!ありがとー!!」
両手を振って感謝の意を伝えると同時に、拍手の音がより一層強まる。
デュエルアカデミア光札校入学試験。信楽遊裕は、この日が一生忘れられない思い出となった。
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121 | 第01話:アカデミア入学試験! | 1216 | 4 | 2019-02-11 | - |
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数多くのGXオマージュが見受けられますね。やはり古代の機械巨人は絶望感が凄い…。
初戦からATK8000とは…今後更に凄まじいデュエルを見せてくれそうな主人公ですね。 (2019-02-12 01:16)
ガッチャ!コメントありがとうございます!
学園もののデュエルSSを書くんだったら、GXリスペクトは欠かせないなと思って書きました!
古代の機械巨人はLP4000だとやっぱり強いですよね…リンクスで時々相手に出されて絶望します…
それから、攻撃力の件ですが前のターンにブラッドマンの効果を発動していたことを失念していた為、修正しました。現在では攻撃力9000になっているはずです。超火力に頼らず、もう少し捻ったフィニッシュにした方が良かったかなと反省してます…これを次回以降に活かしていこうと思いますので、今後も遊裕たちの物語をよろしくお願いします! (2019-02-12 05:09)
始めましてコンドルと申します!学園ものということで拝見させていただきました!主人公の遊裕さんのピンチでもデュエルを楽しむスタイル、アカデミアのあの人のようですね。デュエルは楽しくなくちゃ。それでは、これから楽しみに読ませていただきます。
それと臆面もないようで申し訳ないのですが、遊裕さんの頬をつねった人物を確かめるシーンで名前が信楽 望美となっているような...?失礼だったら、申し訳ございません。 (2019-02-12 10:32)
ガッチャ!コメントありがとうございます!HEROの名を冠するデッキに、この性格。あの人をメチャクチャ意識しました。
しかし、GXの後追いをするばかりでは作品は面白くなりません。ここから差別化を図らなくては。
名前ミス…!寝ぼけてミスを犯したのは他でもない作者自身だった…!
ご指摘ありがとうございます。現在は修正済みです。
(2019-02-12 18:49)