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Phase2 青き眼の少女 作:ニセチノミー
亜美がペンダントを海馬に預けた日の翌日、亜美の携帯に一本の電話が入った。
着信音に気づいた亜美は慌てて電話を取った。
「もしもし?小鳥遊です」
「瀬人だ。昨日借りたアレだが、とくにこれといったことはなかったぞ」
声の主は海馬だった。何事もなかったことを知り亜美はほっとし、胸を撫で下ろす。
「本当?何にも無かったんだ。よかったあ」
「何かあったとしても誰であろうとこの俺を殺せはしまいわっははは。それよりもだ」
「何?」
「このペンダントはひとまずお前に返す。
いつでも調べられるように模造品を作ったからな。それに、お前の大事なものをいつまでも持ってはいられんからな。」
「そうなんだ。ありがと、やっぱり私アレがないと寂しかったから良かったよ。」
「連絡はそれだけだ。では、会社で待ってるぞ」
「うん!」
亜美は鼻歌を歌いながら支度をし始めた。
大事な白い薔薇のペンダントが戻ってくると思うとウキウキが止まらない。亜美は《少し痛んだ》黒いシャツの上に短めのコートとパーカーが一緒になった白いコートを羽織った。
これは7年前にフランスにオープンした世界で二番目に誕生した海馬ランドで発売されたものである。このコートを羽織る度に亜美の顔に笑みがこぼれ落ちる。
亜美は家の車庫へと全速力でダッシュした。車庫を開け急いでバイクを引っ張り出し、エンジンをかけた。
「これに乗るのもあの時以来かな」
亜美はバイクに跨がると、すぐにヘルメットを被り、勢いよく道路へ出た
バイクの音が朝のドミノシティに響き渡る。
「朝からうるさいぞこのガキャァ!」
バイクの音は近所の人のそんな怒鳴り声をもかき消した。
何事も無く海馬コーポレーションへと辿り着いた亜美は急いで会社の入り口へと向かって走った。ぜいぜいと息を荒げながら走っていると、そこには一人の男の人影が腕を組んで立っている。
男のコートは風に乗りなびいていた。
「瀬人さん…ハァハァ…わざわざ…どうも」
海馬は何も言わずに亜美へ近づいていった。海馬の首には亜美の宝物であるペンダントがかかっていた。
海馬が歩を進める度ペンダントは朝日に照らされ様々な角度へ光を放つ
それはまるで大勢の男を魅了する美女が四方八方に投げキッスをしているように見える。
「亜美よ俺の我儘に付き合わせて悪かった。約束通りこいつはお前に返そう」
海馬はそう言うと、首の後ろに手を回し、ペンダントの紐の接合部を無駄な動き一つもせずに素早くカチッと外し、亜美の掌へ置いた。
「ありがと。やっぱり私にはこれが無いとダメだ」
亜美は嬉しそうにペンダントを首にかけると、海馬の目を見てにこっと笑った。
海馬は反射的に目を瞑りそっぽを向く
海馬は何か言いたそうな表情をしていたが亜美には何となくそれが分かっていた
海馬とは昔からの付き合いがあり、そのことを思い出すと、彼の性格や普段の言動のことを考えた途端不思議と顔がにやけてくるのだった。
「そういえば瀬人さんはなんでペンダント 首にかけてたの?」
亜美にとっては海馬が何故自分のペンダントを首にかけていたのかは正直どうでもよかった。
だが、不思議とそのことに興味が湧いてきた。亜美が尋ねると海馬は顔を亜美に向け、フッっと笑った。まるで無邪気な少年のように。
「フフ…何故だか分からんがよく見てみると、不思議と初めて見た気がしなくてな。
覚えは無いのだが昔の血が騒ぐような感じだった。これは昔フランスのサン・レミ教会で管理されていたそうだが、もしかすると生前に1度触れていたのかも知れぬな。まぁそんなオカルトじみた話などあるはずないのだがな」
海馬は大きな声でワハハハと笑った。
男はいくつ年をとろうがみんな子供だとよく言われているが、この人が一番それを表わしているのかもしれないと亜美は思った。
海馬の気高くも豪快な笑い声に亜美もつられてふふふと笑ってしまった。
「瀬人さんったらまたおかしなこと言って…」
それから2人は何がおかしいのかしばらくの間笑い続けた。
だが、笑い疲れたのかそれも長くは続かず、2人は笑うのをやめた。
だが、少しも経たぬうちに海馬の口が開く。
「亜美よ、実はお前にいい知らせがある。
これを見てくれ」
「いい知らせって何?」
海馬はデュエルディスクを起動し、電子スクリーンを映しだした。
そこには一人のデュエリストがデュエルをしている様子が映し出されている。
映像のデュエリストは黒いドラゴンや運を味方に様々なデュエリスト達を次々と倒していき、おっしゃぁ!の力強い叫びとガッツポーズを決めたところで映像は終わってしまった。
「今の人は?」
「奴は今プロリーグの選手として活躍しているデュエリストだ。今奴は10戦負けなしで恐れられている。デッキの構築力こそプロでは無い俺以下なのは誰が見てもわかるが、奴の恐ろしい所は映像にもあったようにコイントスを全て当てたり賽の目を自在に操るかのように出したい目を出すその運の強さだ」
「その選手と瀬人さんに何か関係あるの?」
「プロリーグで10戦負け無しで勝ち続けられたプロデュエリストには、一般デュエリストの中から1人を指名してエキシビションデュエルを行う権利が与えられる。これは一般デュエリストと交流を深めるためのものでもある」
「へえそんな企画があるんだね。で、この人は誰を指名するの?」
「どうやら奴には今指名したいデュエリストがいないらしい。正確には元々は指名したい奴がいたがその肝心の奴が旅に出ていて指名できなかったと言っておくべきか」
「そこでだ。亜美よ、俺は奴のエキシビションデュエルにお前を指名する。貴様に拒否権はないぞ…これは師匠命令だ」
海馬は腕を組み、そう亜美に強く言い放つ。
海馬の目は威光を放つかのように鋭く、力強く、身内であろうと容赦のない彼の強引さがよく現れていた。
「ちょっとまってよ!幾ら何でも急すぎるって!」
海馬の強引な面は理解している亜美でもこれには納得がいかなかった。
正直なところデュエリストであることは自覚しているのだが、MアンドWをプロのデュエリスト程やり込んではおらず、闘わずとも勝敗が目に見えていたのだ。
最強の決闘王と互角に渡り合う海馬の指導を受けているとはいえ、引きの強さ、カードのプレイング、カードへの愛情がまるで全然足りていない。
そんな状態でプロにデュエルを挑むなどあまりにも無謀で、鍛錬もしない雑兵が鎧も着ずに戦争に行くようなものだ。
「確かにな…幾ら奴が俺より弱くてもプロだ。戦う前から勝敗が目に見えてると言いたいのだろうが…」
「そうだよ!余りにも無謀すぎるよ!」
「甘いぞ亜美!デュエルをするにあたってそのような不毛な考えを持ち込もうなど言語道断!大切なのは1度相手と刃をまじえることだ。そうすることで見えてくる自分のデッキの弱み、強み、相手のデッキの目的、戦術。それが勝利への扉を開く鍵となるのだ。…俺はお前が強くなるためのいい機会だと思っているぞ」
海馬は少しかがみ、亜美の両肩にそっと手を置いた。亜美の肩に物理的な重圧と精神的な重圧が重くのしかかってきているような感覚に陥った。
亜美はその感覚をグッと抑えるのに必死だった。
冗談じゃない
その言葉だけが亜美の心から発せられた。
同時に自分の甘さに改めて気づかされることになる。
この程度のことで音を吐いていては勝てる試合もボロ負けに終わってしまう。そう考えた亜美は海馬に察されないよう口を小さく開け、少しずつゆっくりと空気を吸い込み、静かに吐くことで気持ちを落ち着かせた。
「もう、分かったよ。いつも通りのデュエルをやればいいんだよね」
「それでいい…それにお前には俺が渡した4枚のカードがある。そいつをデッキに入れれば奴を倒せるかもな…せいぜい俺を楽しませてくれ」
海馬はコートを翻し、亜美の元を立ち去っていった。
亜美は海馬の姿が見えなくなったのを確認したあと、グダッとなだれ、目を瞑りため息を漏らした。
そして先日もらった4枚のカードに目をやった。
海馬から先日受け取った4枚のカード。
ABCの3枚のカードは現在亜美の使用しているデッキとは相性が良かったものの、肝心の青眼は正直とても入れにくいものだった。
レベルが8もあり、召喚には2体のモンスターが必要な上、亜美のデッキには青眼を素早く出すカードすらなかったのだが
亜美にとっては大切な人から貰ったカードだ。
例えどれだけ自分のデッキ似合わなくともこのカードは必ず入れると決めていた。
亜美は海馬コーポレーションを後にし、自宅へと向かった。
場所は変わり、とあるプロリーグ選手控え室には1人のプロデュエリストが試合を眺めながら自分のデッキを触っていた。
一枚一枚が思い出の詰まったカード。
彼はその中から一枚のカードを抜いた。
彼は真剣な表情でそのカードに語りかける
「なぁ…俺は今んとこずっと勝ってこれてるけどよ、俺、あいつのようなデュエリストに近づけてるか?」
当然カードが返事をするはずはない。
だが、彼には聞こえてくる気がしたのだ。
あの人も言っていた「大切なカードには心が宿る」それが実現したのかもしれない。
《大丈夫だ、カードと己を信じろ》
彼にはそう聞こえたような気がした
「おう!これからもプロリーグで勝ちまくってやるぜ!そうすれば俺たちの家族もまた一緒に暮らせるようになるよな」
彼はカードとデッキを丁寧にケースにしまった。
いずれも魂のカードたちだ。傷つけるわけにはいかない。
特にすることもなかった彼は家に帰宅しようと控え室から出ると、突然誰かから電話がかかってきた。
「何だよマネージャーかな?」
彼は携帯の画面をつけた。電話をかけてきたのは彼のマネージャーではなく、意外な人物からだった。
帰路についた亜美は部屋のベッドに寝転びながらカードを弄っていた。
適当にペラペラめくりながらカードの効果を読み上げていた。
日本に越して早々に海馬に振り回されていた疲れからか、その声にため息が混じる。
その時亜美の携帯が鳴った。
怠そうに携帯を手に取り相手を確認する。
だろうとは思っていたが、相手はやはり海馬だった
「俺だ。プロ選手とのエキシビションデュエルの日程が決まったぞ。忘れぬようメモを取るがいい」
「ホントにやるんだ…もう、分かったよ
紙とペン用意したから早く言って」
「まずは場所だ。場所は勿論海馬ランド!
7日後に行う。それまでに心の準備とデッキの調整をしっかりと行うがいい!そして、試合前にお前とその選手にはあるカードを渡す。それをデッキに入れて闘うように!ワハハハ」
「分かったよ、ありがとう。私が負けても怒らないでね?」
「楽しませてくれればそれでいい。だが、ボロ負けは断じて許さん!ということでだ、試合前日にテストを行う」
「テストって?」
「当然俺とのデュエルだ。本気ではいかぬがお前には俺の出す課題をクリアして勝利してもらう」
「その課題って…?」
「俺の渡した青眼の白龍のみフィールドにいる状態で、青眼の白龍の直接攻撃で俺のライフを0にする事だ!それが出来なければお前には試合当日ハンデを背負いながら戦ってもらうぞ!」
着信音に気づいた亜美は慌てて電話を取った。
「もしもし?小鳥遊です」
「瀬人だ。昨日借りたアレだが、とくにこれといったことはなかったぞ」
声の主は海馬だった。何事もなかったことを知り亜美はほっとし、胸を撫で下ろす。
「本当?何にも無かったんだ。よかったあ」
「何かあったとしても誰であろうとこの俺を殺せはしまいわっははは。それよりもだ」
「何?」
「このペンダントはひとまずお前に返す。
いつでも調べられるように模造品を作ったからな。それに、お前の大事なものをいつまでも持ってはいられんからな。」
「そうなんだ。ありがと、やっぱり私アレがないと寂しかったから良かったよ。」
「連絡はそれだけだ。では、会社で待ってるぞ」
「うん!」
亜美は鼻歌を歌いながら支度をし始めた。
大事な白い薔薇のペンダントが戻ってくると思うとウキウキが止まらない。亜美は《少し痛んだ》黒いシャツの上に短めのコートとパーカーが一緒になった白いコートを羽織った。
これは7年前にフランスにオープンした世界で二番目に誕生した海馬ランドで発売されたものである。このコートを羽織る度に亜美の顔に笑みがこぼれ落ちる。
亜美は家の車庫へと全速力でダッシュした。車庫を開け急いでバイクを引っ張り出し、エンジンをかけた。
「これに乗るのもあの時以来かな」
亜美はバイクに跨がると、すぐにヘルメットを被り、勢いよく道路へ出た
バイクの音が朝のドミノシティに響き渡る。
「朝からうるさいぞこのガキャァ!」
バイクの音は近所の人のそんな怒鳴り声をもかき消した。
何事も無く海馬コーポレーションへと辿り着いた亜美は急いで会社の入り口へと向かって走った。ぜいぜいと息を荒げながら走っていると、そこには一人の男の人影が腕を組んで立っている。
男のコートは風に乗りなびいていた。
「瀬人さん…ハァハァ…わざわざ…どうも」
海馬は何も言わずに亜美へ近づいていった。海馬の首には亜美の宝物であるペンダントがかかっていた。
海馬が歩を進める度ペンダントは朝日に照らされ様々な角度へ光を放つ
それはまるで大勢の男を魅了する美女が四方八方に投げキッスをしているように見える。
「亜美よ俺の我儘に付き合わせて悪かった。約束通りこいつはお前に返そう」
海馬はそう言うと、首の後ろに手を回し、ペンダントの紐の接合部を無駄な動き一つもせずに素早くカチッと外し、亜美の掌へ置いた。
「ありがと。やっぱり私にはこれが無いとダメだ」
亜美は嬉しそうにペンダントを首にかけると、海馬の目を見てにこっと笑った。
海馬は反射的に目を瞑りそっぽを向く
海馬は何か言いたそうな表情をしていたが亜美には何となくそれが分かっていた
海馬とは昔からの付き合いがあり、そのことを思い出すと、彼の性格や普段の言動のことを考えた途端不思議と顔がにやけてくるのだった。
「そういえば瀬人さんはなんでペンダント 首にかけてたの?」
亜美にとっては海馬が何故自分のペンダントを首にかけていたのかは正直どうでもよかった。
だが、不思議とそのことに興味が湧いてきた。亜美が尋ねると海馬は顔を亜美に向け、フッっと笑った。まるで無邪気な少年のように。
「フフ…何故だか分からんがよく見てみると、不思議と初めて見た気がしなくてな。
覚えは無いのだが昔の血が騒ぐような感じだった。これは昔フランスのサン・レミ教会で管理されていたそうだが、もしかすると生前に1度触れていたのかも知れぬな。まぁそんなオカルトじみた話などあるはずないのだがな」
海馬は大きな声でワハハハと笑った。
男はいくつ年をとろうがみんな子供だとよく言われているが、この人が一番それを表わしているのかもしれないと亜美は思った。
海馬の気高くも豪快な笑い声に亜美もつられてふふふと笑ってしまった。
「瀬人さんったらまたおかしなこと言って…」
それから2人は何がおかしいのかしばらくの間笑い続けた。
だが、笑い疲れたのかそれも長くは続かず、2人は笑うのをやめた。
だが、少しも経たぬうちに海馬の口が開く。
「亜美よ、実はお前にいい知らせがある。
これを見てくれ」
「いい知らせって何?」
海馬はデュエルディスクを起動し、電子スクリーンを映しだした。
そこには一人のデュエリストがデュエルをしている様子が映し出されている。
映像のデュエリストは黒いドラゴンや運を味方に様々なデュエリスト達を次々と倒していき、おっしゃぁ!の力強い叫びとガッツポーズを決めたところで映像は終わってしまった。
「今の人は?」
「奴は今プロリーグの選手として活躍しているデュエリストだ。今奴は10戦負けなしで恐れられている。デッキの構築力こそプロでは無い俺以下なのは誰が見てもわかるが、奴の恐ろしい所は映像にもあったようにコイントスを全て当てたり賽の目を自在に操るかのように出したい目を出すその運の強さだ」
「その選手と瀬人さんに何か関係あるの?」
「プロリーグで10戦負け無しで勝ち続けられたプロデュエリストには、一般デュエリストの中から1人を指名してエキシビションデュエルを行う権利が与えられる。これは一般デュエリストと交流を深めるためのものでもある」
「へえそんな企画があるんだね。で、この人は誰を指名するの?」
「どうやら奴には今指名したいデュエリストがいないらしい。正確には元々は指名したい奴がいたがその肝心の奴が旅に出ていて指名できなかったと言っておくべきか」
「そこでだ。亜美よ、俺は奴のエキシビションデュエルにお前を指名する。貴様に拒否権はないぞ…これは師匠命令だ」
海馬は腕を組み、そう亜美に強く言い放つ。
海馬の目は威光を放つかのように鋭く、力強く、身内であろうと容赦のない彼の強引さがよく現れていた。
「ちょっとまってよ!幾ら何でも急すぎるって!」
海馬の強引な面は理解している亜美でもこれには納得がいかなかった。
正直なところデュエリストであることは自覚しているのだが、MアンドWをプロのデュエリスト程やり込んではおらず、闘わずとも勝敗が目に見えていたのだ。
最強の決闘王と互角に渡り合う海馬の指導を受けているとはいえ、引きの強さ、カードのプレイング、カードへの愛情がまるで全然足りていない。
そんな状態でプロにデュエルを挑むなどあまりにも無謀で、鍛錬もしない雑兵が鎧も着ずに戦争に行くようなものだ。
「確かにな…幾ら奴が俺より弱くてもプロだ。戦う前から勝敗が目に見えてると言いたいのだろうが…」
「そうだよ!余りにも無謀すぎるよ!」
「甘いぞ亜美!デュエルをするにあたってそのような不毛な考えを持ち込もうなど言語道断!大切なのは1度相手と刃をまじえることだ。そうすることで見えてくる自分のデッキの弱み、強み、相手のデッキの目的、戦術。それが勝利への扉を開く鍵となるのだ。…俺はお前が強くなるためのいい機会だと思っているぞ」
海馬は少しかがみ、亜美の両肩にそっと手を置いた。亜美の肩に物理的な重圧と精神的な重圧が重くのしかかってきているような感覚に陥った。
亜美はその感覚をグッと抑えるのに必死だった。
冗談じゃない
その言葉だけが亜美の心から発せられた。
同時に自分の甘さに改めて気づかされることになる。
この程度のことで音を吐いていては勝てる試合もボロ負けに終わってしまう。そう考えた亜美は海馬に察されないよう口を小さく開け、少しずつゆっくりと空気を吸い込み、静かに吐くことで気持ちを落ち着かせた。
「もう、分かったよ。いつも通りのデュエルをやればいいんだよね」
「それでいい…それにお前には俺が渡した4枚のカードがある。そいつをデッキに入れれば奴を倒せるかもな…せいぜい俺を楽しませてくれ」
海馬はコートを翻し、亜美の元を立ち去っていった。
亜美は海馬の姿が見えなくなったのを確認したあと、グダッとなだれ、目を瞑りため息を漏らした。
そして先日もらった4枚のカードに目をやった。
海馬から先日受け取った4枚のカード。
ABCの3枚のカードは現在亜美の使用しているデッキとは相性が良かったものの、肝心の青眼は正直とても入れにくいものだった。
レベルが8もあり、召喚には2体のモンスターが必要な上、亜美のデッキには青眼を素早く出すカードすらなかったのだが
亜美にとっては大切な人から貰ったカードだ。
例えどれだけ自分のデッキ似合わなくともこのカードは必ず入れると決めていた。
亜美は海馬コーポレーションを後にし、自宅へと向かった。
場所は変わり、とあるプロリーグ選手控え室には1人のプロデュエリストが試合を眺めながら自分のデッキを触っていた。
一枚一枚が思い出の詰まったカード。
彼はその中から一枚のカードを抜いた。
彼は真剣な表情でそのカードに語りかける
「なぁ…俺は今んとこずっと勝ってこれてるけどよ、俺、あいつのようなデュエリストに近づけてるか?」
当然カードが返事をするはずはない。
だが、彼には聞こえてくる気がしたのだ。
あの人も言っていた「大切なカードには心が宿る」それが実現したのかもしれない。
《大丈夫だ、カードと己を信じろ》
彼にはそう聞こえたような気がした
「おう!これからもプロリーグで勝ちまくってやるぜ!そうすれば俺たちの家族もまた一緒に暮らせるようになるよな」
彼はカードとデッキを丁寧にケースにしまった。
いずれも魂のカードたちだ。傷つけるわけにはいかない。
特にすることもなかった彼は家に帰宅しようと控え室から出ると、突然誰かから電話がかかってきた。
「何だよマネージャーかな?」
彼は携帯の画面をつけた。電話をかけてきたのは彼のマネージャーではなく、意外な人物からだった。
帰路についた亜美は部屋のベッドに寝転びながらカードを弄っていた。
適当にペラペラめくりながらカードの効果を読み上げていた。
日本に越して早々に海馬に振り回されていた疲れからか、その声にため息が混じる。
その時亜美の携帯が鳴った。
怠そうに携帯を手に取り相手を確認する。
だろうとは思っていたが、相手はやはり海馬だった
「俺だ。プロ選手とのエキシビションデュエルの日程が決まったぞ。忘れぬようメモを取るがいい」
「ホントにやるんだ…もう、分かったよ
紙とペン用意したから早く言って」
「まずは場所だ。場所は勿論海馬ランド!
7日後に行う。それまでに心の準備とデッキの調整をしっかりと行うがいい!そして、試合前にお前とその選手にはあるカードを渡す。それをデッキに入れて闘うように!ワハハハ」
「分かったよ、ありがとう。私が負けても怒らないでね?」
「楽しませてくれればそれでいい。だが、ボロ負けは断じて許さん!ということでだ、試合前日にテストを行う」
「テストって?」
「当然俺とのデュエルだ。本気ではいかぬがお前には俺の出す課題をクリアして勝利してもらう」
「その課題って…?」
「俺の渡した青眼の白龍のみフィールドにいる状態で、青眼の白龍の直接攻撃で俺のライフを0にする事だ!それが出来なければお前には試合当日ハンデを背負いながら戦ってもらうぞ!」
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3話続けて読みましたが、過去の歴史と現代を巡るなかなか規模の大きい話になりそうです。7年という時間経過のせいか性格が丸くなった社長も新鮮で面白かったです。 (2018-10-23 15:01)
これからも読んでいただけると嬉しいです!お褒めの言葉をありがとうございます (2018-10-23 21:06)