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第3話 部屋とシーツとネーミング 作:イベリコ豚丼
「と、いうわけじゃ」
白い壁と水色のカーテンに囲われた遊午の部屋。銀髪の美少女はセミダブルのベッドに腰掛け、尊大に腕と脚を組んで目の前の少年を見下ろしていた。
「理解したか?」
「うーむ……」
モスグリーンのカーペットの上に正座した遊午は、手を膝に置き、目を閉じて唸っている。どうやら考えをまとめているらしい。
何度か頷いたあと、最後に「よし」と大きく首を振り、俯いた顔を正面に向けながらゆっくりと瞼を開く。
そしてようやく形になった答えを口に——
「こんな真っ正面からでも見えないってことは、銀髪ちゃんはパンツはいてないってことでいいのかな?」
——するわけがなかった。
「なばっ……! お主いきなりなんの話をしておるのじゃ!」
銀髪の美少女は慌てて脚をほどき、両手でスカートを押さえる。
初雪のように白い肌のせいで顔が人一倍真っ赤に染まる。
「だって高低差バッチリでしかも脚組んでるんだよ? これはもうわざと見せつけてるとしか思えないよ」
「どんなド変態じゃ妾は!」
「真面目な話をしつつも実は内心ゾクゾクしてて、『あぁ……、このまま脚を開けたらどうなるのじゃ……』とか考えながらウブな反応を見せる俺の姿ヲギャン!」
こめかみに浴びせかけられた足刀蹴りが遊午をカーペットに沈めた。
「お、おぉう……! 愛情表現が過激すぎるぜ銀髪ちゃん……!」
全身をビクビクと痙攣させながらも美少女の生足に触れて顔がニヤついているのは悲しい男の性といえよう。
「あ、でもこの角度ならちょうど中身ガブフッ!」
わずかに持ち上がった横顔に容赦のない踏みつけが炸裂し、遊午はついに動かなくなった。
「お主が話せと言うたのに、まったく聞いておらんとはどういう了見じゃ」
ベッドに座り直した銀髪の美少女は、呆れたようにため息をついた。
ちなみに、現在遊午はアイマスクを装着され、後ろ手をシーツで縛り上げられながらの正座というなんとも珍妙な格好をしている。
その際に『美少女を前にしての羞恥プレイもこれはこれで……』とかのたまったが、延髄に踵を落とされると静かになった。
「いやいや、まったくってわけじゃないぜ? 『さて……』ぐらいまではちゃんと聞いてたさ」
「2文字!? たった2文字しか聞いてたおらんかったのか!?」
「だってなんか複雑で俺にはよくわかんなかったんだもん」
「だとしても短かすぎじゃろう! まだ始まってすらないではないか!」
「そっから後はずっとパンツのこと考えてました」
「うわーん! どうしてこんな阿保を選んだのじゃ妾の馬鹿ー!」
枕に突っ伏した銀髪の美少女はバタバタと身悶える。
その拍子に膝上のプリーツスカートがめくれて、刺繍とレースの入った可愛らしい白のショーツが顔を出す。どうやらちゃんとはいているらしい。
「でも、なんの前知識も無く専門用語ばんばん出されたら、いくらなんでも頭が追いつかないよ」
ベッドの上をゴロゴロ転がっていた銀髪の美少女の動きが止まる。
しばらく沈黙が続き、
「……まぁそれもそうか」
銀髪の美少女は体を起こし、三度ベッドに腰掛ける。
「よし。ならばお主が質問するがよい。妾がなんでも答えてやろう」
「なんでも?」
「なんでもじゃ」
銀髪の美少女が平らな胸を大きく反らす。鮮やかに質問を捌いてみせようと、今か今かと遊午の言葉を待ち構えていたが、
「じゃあ銀髪ちゃんのスリーサイズが知リダァッ!」
この日遊午は、生まれて初めて視界を奪われた状態での顔面ドロップキックを経験した。
「そもそも、俺はなんで生きてるの?」
30分後、さらにシーツで手足を接続され、海老反りで横たわった遊午はそう尋ねた。
「俺、あの黒ずくめに斬られて死んだんでしょ?」
それは、犯人の上司らしい墨田 園心という男がはっきりと言い切ったことである。
「うむ。お主は確かに死んだ。妾を庇っての」
どういうバランスなのか、縛られた遊午の上に座った銀髪の美少女は、腕を組みながら小さく頷く。「あの時はもっと誠実な男じゃと思っておったのに……」とぶつぶつ呟いているが、それは遊午の耳には届かなかった。
「お主を斬ったとき、あの黒男がえらく慌ててな。よもや人を切るとは思っておらんかったのじゃろう。その隙を付いて、妾は虫の息のお主を連れて逃げ出したというわけじゃ」
「わざわざ危険を犯して助けてくれたんだね……!」
遊午の中にじぃぃんと熱いものが込み上げ、
「違う」
「うぉい!」
一気に引いていった。
「別にそのまま放置しておいてもよかったのじゃぞ? というか、いつもの妾なら確実に無視しておった」
普段から女性にいいように扱われている遊午であったが、さすがにこれにはちょっと来るものがあった。
「じゃが、ちょうど妾も失われた力を取り戻すために人の手を借りる必要があったのでな。その辺の輩を頼ってもいつ裏切られるかわかったものではないし、人選に悩んでおったのじゃが、その点お主は都合が良かったのだ。命と引き換えならば、妾の言うことを聞かざるを得んじゃろう?」
利害関係の一致。
信頼ではなく、損得で築かれた関係。
(別にそんなことしなくても、銀髪ちゃんが困ってるなら助けたんだけどな……)
「ということで、妾とお主の魂を繋ぐことにしたのじゃ」
「繋ぐ?」
なんとか動く首をかしげ、銀髪の美少女の方を向く。
「魂とは生物の基準となるもの。魂が活発になれば元気になり、魂が弱れば病気になる。人間でも、たまに見た目と年齢が一致せん者がおるじゃろう。あれは魂がまだまだ衰えておらんからじゃ。————そして当然、魂が破壊された生物は死に至る」
ぞくり、と遊午の背筋が冷える。銀髪の美少女の説明はあまりにも荒唐無稽だったが、それでも真実だと確信させる重みがあった。
「逆に言えば、魂さえしっかりしておれば、どれだけ傷を負うても死ぬことはないのじゃ。ゆえに、妾の魂をお主と共有することにした。そうすれば欠けた箇所を妾の魂が補い、お主は死なずに済むからの。というか、現状それしか手が無かったのじゃが」
「……つまり、今俺と銀髪ちゃんは文字通り一心同体ってこと?」
「ま、そういうことじゃな。ちなみに、ここの場所や鍵の在り処がわかったのもそれじゃよ。少しばかりお主の魂に染みついた記憶を読ませてもらった」
いわゆる身体が覚えているというやつじゃ、と銀髪の美少女は言い足す。
「…………。」
遊午は押し黙った。
一心同体ってことはもう結婚したも同然じゃんきゃっほーい! とか考えていたからではない。
「……それって、もし俺がもう一度死んだら、それを銀髪ちゃんにも負わせるってことだよね?」
それは絶対に嫌だ。
自分が馬鹿やって勝手に死ぬ分にはいい。だが、それに女の子を巻き込むなんてことは、遊午自身が許さない。
「安心せい。あくまで魂の主体は妾にある。むしろ今のお主は病気や怪我のような普通の方法では死なんぞ。なんなら、体をカードのサイズに切り刻まれても元通りじゃ」
「それはそれでどうかと思う」
しかし、そこまでやっても無事だというなら、どうやら本当に銀髪の美少女を道連れにする心配はないらしい。
ではいったいどうすれば……
「…………あ」
問いかけて、遊午は数時間前のやりとりを思い出した。
その様子を見て、銀髪の美少女は軽く頷く。
「さっきも言ったように、デュエルに負ければ、じゃよ」
銀髪の美少女が遊午の背を蹴り、宙に浮く。
「これは、お主に手伝ってもらうことにもつながるのじゃがな」
そのまま学習机のほうに飛んでゆき、机の上に乗ったデュエルディスクからカードを取り出す。そしてもう1枚、自分の身体から。
小さな手に握られているのは『−No.39 天騎士ウィングリッター』と『−No.12 トラジック・エレジー』である。
「察しはついておろうが、−Noは妾の力そのもの、言うなれば妾の魂のカケラなのじゃ。つまり、妾から−Noが出て行けば行くほど、妾の魂は弱ってゆく」
「ってことは……!」
「うむ。−Noを全て失ったときが、妾とお主の最期になる」
2時間程前、デュエルの決着と同時に、墨田のデュエルディスクから飛び出したトラジック・エレジーがひとりでに銀髪の美少女の下へと戻っていった。
まるで、所有者の敗北を悟り、見限ったかのように。
もし遊午が負けていれば、逆の現象が起こっていたのだろう。
だからこそ、デュエルに負ければ二人は——
「そうならんためにも、お主には妾に代わって残りの−Noを全て回収してもらわねばならん。少々数が多いが、蘇った代償と思えば安いものじゃろう」
「多いって……何枚?」
冷や汗が頰を伝うのを感じながら、遊午は恐る恐る言葉を紡ぐ。
一拍後、銀髪の美少女はわずかに息を吸い込み、
「100枚じゃ」
「!!」
無情な現実を吐き出した。
遊午は思わず息を飲む。
「いや、ここに2枚あるゆえ、98枚か」
そんなものは誤差だ。
たった1体でもあれだけ苦労して撃破したモンスターを、あと98体。それがどれだけ無謀なことかなど、いちいち考えるのも馬鹿らしい。
「で、でも、今は2枚も持ってるんだし、1回ぐらい負けても大丈夫なんじゃないの?」
「まだ発現しておらんときならまだしも、もうそんな甘い期待はせんほうが良いじゃろうな。−No所有者同士のデュエルは己の欲望のぶつかり合い。勝って全てを得るか。負けて全てを失うか。ふたつにひとつじゃ」
「じゃあせめて、銀髪ちゃんも一緒に闘って2対1で……!」
「それも無理じゃ。妾は−Noの根源であって、所有者にはなれんからの。初めから−No争奪戦に参加する資格が無い。そうでなければお主に頼ってなどおらん」
つまりはこれから先、たった一人で、かつ一度の敗北も許されないということ。
遊午は急に自分の体重が倍になったような気がした。
一端の実力者である彼は、自分の力量を大体把握している。それだけに、100戦無敗というのがどれだけ馬鹿げた話かが嫌でもわかる。
デュエル・モンスターズは経験やカードの強さがモノを言うゲーム、ではない。
もちろん、ある程度はセンスやデッキの構築力でどうにかできるが、それはよくて全体の半分程度だろう。
デュエルで最も重要なのは、運である。
どんなに隙のないデッキを組もうとも、40枚中どの5枚を引いても絶対に勝てる、なんてことはありえないのだ。たった1枚のカードが引けずにプロがアマチュアに敗北するなど、よくある話である。まぁそれでもなんとかするのがプロなのだが……。
極論運さえ良ければ勝てるゲームで100戦無敗というのは、宝くじの1等が霞むほどの奇跡だ。
縛られた遊午の腕に自然と力がこもる。
「…………1つだけ。代わりに1つだけお願いしてもいいかな?」
絞り出すように遊午は言う。
「……今の妾に出来ることなど限られておるが、聞くだけ聞いてやろう」
2枚のカードを自分の身体にしまった銀髪の美少女は、今度は学習机に着地した。机の上に腰かけるという無礼極まりない行為でさえ上品に見えるのだから、美少女とは恐ろしい。
そんな美少女に、遊午は請い願う。
「俺のことは『お兄ちゃん(はぁと)』って呼ん——ふぐぅふぐぅ」
「心底気持ち悪い」
白いニーソックスに包まれた銀髪の美少女の脚と生ゴミを見る視線が遊午の頬に突き刺さった。
「いやだなぁ、気持ち悪いだなんて。褒めても荒い鼻息ぐらいしか出ないよ?」
「次ふざけたことをぬかしたら口も塞ぐぞ?」
華奢な脚がグリグリと頬をこねる。その行為は彼に興奮を与えるだけなのだが、そんな知識は彼女には無い。
「他に質問は?」
「そうだなぁ……。あ、ねぇ、あの黒ずくめとか研究者とかは結局何者だったの? 銀髪ちゃんは顔見知りだったみたいだけど」
柔らかい足の裏にむしろ自分から顔を押し付けながら遊午は尋ねた。不審に思ったのか、銀髪の美少女は眉をひそめながら脚を引っ込める。
「あれは『CHESS』といって、妾の−Noをしつこく狙ってくる組織の連中じゃ。かれこれもう20年ほどになるか」
「20年!?」
真性のストーカーもビックリの根気である。
「奴らは実力によって階級分けされておるようでな。上の指示に従って雑兵共が間髪入れずに襲いかかってくるのじゃよ」
聞く限り指示系統はきちんとしているらしい。襲われる側からすれば面倒でしかないが。
「それを今までなんとかやり過ごしてきたのじゃが、何年か前、あの黒男が現れての。そこからは恐ろしい速度で力を奪われていった。彼奴だけは他の有象無象とは格が違う」
遊午の脳裏に黒ずくめの姿が浮かぶ。
少女相手にすら一切手加減をしなかった強固な精神力の持ち主。人を殺して焦るあたり、一応まだ倫理観らしきものは残っているようだが、それを鵜呑みにするのはただのマヌケだろう。
「あんなのをあと98人相手にしなくちゃあいけないわけか……」
遊午はあらためて気が重くなった。
だが、さらに追い討ちをかけるように銀髪の美少女は続けた。
「あぁ、言い忘れておったが、−Noの所有者はCHESSだけとは限らんぞ?」
「え」
「連中を撹乱するために何度か−Noをばら撒いたことがあったからな。その全てを奴らが回収しておるとは思えんし、何枚かはCHESSと関係のない者の手にも渡っておるじゃろうよ。現に1枚、心当たりがある」
「んなっ……!」
遊午は海老反りのままみっともなく狼狽えた。
勝手に向こうからデュエルを挑んでくれるCHESSとは違い、一般人となればこちらから探し出さなければならない。
だが、特殊なカードを持っているとはいえ何の手掛かりも無い状態で特定の人間を見付けるなどどれだけの労力が必要か計り知れない。明らかに個人でする仕事量を超えている。
「せ、せめてなんか見分け方とかないの? 所有者どうしは引かれあうとか、そのオーラ……貴様所有者だな!? みたいなさ……」
「そんな都合のいいものは存在せぬ。が、強いて言うなら皆体のどこかしらに刻印が刻まれておるはずじゃぞ」
「刻印?」
「うむ、−No所有者であることを示す刻印じゃ。あの墨田とかいう男の顔にもあったじゃろう」
墨田の顔を思い出す。
言われてみれば、彼がトラジック・エレジーを召喚した際になにやら幾何学的なタトゥーが浮き上がっていた。あれが所有者の刻印というヤツなのだろうか。
確かにそれならば多少は見つけやすくはなるかもしれない。
だからといっていきなり一般人の身体をまさぐる訳にもいかないのだが……。
「トンデモストーカーズに加えて一般人もか……。こりゃ先はなっがいなぁ……」
「そう肩肘張らんでもよい。そこいらの素人やCHESSの下っ端ならば大した腕はしておらん。気楽に構えておれ」
銀髪の美少女が楽観的な意見を述べるが、遊午はとてもそんな気分にはなれなかった。
また少し肩の荷が重くなったが、
(……ま、しゃーないか。可愛い女の子のしたことだし)
と思ってしまえるあたり、つくづく彼はいい性格をしている。
「とりあえず、いま聞いておきたいことはそれくらいかな」
「…………。」
「? どうかした?」
視覚と触覚を封じられているので、遊午は聴覚だけで銀髪の美少女が口をつぐんでいることを察する。
「お主、気にならんのか?」
「なにが?」
「だから、その……、妾が何者か、とか……」
さっきまでの尊大な態度から一転、急に弱々しい声で銀髪の美少女は歯切れ悪く言葉をつなぐ。
「飛行能力であったり……、尖った耳であったり……、それから−Noにしても、どう考えても妾がお主らと同じ人間でないことは気付いておるじゃろう? 妾は真っ先にそこを突かれると思っておったのじゃが……」
相変わらず腕と脚を組んだ姿勢には変わりないが、上目遣いでチラチラと遊午を気にしている。今まで出会った人間とは違う反応に、むしろ不信感を持つように。
だが、彼女は白神 遊午という男を勘違いしている。
「そりゃあ気にならないって言ったら嘘になるけどさ。でも銀髪ちゃん、その話はあんまりしたくなさそうだったでしょ?」
「…………!」
まさか気付かれていると思っていなかったのだろう。予想外の勘の良さに、銀髪の美少女の青い瞳が大きく見開かれた。
「だから俺から無理に聞き出すようなことはしない。銀髪ちゃんが言いたくないなら言わなくていい。プロフィールにしたって、スリーサイズにしたって、銀髪ちゃんから教えてくれるまでは我慢するよ」
銀髪の美少女はしばらく呆気にとられて遊午の話を聞いていたが、
「…………ぷっ。はは! ははは! はははは!お主は本当に変わった男じゃの!」
突然弾けたように笑い出した。
「どうやらお主を頼ったのは間違いではなかったようじゃ」
透き通るような髪を揺らしながら、銀髪の美少女は目尻に薄く溜まった雫を細い指で拭う。
遊午には見えていないが、それは彼女が出会ってから初めて見せる笑顔であった。満開の桜のように、見るもの全てを魅了する、美しく、華やかな笑顔。
笑い声につられて、遊午の顔も自然とほころぶ。
「そうだ、逆に銀髪ちゃんは俺に聞きたいことある? なんだったら、スリーサイズ教え」
「いらん」
食い気味で拒絶された。
そんなにみんな俺のスリーサイズが気にならないんだろうか、と遊午は少し物寂しくなった。
「……そうじゃの。強いて言うなら、その銀髪ちゃんという呼び方はどうにかならんか? もう少しちゃんとした名前というか……」
軽く勢いをつけて学習机を飛び降りた銀髪の美少女は、再び遊午の背に着地した。
「ふむ……。じゃあ『幼女ちゃん』は?」
「ほとんど変わっておらんではないか。そうではなくて、もっと捻った名前をじゃな……」
「捻った? 『腸捻転』とか?」
「物理的に捻ってどうする! 凝った名前をと言うておるのじゃ!」
「ならなんだろ、『闇女帝シルバー・ジャッジメント』?」
「妾に人前でその名を名乗れと?」
遊午には壊滅的にネーミングセンスが無かった。
そこからうんうん頭を捻り(物理的にではなく)、たっぷり10分ほど経ったとき、
「八千代」
遊午はポツリと呟いた。
「八千代ちゃん、なんてどうかな?」
「む……」
出し抜けなまともな案に、銀髪の美少女は少し面食らう。
「八千代…………『永遠』、か……」
八千代とは、非常に長い年月のこと。
遊午はそこまで考えていたわけではない。彼はただ『やみ女帝シルバー・ジャッジメント』と『ちょう捻転』と『よう女ちゃん』の頭文字を繋げただけである。
けれど、銀髪の美少女にはなにか響くものがあったようで、
「気に入った。なかなかどうして良い名前じゃ」
口の中で静かに言葉を反芻したあと、満足気に頷いた。
「それじゃ、これからよろしくね。八千代ちゃん」
「うむ。よろしく頼むぞ、遊午」
彼女にも、名前はあった。
けれど、彼が言わなくていいと言ってくれたから。
だから今は名乗らない。
今はまだ、彼の前では『八千代』でいい。
いつか、本当の意味で心を許せる日が来たとき。
そのときに、なにもかも話そう。
彼女と、彼女にまつわる全てのことを。
「ところで、またお願いがあるんだけど」
「……下卑た願いでなければ聞いてやろう」
「そろそろシーツ解いてくんない?」
白い壁と水色のカーテンに囲われた遊午の部屋。銀髪の美少女はセミダブルのベッドに腰掛け、尊大に腕と脚を組んで目の前の少年を見下ろしていた。
「理解したか?」
「うーむ……」
モスグリーンのカーペットの上に正座した遊午は、手を膝に置き、目を閉じて唸っている。どうやら考えをまとめているらしい。
何度か頷いたあと、最後に「よし」と大きく首を振り、俯いた顔を正面に向けながらゆっくりと瞼を開く。
そしてようやく形になった答えを口に——
「こんな真っ正面からでも見えないってことは、銀髪ちゃんはパンツはいてないってことでいいのかな?」
——するわけがなかった。
「なばっ……! お主いきなりなんの話をしておるのじゃ!」
銀髪の美少女は慌てて脚をほどき、両手でスカートを押さえる。
初雪のように白い肌のせいで顔が人一倍真っ赤に染まる。
「だって高低差バッチリでしかも脚組んでるんだよ? これはもうわざと見せつけてるとしか思えないよ」
「どんなド変態じゃ妾は!」
「真面目な話をしつつも実は内心ゾクゾクしてて、『あぁ……、このまま脚を開けたらどうなるのじゃ……』とか考えながらウブな反応を見せる俺の姿ヲギャン!」
こめかみに浴びせかけられた足刀蹴りが遊午をカーペットに沈めた。
「お、おぉう……! 愛情表現が過激すぎるぜ銀髪ちゃん……!」
全身をビクビクと痙攣させながらも美少女の生足に触れて顔がニヤついているのは悲しい男の性といえよう。
「あ、でもこの角度ならちょうど中身ガブフッ!」
わずかに持ち上がった横顔に容赦のない踏みつけが炸裂し、遊午はついに動かなくなった。
「お主が話せと言うたのに、まったく聞いておらんとはどういう了見じゃ」
ベッドに座り直した銀髪の美少女は、呆れたようにため息をついた。
ちなみに、現在遊午はアイマスクを装着され、後ろ手をシーツで縛り上げられながらの正座というなんとも珍妙な格好をしている。
その際に『美少女を前にしての羞恥プレイもこれはこれで……』とかのたまったが、延髄に踵を落とされると静かになった。
「いやいや、まったくってわけじゃないぜ? 『さて……』ぐらいまではちゃんと聞いてたさ」
「2文字!? たった2文字しか聞いてたおらんかったのか!?」
「だってなんか複雑で俺にはよくわかんなかったんだもん」
「だとしても短かすぎじゃろう! まだ始まってすらないではないか!」
「そっから後はずっとパンツのこと考えてました」
「うわーん! どうしてこんな阿保を選んだのじゃ妾の馬鹿ー!」
枕に突っ伏した銀髪の美少女はバタバタと身悶える。
その拍子に膝上のプリーツスカートがめくれて、刺繍とレースの入った可愛らしい白のショーツが顔を出す。どうやらちゃんとはいているらしい。
「でも、なんの前知識も無く専門用語ばんばん出されたら、いくらなんでも頭が追いつかないよ」
ベッドの上をゴロゴロ転がっていた銀髪の美少女の動きが止まる。
しばらく沈黙が続き、
「……まぁそれもそうか」
銀髪の美少女は体を起こし、三度ベッドに腰掛ける。
「よし。ならばお主が質問するがよい。妾がなんでも答えてやろう」
「なんでも?」
「なんでもじゃ」
銀髪の美少女が平らな胸を大きく反らす。鮮やかに質問を捌いてみせようと、今か今かと遊午の言葉を待ち構えていたが、
「じゃあ銀髪ちゃんのスリーサイズが知リダァッ!」
この日遊午は、生まれて初めて視界を奪われた状態での顔面ドロップキックを経験した。
「そもそも、俺はなんで生きてるの?」
30分後、さらにシーツで手足を接続され、海老反りで横たわった遊午はそう尋ねた。
「俺、あの黒ずくめに斬られて死んだんでしょ?」
それは、犯人の上司らしい墨田 園心という男がはっきりと言い切ったことである。
「うむ。お主は確かに死んだ。妾を庇っての」
どういうバランスなのか、縛られた遊午の上に座った銀髪の美少女は、腕を組みながら小さく頷く。「あの時はもっと誠実な男じゃと思っておったのに……」とぶつぶつ呟いているが、それは遊午の耳には届かなかった。
「お主を斬ったとき、あの黒男がえらく慌ててな。よもや人を切るとは思っておらんかったのじゃろう。その隙を付いて、妾は虫の息のお主を連れて逃げ出したというわけじゃ」
「わざわざ危険を犯して助けてくれたんだね……!」
遊午の中にじぃぃんと熱いものが込み上げ、
「違う」
「うぉい!」
一気に引いていった。
「別にそのまま放置しておいてもよかったのじゃぞ? というか、いつもの妾なら確実に無視しておった」
普段から女性にいいように扱われている遊午であったが、さすがにこれにはちょっと来るものがあった。
「じゃが、ちょうど妾も失われた力を取り戻すために人の手を借りる必要があったのでな。その辺の輩を頼ってもいつ裏切られるかわかったものではないし、人選に悩んでおったのじゃが、その点お主は都合が良かったのだ。命と引き換えならば、妾の言うことを聞かざるを得んじゃろう?」
利害関係の一致。
信頼ではなく、損得で築かれた関係。
(別にそんなことしなくても、銀髪ちゃんが困ってるなら助けたんだけどな……)
「ということで、妾とお主の魂を繋ぐことにしたのじゃ」
「繋ぐ?」
なんとか動く首をかしげ、銀髪の美少女の方を向く。
「魂とは生物の基準となるもの。魂が活発になれば元気になり、魂が弱れば病気になる。人間でも、たまに見た目と年齢が一致せん者がおるじゃろう。あれは魂がまだまだ衰えておらんからじゃ。————そして当然、魂が破壊された生物は死に至る」
ぞくり、と遊午の背筋が冷える。銀髪の美少女の説明はあまりにも荒唐無稽だったが、それでも真実だと確信させる重みがあった。
「逆に言えば、魂さえしっかりしておれば、どれだけ傷を負うても死ぬことはないのじゃ。ゆえに、妾の魂をお主と共有することにした。そうすれば欠けた箇所を妾の魂が補い、お主は死なずに済むからの。というか、現状それしか手が無かったのじゃが」
「……つまり、今俺と銀髪ちゃんは文字通り一心同体ってこと?」
「ま、そういうことじゃな。ちなみに、ここの場所や鍵の在り処がわかったのもそれじゃよ。少しばかりお主の魂に染みついた記憶を読ませてもらった」
いわゆる身体が覚えているというやつじゃ、と銀髪の美少女は言い足す。
「…………。」
遊午は押し黙った。
一心同体ってことはもう結婚したも同然じゃんきゃっほーい! とか考えていたからではない。
「……それって、もし俺がもう一度死んだら、それを銀髪ちゃんにも負わせるってことだよね?」
それは絶対に嫌だ。
自分が馬鹿やって勝手に死ぬ分にはいい。だが、それに女の子を巻き込むなんてことは、遊午自身が許さない。
「安心せい。あくまで魂の主体は妾にある。むしろ今のお主は病気や怪我のような普通の方法では死なんぞ。なんなら、体をカードのサイズに切り刻まれても元通りじゃ」
「それはそれでどうかと思う」
しかし、そこまでやっても無事だというなら、どうやら本当に銀髪の美少女を道連れにする心配はないらしい。
ではいったいどうすれば……
「…………あ」
問いかけて、遊午は数時間前のやりとりを思い出した。
その様子を見て、銀髪の美少女は軽く頷く。
「さっきも言ったように、デュエルに負ければ、じゃよ」
銀髪の美少女が遊午の背を蹴り、宙に浮く。
「これは、お主に手伝ってもらうことにもつながるのじゃがな」
そのまま学習机のほうに飛んでゆき、机の上に乗ったデュエルディスクからカードを取り出す。そしてもう1枚、自分の身体から。
小さな手に握られているのは『−No.39 天騎士ウィングリッター』と『−No.12 トラジック・エレジー』である。
「察しはついておろうが、−Noは妾の力そのもの、言うなれば妾の魂のカケラなのじゃ。つまり、妾から−Noが出て行けば行くほど、妾の魂は弱ってゆく」
「ってことは……!」
「うむ。−Noを全て失ったときが、妾とお主の最期になる」
2時間程前、デュエルの決着と同時に、墨田のデュエルディスクから飛び出したトラジック・エレジーがひとりでに銀髪の美少女の下へと戻っていった。
まるで、所有者の敗北を悟り、見限ったかのように。
もし遊午が負けていれば、逆の現象が起こっていたのだろう。
だからこそ、デュエルに負ければ二人は——
「そうならんためにも、お主には妾に代わって残りの−Noを全て回収してもらわねばならん。少々数が多いが、蘇った代償と思えば安いものじゃろう」
「多いって……何枚?」
冷や汗が頰を伝うのを感じながら、遊午は恐る恐る言葉を紡ぐ。
一拍後、銀髪の美少女はわずかに息を吸い込み、
「100枚じゃ」
「!!」
無情な現実を吐き出した。
遊午は思わず息を飲む。
「いや、ここに2枚あるゆえ、98枚か」
そんなものは誤差だ。
たった1体でもあれだけ苦労して撃破したモンスターを、あと98体。それがどれだけ無謀なことかなど、いちいち考えるのも馬鹿らしい。
「で、でも、今は2枚も持ってるんだし、1回ぐらい負けても大丈夫なんじゃないの?」
「まだ発現しておらんときならまだしも、もうそんな甘い期待はせんほうが良いじゃろうな。−No所有者同士のデュエルは己の欲望のぶつかり合い。勝って全てを得るか。負けて全てを失うか。ふたつにひとつじゃ」
「じゃあせめて、銀髪ちゃんも一緒に闘って2対1で……!」
「それも無理じゃ。妾は−Noの根源であって、所有者にはなれんからの。初めから−No争奪戦に参加する資格が無い。そうでなければお主に頼ってなどおらん」
つまりはこれから先、たった一人で、かつ一度の敗北も許されないということ。
遊午は急に自分の体重が倍になったような気がした。
一端の実力者である彼は、自分の力量を大体把握している。それだけに、100戦無敗というのがどれだけ馬鹿げた話かが嫌でもわかる。
デュエル・モンスターズは経験やカードの強さがモノを言うゲーム、ではない。
もちろん、ある程度はセンスやデッキの構築力でどうにかできるが、それはよくて全体の半分程度だろう。
デュエルで最も重要なのは、運である。
どんなに隙のないデッキを組もうとも、40枚中どの5枚を引いても絶対に勝てる、なんてことはありえないのだ。たった1枚のカードが引けずにプロがアマチュアに敗北するなど、よくある話である。まぁそれでもなんとかするのがプロなのだが……。
極論運さえ良ければ勝てるゲームで100戦無敗というのは、宝くじの1等が霞むほどの奇跡だ。
縛られた遊午の腕に自然と力がこもる。
「…………1つだけ。代わりに1つだけお願いしてもいいかな?」
絞り出すように遊午は言う。
「……今の妾に出来ることなど限られておるが、聞くだけ聞いてやろう」
2枚のカードを自分の身体にしまった銀髪の美少女は、今度は学習机に着地した。机の上に腰かけるという無礼極まりない行為でさえ上品に見えるのだから、美少女とは恐ろしい。
そんな美少女に、遊午は請い願う。
「俺のことは『お兄ちゃん(はぁと)』って呼ん——ふぐぅふぐぅ」
「心底気持ち悪い」
白いニーソックスに包まれた銀髪の美少女の脚と生ゴミを見る視線が遊午の頬に突き刺さった。
「いやだなぁ、気持ち悪いだなんて。褒めても荒い鼻息ぐらいしか出ないよ?」
「次ふざけたことをぬかしたら口も塞ぐぞ?」
華奢な脚がグリグリと頬をこねる。その行為は彼に興奮を与えるだけなのだが、そんな知識は彼女には無い。
「他に質問は?」
「そうだなぁ……。あ、ねぇ、あの黒ずくめとか研究者とかは結局何者だったの? 銀髪ちゃんは顔見知りだったみたいだけど」
柔らかい足の裏にむしろ自分から顔を押し付けながら遊午は尋ねた。不審に思ったのか、銀髪の美少女は眉をひそめながら脚を引っ込める。
「あれは『CHESS』といって、妾の−Noをしつこく狙ってくる組織の連中じゃ。かれこれもう20年ほどになるか」
「20年!?」
真性のストーカーもビックリの根気である。
「奴らは実力によって階級分けされておるようでな。上の指示に従って雑兵共が間髪入れずに襲いかかってくるのじゃよ」
聞く限り指示系統はきちんとしているらしい。襲われる側からすれば面倒でしかないが。
「それを今までなんとかやり過ごしてきたのじゃが、何年か前、あの黒男が現れての。そこからは恐ろしい速度で力を奪われていった。彼奴だけは他の有象無象とは格が違う」
遊午の脳裏に黒ずくめの姿が浮かぶ。
少女相手にすら一切手加減をしなかった強固な精神力の持ち主。人を殺して焦るあたり、一応まだ倫理観らしきものは残っているようだが、それを鵜呑みにするのはただのマヌケだろう。
「あんなのをあと98人相手にしなくちゃあいけないわけか……」
遊午はあらためて気が重くなった。
だが、さらに追い討ちをかけるように銀髪の美少女は続けた。
「あぁ、言い忘れておったが、−Noの所有者はCHESSだけとは限らんぞ?」
「え」
「連中を撹乱するために何度か−Noをばら撒いたことがあったからな。その全てを奴らが回収しておるとは思えんし、何枚かはCHESSと関係のない者の手にも渡っておるじゃろうよ。現に1枚、心当たりがある」
「んなっ……!」
遊午は海老反りのままみっともなく狼狽えた。
勝手に向こうからデュエルを挑んでくれるCHESSとは違い、一般人となればこちらから探し出さなければならない。
だが、特殊なカードを持っているとはいえ何の手掛かりも無い状態で特定の人間を見付けるなどどれだけの労力が必要か計り知れない。明らかに個人でする仕事量を超えている。
「せ、せめてなんか見分け方とかないの? 所有者どうしは引かれあうとか、そのオーラ……貴様所有者だな!? みたいなさ……」
「そんな都合のいいものは存在せぬ。が、強いて言うなら皆体のどこかしらに刻印が刻まれておるはずじゃぞ」
「刻印?」
「うむ、−No所有者であることを示す刻印じゃ。あの墨田とかいう男の顔にもあったじゃろう」
墨田の顔を思い出す。
言われてみれば、彼がトラジック・エレジーを召喚した際になにやら幾何学的なタトゥーが浮き上がっていた。あれが所有者の刻印というヤツなのだろうか。
確かにそれならば多少は見つけやすくはなるかもしれない。
だからといっていきなり一般人の身体をまさぐる訳にもいかないのだが……。
「トンデモストーカーズに加えて一般人もか……。こりゃ先はなっがいなぁ……」
「そう肩肘張らんでもよい。そこいらの素人やCHESSの下っ端ならば大した腕はしておらん。気楽に構えておれ」
銀髪の美少女が楽観的な意見を述べるが、遊午はとてもそんな気分にはなれなかった。
また少し肩の荷が重くなったが、
(……ま、しゃーないか。可愛い女の子のしたことだし)
と思ってしまえるあたり、つくづく彼はいい性格をしている。
「とりあえず、いま聞いておきたいことはそれくらいかな」
「…………。」
「? どうかした?」
視覚と触覚を封じられているので、遊午は聴覚だけで銀髪の美少女が口をつぐんでいることを察する。
「お主、気にならんのか?」
「なにが?」
「だから、その……、妾が何者か、とか……」
さっきまでの尊大な態度から一転、急に弱々しい声で銀髪の美少女は歯切れ悪く言葉をつなぐ。
「飛行能力であったり……、尖った耳であったり……、それから−Noにしても、どう考えても妾がお主らと同じ人間でないことは気付いておるじゃろう? 妾は真っ先にそこを突かれると思っておったのじゃが……」
相変わらず腕と脚を組んだ姿勢には変わりないが、上目遣いでチラチラと遊午を気にしている。今まで出会った人間とは違う反応に、むしろ不信感を持つように。
だが、彼女は白神 遊午という男を勘違いしている。
「そりゃあ気にならないって言ったら嘘になるけどさ。でも銀髪ちゃん、その話はあんまりしたくなさそうだったでしょ?」
「…………!」
まさか気付かれていると思っていなかったのだろう。予想外の勘の良さに、銀髪の美少女の青い瞳が大きく見開かれた。
「だから俺から無理に聞き出すようなことはしない。銀髪ちゃんが言いたくないなら言わなくていい。プロフィールにしたって、スリーサイズにしたって、銀髪ちゃんから教えてくれるまでは我慢するよ」
銀髪の美少女はしばらく呆気にとられて遊午の話を聞いていたが、
「…………ぷっ。はは! ははは! はははは!お主は本当に変わった男じゃの!」
突然弾けたように笑い出した。
「どうやらお主を頼ったのは間違いではなかったようじゃ」
透き通るような髪を揺らしながら、銀髪の美少女は目尻に薄く溜まった雫を細い指で拭う。
遊午には見えていないが、それは彼女が出会ってから初めて見せる笑顔であった。満開の桜のように、見るもの全てを魅了する、美しく、華やかな笑顔。
笑い声につられて、遊午の顔も自然とほころぶ。
「そうだ、逆に銀髪ちゃんは俺に聞きたいことある? なんだったら、スリーサイズ教え」
「いらん」
食い気味で拒絶された。
そんなにみんな俺のスリーサイズが気にならないんだろうか、と遊午は少し物寂しくなった。
「……そうじゃの。強いて言うなら、その銀髪ちゃんという呼び方はどうにかならんか? もう少しちゃんとした名前というか……」
軽く勢いをつけて学習机を飛び降りた銀髪の美少女は、再び遊午の背に着地した。
「ふむ……。じゃあ『幼女ちゃん』は?」
「ほとんど変わっておらんではないか。そうではなくて、もっと捻った名前をじゃな……」
「捻った? 『腸捻転』とか?」
「物理的に捻ってどうする! 凝った名前をと言うておるのじゃ!」
「ならなんだろ、『闇女帝シルバー・ジャッジメント』?」
「妾に人前でその名を名乗れと?」
遊午には壊滅的にネーミングセンスが無かった。
そこからうんうん頭を捻り(物理的にではなく)、たっぷり10分ほど経ったとき、
「八千代」
遊午はポツリと呟いた。
「八千代ちゃん、なんてどうかな?」
「む……」
出し抜けなまともな案に、銀髪の美少女は少し面食らう。
「八千代…………『永遠』、か……」
八千代とは、非常に長い年月のこと。
遊午はそこまで考えていたわけではない。彼はただ『やみ女帝シルバー・ジャッジメント』と『ちょう捻転』と『よう女ちゃん』の頭文字を繋げただけである。
けれど、銀髪の美少女にはなにか響くものがあったようで、
「気に入った。なかなかどうして良い名前じゃ」
口の中で静かに言葉を反芻したあと、満足気に頷いた。
「それじゃ、これからよろしくね。八千代ちゃん」
「うむ。よろしく頼むぞ、遊午」
彼女にも、名前はあった。
けれど、彼が言わなくていいと言ってくれたから。
だから今は名乗らない。
今はまだ、彼の前では『八千代』でいい。
いつか、本当の意味で心を許せる日が来たとき。
そのときに、なにもかも話そう。
彼女と、彼女にまつわる全てのことを。
「ところで、またお願いがあるんだけど」
「……下卑た願いでなければ聞いてやろう」
「そろそろシーツ解いてくんない?」
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平常というか、最初から異常というか・・・。
ZEXALではなしえなかった100枚全部回収シーン、頑張りたいと思います。 (2017-06-21 12:38)